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百三十話「クラン拡張:その三」

前回のあらすじ


紅月、ルルカ、ウミ、フライの三人はAランククランに昇格するためのクエストを受注し後高難易度"死を告げる亡骸"と交戦見事これを打ち破る。





 ──心海国家プロイシー・本国──




 「久しぶりにここに来たな。プロイシー……」


あらかじめ、ここの噴水を登録していたので一瞬にしてサイモンからここプロイシーにワープしてきたということだ。こういうことをしていれば一度通ったところを2度も徒歩で行かなくて済むというのはとても楽で助かる。

そして、久しぶりのプロイシーは相変わらず水の中、そこら中に人魚族と魚人族がいて全員平和に暮らしているようであった。数ヶ月前までここは戦場となってほとんどが破壊された後だったというのに、今ではその面影すら残っていない。


 (メビアの采配なんだろうな。)


本来ならここにきた時点で、彼女に挨拶を入れたいところだが。


 (やめておこう。メビアは女王になって忙しいはずだ、それに今回はそれがメインじゃない。)


では何用でプロイシーに来たのか、それに対する回答は。




 ──すこし前・ルルカの装備工房──




 「メンバーが足りない!!」


 「そうだな。」


 「そうだなじゃないよお兄様!!」


ルルカが急に机を叩きながらそう言うもんだから普通に返してしまったが、どうやらそれが危機感のない感じに取られてしまった。

ルルカは椅子から立ち上がり工房に集まっていたレナ、ウミさん、俺を見回す。


 「クランを立ててから数日しか経ってないけど、メンバーの進展はほぼゼロ!」


 「私がいるじゃない…!」


 「私もいますよお嬢様!」


 「わかってるよ、問題なのはこれから一向に増えないってことっ!クランランクは上昇していってるのにちっともメンバーが集まらないんじゃ私だって大声出したくなるじゃん!」


ルルカの言い分はもっともだが、それは俺たちがメンバーを集められていないことに怒っていると言う見方もできてしまう。だがその場合、ルルカもその一部であることを忘れてはならないし、本人に言うべきなのであろうが。


 「ぷんぷん!」


 (言わないようにしておこう。)


 「だから、みんな頑張ってメンバーを集めよう!!第三回公式大会はチーム全員で協力しないと勝てないし、それこそ集まる予定の6にんでの連携とかも考えないといけないんだから!」


 「……少なくとも、今週がピークといった感じですね。」


第三回公式大会の予定表を見ながらウミさんはルルカの言葉に付け足した。


 「そう言うこと!」


ルルカは逃さずその発言を全員の注目に晒す。


 「お兄様!」


 「────はいっ?!」


まさか指さされるとは思わず変な声が出てしまった。レナが俺のその声を聞いた途端から口元を隠して目を細めて笑っている。気分はあまり良くない


 「お兄様の友達、なんなら友達じゃなくてもいいから私達のクランに入ってくれる人いない?リア友でもいいから!」


 「……俺にか。」


 「ルルカ、こいつにいるわけないじゃない……。」


 「───言ってくれるな、レナ。」


レナの言葉は残念ながら正論だ。俺を知っている人はいるだろうが、俺が知っている人は少ない。それはリアルだろうと【SAMONN】の中だろうと大して変わらない。


 (だがこのまま何もありませんだとレナにまた煽られて癪だ。俺の知り合いで【SAMONN】プレイヤーのやつ………)


考え始めたところ、一人の人物が頭をよぎった。瞬間、俺はハッと立ち上がった。


 「お兄様、どうしたの?」


 「居た。」


 「居たって何がよ……?」


 「俺のフレンド。」




 ──そして現在──




 というわけで俺は心海国家プロイシーへときたのだ。ここにきた目的は新しいクランメンバー探し、そしてそのアテは一つだけ。


 (アズサさん。)


プロイシーの事変の時に共に水中戦装備を作った職人仲間、そして俺が知っている中でプロイシーはただ一人のプレイヤーであった人物だ。彼女ならきっと頼めばこちらの事情を聞いて協力してくれるかもしれない。

少なくともレナに比べたら希望があるのは確かだ。


俺は期待の心持ちでアズサがいる工房へと向かった。




 ──心海国家プロイシー・アズサの工房──




 「こんにちは……」


重い扉を開け、数ヶ月ぶりにこの工房へと戻ってきた。プロイシーの事変中ここでアズサと共に水中戦装備の開発に勤しんでいたことを昨日のことのように思い出すことができる。明かりはついているのでどうやら留守にしているというわけではなさそうだ、しっかりアポイントメントをチャットで取ってあるのが功したのだと思う。


だが前来た時とは比べ物にならないほど散らかった部屋。様々な道具と物品が独自の壁を構築しており同じ部屋だと理解するのに数秒を要してしまう。


 「アズサ?」


いるはずだが迷宮化した工房。本人の気配がまるでしない、こういう時は決まってパターンが存在する。だから俺はよく足元を見ながら注意深く歩いていく


 「………居た。」


俺のちょうど進行方向に倒れているアズサ発見。どうやら働きすぎて倒れているようだ、どこかのゲレームの女王もよくこういう感じになっていてたまに踏んづけてしまうことがあるので今回は踏まずによかった。


ではなくて、


 「アズサ、」


 「………誰だい?私の眠りを妨げるのは、」


 「紅月だ、数時間前にアポイントを取った。」


 「ん、んん。あと、3時間。」


目を瞑り険しそうな顔をしながらアズサは答える。どうやら相当仕事詰めとなっていたらしい、考えてみれば辺りの散乱している道具や物達がそれを語っている。


 「とりあえず、下半身を埋もれさせたままにするのはマズいから引っ張るぞ。」


 「うおおぉ〜〜〜〜。」


アズサの両腕を引っ張り埋もれていた下半身ごとその体を外へと引き摺り出す。そうしてようやく意識が戻ったのかアズサは閉じていた目をすこしずつ開き、大きなあくびを経て近くの椅子に座った。途中寝ぼけて壁にぶつかりそうになったところを俺の介護でなんとかなったことは、別に言わなくてもいいだろう。


 「ふわぁぁ、おはよう。」


 「残念ながらもうこんにちはだ。」


 「あぁ、そうなんだ。ごめん、連絡は確かに受け取っててそこまで起きてようとは頑張ったんだけど、働き詰めで………」


 「なんでそんなことになってるんだ?プロイシーの大工房は別にお前の貸切じゃないはずだろ?」


 「そうなんだけど、如何せん……プレイヤー由来というかこの工房で理系なの私だけらしくって、おかげで複雑なやつとか、それの修理とかを一気に任せられるんだ。助手を雇いたいけど、、いい案がなくてさ。」


 「なんでお前も含めてどいつもこいつも職人はワンオペを好むのやら。」


 「あははは。で、今日はなんのようで来たのさ、え?紅月の方から連絡が来るなんて夢にも思ってなかったから。」


 「俺から願われるのってそんな感じなのかよ。」


 「そりゃあどちらかと言えば、自分で解決する派の人間だろ?紅月は。」


 「まぁそうだな。」


周りの人からの俺の解像度って意外と一定なのかもしれない。そんなにわかりやすいか?とか思いつつ俺はアズサにクランメンバーになってほしいことを伝えた。もちろんそれに付属するいろいろな情報も含めて


 「なるほど。残念ながらお断りさせてもらうよ。」


 「即決だな……」


 「そりゃあ、私は人魚族だし。今回の第三回公式大会って地上戦がメインだろう、一時的に地上に出れる薬はあるけど高くて比べ物にならなければ、私はメビア様に色々仕事を押し付けられちゃったからしばらくここを離れることができない。だから、今回は嬉しいけどやめておくよ。」


 「そうか、残念だな。」


俺個人的にはかなりいい案だと思ったが、やはりメンバー集めはそう簡単にいくものでもないらしい。


 「悪いね、わざわざアポイントメントまで取ってくれたのに。」


 「そっちにも事情があるんだ。なら仕方ない。


粘っても向こうが迷惑だと思った俺は立ち上がりそう言った。せっかくきたついでにどこかに寄ろうかとも考えたが、ルルカが焦っている通り今はそんな余裕があるわけじゃない、プロイシーにはまたいつでも来れるわけだし。

ルルカにいい土産話を持って帰れないことは非常に残念だがここはすぐに戻った方が良さそうだ。


戻ったら他の方法を考えよう。


 「………あ、待った!待った!!」


 「アズサ?」


工房の扉を開けて退出しようとするところでアズサが声を上げ、俺を引き留めた。


 「たしか、プレイヤーを探してるんだよね?」


 「あぁ。」


 「なら、一人いい人を知ってる。」


 「いい人?……悪いが──」


 「大丈夫、しっかり信用できるから。」


俺の言いたいことがわかったのかアズサはこちらの発言を気に求めず目の前のシステム画面をスクロールしていく。


 「あった。」


アズサがそう言うと、俺のシステム画面に通知が来る。アズサが一つのファイルを送ってきたようだ。中身には全く身の覚えのないプレイヤーの名前が載っている。


 「シルギス……」


 「その人を訪ねてみて、私のオススメだし腕もあって信用もできる。まぁそっちのアテが壊滅なときにでもって感じだけど。」


 「………この人はプロイシーにいるのか?」


 「いると思うよ、昨日ここに少し来たし。」


 「………。」


アズサに薦められた人物のプロフィールを少し調べてみると、かなり実力派の人物のようだった。称号もそれなりにあり、片っ端から強敵を倒しているようだ。彼女の言った通り実力は申し分ない、ちょうどプロイシーにいるなら少し訪ねてみてもいいかもしれない。


そう感じた俺は、工房を後にしてプロイシーでその人物を探し始めた。

そして意外にもすぐに見つかった。プロイシーにおいて住人は基本的に魚人族か人魚族の二択だ。だがその中で人族がいればそれは現地人の中から観光客を見つけるより簡単なことだ。


 プロイシーの海を一望できる観光台、そこに一人佇んでおり黙ったまま海の向こう側を眺めていた。本人が何を考えているかは知らないが、俺から見える海の最果てまで見える光景はどことなくあの時の儚い気持ちを思い出させてくる。


 「失礼します。シルギスというプレイヤーは貴方ですか?」


目の前のプレイヤーは自分の名前が呼ばれたことに何も驚かず俺の方へと振り返る。顔はフードによって隠されておりかろうじて見えるのは口元のみ、若干のほうれい線が見えることから、中身は大人であることが推測できるがそれ以外は不明だ、被っているフードも直観だがまるで外れる気配がない。そういった部類のスキンなのだろうか。


 「…………あぁ、確かに私の名前はシルギスだ。君は────」


 「紅月って言います。」


 「………"鉄血の死神"くんか。」


 「………。」


いきなりその名前を出されると自然に身構えてしまう。まるで相手がこちらに対して敵対意識を持っているように感じられるからだ。だが、俺の二つ名は大勢の人に知れ渡っていることを考えればこの時の彼の行動は何もおかしなことはなかった。


 「すまない。気分を悪くさせたようだ、こちらに敵対の意思はない。」


 「………わかってます。」


 「………君の話は色々聞いている。この海の国を救い、魔法国を救い、そして世界を救った英雄だと。」


 「……そんな大層なものじゃ。」


 「だが君が行った偉業だ。たとえ一端であっても君の行いは誰かの救いになったはずだ。」


 「………。」


 「いきなり話し出してすまない。私の悪い癖なんだ。」


 「いえ、ありがとう、ございます。」


不思議な人物だ。まるで俺の軌跡を隣で見守ってきたような、そんな感覚がする。記憶を改竄されて隣にこの人がいたと言われてもおそらく違和感はそれほどにないのだろう。

それほどまでに珍しく、初対面だというのにこの人物は俺に安心感を与えてくれる。


 「それで、私に声をかけたということは何か用事や依頼があったということか?」


 「あ、そうです。実は、貴方を誘いに来たんです。」


相手の話し方から態度のせいだろうか、こちらは自然と敬語を使ってしまう。現実にも似たような人物がいたような気がするが、きっと他人の空似だろう。


 「誘いに?」


 「俺たちは今第三回公式大会へ向けてクランメンバーを探してるんです。そこで───」


 「私を誘いに来たというわけか。」


 「───はい。」


 「…………。」


俺の言葉を聞いた。シルギスは黙って再び海の最果てを見た。そして少しの間の後振り返ってこう俺に伝えた。


 「その誘い、私でよければ引き受けよう。」




 ──サイモン・ルルカの装備工房──




 「それで連れてきたのがそれ?」


開口一番聞いたのはその言葉だった。


 「ちょっとレナ、言葉が悪いよ!」


 「それじゃあアンタらしく、いい言葉で言いなさいよ。」


 「もー、なんで怒ってるの!」


どうやらレナはシルギスのことが気に入らないらしい。ルルカはそうでもなく、ウミさんは変わらず黙って様子を見ている。だがその目からはシルギスのことをどことなく観察しているようにも見える。


 「………どうやら信用されていないようだ。」


 「当たり前よ。実力があるのはプロフィールを見ればわかるわ、問題はそれが本当かどうかってところね。」


 「んもー!レナ!!あ、私はそこそこ信用しているよだってお兄様が連れてきたもん、お兄様、人の目利きは上手だってウミから聞いたことあるから!」


 「お、お嬢様……!」


 「……別に俺は、人間目利き人じゃないだが。」


 「ハハハ。」


どうやら俺たちの会話はシルギスにとっては笑いの的らしい。少しでも硬い雰囲気が緩んで?いる気がする、いいことだ。


 「……紅月、君たちのクランはいいクランだな。」


 「ど、どうも。」


いいクランらしい。実感まるでないけど。


 「……だが、そうだな。そこの彼女の言う通り、プロフィールだけではいくらでも誤魔化しがつく、実際に力を見てもらった方がわかりやすいだろう。」


 「つまり。」


 「つまり、この中で私と誰か戦ってくれないか、と言うことだ。」


シルギスは随分と自信満々にそう言い、一歩前へと進んだ。大胆不敵とはまさにこのことだろう、全員の目の色が変わりシルギスを見る


 「へぇ、いいじゃない。性格は紅月ほど腐ってないようね。」


 「なんだと。」


 「物騒だけど、模擬戦っていうなら私は賛成かな。それで納得してくれるレナもいるなら……」


 「私は文句はないわ。」


 「それでは、誰か手合わせ願いたい。」


シルギスがそういうと、全員互いを見合わせた。まるでお前がいけと言っているようだ。全員戦いたくないわけではない、ただそれぞれが出方を疑い続けているようなものだ。


 「では、僭越ながら………"全知の魔女"の専属メイドをさせていただいています。わたくしウミが相手をさせてもらいます。」


二人が黙っている間にウミさんは一歩前へ出て、綺麗なメイドの一礼をした後にシルギスへとそう言った。目にはこれほどにない闘志が宿っている。


 「こちらこそ、よろしく頼む。」


シルギスが出した手を取り握手を交わす二人。シルギスの顔は依然として見えないが、口元から自信があるということだけはわかる。俺のことを知っているならウミさんのことも知っていてもおかしくはない、それだというのに自信を保てると言うことは。


 (存外、肩書き以上かもな。)


その予想を胸に、二人は近くの山へと向かった。もちろん俺たちもその強さを間近でみることが目的であるため同行している。


 (この山、俺以外にもしょっちゅう使っている連中がいるんだな。)


変に舗装された道や、まるで空き地と化したちょうどいい戦闘場があったためそこで行うことにした。山を勝手に使って改造するのはどうかと個人的には思うが、ビームマグナムでドロドロに溶かした記憶が蘇り、それ以上俺は考えるのをやめた。いつだって山は理不尽の被害者なのだ。


 「勝負は枠線から出ることで構いませんね。」


 「構わない。」


 「では………」


二人の顔がルルカに向かう。ルルカは自分が見られていることを理解すると「あ、審判か。」みたいな顔をしたのちに


 「えーっと、勝負始め!」


 [シュ─────]


瞬間的に動いたのはウミさんだった。ほぼ音が立っていない瞬歩と形容してもおかしくないほどの動き、拳はシルギスの腹部を狙っており俺が理解を始めた頃には確実に直撃コースだった。


だが


 「────!!」


 [シュ─────インッ!!]


シルギスがいつ剣を抜いたのかわからない、ただあまりにも早い動きがウミさんの拳をどうにかして弾き飛ばす。体を真っ先に動かしていたウミさんはバランスが取れない状態だ、そこからシルギスとウミさんの戦いは正式に始まった。


 「連撃────……!」


 「───炎脚フレイムキックッ!!」


シルギスの鋭い剣が体に向いたとき、ウミさんはいち早く地面に手をつき、空いている右足に烈火をまとい、相殺へと持って行く。


 [ガシィィィッン!!!!]


鋭い鋼の音が双方から鳴る。ウミさんの脚は鋼製だったか、っと考えているうちに二人は一気に距離を置き仕切り直しとなった。


 「……すご。」


 「………紅月、」


 「ギリギリ見えた。」


 「………へぇ。」


素直に驚いているルルカを側にレナはそう言うが顔に出ている驚きが隠せずにいる。実際俺も驚いている、ウミさんの強さはスピードではなくスキルや力の方だと思っていたが、そのスピードたるや恐ろしいものだった、一体いつからあそこまで早くなったのか、気になるは気になるがそれと同じほどシルギスの剣筋の速さにも驚かされる。


 (達人の戦いだな……。)


俺は今の5秒間の間に行われた抗争を見てそう確信した。


 「驚きました。貴方様は早いですね………」


 「こちらも驚いた。ここまで早い武闘家はなかなかいない。」


 「─────武闘家では、ありません………メイドですっ……!」


ウミさんは右腕に炎を貯め、言葉と共に一気に下へと送る。あの動きは炎拳フレイムフィストの動きだ。

地面に伝わった地熱が勢いを増し、小火山が噴火するようにシルギスを取り囲む、そして気づいたときには彼は火柱によって包囲されていた。


 「────熱炎焼放烈フレアバースト……」


ウミさんが手のうちにある火の粉をグッと掴み潰すとき。シルギスの周りを囲っていた複数の火柱は一気に一つの塊となり大火柱へと変化する、それと同時に連続的な爆発が炎の中で怒り続ける。


 「え、あれ死なない?」


 「いやいや、死ぬ!結構死ぬ技!!ウミ、ストーーーップ!!!」


 「いいや、まだ終わりは早い……ッ!」


俺がそう言ったのは炎の中から何か剣が切り裂くような音が聞こえたからだ。それは剣撃だ、しかも恐ろしいほど早くそれこそ人の技とは思えないほど早い剣撃、そしてその音さらに近く、さらに大きくなっていき、炎の壁を切り裂き電光よりも早くウミさんの元へと走って行った。


シルギスの剣はウミさんの胸元に向いている。彼の周りには炎がまとわれており、おそらく凄まじい速度に空気が彼についていったのだろう。


そしてその姿を見たウミさんは目を見開いたまま止まっていたが、


 「─────ッ!!」


 [ギギギギギギギギッッッ!!!!!]


鉄と鉄が摩擦する音、鍔迫り合いの音が聞こえる。ウミさんがすぐさま炎の槍を取り出してシルギスの攻撃を間一髪のところで防いだのだ。しかしその顔は剣がちょうど一瞬切ったのか、頬の部分には少量の切り血が流れていた。


 「ちょっと、もうやめーーー!!!!」


二人がついに拮抗したというところでルルカは手をバタバタさせながら二人の距離を引き剥がすそして戦いの間に入り戦闘を中止させた。


 「お嬢様!!」


 「ウミ!めっ!!それと、シルギスさんとか言ったよね!うちのメイドを次、傷つけたら許さないから。」


 「………すまなかった。」


ウミに指差し、シルギスに指差し、ルルカは一瞬にして剣幕なムードを返え、二人の戦いを完全に終わらせた。指摘されたウミさんはわかりやすいほど残念な顔をし、反省模様。


シルギスも顔が見えないながら、どことなく落ち着いているように見える。


 「レナ!」


 「はいぃっ!?」


 「これで、もういいよね!!」


 「え、えぇ。いいわ……」


そういえば元々レナを納得させるために始めたようなものだったことを俺も思い出す。


 「………ふぅ、お兄様?」


 「なんだ、」


 「本当に。このシルギスって人入れるの?」


どうやらレナが納得した後はルルカが納得しなくなったらしい。十中八九ウミさんを傷つけられたからだろう。器が小さいと言わざるおえないが、


 「実力は本物だっただろ?」


 「ウミが怪我したんだよ………!?」


 「………お嬢様、私は大丈夫です。それに───」


 「…………」


ウミさんはシルギスを少しの間じっと見つめる。そして一呼吸おいた後ルルカへこう言った。


 「私はこの方を、信用できるとおもいます。」


 「えぇ、」


 「……だってさルルカ。」


 「うぐぅ。」


ウミさんの言葉には少し予想外だが、ルルカをここで納得させるチャンスだと思った俺は言葉を重ねる。そのおかげかルルカは少し顔をしかめシルギスを見た後ため息を一回入れた。


 「わかったよ。それじゃあこれからよろしくね、シルギスさん。」


 「……こちらこそ、よろしく頼む。」


こうして、うちのクランにシルギスが入った。俺自身もよその人を入れるなんてことを頭で考えたことすらなかったが、シルギスのことを考えるに誰かを信用しなさすぎるのも時には悪いのかもしれない。

いや、ルルカに危害を加えるなら話は別だけどな。


『topic』


アズサから紅月が来ていたことを知ったメビアは怒った。


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