百四十七話「第三回公式大会《16》」
前回のあらすじ
数多のクランの猛攻を退けたネイムズ。ルルカとウミの二人による反撃によって、次々と薄手となったクランを潰していく。その過程でルルカはメルドと激突、両者の全力のぶつかり合いの結果、勝利したのはルルカであった。
クランデストラクションも終盤。残り時間が迫る中、迎撃に出たレナはそのまま敵スナイパーの追撃を行っていた。すでに拠点へ被害を与える可能性は少ない、しかしここでやらなければいつかやられてしまうという思考を持つレナにとって目の前の敵を倒さないという選択肢はない。
「どこにいるの?」
レーダーによって察知する。先ほどまで高精度カメラによって補足していたその姿はいつのまにか消えていた。となると、次はレーダーの番だ。情報収集に特化したレナの装備のレーダーはたとえ動いていなかったとしてもプレイヤーを瞬時に捕捉する事ができる他にも。
「!」
警告音が鳴りレナは目を見開いて正面からくる徹甲弾の一撃をビームシールドによって防御する。出力があと少し落ちていたらシールドを貫通しレナの頭部を狙撃していたその弾丸は黒色の迷彩服に身を包んだ彼女がおっていたスナイパーから放たれた者であった。
「───見つけたッ」
レナは照準を構え、背部ミサイルポッドからマイクロミサイルを放ち、対象をそれと同時に追いかける。相対するのはクランミリアリズムの最強スナイパー、パラディスである。
彼女の狙撃スタイルは至ってシンプルであり、潜伏からの一撃必殺だ、しかしそれを可能とするのはいつだって卓越した狙撃技術と身体操作だ。
自身がターゲットされたパラディスは向かってくるマイクロミサイルをセミオート状態で一つ一つ狙撃していく。まっすぐ向かってくるミサイルほど彼女の的に相応しいものはない。
しかしやはりスナイパーライフルであるがゆえの連射性能ゆえに、できる限りの対処をするとパラディスは高台から飛び降りるように、逃げ始める。誘導をオンにしてなかったゆえにミサイルはパラディスが狙撃していた崖上に直撃、大きな揺れとともに崖を下っていたパラディスは軽々な身のこなしで地面に着地、追跡から逃れるために再び逃亡した。
しかしそれをレナが追跡する。いくら生身の身体性能が高かろうとジェット機が相手ではその限りではない。
「そこっ!!」
レナのガトリング砲が逃げるパラディスを掃射する。これを回避するのは現実的ではないとわかると彼女は回避運動を織り交ぜながらスモークグレネードをレナに向けて投げつける。連射を簡単には止められないガトリングはそれを数回直撃、結果一瞬にして広まるスモークはレナ自身を覆い隠す。
敵が自分をスモークに隠すより、自分がスモークに隠れる。それこそがスナイパーとの直接対決において最も不利に働くことをレナは理解していた。すぐに、煙から出ようとスラスターを吹くが。
[ドビィ!!!]
徹甲弾が飛行するレナのビームシールドに発生機構を粉々に粉砕した。
「っやる!」
レナもスナイパーライフルを使う身として今の狙撃がどれほど異常かを理解している。移動する物体、それもスモークによって視界が悪い中、パラディスはサーモグラフィーと卓越した狙撃技術と差だけでそれを可能にしたのだ。
「ならっ!!」
しかしレナもレナで負けていない、ガトリングとスナイパーライフルを換装し、脚部ワイヤーを地面に突き刺すと、スモークから出る自分を狙うパラディスの位置を分かった上で狙撃を開始する。
固定されたワイヤーを巻き上げ地面へと移動するレナ、パラディスはその着地を狩ろうとするしかし、レナに着地硬直はない。脚部の出力を上昇させ、着地によって生まれるわずかなリアクションを緩和し、同時にパラディスに向けて射撃をする。
リアクションがもしあったのなら、コンマの差でパラディスの射撃の方が先に届いただろう。しかしパラディスはレナのカウンターショットの回避を優先した。
[ビユィィィィイッ!!]
そう彼女の兵装はビームスナイパーライフル、ただの実弾兵装とは違い、当たればほぼ即死が約束される。掠ったとしても生身の被害は甚大だろう。機動性を重視したパラディスの防御力ではビームを受け切ることはできない。
そして自身の徹甲弾が、レナの装甲を一度で貫通し戦闘不能にできるとは到底思ってないのだ。
「!」
回避に成功したパラディスに着地狩りのお返しと言わんばかりに、レナの背部に搭載された二門のビームカノンが放たれる。
道中の地面を抉るほどの高威力。パラディスのただの回避は間に合わない。
「ファントムコード!」
瞬間高速移動スキルの一種。これによりパラディスはレナの射撃コンボを難なく回避することに成功した。
レナはそこから二度射撃を行うもいずれも回避される。
「逃すかっ!!」
レナはワイヤーをノーリアクションで外し、再び飛び上がりパラディスの追跡をする。時間が迫る中、両者が攻撃するタイミングはあと一度といったところ、しかしパラディスからしたらこのまま逃げ切れば何も問題はない。たとえ死んだとしても自分のクランであるのならば、次の競技にもいけるだろうという確信があった。
だが、相手の武器がパラディスの判断を珍しく外した。
彼女はすなくともスナイパーライフルと、その腕の自分に誇りを持っている。レナが最後に自分を狙うのなら、自分もそれに相対しなければならない、そう彼女の狙撃道がいっているのだ。
「っ!」
足を止め、特注の弾丸を装填するパラディス。それを理解したレナはスラスターの姿勢制御によって制止、ビームスナイパーライフルを構え出力を込め始める。
装填を終えたパラディス、チャージを終えたレナの二人が同時に狙撃を行う。
[ダァォン!!]
ビームと実弾の音が響き渡る。結果は、レナは自身のビームスナイパーライフル、そして腕部を破壊。パラディスも同じく自身のスナイパーライフル、および腕をビームによって溶かされる。
痛みがあるのはパラディスの方だが、レナも代え難い損傷を負ったのは事実であった。
[ビィィィ!!!!!]
その時、時間の終わりを告げるアラートが会場全体に鳴り響く。
「時間切れか。次は、その頭を撃ち抜くから。」
「……。」
パラディスは何も言わなかったが、受けて立つという志をレナは感じ取った…こうして第二種目クランデストラクションは終わりを告げた。
『topic』
レナは後方支援を主目的としながら、独自の爆撃スナイパー戦法という新しいジャンルを開拓している。




