百三十八話「第三回公式大会《6》」
前回のあらすじ
フィールドに現れプレイヤーの力で蹂躙するグランドミラージュ達、それぞれのクランがPKではなくグランドミラージュとの戦闘に熱中する中、隠れて参加していたフライのクランは紅月に発見されてしまう。
大天使と機人が互いに向き合う。両者の間で再び沈黙が発生して、その場にいる全員は黙りこくる。
「…………鷹橋、なんでお前はここに参加しているんだ?」
「……簡単な理由だろ?俺はお前と競い合い。」
「はぁ、相変わらずだな。」
「ま、今はそういう時期じゃない。ただPK戦がきたその時は、真っ先にお前を狙うから、そこんところはよろしくな?」
「宣戦布告なんて、珍しいな。」
「今のうちに言っておくって奴だよ。ほら、次からこの槍で刺しても文句言われねぇだろ?」
「いや、冗談じゃない。」
「───どっちにしても、お前は俺と必ず戦う!お前もそう望んでるだろー?」
「望んではないけどな。ただお前を倒す必要があるなら俺はそうする。今回、こっちには明確に負けられない理由があるからな。」
「そうか、じゃ。俺達はこの辺で。勝つか負けるかはともかくとしてせっかくの大会、楽しまないほうが損だろ!」
大天使はそういうと、仲間をたの肩を叩いて引き連れながらその場を後にした。紅月はその光景をただ黙って見ていながら。
「めんどくせぇ。」
っと一人呟いたのだった。
そして一方観戦席。先ほどの連携と怒涛の戦闘を見ていたカイとMYYはというと。
「あ、あれがトップ層の戦いって奴〜〜〜、か、カイさん!何か説明を!」
「MYY。あなたがビビってどうするの、私たちこれでも一応解説と実況なんだからさ、」
「で、ででででも!あれってなんなんですか?!あれ本当に人ですか、ミラージュの動きもそうでしたけど、別物じゃないですかぁ!!そもそも、あの二人ってなんなんですか!?マヴなんですか!!」
「おっといま言っちゃいけない単語出たね。まぁそれはともかくあの二人は多分性格から戦闘スタイルまで多分ものすごく相性がいいんだと私は思っているよ。正直なところ、私自身もあの戦闘どう解説したらいいかわかんなくなりそうだし。」
「珍しい大天使なんて種族に、オートマタ、なんかアベコべに見えるのに戦闘のときは恐ろしく気が合ってましたね。」
「………リア友だったりしてね?」
「でも、仲悪そうでしたよ?」
「そこまで。これ以上はプライバシー云々に関わってきて私も面倒だから。さて、ミラージュの数もだいぶ減ってきたね。」
「そうですね。流石にほぼ丸パクリのやつに負ける本体なんてのもありえませんから!」
「ここに参加しているプレイヤー達はたとえ弱くても自分の弱点を理解している人が大半だからね。まぁ、それでも絶対的な力には勝てなかったりするけど。」
「そぉぉれ、いっちゃいますー?ここはほら愛と勇気が溢れた素晴らしいアドバイスとか、」
「こ、根性論では攻略サイトなんて書けないし。」
「あ、今逃げましたねー!」
実況と解説席ではまた穏やかな雑談が始まった。一方でそれぞれのクラン達は順調にモンスター狩りをしてそれぞれが平和的にスコアを伸ばしていった。
その一方でプレイヤー狩りをし続けるクランもいたが、大会優勝をほとんどクランが掲げていたのでそれも徐々に故意的にやっているもの以外はいなくなっていったのだった。
「さてさてー、モンスタースコアも終盤に差し掛かりましたー。ミラージュの最後の一体がどこにいるのかわからないせいで次のモンスターの投入が遅れた時は焦りましたねー。カイさん。」
「まさか、隠蔽もちのミラージュがずっと隠れているだなんて誰も考えつきませんでしたからね。ネイムズのオートマタ組みがレーダー機能で見つけてなかったら、このまま終わるところだったね。」
「はい!ですがそれも無事解決したので、実質最後の大型モンスターの登場です!その名もヴァニタス・エディタ!!まだ運営が現場未公開にしている、最強種モンスターです!!」
「最強種モンスター。これはすごいことになったね、」最強種モンスターはモンスターでありながら極めて特殊な能力と優れた知能を保有する正しく幻であり、最強であるモンスターです。SSSランクであっても苦戦はする賜物だね。」
「え、えぇ!?そうなんですか!!」
「なんで、君が驚いているの、君が!」
「いや、私そんなに詳しくカンペに書いてないですから!」
「メタイよ!」
「───おっと、失礼。お見苦しいところを〜、さてそれではモンスターにご登壇いただきましょーーー!!どうぞー!」
フィールドが暗闇に染まり、空気が震えた。静寂を切り裂くように、かすかな紙の擦れる音が響き渡る。誰もが耳を疑った。風など吹いていない。いないのにだ。
音は徐々に大きくなり、やがて宙に浮かぶ一枚の白紙が姿を現した。鮮やかな赤い線が走る。その線は次第に形を成し、やがて巨大な影となって現れた。
「君たちの物語に、新たな一行を加えようか───。」
そのモンスターは語った。そのモンスターは言葉を話した。まるで一つの地敵生命体のようにその場に佇んでいる。まるで狂想曲を奏でる音楽家のように、まるで最初から狂った小説家のように、まるで狂気を内に内に隠すジェンドルマンのように。
その声は冷たく、どこか遠い場所から響くようだった。姿ははっきりしない。輪郭は揺らぎ、まるで煙のように形を変える。顔はまるで白紙のページ、中央に一本の赤い編集線が走り、左右で異なる表情を浮かべていた。
しかしそんな不気味な存在に対してもプレイヤー達の認識は変わらない。獲物を狩る側としてモンスターに直進するプレイヤー達、彼らを待っていたのは………
突如、空間が歪んだ。周囲の景色がまるでページをめくるように次々と切り替わり、戦場の時間軸が断片的に崩れていく。彼らが放ったはずの一撃は、記録から消え、まるで存在しなかったかのように無効化されたのだ。
「俺の剣が、今は音楽を奏でている?」
「俺は、かえる?帰らないと!」
「私の、ご飯は?あれは食べ物なの?!」
剣を持っていたものが呟く。戦いきたものが錯乱する。空腹を訴えるものが現れる。
その場のプレイヤー達は一斉に混乱し、仲間同士の記憶が狂い始める。
生きている者が“死んだ”記憶を抱く。
逆に先ほどデスをしたプレイヤーが今まで"生きていた"という記憶を抱く。
言葉と行動、記憶と現実がねじれ、まるで誰もが別の物語を生きているかのようだった。
ヴァニタス・エディタは、静かに微笑む。彼の手からは無数のページが舞い降り、赤い線で書き換えられた“新たなルール”が空間を支配していく。
「君たちの物語は、私の手の中にある。だが、その終わりはまだ書かれていない──。」
このモンスターの不可解な攻撃は、全てを狂わせ、狂わせ、狂わせ続ける。そのおかげでヴァニタス・エディタに刃を向けられるものは一人もいないのだ。
「え、えええぇぇぇ?!るなんか今、戦場が、折れ曲がった!?ページめくるみたいに景色が変わった!?!?ちょ、ちょっとカイさん!これ、こ!これこれ!どういうことですかぁーーーーー!?!?!?」
MYYの声が絶叫に近い。画面の奥で、攻撃されたように見えたヴァニタス・エディタがまるで回復したように光を放っていた。
「……なるほど。これは……因果の?」
カイは即座に言葉を絞り出す。
彼には見覚えがあった。だが、見覚えがあるだけでそれが確定してはいない。冷静な解説役に必要なのは誰にでも理解できるような結果の説明なのだ。
「え、なになに!?どういうこと!?カイさん!、ちょっと噛み砕いてくださーい!!何にもわからないMYYちゃんがここにいまーす!」
(こいつ、“意味”を書き換えてる。攻撃そのものは成立している。でもその解釈が捻じ曲がっているのか……、)
カイは続けて思考を続けた。
("斬った"という行動は存在してる。でも、モンスター側でその行動が"別"として解釈している。つまり……これは、"編集"。)
「カイさん!!カイさん!!!」
「………ごめん、解説今回は放棄するよ。これはプレイヤー達で見つけてもらった方が面白そうだ!」
「なんですかそれー!MYYちやんに教えて欲しいんですけどー!!!」
『topic』
最強種とは、あらゆる種族の最終地点、最終進化、最終生物的な意味合いを持つ。グランド系のモンスター達と違い、超越的な力を持ち、この世界に君臨し続ける、自然が生んだ不自然である。




