隠話「信用」
前回のあらすじ
エズがなんやかんやでクランに入った。
──サイモン・冒険者ギルド──
「うーん。」
私、ルルカ高校生。今【SAMONN】で報酬が良くてすぐ終わるクエストをボードから探し中。クランメンバーも集まってクランランクもAになって今は新しい装備というか魔法を作るために久しぶりの資金集めに出掛けてるんだー。
私は一度に大量の資金を稼いでしばらくのんびりするタイプのプレイスタイルだから、こうやって稼ぐ時は稼ぐ、稼がない時はお兄様に褒めてもらったりイチャイチャしたりしている。でも、お金は有限だしどこ行っても使うから結局こうして時たま行かなきゃいけないのがネック。お兄様もウミも今日は別の用事があるみたいで手伝ってくれないから、何も考えずに終わるタイプのクエストを探しているって感じ。
「……あ、これ。」
目に留まったクエストは誰がみてもわかるくらい簡単なクエスト、大型のブレストドラゴン(lv99)の討伐。報酬金額も中々悪くないことをパッと確認した私はボードに貼り付けてある紙を撮ろうとした。
「ん、んー!」
でも手が届かなかった。認めたくないけどわかってる!私はかなり背が小さい、同年代の子と比べても小さい、お兄様が頭をすぐに撫でられる背丈であることはちょっと嬉しいけど、日常生活、特にこういう時に支障が出るとめんどくさい。
周りの人も私のことじーっとみてるし。少し恥ずかしい。
※ぴょんぴょんしながらクエストの紙が取れないルルカを微笑ましく思っている後方保護者面の皆様方です
「んー!!」
[パシ──」
「うえ!?」
あと少しで取れそうなクエスト紙を自分の頭上を通る手に取られた。驚きつつも後ろを向くとそこにはなんと。
「シルギス………さん。」
お兄様くらい背丈があるシルギスがクエストを手に持って見つめていた。最悪、よりによってこの人に出会うなんてっと私は心の底から思った、それにクエスト取られたし。
「……これを受けたかったのだろう。」
シルギスはそう言うと私にクエスト用紙を差し出した。
「あ、ありがとう……。」
「だが一人で受けるのは厳しいと思うが。」
クエスト用紙を受け取った私にシルギスはそう言った。彼はおそらく私のためにクエスト用紙を取ってくれたのだと思う、でもその言葉はすごくムカついた。
「……私を誰だと思ってるの、"全知の魔女"だよ!こんなのに負けるわけないじゃん。」
このモンスターの適正ランクはS、そして私の冒険者ランクはSS。普通に考えて負ける要素が何一つない、加えていくらlv99だとしても、その気になればいくらでも対処方法が存在する、普通に考えれば厳しいなんて感想は出てこない。
「……だが魔法使いには分が悪いはずだ。もしそちらが良ければ私も同行させてもらえないだろうか?」
「えぇっ。」
ブレストドラゴンは確かに魔法使いには分が悪い。でも、今まで特に苦戦せずに倒してきた私からすればそんな常識通用しない。なんならよっぽどシルギスが上手くない限りはソロでやった方が遥かに楽なはず。
(……あ、でも。)
──少し前──
「いいですか、お嬢様。シルギスさんとはくれぐれも"仲良く"でお願いします。」
「はーい。」
「そんな気がなさそうな返事ですね……」
「だって、あの人ウミを斬ったじゃん!!」
「いや、あの時は私も盛り上がってしまいましたし……それに傷にもならないものですから。」
「でも、切ったのはそうじゃん!いい、女の子の体は繊細なんだよ!」
「私、女の子というほどの年齢でもないのですが…………。」
「…何歳だっけ?」
「5年もすればアラフォーになるくらいの年齢です。」
「──────。」
「とにかく、お嬢様。くれぐれもシルギスさんとは仲良くお願いしますね!」
──現在──
(って言われてたんだった。……ちぇ、)
なんでウミがシルギスを許しているのか、私にはさっぱり、自分を傷つけた相手をそう簡単には許せるものなのかな?それとも、何か理由があるとか?
「……そろそろ、答えを聞かせてくれないか?」
「む。──いいよ、ついてきたければついてくれば。」
そういうわけで、私に同行する形でシルギスは付いてくることになった。今考えてみればこれは少しおかしかったかもしれない。シルギスは私がクエストを取れない時に偶然現れた、そしてわざわざただ助けるとかじゃなくて同行したいとか言い出すんだから。
(なにか、裏があるって見た方がいいよね。お兄様ならそう思うし。)
そういえばお兄様もそこそこ信用してた。レナはまぁ信用しているというよりか実力を信用してるって感じだけど。私もその部類だけど、ぶっちゃけちゃうと、それ以前にウミに傷をつけたから信用ならないと感じてしまう。
もしかして私だけなのかな。
「そろそろ着く。補助魔法の準備をした方がいいんじゃないか?」
「……わ、わかってるよ!」
指摘された私は怒りをどこかに感じながら万全の補助魔法を唱える。さっきのことだけど前言撤回、私だけじゃなくて、私しか気づいていないんだ。私までシルギスを信用したら、後で何か起こった時に誰も対処────(よくよく考えてみればウミやお兄様がいるんだから、変な動きひとつすれば潰されるのは目に見えてる)───できなくないとは思うけど、面倒なことになったらいけないし!私が頑張らないと。
「助かる。私が先陣を切る、後方支援を頼む。」
「いいよ。(変な動きしたらぶっ飛ばすつもりだし。)」
シルギスを先頭に私はゆっくりと座標に記された場所へと歩いていく。そして少し開けた場所にでた、でも座標はそこを指しているのにあたりにブレストドラゴンの姿は見えない。
「……場所はここなのに、」
探知魔法を起動し、ドラゴンの場所を探ろうとする。
「─────!」
その時シルギスが何かに反応したそぶりを見せた、私はやっぱりと思いながら魔力砲を撃とうと杖を傾けた瞬間、地面から柵のようなものが生え出て私たち二人を囲い閉じ込めた。まるで対人用の檻だ。
「何?!うぁ────っ………。」
「ルルカ!」
全身から力が抜けていく感じ、探知魔法が途切れ、私の中に残存する魔力が一気に持っていかれる感じ。対人用の檻、それに加えてこの感じは魔力吸引。もしかしてと私の脳裏にある可能性が過ぎる。
「いやぁっ、引っかかった引っかかった。しかも、引っかかったのがあの───"全知の魔女"だなんてなぁッ!!」
不敵な笑いを浮かべながら一人の金髪の下品そうな人が手を叩きながら茂みから体を出してきた。続けてその人を筆頭に笑いながら、四方八方から仲間が出てくる。
(やっぱりPKプレイヤー……)
迂闊だった。まさか私が考え事をしていたばっかりにこんな古典的な手に引っかかるなんて、ていうか今の時代魔力吸引檻使ってPKなんて時代遅れすぎる。本当にPKする気あるのかな。
「それにしても、もう一人ひっかかったなぁ。見た感じ野良か………いいこと思いついたぜ!」
(………なんか、長くなりそう。)
ちなみに魔力を一気に吸い取られた私だけど、実のところ全然平気。魔力を吸い取られること自体久しぶりだから変な声出て膝ついちゃったけど、実のところ半分も取られてない。
元々魔力吸引檻なんて吸い取れる量に限界あるし、そもそも私の魔力量はこんなのじゃ吸い取れきれない。
だから今はチャンスを伺ってる。少なくてもPKしにきたってことは何か別の対策をしている可能性がある。お兄様が慢心は即死の元って言ってくれたし。
「おいそこのフードのやつ、お前だけは助けてやるよ。」
(広範囲殲滅魔法陣でも描こっかな………)
魔法陣はどんな大きさであれ機能する。形を覚えている私からすれば地面に小さく書くくらいどうってことない。ただ指がちょっと土だらけになっちゃうけど。
「その全知の魔女を殺したらな!ギャハハハハハハ!!!」
(………どんな笑い方?)
「─────。」
シルギスは黙ってる。ちなみに魔法陣は描き終わった。あとは次の瞬間に私が防御系魔法を自分にはって周りを焼き払うだけ、シルギスは。
(この質問の答え次第にしよ。)
「………悪いが、お断りする。」
「───はぁ?」
盗賊の人が首を傾げながらそう言う。
「おいおい、死にテェってのか?」
「別に死ぬつもりはない。ただ私は仲間を裏切る最低な行為ができないだけだ。そして君たちのような最低な行いで誰かを陥れる存在を私は決して許すことはできない、この剣に誓って私は彼女を守る……それだけだ!」
(…………。)
彼がそう相手に向かって叫んだ時、私はその姿にどこか誰かの面影を感じた気がする。そして同時にウミが、なんでこの人を信用したのかわかった気がする。わかんないけど、なんかわかった感じ。
「……随分と言うじゃねぇか、いいぜ……ぶっ殺してやるよ。その厨二病みたいなセリフをぶっ壊してやる!!」
賊達が頭領の言葉を聞いて私たちの方へと歩いてくる。確かに貴方達からすれば私たちは袋の鼠だろうけど、現実は違う、魔法陣の準備も完了、それと防御魔法を使う人数も。
「………まずはこの檻を。」
「────うぅん、必要ないよ。」
私は小さく書いた魔法陣に魔力を受け渡す。魔法陣は小さく光始めそこから発動地点を中心に大きく魔法陣を地面へと形成する。檻から突如として広がった魔法陣に賊達は一気に慌てふためいている。
「こ、広範囲殲滅魔法っ?!?!」
「どうなってやがる!?魔力は全部吸い取ったんじゃ────ッ!?」
「ルルカ……!」
「残念、次は私の魔力を全部吸い取る檻を用意しとくんだね。」
そしてシルギスさんに攻撃被弾盾をすぐさま付与する。地面を覆うほどの光が次の瞬間放たれ、耳を穿つような爆発音と共に直視できない光が辺りを包む。
そして瞼越しに光が落ち着いたことを確認すると再び目を開ける。そこは私たちを除いて焼け野原。テレビでたまに見る山火事後の光景によく似てる気がする。自然にごめんなさいっと心の中で言った後、私はすくっと立ち上がる。
「ルルカ。」
口をぽかんとしているシルギスさんがそこにいる。
「かっこいいセリフは無駄になっちゃったね。私はあのくらいじゃやられないし、どうでことないから………」
「………かっこよかったかはともかく。無事でよかった。」
「……んんー。その、心配してくれたのはありがとう。じゃあ私は帰って別のクエスト探すから。」
なんだが、まだしっかりと信用し切ったわけじゃないから、こういう言葉を言うのも久しぶりでなんだが気恥ずかしさが出てくる。
「………私も同行しても構わないか?」
「……まぁ、いいよ。」
やっぱり、まだちょっと信用するのは難しいかも、ストーカー説がなくならない限りは。
──ルカの家・夜のバールーム──
随分と雰囲気の効いたバールーム。なんでこの豪邸にはこんなのがあるのだろうと、ここにくるたびに常に思う。普段メイド服を着ているナミさんがバーテンダーをやっていたりなど色々ツッコミどころしかないのだが。
「乾杯。」
「乾杯で。」
俺はご当主、つまりルカのお父さんに呼ばれて酒飲みに来ている、ちなみにすげぇ弱い。でもこうしてたまにご当主が俺のことを飲みに誘うので、まぁ親睦というかそういった互いのものを深めるために応じている次第だ。
気分的には上司というか、親と飲んでる気分。親と飲んだことないけど。
「はぁ〜〜。」
「今日も何かあったんですか?」
「あぁ、少しね。」
それと多分この飲み会、ご当主が愚痴を聞いてほしいがために俺が呼ばれた感もある。そんなわけでご当主の話兼愚痴を聞き始めた俺は慣れない酒をちょびちょびと飲みながら一通り話を聞き終わった。
少しずつ酒を飲めばすぐ酔ってぶっ倒れるなんてこともないからだ。毎回ナミさんに介抱してもらうと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
(……そろそろ酒の手を止めないとまずいな。)
自分がぶっ倒れるラインは理解している、しかし今日のご当主の話はびっくりするぐらい終わらない。そんなにフラストレーションが溜まることがあったのだろうか。
「ご当主様、紅月様がそろそろ限界です。」
「うん?あぁそうか。すまない、紅月くん………」
「いえ……。」
ウエストコートを着たナミさんが話し続けるご当主を止めてくれなければ正直危なかった。服装は変わったとしてもその精神は確かにメイドの時のなんら変わりない。それにしても
「ナミさん、その服似合ってますね。」
「……っ紅月様。それもう何回目ですか?」
「はははっ!紅月くんも毎回ここに来ているたびに言っている気がするな。」
「……酔いが回ってきただけです。紅月様、今日はもうお帰りになったほうがいいのでは?」
「そうだな。」
心の声が思わず漏れてしまうほど頭がバカになっているなら、帰るのは先決だ。誰かの重りになるなんて本当に冗談じゃない。
「それじゃあ、帰ります。今日はありがとうございました。」
「あぁ、おやすみ。」
俺は出入り口からその部屋を退出した。そしてそのままボーッとした頭の状態で家に無事家に帰って行った。
──ルカの家・夜のバールーム──
「紅月くんは行ったか。」
「はい。」
「はぁ………」
「今日も仲良くはできませんでしたか?」
「あぁ。まだどこか警戒されているらしい、紅月くんの教育の賜物だな。」
ルカの父ことご当主はそう言うと一気にグラスに入った酒を飲み干した。そしてまたため息を吐きながらテーブルに視線を落とした。
「あの感じですと。紅月様はまだ知らないようですね、」
「だが、近いうちに気づくだろう。あの家の人間は昔から妙に勘が鋭い、そして総じてロクデナシが多い。」
「まぁ……紅月様もですか?」
「まさか。私もあの家の人間にルルカを合わせ用だなんて考えないさ、よっぽど彼ほどの善人じゃなければ。」
「あ、ご当主様。酔ってるせいか、出てますよ、」
「あぁ………まずいな。ああいった類のものはやらないせいで、なんとも慣れない。」
ご当主は自分の間違いに気づいて頭を少しかきながらグラスを手に持つ。そこにナミは気を利かせて酒を注ぐ。
「いっそのこと言ってしまえばいいのではないのですか?」
「……なんて言われるか。最初はただ地域巡りして終わるつもりだったのにな、」
「まさか、連れてこられるなんて思いませんでしたからね。」
「あぁ。あのアズサとかいう職人に口止め量を払っておくべきだった。こんなことになるなら、」
ご当主は再び酒を飲み干した。そしてため息と「ぁ〜」っとため息と共に声を出す。
「ですが、こいうのもいいのではないのですか?」
「まぁ、私が力になれるなら。」
ご当主はまた息を吐き、グラスを持ち上げるしかしナミはそれ以上酒を注ごうとしなかった。打ち止めだということを理解したご当主は少し寂しそうにグラスを再び机の上に置いた。
「あ、それとお仕事の方もしっかりやっていますよね?」
「…………ぁ〜。」
「……楽しいのは存じ上げておりますが、抜かりなく。」
いい気分に浸っていたご当主はナミのその一言によって酒の半分が抜けていった気がした。
『topic』
広範囲殲滅魔法は、一般的な攻撃魔法と違い火力範囲性にとても優れているが、魔力消費量がムダに多いため普通の魔法使いは基本使わない、ただルルカはそこに改良を加えて連射速度、消費魔力量の軽減を組み込んだ独自の改良を施している。
ちなみに広範囲殲滅魔法と表しているが、これはルルカが単純に名前を決めていないための仮称である。




