百四十一話「第三回公式大会《10》」
前回のあらすじ
第二種目クランデストラクションが始まり、各々チームは拠点防衛と拠点攻撃の二手に分かれる。ネイムズにもミリアリズムのスナイパーが攻撃を仕掛けるも、紅月によって阻止される。
「さぁて、クランデストラクションが始まってまいりましたー!って言ってもプレイヤー同士の戦いは先ほどあったのでまさにこれ!と言った見どころはない感じですけどねー!!」
「こらこら、そんなこと言わない。でもまぁ実際そんなところではあるね。たださっきはモンスターが目的だったクランもここではプレイヤーを倒すというところに念を置いておかないといけないから、珍しい激突は見られるかもね。ほら、」
カイが画面を切り替えると、筋骨隆々な男達が敵クランに堂々と忍び込み、壁を破壊し、蹂躙している様子が顕になった。その姿を見たMYYは驚きのあまり悲鳴をあげた。
「ぎゃああああっ!?なんですかあれ!」
「あれは、"プレジデント"というクランで、見ての通りマッスルな男達で構成されたクランです。ステータスをSTRとVITに極振りしているので、そう簡単には倒れません。そしてそれぞれが特殊な装備は無しで戦ってます。」
「え?あ!本当です!装備という装備がなく、ほとんどタンクトップか上半身裸です!ちょっとーー!!コンプラどうなってるんですかぁ!!」
「それ以前に、なぜ倒れないかは聞かないんですか?」
「聞きたくてもあれに何か理由があるんですか?」
「……ないですね。見ての通り鍛え上げた結果でしょう。」
「鍛え上げてああなるんだったら全人類そうしてますよ!見てください魔法なんて諸共せず他のプレイヤーをまるでミカンのように潰していますよ!!」
「これはひどいですねー。」
プレジデントの戦法は至ってシンプルだった。敵本拠地に筋肉で強襲し、筋肉で圧倒し、筋肉で制圧し、筋肉で破壊する。パワー勝負でまず勝てないのなら、このクランに勝つことは不可能なのだ。
故に立ち入らせないようにしたり搦手を使ってなんとか対応するしかないのだが、それも限度がある。
副官であるジェノサイド樋口はこの中で筋肉はないものの、賢さに全てを振っておりこの荒くれ者達の実質リーダー的立ち位置で戦局を見極め指示を出している。このクランに所属している面々は碌に考えなしさなので、彼の言葉には普通に従い、彼の言葉に絶大な信用を持っている。
リーダーである、NEOアームストロングもその一人だった。
「樋口、破壊した。」
「よぉし、全員で次は防衛だ。足が遅いからトロトロ動くな。俺たちの目的はあくまで攻防だ。行き過ぎた攻撃はかえって本末転倒につながる。わかってるか?」
「あぁ。お前の意見は常に正しい。お前はこのクランにおいて最も賢い軍師だ。」
「本当、自分でもそう思う。なぜかって?こんな筋肉まみれな中にいてアホみたいに目立たないからな。」
「だが、そのおかげで敵から狙われない。」
「筋肉で姿を隠すとか初めて聞いたって感じだけどな。まぁこの仕事好きだからいいんだけど。」
ジェノサイド樋口とNEOアームストロングは共に語る。撤退していく筋肉達、彼らは再び拠点防衛に戻っていった。ありえないほど遅いが、これはある種のヒットアンドアウェーということになる。
「防衛戦においても、ピカイチっぽいですね。」
「えぇ?こんな脳筋なのに?」
「脳筋だからだよ。単純であればあるほど強い、シンプルイズベストを体現したような感じ。」
「……うえ、MYYはなんだか暑苦しくて参ってしまいます。」
実況席の二人はプレジデントの動向を追う。そして彼らが拠点に着きそうな頃、
[ドガァァァン!!!]
プレジデントの拠点で大爆発が起こった。何事かと慌てた筋肉達がザワザワと騒ぎ出してきた頃。
「全員慌てるな!これもトレーニングだと思って走っていくぞ!!」
ジェノサイド樋口が指示を出して、NEOアームストロングを引き連れて拠点へと戻る。拠点にはとあるクランが進行していた。そのクランの名は
「よっしゃ!やっぱ筋肉に脳の栄養吸われてただろ!この隙に攻撃を入れ込んで叩き潰せ!」
筋肉を踏み台にして、指示を出していたのはドラゴンデストロイヤーズのメルドであった。身内には極めて優しい彼女だが、戦いの場となれば敵に容赦はまるでない。豪快な性格でありながら知略家であり、その全てを引き連れていけるカリスマは常にクランメンバーの士気を高めていた。
「ドラゴンを罠にかけるみたいに、揺動と一撃を狙え!竜の体にも鱗がない部分があるだろ!それと同じ要領だ!」
『わかりました!!』
メルドの的確な指示によって、筋肉の鎧はたちまち崩れ落ちていく。そしてそこにようやく到着した。プレジデントが現れる。
「ドラゴンデストロイヤーズのメルドか!」
「そういうお前はジェノサイド樋口か、残念だったな、あたしは意外と馬鹿に見えて賢いんだ!」
「NEOアームストロング!!」
「あいわかった!!」
「来たな筋肉ダルマ!!」
メルドの振り上げた大剣を片腕で受け止めるともう片方の腕で追撃を与えようとするNEOアームストロング、しかしそれを見切り体を回し回避したのち、大剣でその巨体を軽く宙に浮かせる。
「硬ってぇなぁ!!どんなことしてんだよ!!」
「否!筋肉である!!」
その大剣は竜を滅する太刀、その筋肉は鋼よりも硬い、二つの似て非なる存在同士が互いにぶつかり合い続ける。しかし激戦もこなして同時に指揮もできるほどメルドも器用ではない。
「撤退だ!!あの筋肉達は足が遅い!早くいけ!」
『了解!!!』
メルドの声を聞き入れたクランメンバー達は一目散に逃げていく、メルドもキリの良いところでNEOアームストロングの一撃を弾き返し撤退していった。
残された拠点には火とゲージが半分以上削れた拠点のコアがあった。
「……悪い、自分のせいだ。メルドの動きをもっと早くわかっていたら。」
「いや、奴らの動きは紛れもなくこっちを前々から狙っている動きだった。今回は偶然の積み重ねに過ぎない。それにまだこちらとてチャンスは残っている。」
「そうだな、さっさと防衛を整えて対策を考えるか。」
「あぁ、それが良い。」
二つのクランの衝突を見ていた実況席では感想が話されている。
「いやぁ、さすがは有名クラン、去り際も見事ですねぇ。」
「そうだね。あそこまでうまいと惚れ惚れしてしまうよ。完全にプレジデントを手玉に取っていた。やはりメルド選手の手腕はさすがと言ったところ。」
「あれ一人で完全に完結してますよねぇ。っと流石に大きな動きは見られなさそうですね。」
「まぁ、そう簡単に動いたら面白くないからね。っと、でもクランじゃないけど個人的な要件で戦うことはあるかもね。」
「と言いますと?」
「………後でのお楽しみだ。」
カイが不敵に笑い、MYYが頭にハテナを浮かべる。二人のやりとりとは打って変わり、スクリーンはドラゴンデストロイヤーズへと切り替わる。
メルド達が築いた拠点はカモフラージュが施されていたりと、ゲリラ戦法とマッチした拠点となっていた。彼女が思うに、見つからなければそもそも攻められないという考えはこの広大なフィールドをを利用した最適な戦法だった。
「いやぁ、肩が凝った凝った。」
「メルドさん、よくあんな筋肉ダルマと真正面からやりあえますね。」
「そりゃあ、腐ってもリーダーだからな。誰かが相手してやんねぇといけねぇけど、あー。肩痛え。アイツとやり合うと毎回こうだ。」
「後でマッサージしますよ。」
「頼む。あ、変なところ触んなよ。」
「流石にないですよ。メルドさんのことそういう目で見れないんで。」
「うーん。尊敬と遠慮が五分五分な気がするけど、まぁいいか!」
メルドは拠点に戻るとある程度の指示を出して、更なる防衛確保を始める。ドラゴンデストロイヤーズの面々に魔法を使える者は少ないが、それを弱点だと悟られないため、メルドも自身で魔法の結界を張ることもある。
文武両道とはまさにこのことであった。
「…………メルドの姐さん?」
「………。」
メルドは何かを小さく呟き考え事をしながらある方向に向かっていく。そして作業している一人のメンバーの肩を叩く。
「お前、誰だ?」
その行動は自然だった。ただ、メルドの口から出たことによってハッとした周りのメンバー達は一切に作業を中断して武器をある一人のプレイヤーに向ける。
「あたしを馬鹿にしてんのか?これでもここにいるやつの顔と性格は全員覚えてんだ。頭がちょっと足りないボロや、魔法が使えんのに回復できないパラリスや、肩揉みはそれほどなのに肩叩きは無駄に上手ぇコルソンとか。たまが、お前は見たことねぇ、差し詰め。ミリアリズムか?」
「─────あは、」
その扮していたメンバーが少し笑うと、煙のように姿が曖昧になって消えていった。メンバー達の間にはその現象に対しての動揺の声が広がっていた。
「慌てんな、敵情視察だ。魔素の感じからして探知不能型の情報収集だ。拠点の位置が割れたわけじゃねぇ、全員作業に戻れ!」
「でも、メルドさん!」
「いいから。もし来たら真正面から打って出れば良いんだよ。気にすんな。」
「はい。」
ドラゴンデスロイヤーズの雰囲気が少し警戒気味になっている。流石に不明瞭な輩が出てくればこうなるのは必然。そう考えたメルドはひとまず座って作戦を考え始める。
(次狙うのは、ミリアリズムにするとして、どうやって見つけるか………いや、仮を返してもらうか。)
『topic』
ドラゴンデストロイヤーズは個々が対竜訓練を施されている。そのため、通常戦闘においてもその練度の高さを垣間見えることができる。




