百四十四話「第三回公式大会《13》」
前回のあらすじ
紅月とフライの戦闘、両者一歩も引かない戦闘はこのままどちらかが倒れるまで続くかと思われた。しかし互いに時間が来たため解散、残ったのは二人が戦った後の荒れ果てた大地だけであった。
百四十四話「第三回公式大会《13》」
クランネイムズの拠点。防衛にまわっているのはエズとレナとシルギス、少ないクランであるため攻撃の人と防衛の人の数は基本的に同じである。しかしここに人数差による戦力の差という問題は生じないなぜかといえば。
[ドゴォォォン!!!]
大地を揺らす一撃、放たれたのは砲撃。現実世界の重機のような見た目をした固定砲台が数機、拠点に近づく悪しきプレイヤー達を自動迎撃していた。
その砲塔から放てられる榴弾は遥か遠くの目標であっても逃さず確実に破壊する。相手がクランネイムズの拠点を視認する頃にはすでに撃破が可能なほど射程が長い。
「狙撃だ!機動力で確実に───」
[ドドォン!!!]
そう言ったプレイヤー持ち前の機動力で飛んでくる存在を悠々と回避しようとする。しかしそれは空中で弾け飛び無数の小さな粒となり広範囲へ広がる。威力は低いものの機動力を自慢にしていたプレイヤーはこれにたちまち引っかかり脚部や胴体にダメージを受ける。
これによりノーダメージで拠点に辿り着くなどほぼ不可能。
「全員、俺の後ろにかまえろ!あれくらい俺の防御力で凌いで──!」
[ゴォォン、バジュュュン!!!]
発射から着弾まで0.5秒もかからない。数百メートル先であろうと命中する高度な弾丸。本来なら対戦車用の武装である徹甲弾を使用した一撃はどれほど強固な壁であろうと盾であろうと漏れなく一撃で粉砕する。直撃を受けた者は盾や鎧が砕けるだけではなくその強靭な肉体に大きな風穴を開け、背後にいたプレイヤーですら餌食となる強力な一撃必殺。
「ひ、ひいぃぃぃっ!!?」
「撤退だ!撤退するんだ、、来るんじゃなかったッこんなところ!!」
プレイヤー達の叫び声が響き渡る。しかしもう遅いのだ。クランネイムズの拠点は平らな土地の頂上に位置している。あたりは高低差がありながらも全方位を正しく狙撃、攻撃できる恵まれた地形。エズが設置した自動迎撃用のこの機械達に捕捉された時点で予測演算により弾き出されたデータは彼らの行動を1秒先まで確認し続け、その場所に合わせて適切な砲撃をし続ける。
いわゆる、彼らの敵となり前に出た瞬間に敗北なのである。どんな機動性を誇ろうと、どんな防御力を誇ろうと、どんなにオールラウンダーで戦局に対応できようと、どんな高度なステルス性を誇ろうとそれらを探知し、拠点に近づく事をさせない無敵の機兵。それこそがクランネイムズの最強の防衛戦術である。
これを可能にするのがゲレームの女王エズ。彼女の対象を複製する能力はその内部が複雑であろうと作用し続ける。今紹介した機兵の配置数は数機にもおよび、仮に接近された時用の機兵は数十機の用意してある。さらには空中支援を目的とした無人偵察兼攻撃ユニットは常時擬似光学迷彩を展開しながら索敵を行つづける。
正しく不滅の要塞、正しく難攻不落の要塞、他のクランを凌駕する圧倒的な軍事力と技術力、それらがクランネイムズが人数差を覆す最大の点である。
「うぅむ、壮観じゃの。妾の子供達が敵を皆殺しにしておる。」
「言葉のフットワークが軽すぎるわよ……」
「そりゃ軽くなる。主だって自分が作った武器が使われてそれが大きな戦果につながる事を良しとする側の者じゃろ?」
「まぁ、嬉しいっちゃ嬉しいけどね。でもあれ見てよ、シルギスを。」
レナがシルギスに視線を移すと、いつもと変わらないように見えてそこには内心業を煮やしている彼の姿があった。
「あー。確かに悪い事をしたの。」
「彼ウミと同じでかなり武闘派の人間だから、私たちのこれとはソリが合わないんでしょうね。」
「ウミはルルカのことになれば基本的に許容できる人物だがあやつはそうもいかないからの。じゃが説得の末了承はもらっておる。彼も指揮官であるからゆえに枚数不利の現状の打開策としてこれを理解しておる。」
「ただ、それを本人が気持ちいいと感じるかどうかはべってことよね。」
「うぅむ。主が紅月に手柄全部持っていかれるのと同じじゃ。」
「うわ、絶対やだわそれ。」
「、、今からあの機械達の顔に全員紅月の顔でも貼り付けるか?別に妾の力なら紙くらい容易に印刷できるぞ!」
「アンタ、嫌がらせの天才ね。そんなことしたら脳髄吹き飛ばすわよ!」
「これは手厳しい。でもな、敵に恐怖を与えることになるじゃろ。紅月の顔をした機会が数十台とありそれが常にこっちを狙ってくる恐怖を。」
「やめて、正直考え出したら私まで身震いがとまらない。アイツと戦っている時は年に数回でいいのよ、何が楽しくてあんなラーニング化け物と毎秒戦っているような恐怖を味合わないといけないのよ。」
「でも外敵に向けるにはいい作戦じゃろ?」
「……倫理観的にアウトよ。それに知られたら何言われるかわからないでしょ?」
「それは確かに、ボディペシャンコの刑とかあり得そう。」
「アイツの今度の装備それができるくらいならSTRあるから気をつけなさいよ、頑張れば大地を投げ飛ばせるし、アンタが作ったその機会達もガラクタみたいにスクラップにできるっていうんだから。」
「言葉にするだけで本家の恐ろしさが伝わるの。妾もあやつの技術は真似て入るんじゃが、一向に追いつく気配がない。そもそも紅月の技術力発展力は異常なんじゃ!なぜ架空のものの理論をゲームに落とし込んで尚且つ成立するところまですぐにもっていけるんじゃ!?妾からしたらあれが化け物で仕方ないぞ!」
「それがアイツのおかしいところよね。理屈があって素材があってそれを実行できるだけの力があれば不可能はないっていう。本当の天才を目にしていると嫌な気分になるわ。」
「しかも奴は自身が天才であることをまるで認めないわけだしな。くぅああ!なんかむかつくぞ!」
「私もムカついてきた。帰ってきたら何か言ってやろうかしら。」
二人が楽しく(?)談笑しているとアラートがなる。これは防衛機械達が異常な敵を察知した際に設けた危険信号である。擬似光学迷彩を撃破される、もしくは防衛ラインのイエローゾーンと定義された拠点から数メートルのところを敵プレイヤーが横断した際にこれは発せられる。
しかし通常ならこのイエローゾーンを抜けることなどあり得ない。よほど卓越したプレイヤー、名のあるクランのリーダーでなければこれはそう簡単に越えられるものではない。
演算を通して敵の動きを捕捉し、的確な弾頭を撃ち込む、やっていることは単純であるがほぼどの局面にも対応できるようにエズが設計した高機能防衛砲撃機械達であれば敵をイエローゾーンまでに殲滅することは容易である、信長の三段撃ちのように絶え間ない射撃は大軍であろうと単体であろうとその真価を発揮し続けている。
しかし今アラートが鳴っているということは、それらが通用していないということ。
「レナ、主は出撃だ。シルギス、万が一に備えて準備しておくぞ!」
「わかったわ!」
「敵はなんだ!お前のアレは完璧だったんじゃないのか?」
「完璧じゃ。じゃが完全ではない。紅月が化け物のようにどんな例外も存在するのじゃよ!」
エズは偵察機ど動機接続をしイエローエリアを確認する。そこにはあらゆる攻撃を片手で守りながら突き進む異様なプレイヤーが一人存在していた。
彼の名は聖調聖天の長ケルスト。行使する力は天使軍勢。無数の顔のない天使達を従え、聖魔法による万能とも言える軍隊戦を見せつつ正面からのあらゆる攻撃を受け止めている。
「な、ケルストじゃと!?何故ここに奴がおる!」
「話は後だ。どう対処する?」
「紅月を引き戻すしかないじゃろうな。あの感じ奴の思考速度を上回るほどの攻撃でなければあの概念防御にも似た聖魔法を突破する手段はない。」
「こっちはその時間稼ぎってことか。」
「あぁ、レナ出撃じゃ!今回は妨害用の装備であやつの進行を少しでも遅らせるのが目的じゃ、誤っても攻撃圏内に近づくでないぞ!」
「わかってるわよ!」
「流石にあやつのデータが少なすぎる。手の内側ら間以上は有効な攻撃を片っ端から探すしかない。」
「……」
「シルギス、出たかったら妾は止めんぞ。」
「いや、別のことを考えていたんだが、」
シルギスはエズのことを臆病者だと心の中で思っていた。安全圏から相手を一方的に倒すという戦法はシルギスにとってあまり心地よいものとは言えなかった。しかしエズの態度からはそれよりもどちらかというと味方の安全を考えた、思考の方が先に出ているのだと今気づいた。
味方が危険に晒されないように立ち回りそのためなら卑劣であろうと作戦を使う。全ては誰かのため、以上なまでの被害を出したくないという心の表れなのである。
「だが、君が許可してくれるなら。今回は出させてもらう、砲撃は続けててくれ、私は直にアレを止める。」
「わかった、じゃが安心するんじゃな。これらがお主に刃を向けることはない。存分に戦うと良い。」
「それを聞いて安心した。」
『topic』
エズのコピーは何にでも作用することができると思いがちだが、コピーしたものをさらにコピーすることはできないためオリジナルが破壊された時点でそれは二度とコピーできなくなる。




