百三十五話「第三回公式大会《3》」
前回のあらすじ
モンスタースコアが進んでいく中、プレイヤー達はそれぞれモンスターを積極的に狩る側、プレイヤーの邪魔をする側の大きく2軍に分かれることになった。
紅月、そしてネイムズはプレイヤーハントを目論むもの達から逃れ本来の目的であるモンスタースコアへと着手していくのであった。
一般的な規格から大きく外れたキングダムスライムは行く当てもなく彷徨いながらその道中にある全てのものを侵食していた。スライムの本質は侵食、捕食そして成長。
この三つはキングダムスライムも同様であるため、かのモンスターが通った後には草一本すら残らず飲み込まれていた。
「一番乗りは俺たちだー!!」
「おいおい、舐めたこと言ってんじゃねーッ!俺たちに決まってんだろ!?」
多くのプレイヤーが油断した。なぜなら相手は大きかろうが小さかろうがスライムであるのだから。スライムといえばそこら辺の雑魚敵と同じ体力と見かけだけ大きい、伊達な性能をしていると思い込みこぞって攻撃を与える。
[ポゥロン!!]
しかしなんということだろうか、確かに普通のスライムであれば一撃でその体を貫通され、コアを破壊されるレベルの攻撃だ。だが、このキングダムスライムは格が違う、体が大きければ体力も防御力も高い。
本来なら銃弾一つですら風穴が開いてしまう紙装甲が今回ではその縦断を弾くほどの弾力性を獲得し、プレイヤー達の攻撃をものともしていなかった。
「うおおおお!!!」
であれば近接が有効になると考える。だが
[ザシュ────ヌググググ!]
「う、ぅああああああっ!!!?」
斬られたところから再生し、すぐさま剣を飲み込み、それを持っていたプレイヤーを飲み込んだ。生きたまま飲み込まれたプレイヤーはしばらく無事であるが、スライムに徐々に溶かされてゆき、最後は継続的なダメージに耐えられずデスすることになる。
その光景は良かれ悪かれ観客席にいたプレイヤー達を盛り上がらせた。そしてここは実況席、新たな要素に2人の実況と解説も興奮状態であった。
「キングダムスライム!すごいです!!プレイヤー達の攻撃をもろともせず、自分の自由のためにただひたすらに前進し続けています!コレはエグい!」
「エグいってレベルじゃなくてコレもう黒いってレベルだよね。いや、R18G版だったらいつぞやのゾンビゲーにも負けず劣らずの描写だと思うよ………!」
「ですね!ちなみに私、ホラーゲームとかそういうグロいの苦手なんですもう話さないでください!」
「ごめん!この話やめよっか!!」
「はい!ですが解説のカイさんにはこのキングダムスライムについて語ってもらうことが山ほどあります。もう現時点で難攻不落の要塞みたいになっていますが、この先キングダムスライムを倒す上でのコツなどありますでしょうか?」
「………。初めて見たモンスターだから断定はできないけどできるだけ早めに倒したほうがいいとは思うよ?」
「と言いますと?」
「だってあれスライムだもん。多分成長するでしょ?」
「はぁ、はい?」
「いやだから成長。スライムって捕食すればするほど成長するでしょ、で今キングダムスライムが向かっている場所をよく確認して欲しいんだけど。」
「あぁ、森に向かってますね!」
「多分森を丸ごと食べて成長する魂胆なんじゃないかなぁと思ってるよ。でもそうなるとサイズも大きくなるし普通の魔法攻撃でなんとかなる領域じゃなくなっちゃうと私思うんだよねー。」
「なるほどォー、って待ってください!それってもう誰の手にも負えないってことですよね!!?」
「まぁそうなるねー。それにキングダムスライムを見る限り再生力森超強化されているから一撃で倒せるような魔法火力それこそ魔術クラスの攻撃を複数回ぶつけないと倒せないんじゃないかと思うよ。」
「は、ははははぁ。カイさん意外と達観してますね。」
「それはもう。だってこのキングダムスライム"の勝つビジョン"が見えませんから。」
「…………キングダムスライム"に勝つビジョン"じゃなく?」
「はい。だって多分負けますから。ここにいるプレイヤー達はどんなことが目的であれ精鋭中の精鋭達です。それこそPK専門のところがあるようにドラゴン専門のクランがあるように、モンスター全体を専門にしているところだってあるんですから………。」
カイがそう言うとその場にいたMYYは画面に注目し始めた。この先一体誰がどのようにキングダムスライムを討伐するのかに興味を持ったからだ。
「これはすごいの。して、どうやって討伐する?」
ネイムズのエズは双眼鏡でじっくりと進行するキングダムスライム、そしてその周りで逃げ惑いながらも必死に戦うプレイヤー達の姿を観察していた。
「それはもうルルカに任せてもらうしかないでしょ。ビーム兵器でもなんとかできなくないけど正直私のは対人戦要素が高いわよ。アンタのは?」
「うーむ。ノーコメントで、持ってきてないわけじゃないんじゃが。」
「お嬢様の魔力砲でしたら、キングダムスライムに有効ですが、どうですか?」
「やってもいいけどしっかり倒し切れるかなぁ?ほら、私のって純粋な攻撃力よりか付属の爆発効果が本命なわけだし。」
「魔術使えんじゃないの?」
「使えるけど、スーパーモードは連発できるものじゃないし。後先のこと考えると難しい…。それに私の魔術って確実に殲滅用のものがないから。」
「うぅむ。では一番コストが低い妾の策でやってみるかの?」
エズは荷物の中から四角い箱ガラス入りされたさまざまなミニチュアを取り出す。
「待ってエズ、それサイズどのくらい?」
「大体20mほどじゃ。」
「呆れた!そんなのただの窓になるだけじゃない!!それにここ立地安定しないでしょ!」
「しかないじゃろう!それにどこにいても狙撃や妨害は入るんじゃ!どこでやったって変わらん変わらん!」
レナとエズがギャーギャーと言い争いを始めると、シルギスは達観した様子でルルカとウミに話し始めた。
「こちらはドラゴンを一回倒している。今回を愛称振りで見送ることも戦略としてありだと私は思う。」
「───いや、それはダメだ。」
「あっ!お兄様!!」
紅月は五人の前に降り立ち、シルギスが提案した作戦を真っ向から却下した。
「今回チームが確実に勝つためには少なくとも、ボーナスを逃すなんてことは論外だ。」
「じゃあ、何か策があるのか?」
「…………直接行って斬る。」
「微妙にできそうで、出来なさそうな作戦ですね。」
ウミは確かに紅月ならできるかもしれないと一瞬思う。今の紅月は対人戦もそうだがスペック的な形で見るならばネイムズ最強の矛となっている。瞬間火力から技量そして強化形態が存在しているところを見るに、その気になればどんな敵が相手であろうと確実に遅れをの取ることはない。
「でも、お兄様もあのキングダムスライムを破片も残さず消し去るのは難しいでしょ?」
「そうだが。」
「じゃあ、お留守番だね。」
「………。」
ルルカの言葉に紅月は黙るしかなかった。
「今エズが用意してくれるはずだから、うまくいけば一回であれを倒せると思うよ?」
「一言言い忘れておった!あくまで妾の見立てじゃから最悪一回は無理じゃ!!」
「─────一回は無理っだって。」
「はぁ。」
エズのガバガバすぎる見立てに紅月はため息をするしかなかった。コレでは本当にシルギスの言った通り見送ることが消費もせず一番の最善手になるかもしれない。
そう紅月が思っていた時だった。
『キングダムスライムを打ち倒そうだなんて考えている皆さーんきいてくださーい!』
館内放送が如くの大音量スピーカーによって森を目前にしたキングダムスライム、そしてその半径数メートル以内にいる全てのプレイヤー達は耳を澄まし始めた。
『もう一回、聞いてくださーい!今からここは隕石が落ちて大規模な大爆発とクレーターが形成されまーす!つまりキングダムスライムは死ぬ運命ってことでーす!なのでこの放送をしていまーす!直ちに死にたくない人はこの領域からさっさと離脱してくださーい!繰り返しまーす離脱してくださーい!!』
「なんじゃ?今のやつは?」
「荒らしじゃない?」
「荒らしだとしても、キングダムスライムを倒すとは大きくでたものだ。」
「ルルカ。」
「うん。」
紅月とルルカは何かを察して互いの方法でキングダムスライムの方角をサーチし始める。そして。
「ッ!お兄様!!」
「────ルルカ!防御の準備をしろ、今の奴ら本当にここを爆心地にするつもりだ!」
ルルカは急いで自分が展開できる最大の魔法防御を発動し始め、紅月はエルドを利用した観測を続けた。わけがわからない2人の行動に4人は戸惑う。
「ちょっと、紅月。何が起こんのよ!」
「………隕石が落ちてくる。」
「はぁ?もしかして鵜呑みにしているわけ?」
「本当だ。大隕石が落ちてくる。その使えないデュアルアイを少しは空の観察に使ってみろ。」
「……。」
レナは紅月の言う通り倍率カメラを起動し空を見上げる。その後ろにいたエズも用意を一時中断して空を見上げ、観測を開始する。
「え、ぇ………え?」
「な、んと。これは───現実か?」
空には今まで自分たちが当たり前だと思っていた。青い風景そしてその先に広がっている目の前を覆い尽くすかのような巨大な物体。目に見える範囲全てを覆い尽くしているそれを見た2人は現実かどうかを訝しむ。
「ちょ、ちょっと!これ避難勧告遅すぎるわよ!!」
「ええい!する気のない宣戦布告と同等じゃぁ!!」
レナは観測を続け、エズは新たな防御型のミニチュアを取り出してそれをコピーペーストし始める。
「あの、レナさん?何が起こってるんですか?」
「簡単に言うと、今から馬鹿でかい隕石が落ちてくるから頑張って爆風とかに巻き込まれないようにしようって話よ!!ちなみにさっきの避難勧告遅すぎるせいで!今から逃げるなんてことはできないわ、あのサイズが落ちてきた時の範囲は桁違いよ!」
「え、えぇ?!」
真っ先に分かったのはクランネイムズであった。そしてそれをただ1人のスナイパーはじっと観察していて、何かに気づいた。
「星が落ちる。ここは危険。」
『……なるほどね。それじゃあ急いで撤退の準備しておくよ、ここなら多分爆心地からもだいぶ離れているから適当な洞窟にでも潜ればいけるから。そっちも早めに退去してね。』
「了。」
スナイパーが獲物を逃すのは久しぶりだった。だがそれ以前に彼女も目的達成のために自身の生存を優先して撤退を始めた。
ところ変わってここは別のクラン。1人の少年は拡張魔法によって強化されたメガホンを下ろし避難勧告をし終えていた。
「あの、本当にこのタイミングで良かったんですか?もう発動しちゃってますけど?」
「……構わん。かの戦争の時もすでに戦闘機が発信しているのにも関わらず宣戦布告を行ったものじゃ。」
「………いや、どこの戦争っすか。」
「………して、プロンドファルトよ。あれを防げるかな?」
「じいさん、忘れたのか防げるテストはもう10回はやった。俺のアイアースなら確実に防げる。」
「。。。そうじゃったかの?」
「、あいっかわらず物忘れが激しいな。歳なんじゃないのか?!」
「いや、歳だよ。戦闘の時はハキハキなのに戦ってない時これだもん。」
「ほっほっほ。では、キングゥスライムの最後を見るとしようかの?」
「じいさん、キングダムスライムだ。勝手にメソポタミアと繋げんな。」
「キング──スライ『それ以上はいけない!』」
2人の若者はお爺さんプレイヤーのボケを抑制するためにツッコミを入れた。そしてその頃ちょうど天井の空が赤く染まり始めた。
「おっ、始まりましたよ。」
「………にして何度見てもでかいな。伝説装備だったか?」
「はい。その名も古彗星欠片、無条件で最強クラスの隕石を降らせることができる伝説装備です。発動後は着弾までかなり時間がかかったり、その後のクールタイムは比較にならないくらい長いのでこういったところでしか使えないですけどね。それに、被害範囲も尋常じゃないので。」
「なるほどな。だから、前のあのレイドも未参加ってわけか。」
「勝手に期待されるのは嫌なので。」
「気持ちはわかる。っとそろそろ展開しておくか、俺のアイアスを。」
1人の中年男は盾を前に構えて大隕石の爆風に備え始める。その頃、プレイヤー達はようやく事態を理解したようで絶望に打ちひしがれていた。天井には今からこの場所に落ちる大隕石の姿があり、大気圏の熱に燃やされながらゆっくりとエリアに向かって落ちてくる爆風も含めた被害範囲を理解した時にはすでに遅いと思い、各々が死の心構えを決めていた程だ。
そして
[────────────ッッッッッッ!!!!!!!!!!]
その大隕石は地上と激突した。その瞬間全てを無にする大爆発が起こり、光が迸る。キングダムスライムはその直撃により一瞬にして水分を蒸発、核も爆発による大衝撃に耐えきれず消失、物理に絶対的な耐性を持つキングダムスライムは純粋な質量兵器の前に敗北したのだ。
防御を始めていたプレイヤークランの大半は一瞬のうちにその熱量に耐えきれずデスし、かろうじて耐えようとしていたクランもかなりの損傷を被っていた。ネイムズもその一つである。
「んぎゃーーー!警告音が鳴り止まん!」
「あったりまえでしょ!大気圏突入とほとんどこれ同じなんだから!!」
「んなもん知らんのじゃぁぁぁぁ!!」
エズが複製した防御型の兵器も、爆風と異常な熱量によってすでに前方の何体かが消失しているような状態であった。それでも耐え続けられているのはルルカの魔法防御の恩恵でもある、
「うぐぐぅ、結構キツイ。魔力持ってかれる!」
「ルルカ、悪い。耐えてくれ!」
「もちろん!お兄様の頼みならーッ!!」
『topic』
古彗星欠片は伝説装備の中ではかなりの小型であり、手に持ってるほどの大きさである。




