百四十六話「第三回公式大会《15》」
前回のあらすじ
難攻不落の要塞として君臨していたネイムズの拠点、しかしそれは多くのクランからの標的の的にもなっていた。ケルストの進撃により防衛機構のほとんどを失ったネイムズに多くのクランが攻め入る。絶体絶命となるクランに紅月が戻り、戦局を一気に巻き返しことなきを得るのだった。
「さてー!!クランネイムズの攻防戦、手に汗握る戦いでしたね、いやまさかメンバーの少なさをゴーレムのような自動迎撃に頼るところは頭がいいと思いましたが、それゆえのクソゲーっぷりといいますか、理不尽ぷりっに多くのクランの反感を買い、ケルスト選手の攻撃に一斉攻撃が始まるとは、なんとか撃退できたはいいものの敵同士のクラン達が手を組む場面はなんか熱いですね!」
「確かにね、でもそれゆえに今多くのクランは絶体絶命となっている。何せクランネイムズの防衛に出ていたのはその半数、もう半数はいまだに拠点を潰しまわっているんだから。」
MYYとカイが話し終わり、モニターが切り替わる。そこには魔法と炎の槍を片手にあるとあらゆる拠点を潰しまわっていたルルカとウミの姿があった。
「くそ、あれだけ動員したのに壊滅だと!?なんで落とせてないんだよネイムズの拠点は!」
「リーダー!!!」
「!?」
拠点に敷いていた壁は溶岩のような炎の渦によって溶かされ、同時に迎撃にまわっていたプレイヤー達を炎死させるのであった。
「炎の使い……!」
「残念ですが、私たちの拠点を攻撃したということで少し八つ当たりも交えてやらせていただきます!」
「倒せ!相手は一人のはずだ剣を持て、魔法を打ち込め!!」
ウミに向けてあらゆる戦士や魔法使いが飛び掛かるもの、それらは全て近づくだけで灰に帰す。彼女の炎は彼女だけではない彼女に外敵とみなされたすべてのものを燃やし尽くすまで決して止まらない。
「残念ですが!」
ウミが魔法攻撃に突貫する。回避困難であろう自分に向けられるありとあらゆる攻撃を華麗に回避しながらプレイヤーを燃やし尽くし、拠点の中心部へと辿り着く。
「今だァァ!!!」
「!」
しかしそこに刺客。ナイフを片手にウミに背後から襲いかかる。炎が視界を妨げたことによって奇襲事態には成功していた。問題はウミがそれにいち早く反応していたことであった。
[パリン!]
「──ぁ、な!?」
ウミはそのナイフを手で掴むと剛腕な握力で粉々に砕け散らせた。まさに怪物の動きだ、その手から間違いなく血が流れているのに、傷つくことよりも先にナイフの方がもたなかったのである。
「次はもっと私の力にも耐えられるナイフを。ハッ!!」
「う、ぅうああああああ!?!!」
プレイヤーは炎によって消し炭にされた。ウミは自分がやっていることが酷いことだと知っている。一人、二人と敵を倒すたびに心の中では贖罪と言わんばかりにごめんなさい。っと謝罪をしている。しかし彼女もこれが戦いだと理解している。
大切なものを守るたまに敵を討つ。彼女はそれをすでに知っている。だからこそ、敵拠点をコアをその腕で破壊するのだ。
「お嬢様の方は大丈夫でしょうか?」
ウミは陥落した拠点の中から空を見上げてどこかにいる自分の主人に向けてそう語った。してその主人はというと。
「─────。」
ルルカの背後には数えるも悍ましい魔法陣の数々、今まではかなり珍しく進撃しながら敵を倒して拠点を破壊していた彼女だが、流石に自分達の拠点が危険に晒されたとなれば話は別だ。そしてルルカは防衛戦に参加できず紅月、そして仲間を危険に晒してしまったと悔いている。ゆえにもはや手段は選ばない。
「…え、」
敵プレイヤー達が自分を感知するよりも先にルルカは大量の魔法攻撃を浴びせ、拠点を一瞬のうちに破壊する。ルルカが拠点に容赦のない魔法攻撃を加えて10秒経てばその拠点は完全に崩壊する、そこにいたプレイヤーだけではなくコアですらルルカの猛攻にはすぐに折れるしかない。
「全知の、魔女……」
「見つけた。」
「っ!?」
いつもは楽しく戦うルルカも今回はかなりの真面目モード、いや激おこモードなのだ。どんなことであれ仲間を傷つけられた彼女の執念は深い、誰が敵であろうか誰が自分たちを攻撃したであろうかなどは関係ない、彼女の目に映る全て、敵対の意志を少しでも感じ取ったのならルルカは攻撃を開始する。
「よし。次のクランは───」
そう言い、次に一番近かった標的に目を向ける。そのクランはドラゴンデストロイヤーズの拠点であった。流石にこの時、ルルカはためらった。他のさほど興味のないクランと違い、そこにはメルドという友人がいるからだ。
ルルカにとってはかなりの恩がある人物、流石に破壊するのは後回し、いずれ逃れられない戦いが来るその時まで、その時までは決して止まらない思い。ルルカは視線を別の方へと逸らす。
しかしそこに大剣が飛んでくる。ルルカはゆずりの直感でそれにすぐに気がつき急いで攻撃被弾盾を展開、飛んできた大剣、バルムンクを弾き飛ばす。しかし弾き飛ばしたバルムンクをキャッチしたメルドは死角から飛び上がり、ルルカにまたもや攻撃を叩き込む。
「おっらァァァァ!!!!!!」
「!!」
[ドォォォン!!]
ルルカが魔法で防御していたとはいえ、空中から地面に叩き落とされる。その体に傷は一つもついていないが魔法の防御に加わった力によって地に足をつくことになったのだ。
「メルドさん!?」
いきなり攻撃されたルルカは驚きつつも杖を構える。メルドも地面に降り立ち、剣を肩に担ぐとルルカに挨拶をし始めた。
「ようルルカ!」
「こんにちはって、どういうこと?!なんで攻撃なんか!」
「なんでもねぇ。ルルカ、お前は一回でもあたしたちの拠点を視界にとらえた。なら戦わない道理はない。」
「でもっ!」
「でもじゃねぇ!!どっちにしたって勝利を手にできるのはただ一人、ならお前も自分が勝ちたいために戦え。勝ってどうしたいんだ?!」
「私は、お兄様と一緒に勝ちたい!!」
「よく言った、ハァァァ!!」
メルドは再び大剣を両手に構えてルルカに向かう。ルルカば常時、攻撃被弾盾を展開して全体を守りつつ魔力砲を使用して戦いを始める。
魔法使いにとって近接は苦手とするところ、基本的に見ればルルカ止めると間の戦いはメルドが勝利を収めると思われがちだろう。しかしここは全知の魔女ことルルカ。そんなありきたりな法則は当てはまらない。
魔法使いは魔法陣を展開してからの攻撃にラグが限りなくある、しかしルルカはこれを連続的同時的誤差的にと多種多様な撃ち方を織り交ぜながら戦うため、常に全身に目をつけていないと攻略は不可能と言わしめるほど強い。加えてルルカは魔法の初速がありえないほど早く、そして同時展開数も常識を超えている。
足を止め、思考を止めたら背後の雨に降られ確実に敗北となる。そのことを理解しているメルドはひたすらにルルカに向かって攻撃をし続ける。届くかどうかではないルルカを標的としているかどうか、魔法使いに俯瞰された瞬間勝負はつく、ならば俯瞰されないようにひたすらに噛みつきながら確実に叩き潰しに行く。それこそがルルカに対する最良の選択肢、
「っ!!」
メルドの剣が攻撃被弾盾を破壊する。すぐさま次を張ろうとしてもそれも破壊される。守りに回るとルルカは弱い、メルドはそれを知っているだからこそ容赦なくここで潰すレベルの猛攻を仕掛け続ける。
「どうしたルルカ!?こんなものか!!」
「何をッ!!」
ルルカは隙をついてメルドをその拳で殴り飛ばし、魔術式化した。自身のモードを解放する。
「スーパールルカモードッ!!」
魔力放衣にも似た魔力がルルカは全身に流れる。この状態のルルカは文字通りスーパーなルルカ、そしてこの形態と戦うメルドは初めてであった。ルルカはもう手加減をしてくれない、確実にこちらを倒す気でいるということを理解したメルドは。
「スーパーか。ならこっちも対応しなぁとな!!」
伝説装備であるバルムンクのリミッターを解放する。バルムンクを解放した彼女は攻撃という一点において、ほぼ最強になる。防御、速度は変わらないものの、その大剣の一撃を喰らえば間違いなく、解放技と同じレベルのダメージを受けることとなる。要は常時解放技状態。
かたやすべてのステータスを最上に、かたや攻撃だけを最強に、やるかやられるかは一瞬であった。どちらも燃費はよろしくない、戦いの決着はそう、5分も経たずに終わる。
両者が踏み出すと大地は揺れ、両者が飛び立つと空気を切り裂いた。二人の戦いはもはや人類同士の戦いにあらず、神々の戦いにも匹敵するほどの争い、あらゆる魔術を躊躇なく放ち、それを撃ち返し、切り伏せるメルド。
時に剣を捨て肉弾戦に持ち込み、魔法使いらしくないもののメルドと互角に渡り合うルルカ、二人の戦いは目に追えず、しかしその苛烈は大地に深く刻まれる。
あらゆるクレーターや大穴が瞬時に形成され、あらゆる斬撃や打撃が大地を粉砕する。
観衆は見た。全知の魔女のルルカの姿を、ドラゴンスレイヤーメルドの姿を。
そしてその豪快な時間は終わりを向ける。
「───── これで最後だ……行くぞルルカ!!」
「そっちこそ!!」
バルムンクを手にし、これまで以上の力を加えて武器の最大能力を引き出すメルド、そして相対するの魔術を何重にも組み上がらせ、自身の最高の技を撃とうとするルルカである。
「───ヴレイブ・フォー・ジークフリートッ!!!!」
メルドの最高最大の技、公式大会にルルカが出るということを知り、そのルルカを打倒するために新しく編んだ必殺の一撃、今までと違い敵を強制的に邪竜認定を行い、伝承に登場する、邪竜を確実に葬るという概念を付与したメルドが繰り出せる最強の一撃だ。
「全知の魔女の名を記し、この一撃は天上を揺らし、大地を穿つ……。」
ルルカは手のひらに魔力を込める。メルドが神速でこちらに向かってくると知っていながらルルカは魔術に集中しきっていた。普段詠唱を使わないルルカが使用する詠唱魔術、詠唱を挟んだ魔術、魔法の威力はまさに極大にまで広がる。
「────ルルカ・バーストッ!!!」
昼なのに夜のようになる。あまりの光で世界が反転する。ルルカの放つ光は何よりも輝かしくそしてそこにあるすべてを真っ白に塗りつぶす。すなわち消滅である。
それに立ち向かうすべての存在をその白きによって無に帰す。これはそんな魔術だ。これには流石のメルドでさえ太刀打ちできない、いくら伝説装備も持とうと0に大してはどんな抵抗も虚しいのである。
しかし、、
「うおアアアアアァァァァ!!!!」
そのバルムンクの輝きは決して途絶えることを知らなかった。いくらルルカの光が眩しくて目も開けられないものであってもいくら世界の光がひっくり返ったとしてもメルドの持つ武器とその魂の輝きは何よりも変え難いもの手間あり、唯一である。
バルムンクはきえることはない、問題は担い手が先に尽きるかかどうか。
「────っ、ぐ……ッ!」
メルドの体が粒子となって消えていく、最強の攻撃は今無に対して突き進んでいく、すべてを誘う強制力に反抗しながら突き進んでいるのだ。まるでそれはメルドの魂を模しているかのように。
[バリン、ボロ───]
石膏が砕けるようにメルドの腕が役目を失い崩れていく、脚、体、顔っと順に崩壊が始まっている。しかしバルムンクは未だここに健在、ならメルドは止まらない、武器の担い手として武器の持つものとして彼女の意思はすべてを超える。
「っけえええええぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
その言葉を最後に彼女の体はすべて崩壊した。に泣いてのいなくなったバルムンクはそのまま地に伏せるだろう、そして流石にメルドのいる場所へと消えていく、しかし彼女の意思を乗せた剣は未だに光の中を突き進んでいる。
剣に意思があると錯覚してしまうほどにその剣はまっすぐルルカの元はと向かっていった。真っ白な世界に初めて塗られる色が青色であると示すように、青白い光が無を切り裂いて彩っていく、そして
[パリン──────!]
ルルカの放つ魔法陣をその刃によって破壊した。たった剣先、されど剣先、メルドの意思を継いだその大剣はルルカにいっぱい食わせたのである。しかしそれも限界、そこで限界。
担い手のいなくなった武器はメルドのように消滅したわけでもなく静かにその姿を消し、持ち主の元へと戻っていった。
残されたルルカは、
「やっぱり、メルドさんはすごいなぁ。」
っと地面にへたり込んだ。
『topic』
伝説装備は壊れないという絶対の制約がある。




