百四十二話「第三回公式大会《11》」
前回のあらすじ
筋骨隆々のクラン"プレジデント"はその圧倒的ゴリ押しによって次々と他のクランを殲滅していた。一方メルド率いる"ドラゴンデストロイヤーズ"は移動速度という弱点を見抜き、"プレジデント"の拠点を大幅に削る。
凱旋気分で帰ったメルドだったが、メンバーに紛れていた、一人の侵入者を見つけ追い出すことに成功。しかし、改めてこの大会が一筋縄ではいかないと理解するのであった。
「ぎぃやああああああ!!!」
とあるクランの拠点からボウボウっと炎が燃え上がる。灼熱地獄と化した。クランは一瞬にして壊滅、それと同時に拠点は最も簡単に破壊された。
破壊された拠点の炎から姿を現したのはただ一人のメイド。"ネイムズ"のウミである。
「ふぅ、あいにく抵抗はされてしまいましたが。早めに片付けられましたね。」
一仕事終えたウミはググッと体を伸ばし、気分を切り替える。彼女自身他プレイヤーに喧嘩を売るのは珍しい、それは彼女自身が誰かを傷つけるものを守るというスタンスからくるものであり、攻めの姿勢では基本ないからだ。
ゆえに、こういうことをした後には気分の切り替えが必要だ。
「……次はどこでしたでしょうか?」
そう口で入っているものの、次の獲物を見つけるとウミは足に力を入れ地面を蹴り風のように目標に向かって一直線に走り出す。
クランの勝利のために、そして彼女が敬愛するお嬢様ことルルカのために、ウミはその障害となる標的を排除しなければならない。それがたとえ知人の介入によって邪魔されようとも。
「!」
[ドドドドッッ!!!]
空から降り注ぐ、攻撃をステップと回避ですぐに避けるウミ。ある程度の攻撃を交わしたところでその攻撃を放ってきた張本人が姿を現した。
「どうも、ウミさん!」
「──フライさん、」
原典大天使族である彼がウミの目の前に姿を現す。攻撃してきたことから分かるように温厚ではないようだった。
「鷹橋さんと呼んだ方がよろしいですか?」
「いや、フライで。だってそれあいつしか言ってないでしょ。」
ウミの真剣な言葉に、フライは冗談に苦笑いしながら答えるも、ウミの警戒は決して緩んだりしない。
「───いやぁ、流石だな。全然気を緩んだりしないんですね。」
「もちろんです。紅月様から、あなたは最重要警戒人物と言われています。何でもその薄っぺらい言葉で人を惑わすそうですから。」
「まって、後半なんか違くない?俺妖魔か何かだとか思われてんの。。」
「どちらにしたとしても、貴方が私に攻撃し、戦闘が起こる可能性は極めて高いです。そのため、私は一切警戒を解くことはありません。貴方の身に何かあって手を引いてくれるなら話は別ですが。」
「はへぇ……言いますね。ちなみに今こうして話し合ってはいるけど、実際に俺がきたのは交渉とかで戦闘が起こらないってのは考えないの?」
「考えていません。起こるのはあくまで貴方が何かあってこの場で引く選択をせざる負えないだけかと。そうじゃなければ出会い頭の攻撃も、私が向かう先にいたのも合点が行きません。」
(……バレてた。めっちゃ上空にいたのにな。)
「………申し訳ありませんが、私はお嬢様達を守る義務と責任があるため、この先のクランは潰させてもらいます。たとえそれが貴方の獲物であろうと、無かろうと。」
「────そうですね。俺は別に、脱落しなければそれでいいって思っている人なんで、正直守りだけに徹していればいいんですけど。こう、せっかくのイベントでね、いっぱい強い人がいるのに、それらと全員競い合わないとかちょっと勿体無いなと。」
(───紅月様が仰っていた。たしか、フライさんの、"競い合い"というのは。)
「そこで、今日はウミさんに相手になってもらおうかなっと!」
「!!」
フライの周囲から無数の光線攻撃が放たれ、空中で軌道を描きながらウミへと容赦なく降り注ぐ、
[ドドドド!ドォンドォン!!]
地形を抉り、ウミを確実に倒すために、放てられる攻撃達、もちろん本体であるフライト黙っているほどお人好しではなく、回避するウミの先に回り込んでその槍で攻撃をする。
「光焔槍ッ!!」
ウミは背後の光線を斬りつけ、自身の体を捻らせた回転攻撃をフライの槍と激突されせる。
[ゴォン!!]
互いの武器が激突し凄まじい衝撃波が大地を揺らす、反動で弾き合った二人。しかし隙を見逃さないフライは着地狩りの光線攻撃、ウミもう一つの光焔槍を出現させ、フライの追撃の邪魔をするようにそれを投擲。
「───ッ空中で投げてくるとは!」
(紅月様から、教えられていた通り!)
投げた光焔槍はフライの盾によって弾かれ、フライの光線攻撃もウミのやりによって捌かれ、互いに均衡状態となる。
(ちょっと、意外だな。ウミさんがここまで戦えるとか。でも、それだったらもう一段ギア上げたってバレねぇよな。)
バトルジャンキー。他者から見るフライの評価はこんなところだ。だが、彼の認識ではこれはあくまで競い合いなのだ、互いに切磋琢磨して戦い合って高めあう。そんなことなのだ。しかしそれを完全理解しているものは少ない。
ゆえに、フライのやり方というのは好き勝手でかなり大変でめんどくさいものであった。
(────おそらく、次からはもっと激しくなる。紅月様の助言通り光線攻撃を決め手としないことはわかってました。ですが、次も同じようにくるかはわからない。)
ウミは最初のうちまでならなんとかなると理解していた。そのため、ある策を用意していた。フライとの戦闘が始まる前にこっそりとその端末で用意をしていたのだ。フライとまともに戦え合える人物を呼び出すことを。
「さぁて、ウミさん。これからドンドン──ッ?!」
一つの人影が空中を駆け、フライの元へとその大剣を振り翳して攻撃する。たった一撃の攻撃によりフライがいた場所はクレーターが形成される。
攻撃を何楽回避したフライはその姿、その攻撃方法に見覚えを感じ、口元を不敵に緩ませる。
「おいおい、聞いてないぞ。興醒めじゃんか、」
「────悪かったな。」
そこに現れたのは"鉄血の死神"紅月であった。ウミが呼んだのは紛れもない彼、紅月がフライとであった時に呼んでくれと渡した端末にはボタンひとつで場所がわかる発信装置付きだったのだ。
全てはフライがチームの誰かと戦うんじゃないかと見越した上での対策。紅月はそう言った意味でフライとは対をなし、フライの一番の理解者であったのだ。
「俺はウミさんと競い合いたかったんだけどな、」
「へぇ、俺じゃダメってのか?」
「まさか、お前もいい。いや、お前の方が数段いい!!」
「紅月様!」
「ウミさん、目的を果たしに行ってください。俺はこいつと少し遊んだ後に合流しますから。」
「はい!」
ウミは激戦となるその戦場から一足早く身を引いた。二人のプレイヤーは互いに見合う。今目の前にいるのはお互いにとっての最強の敵であり、最強の友達。下手な手加減も下手な言葉も、下手な理解も必要ない。
そしてそれらを頭に入れながら戦わなくていい、なぜなら、もうすでに知っている相手。
フライにとっては少し味気ない代わりに、正しく競い合いの相手としては最高峰。
紅月からしたら、またこいつかと思いつつ。完全に対処できるのは自分だけだと理解している故のめんどくさいという感情。
フライは気を溜め。
紅月はシステムのリミッターをほとんど解除する。
そして両者はまるで息が合うように駆け出し、互いの武器を激突させる。
『topic』
フライは歩く天災というあだ名が広まっている。しかし全く定着はしていない。




