百三十三話「第三回公式大会《1》」
前回のあらすじ
第三回公式大会プロローグ
「さぁて!みなさん!これより第三回公式大会、始まりでーす!ではカイさん、よーいドンお願いします!」
「えぇ、私ぃ…?それじゃあ、よーーーい─────」
カイが片手をまっすぐあげると同時に真っ白だったバトルフィールドが一瞬にして生成され、そこにモンスター達が溢れかえる。
「────ドンッ!!!」
手を振りかざすと次にプレイヤー達がマップの等間隔の安全地帯に出現する。ここでルールを真っ先に理解していたプレイヤー達は大きくスタートダッシュを決めて、すぐさまモンスターが溢れかえるであろう森林や見晴らしのいい草原へと駆け出していく。
「おおっと!みなさんルールをよく理解してらっしゃいますスタートダッシュが早い!!」
「ま、本気で勝ちに行っているなら尚更ね。」
大勢のクランは団体で行動して効率よくモンスターを狩っているところもあればレアモンスターを探して一攫千金を目指す者達もいる。かたや今は動かず全体の動きを待っているところも。
「多くのクランはポイントを獲得しにモンスターを狩っていますが、動かないクランもありますね?どういうことでしょうか?」
「相手の出方を出方を伺ってるって見た方が良さそうだね。これはモンスタースコアは確かにモンスターを狩るルールではあるけど、同時にプレイヤーでの衝突も起こりかねないから、注意しているって見てもいいね。」
「なるほど!!確かに途中でPKされてリス地点に戻ってしまうなんて大変ですからね!」
「リスポーン地点がモンスターでいっぱいいるところから離れているっていうのも色々考えさせられる要素だからね。」
クランのポイント順位が高速で入れ替えが行われていく画面が写っている。もはや実況席に立つ2人ですらいちいち解説している暇はなさそうである。
「はいはい。みなさん頑張ってますねー!」
「レースゲームみたいに順位の移り変わりが激しいね。」
「ですが流石に一位の座はほとんど揺るぎません!現在一位なのはクラン"エレストスターダスト"!!ここはどういうクランなんでしょうカイさん?!」
「ここは至って普通のクランですよ。強いて特徴を挙げるなら、二名のクランリーダーが持っている武器はそれぞれ伝説装備だという点ですね。」
「伝説装備!!」
画面がエレストスターダストのクランメンバー達を映し出す。一番最前線で指揮をとっているのは年老いた老人だ。
「あれれ、あれおじいちゃんですよね?」
「まぁ、おじいちゃんですね。でもあれでもれっきとしたSSプレイヤーなので注意してくださいね、初見さん。」
「見かけに騙されるなってことですね!でも本当に伝説装備使えるんですか?もう転んじゃうだけで死んじゃいそうですけど。」
「………使えると思いますけど、今は使ってませんね。指揮に徹しているようです、あんまりネタバレになるのもアレなので伝説装備を使い始めてから私は解説を始めますね。最初に全部言っちゃうのも面白く無いので。」
「言いますねぇ〜〜、っとここで試合開始から15分が経過しました!ということは〜?」
「そろそろ大型モンスターが出現する頃合いですね。ま、私たちはカンペあるからわかっちゃうけどね!」
「カイさん!そんなこと言ったら運営の回し者だとかのコメントされちゃいますよー!」
「この場所に座っている時点で回し者になってるから……セーフセーフ!」
「なーにもセーフじゃありませんから!ほら、そんなこと言っている間に最初の大型モンスターがスポーンしますよー!」
画面が移り変わり、森林の中に巨大な魔法陣が出てくる。そして魔法陣から巨大生物が出現する。
[──────ッ!!!]
「すっごい雄叫びですね!あれはなんていうモンスターでしょうはい!カイさん!!」
「あれはグランドレッドドラゴンですね。口からのブレスが凶悪で物理魔法防御力も高いので竜特攻武器でも持ってないときついですねー!」
「竜特攻といえば!専門クランがいましたね!!」
MYYがそう口にした瞬間一つの人影がグランドレッドドラゴンに向かって大剣を突き出しながらものすごいスピードで突撃していった。
『──── 邪竜殺剣ァァァァッ!!!!』
大きな響き声。1人の女傑がグランドレッドドラゴンに向かって大剣を振り翳し、その体に大きな傷をつける。会場はその光景に一気に湧き上がる。
「おぉぉぉっと出ました!竜といえばこの人!!!クラン"ドラゴンデストロイヤー"のリーダー、伝説装備バルムンクの所有者メルドです!!」
「【SAMONN】じゃ有名人だからね、彼女。これはドラゴンが可哀想だ……!」
「アーーーー!!ドラゴンの体力ゲージがゴリゴリ減っていきます!」
「これは本当に出会った相手が悪かったね、もうだねだこれ(笑)」
メルドが連続攻撃を仕掛け、グランドレッドドラゴンがあっという間に削れていき瀕死の状態にまで追い詰められた。
『しゃぁぁぁっっ!このままくたばれぇぇ!!!』
その時だった。メルドがトドメを誘うと言うときに一つの人影が彼女を追い越し、ドラゴンの頭部を一瞬にして両断した。
『んなッパクられた!?』
メルドが唖然としている間に、その人影は地上へと降り立った。
「おおっと、メルドさんの獲物を横取りとは命知らずのプレイヤーもいた物ですねカイさん!さーてそのプレイヤー名は───え、えぇぇ!?」
MYYの驚く声が会場に響き渡り、感染者たちはカメラが向けられたそのプレイヤーを凝視する。そこにいたのは。
「"鉄血の死神"これはこれは……。」
そこには新しい新環装甲を身につけた紅月が佇んでいた。手には魔法と機械が合わさったような近未来型の大剣をその手に持っていた。その姿に観客達は熱狂し、同時に軽く畏怖していた。
『おいおい、紅月。人の獲物取るってのはないぜ?』
『………ならここで諦めるか?』
『───まっさかぁぁ!!!』
メルドが大剣を振り翳しての大剣と衝突する。瞬間大きな衝撃波が周囲へと放たれ、受け止めた紅月の足元には小クレーターができた。
『いつもは仲間だから容赦してるけどな、今回はそうはいかねぇぞ!!ドラゴンの仇取ってやる!!』
『……………!!』
そのまま二人は衝突し、互いに戦いを始めた。
「あの〜、メルドって今ドラゴン殺そうとしてましたよね。」
「あはは、どうやら彼女に取っては仇になるらしいね。全く通りはなってないけど!」
「えぇ〜、まぁとりあえずここからはあ二人にフォーカスを向けつつ、他の解説もやっていきますよー!!」
「じゃ、まず私の考察から─────」
そのまま二人は解説と実況を続けていった。
一方こちらは森の外にいる。クラン、ネイムズ。
ルルカは義兄紅月が戦っている光景を遠目で見ながらその姿に感激してる。
「お兄様さっすがぁッ!!!」
「相変わらず見事な手捌きでしたね。」
「手捌きっていうか大剣捌きっていうか。」
「どちらにしてもあのドラゴンは酷い死に方したの。」
「だがこれでポイントは大幅に手に入ったことになる。幸いプレイヤー同士のPvPじゃない、各自モンスターの撃破を目的として動けば問題ないはずだ。」
今回のモンスタースコアアタックにおけるネイムズの作戦は、まず紅月を単騎で野放しにして残りのメンバーで自己防衛をしながらモンスターを大量に買っていくという方法。全員それぞれでも十分強いが、紅月ほど無法な性能をしているわけでもなく、ましてやここはPKありの無法地帯。固まって行動することは人数が少ない彼らに取ってはとてもいい作戦なのである。
「いたぞ!!」
一人のプレイヤーが5人の姿を見つけると森の中から何人もの銃火器を持った兵隊が飛び出しルルカたちを包囲した。
「なぬ!?」
「わ、囲まれちゃったね。」
「エズに対してルルカ反応薄すぎでしょ!」
「まぁお嬢様、襲撃慣れしてますし…。」
「襲撃慣れって何よ!」
「あー、襲撃慣れ。っそれじゃったらなんかわかるかもしれんの。」
「わかってたまるもんじゃないわよ!」
「君たち少しは緊張感持とう!」
「ダァぁぁぁぁぁーーーーお前らうるせぇ!お前らの鉄血の死神があいつを速攻で狩ったせいでキルパクどころの話じゃなくなったじゃねーか!」
「とんだハライセじゃな。全くキルパクなんて何が楽しんじゃか………」
「全くです!」
「お前らがそれ言うなーーー!!!みんな撃てー!!!!」
周りを取り囲んでいた。兵士たちが一斉射撃を始め、ルルカ達へと銃弾が飛ぶ。
「はい、攻撃被弾盾・囲」
しかしルルカの魔法によって無数の弾丸は防がれてしまう。
「はい、バリアみたいなノリでやったのう。」
「残念!シールドだよ!!」
「違う違うルルカそうじゃないわ。」
「コントはさておき、誰が迎撃するんだ?」
シルギスはみんながワイワイ話している中でも冷静に聞く。
「仕方ないので。ここは私が全て燃やし尽くします。」
「これこれ!!それでは森まで燃えるぞ!ここは妾が。」
エズは持ってきたアタッシュケースを戦闘中だというのに余裕に鼻歌を歌いながら開け、中にあったフィギュアを一つ取り出す。
「何それ?」
「これか?ふっふっふ〜これは1/10のオートガーディアンじゃ、そしてこれを妾のスキルでーー!」
エズがクリエイトマイワールドのスキルを使用するとミニュチュアサイズと全く見た目が同じ、しかしサイズが等身大になったオートガーディアンが目の前に構築される。そして
[ドドドドドド!!]
『ぎゃああああああっっっっっ!!!!!』
周りを取り囲んでいた兵士達を一瞬で一網打尽にした。そのあまりの線滅力に味方であってもルルカらは驚く他なかった。
「えー!?そんなのありっ!?」
「アリアリのアリじゃ。妾にかかれば大きさなんて些細な問題。このちびっこでも等身大サイズに変換し、無限に増やすことができるのじゃ!しかも素材はタダ、お得じゃのう……」
「ここまでくるとほとんどチートですね。」
「あ、このほかにもいろいろ持ってきておるぞ、ちなみに触れさせぬからな。1/9と小型化しておるが中身はありえんほど詰まっておる。ちょっと力や衝撃が加わればもう量産化できんからの」
[パシュィィィン!!!]
エズがそういった時だった。彼女の手に持っていたオートガーディアンのミニチュアは一つの弾丸によって正確に狙い撃たれ次の瞬間粉々になった。
「あーーーー!妾の最高傑作がァァァ!!!」
「お嬢様!!」
「今のスナイパーライフルね。ルルカのアタックダメージシールドを軽々と貫通してきたわ。」
「そんなことよりも妾の!妾のガァぁぁ!!!」
「お兄様がプラモ落として壊した時の反応に似てる!」
「ルルカ、そん時は紅月のやつを慰めてやりなさい。あれ私も体験したことあるけどやっぱ辛いわ………」
「いや、君たち言っている場合じゃなくて敵がすぐ目の前に来てるんだぞ。」
「ごっめいとう。」
姿を現したのは一人の二人の少女そして銃火器を手にした軍隊のような服装をした者達だった。
「さっきの人たちは違いますね。」
「もちろん、あんな奴らと比べてもらったら困し、それに私たちの方が何倍も強いからねー!ていうことでお近づきの印にプレゼンをしたいと思いまーす!」
「なんじゃと?」
「はいはーい。こちら、魔法使い殺しのスナイパーライフルとなっておりまーす!さっき全治の魔女ちゃんの魔法を撃ち抜いたうちのスナイパーが使っていたものと同じだよー!」
「こら、さらっと宣伝しない。」
もう一人の少女が頭をポン、と宣伝を始めた方を叩く。
「な、なんて人たちなんでしょう。戦場で堂々と、商売を始めるなんて!」
「こういうの酒保商人っていうんだっけかのう?それとも死の商人かの?」
「どっちでもいいよー!で、買うの?買わないの?」
「───買うわ!いくら!!」
「ちょっとレナさん!」
催促に引っかかったのはレナであった。
「こちら何と99兆円となってまーす!」
「小学生かッ!!」
「ぐ、足りないわ!」
「まさか本気で買う気だったの?!」
エズがツッコミ、レナが天然ボケをかまし、ルルカがそれに突っ込むというカオスな状況。そして相手はそれに痺れを切らした。
「あれ払えないんですかー?仕方ないですねーこ・こ・は。死を持って精算させていただきまーす!!」
銃を持った。軍隊兵はルルカたちに銃口を向ける。そして一斉射撃を開始した。
「熱炎壁!!」
射撃攻撃に対してウミは自分たちを取り囲むような炎の壁を構築する。
「奴らが持っておる銃、全部魔法貫通がついておる。ルルカ、お主は不利じゃ!」
「ンギャー!久々の私殺しィィィッ!!」
「ルルカ殺しとかあるの?」
「はい、たまに。大体未遂か失敗に終わりますけど、今回はガチですね!腕がなります!」
「こわいこわい。っていうかそれってもう魔法使い殺しなんじゃ………?」
「魔法使いといえば私だからね!」
「──なるほどーね(理解力40%)」
「(かなりピンチな状況のはずだけど、なんでみんな普通にしてるんだ?)それより作戦を立てよう。フレイムウォールもいつまで持つかわからない。」
「よーし、ここでも妾の出番!!今度は狙撃されんから安心じゃ!」
そして数十秒後、フレアウォールが解かれ、再び射撃が行われようとした時
「あれ?いない!」
誰もいなくなったことに一人の少女が目を丸くして、辺りを見回す。そしてそんな様子にもう一人がゆっくりとした足取りで近くに向かい、指を刺した。
「いやよく見なよ。ほら」
「穴がある。」
「ここから逃げたんだろうね。穴なんて掘る魔法あったっけ?」
「あってもなくてもルルカとあのエズとかいう娘ならやりそうだよ?」
「確かに。はぁそれじゃあ探しつつ、モンスター狩っていこうか?」
「はーーーい!さぁみんなレッツ仕事仕事!!」
『topic』
魔法貫通の特性を付与された武器は、魔法に対して絶大的な特攻を持つ。そんなわけで別名魔法使い殺し、(ルルカ殺し)と呼ばれている。ちなみに魔術は魔法と少し違うためか、そこまで効力はないらしい。




