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百二十九話「クラン拡張:そのニ」

前回のあらすじ


ルルカと言い争いになりながらも紅月はレナをクランに引き入れるために交渉へと向かう。通常なら喧嘩に発展しそうなレナと紅月は意外にも平和的に物事が進み、結果レナがクランに入ることになった。







 

 ──サイモン・ルルカの装備工房──




 レナの引入れに成功した。俺たちのクラン、"ネイムズ"はクランミッションを着々とこなしていた。そんな折ルルカから召集が下され、俺とウミさんはいつものルルカの工房へと集まることになった。


 「Aランクミッションをしに行くよー!」


俺たちが集まって開口一番にルルカが言い放った。


 「……行ってらっしゃい?」


 「違うっ!お兄様も行くんだよ!!」


 「──そうなのか。」


ルルカのツッコミに俺は頷きそう言うしかなかった。


 「はい。Aランクに昇格するためのクランミッションはクランメンバー全員で受けなくてはいけませんから。」


 「なるほど。」


 「そう言うわけだから………ってあれ、レナは?」


辺りを見回すがレナの気配はない。レーダーで索敵してみてもいないので隠れているというわけではなさそうだ。


 [ピロン]


 「あれ?レナからだ!」


クランメンバーの全体チャットにレナからのメッセージが綴られていた。


 [用事があるから欠席するわ。]


端的にそれでいてアイツらしい一文がそこには書かれていた。十中八九ルルカの召集に対しての回答だろう。


 『…………』


その場は静寂に包まれた。確かにルルカの召集は何か特別なことがないように感じられるのはわかるが、それにしてもタイミングが悪かったなっと俺は心の中で思い。ルルカが口を開くのを待った。


 「────なんでぇぇぇッ!!!??」


ルルカの叫び声が工房内に響き渡る。あらかじめその声を予測していたからかそこまでうるさいとは、いやうるさい。ルルカが叫ぶ時は決まってうるさいものだ。だがルルカの気持ちもわかるので文句はくれぐれも言わないようにしよう。


 「困りましたね。レナさんがいませんと行けません。」


 「……つまり解散ってことか?」


 「うぐぐ。まだ、まだ手はあるはず。」


ルルカは項垂れながら何かいい案がないかと頭を悩ませ始める。だが俺としては義妹の発言を信用しないわけではないのだが、ウミさんの言い方的にどうにも悪あがきができるようには思えない。それこそクランメンバー全員で出ることが条件だと言うのなら。


 「お嬢様、残念ながら。」


ウミさんがクエスト受注ボタンを押そうとしているが、指先はまるで反応することなく、ホログラムの幻影を通り抜けている。まさにシステム的に無理だから、どうしようもないです。っと後に続けて言っているかのようだ。


 「うわぁん。」


決して泣いているわけではないがとにかく残念そうにルルカはそう呟く。


 「仕方ないさルルカ。今日のところはやめておこう、」


 「ボスの気分だったのに。」


 「そんな寿司な気分だったのにみたいに言われても変えられないものはしかたないだろ。」


ルルカの分かりずらい例えはともかくとして、このまま本人を残念がらせたままにするのは後が怖い。そう、機嫌が悪いというか色々文句を言う状態のルルカはめんどくさいのだ。俺の兄としての長年の勘がそう告げている。


 (後でデートにでも誘ってやるか。)


 「……え、紅月様がですか?えぇ分かりました。」


ウミさんが虚空に向けて話し始める、また例のスピリチュアルガイドとか言うやつだろうか、そしてその話題はどうやら俺に飛んでいるらしい言葉からも分かるとおりウミさんが絶賛俺に接近中だからだ。


 「紅月様、少々よろしいですか?」


 「はい……」


 「その、変なことを言っているかもしいれませんが紅月様の方からクエスト受注を行なってはいただけないでしょうか?」


 「え?」


 「いやあの…わかってますから!、、すみません、その。スピリチュアルガイドさんがどうしてもと、」


 「わかり、ました。」


ウミさんも自分自身で言っていること、と言うよりかは俺たちの目には見えないスピリチュアルガイドとの対話がとても大変な様子だ。ぶっちゃけた話俺はそのスピリチュアルガイドとやらを完全に信用し切ってはいない、ただウミさんがその変な奴にいま耳元で囁かれ続けて少しうんざりしているのなら話は別だ、俺の無意味ともいえるクエスト受注のフリにフリによってそいつが満足するなら今はウミさんのためと思い。俺は手伝うことにした。


【SAMONN】初心者の俺であったとしてもクランシステムに関しての概要はすでにルルカから聞いている。記憶にある手順に従ってクランのパーティメニューを開き、そこからクエスト受注一覧を開く、その中には他よりも大きく"Aランク昇格ミッション"と書いてあるクエストが存在する。俺はそれを押しいつものように冒険者クエストを受けるかのように概要を適当に流し読みした後、クエスト受注ボタンに目を向けた。


しかしボタンは灰色となっており、先ほど見た彼女の画面と全く同じ構図になっていた。


 「ウミさん、やっぱり俺でも────」


 [────ジジッ]


 「っ!!」


俺がそういうとした時だった視界が一瞬揺らいでノイズのような音が脳を駆け巡った。何の前触れもなく頭がボーっとし俺の意識を少し遠い場所に追いやった。感覚的には立ちくらみに近い、しかし感じる違和感がその結果報告を拒み続ける。思考に脳は使えずただただ感じたことを素直に変換するだけ、それが限界で永遠に感じる、一種の不具合とも言うべき事象だった。


 「───紅月様?」


 「……あ、あぁウミさん……?」


だがそれもおしまいだ。ウミさんの声によって中途半端に動いていた頭はまるで夢から覚めるようにはっきりと意識を取り戻した。終わった後の感想は、自分は何をしていた?何を感じていた?っと疑問だらけであった、しかしそんな疑問も目の前の事象によって一瞬にして遮られる。


 「あーーーーっ!!」


 「──どうしたルルカ!?」


ルルカの声に俺とウミさんは何かあったのかと心配になって近づく。


 「これ見てよ!!」


俺たちが様子を間近で観察するよりも先にルルカは自分の手に持っている画面を俺たちの方に突き出す。俺はルルカの勢いに押され自然とその画面に視線を移す。


 「──これは…!」


その画面には俺たちと同じクエスト受注画面があった、ただ違いがあったのだとすればクエスト受注ボタンの色が灰色から少し強めの赤色に変わっていたということであった。


 「受けれるようになっているのか……?」


 「なっていると思いますよ……!


 「でしょ!!!」


 「………はい!」


二人は喜びの笑みを浮かべて互いに喜びを分かち合っている。その側で俺は何が起こっているのか自分自身で処理に困り果てている・


 「────どうなってんだか。」


思わず言葉が漏れる。【SAMONN】の現実離れにはもう驚かないつもりだったが、まさかシステムがどうのこうので何とかなるなんてことは夢にも思ってなかった。ほんと、このプログラムというかこの開発者は一体何を考えているのやら。ここまで来ると中身が楽しむ以前に中身がどういうふうに作られているのかが気になって仕方がない。


 「スピリチュアルガイドさん?───え、はい……分かりました、おやすみなさい。」


 「ウミ?どうかしたの?」


 「いえ…。それよりもお嬢様、せっかく受けれるようになったことですし、早速行ってみましょう。」


 「そうだね!」


ルルカはそう言いながら何の抵抗もなくクエスト受注ボタンを押した。だが次に出てきたのは何やら注意事項のような警告文章


 「あれ?」


 「高難易度……注意?」


ルルカが固まっていると大きな字で書かれた一文をウミさんが読み始めた。俺は言葉に従ってその下に続く文章を読み始めた。


 「本クエストは高難易度クエストです。登場する敵は全て最上位個体が採用されます。攻略の前に助っ人フレンドを一人だけパーティに加えることが許可されます。助っ人フレンドを入れた攻略を推奨いたします。─────らしい。」


俺は箇条書きになっている赤文字を丁寧に二人に教えるように読む。正直【SAMONN】というゲームをよく知らない俺からしたら全然ピンとこない情報ばかりだが、二人の様子を見れば分かることだろう。


 「あばばばばばばばばば!!」


 「──────」


俺が振り返るとルルカは超音波振動のように震えており、ウミさんに関しては震えを我慢しているが、明らかに隠しきれない様子。どうやら様子を見るまでもなく、答えは"ヤバイ"で決定しているらしい。


 「えーっとそんなにやばいのか、これ?」


 『!!!!』




 二人ともすごい勢いで首を縦に振っている。実際に見たことはないがヘッドバンギングのそれ近い。どうやら俺が立てている見積もりよりも状況は深刻らしい。


 「お兄様、悪いことは言わない。やめておこう!!」


 「え…」


 「そうです、無理して死地に赴くなんて私、このウミが断じて許しません!!」


 「えぇ……」


先ほどとは態度が違う二人に結構困惑する俺。そんなにやばいのか、この【SAMONN】の高難易度というのは。


 「いやでも何とか行けるんじゃないか?」


 『無理だよ(です)!!!!!!!!』


耳がキーンとなりそうな大声で叫ばれる。近所迷惑になっていないだろうかとそんな呑気なことを考えている俺はおかしいのだろう。


 「な、なぁじゃあ俺に教えてくれないか?この"高難易度"って何がそんなにやばいんだ?」


 「すべてがヤバイ。」


 「世界の混沌です。」


 「うん、つまり??」


二人の表情からそんなことはとっくの当にわかっている。今欲しいのは正確な情報、そして正確な表現だ。


そしてそこからルルカとウミさんの二人によってどこかで見たことあるような説得を受けて数十分が経過。

結論として、


 「ごめん!よくわからない!!」


 「なんでぇっ!!」


よくわからなかった。そしてそこから俺がウミさんやルルカを説得する状態になった、そこからのルルカの頑固ぶりと言ったら、それはもう大変だった。


どんな手段を使ってでも暴れなかったのは成長を感じるが、ただをこねる子供のように叫びながら暴れていたのは意外だった。コレが高校一年生の姿なのか、っと疑いたくなったがまぁそこはルルカだしっということで割り切った。


 「──────嫌だァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


 「そんで、そんなうるさい状態が俺がくるまでずっと続いてんのかよ。」


 「あぁ。」


ルルカが叫び始めて数十分が経過しているが一行に落ち着く気配がない。俺とウミさんがいる前だからこうなのかと思いつつも、鷹橋がきても現状はちっとも変わらなかった。

ちなみに鷹橋を呼んだのは今回のクエストの助っ人フレンドとしてだ。高難易度ということ、そしてルルカとウミさんがコレまでにないほど拒否的なことを考えてコイツを選出した。過大評価しているわけじゃないが、"バアル・ゼブブ"とかの件も含めて鷹橋の戦闘能力はかなり高いはずだ。だがルルカが依然として態度を変えないのはもはやそういう次元じゃないからなのだろうか。


 「………ウミさんは、大丈夫なんですかね?」


 「腹を括りました。」


 「あ、ハイ。」


ウミさんはそれだけを鷹橋に伝えた。鷹橋もウミさんの死んだ瞳と意思を感じ取ったのか、納得した様子でそう言った。

ちなみにウミさんの説得にもそこそこ骨が折れたが最終的にとある取引をしたことによって高難易度への同行に同意してくれた。しかし顔は晴れていない。


 「で!なんだっけ?クランなんとか?」


 「クランミッション。」


 「そう、それ。結局どう言うやつなんだ、俺きて欲しいから来いってお前に言われたんが………?」


 「それを今から説明してやる。」


俺は自分が知っているできる限りのことを鷹橋に説明した。本来ならルルカやウミさんが追加で細く説明などをしてくれることが多い、が二人ともまるでそんな精神状態じゃないので鷹橋に具体的に話すのが難しかった。


 「ふーん、第三回公式大会ね。まぁ、呼ばれて頼まれたんならやるしかないな………ぶっちゃけ俺もヤバいって噂で聞いてたから、この際いいのかもな。」


得意にそう言う鷹橋の顔には戦ってみたいとしっかり書いてあった。


 (バトルジャンキーめ。)


心の中でそう思いながら、俺と鷹橋とウミさんとルルカの四人はクエストを受注した。


クエストを受注すると一瞬にしてとあるダンジョン内へと飛ばされた。クエストと書いてあったので目的地に行って敵を倒す系かと思いきや、どうやら専用のステージが用意されている方式らしい。


そして俺たちはその通路に回廊にいる。向こうには少しの空間と大きな扉、どうやら目的地はあそこらしい。




 ──究死きゅうしの試練場──




 「すげぇッ、これダークなソウルで見たことあるやつだ!!」


 「なんか健康に悪そうだな……ダークなソウルって。」


鷹橋が一人でにテンション上がっている一方。ルルカとウミさんはというと、ドヨーンっという効果音が鳴りそうな雰囲気を漂わせていた、さながらこのダンジョンと同じく暗い。


 「二人とも本当に嫌だったら今すぐにでも。」


 「いえ、そうはいきません。行くと言ったのは私ですから。自分を曲げるなんてことはしません………それにしても、意外でした。お嬢様も来たんですね。」


 「……だって、お兄様を一人で死地に送れないし、」


 「感謝してるよ、ルルカ。」


ルルカの頭を軽く撫で、先行している鷹橋へと追いついた。流石に鷹橋も場をわきまえているのか一人で扉を開けて突撃みたいなことはしていないようだ。


 「篝火がねぇ。」


 「なんだよ、篝火って。」


 「あるんだよ、セーブポイントが!」


 「そうかよ。」


俺の知らないことを知っていることのように語られてもこっちはまるでわからない。


 「それより、全員準備はいいな、マルタは持ったな!」


 「あぁ。(マルタ?)」


 「はい、マルタ…持ちました!」


 「うん。ここまで行ったら引き返さないよ、私も!」


 「ヨォし、開門!」


鷹橋が両手で目の前の扉を開けるかと思いきや。


 [ドガァッン!!!]


渾身の蹴りによって扉は闇の向こうへと吹き飛ばされた。


 「おい、普通に開けろよ。」


 「いや、俺もまさか吹っ飛ぶなんて思わなくて………。」


いつもは吹っ飛ばないみたいな言い方だなとか思いながら俺は鷹橋を先頭とした陣形を組み、扉が吹き飛ばされていった暗黒の中へと進んでいく。


明かりがないのが恐怖を誘うのか、俺たちは必然的に密集隊形となっていたそれぞれが互いの様子を見ながら周りに気を配る。

戦闘場と呼ばれるだけあり、俺たちが暗闇の中に入ってから少し歩いたが向こう側が見える気配はない、そして敵の気配もだ、俺のレーダーは依然として反応していない。ここにいるのは鷹橋やルルカ、そしてウミさんの様子から確かであるはず。


真っ先に反応するのは俺だ。なら俺はこれまで以上にレーダーに気を配り、そして敵の姿を感じ取った瞬間武装の引き金を引く。


 (静かだ。)


そう静かだ。武器を持つ手の力が思わず緩んでしまうほどに、しかしそこを意識と理性で抑制し、警戒を決して解かない。なぜなら、こういう時に限って─────


 [───────ザシュッッッッ!!!!!]


 「────っぁ、が……ッ」


 「──ぁぅっ………。」


仕掛けられるのは一瞬だからだ。


 「───────主神穿槍ロンギヌスッ」


 「ッ!!」


 [バデュゥゥゥゥン!!!]

 [ズッ───ドワァァァァァッッッッ!!!!]


全てを切り裂くような刃の音を狙い、俺と鷹橋は双方瞬間最強火力を敵へと撃ち出す。俺の攻撃は命中しなかったが鷹橋の聖槍は間違いなく敵に命中し、退けることに成功した。だがその代償は大きい。


 「────ルルカ!ウミさん!!」


二人というよりも俺たち四人は背後からの大鎌によって奇襲された、音もなく気配もなく。今まで感じた中で1番予測できなかった攻撃、心臓部分に向けて鎌を突き抜かれる感覚。だが俺と鷹橋はその攻撃が効かなかったのか、すぐに反撃に移ることができた。だが二人は言葉通りに致命傷を負った。


 [パギンッ!]


 「────は……はぁッ!!わ、私は大丈夫!!」


何かが砕ける音がした代わりにルルカの胸を大きく開けていた傷口は一瞬にして再生した。だがウミさんはそれには該当していない、胸から血の代わりとなるようなミクロ単位の粒子を流しながら地面へと堕ちている。


 「紅月、こっち手伝えッ!!」


 「!!」


鷹橋の声が少し遠いところから聞こえてくる。その次の瞬間大鎌が地面ごと鷹橋を引きずり下ろすかのように大きく振り下ろされる。そして続けて戦いの音が聞こえてくる。


 「……お兄様、ウミは私がなんとかするから。行って!」


 「────!!ッ」


俺は返事をせずに、鷹橋が戦っている場所に向けてスラスターを噴射し、戦闘へ参加した。


 [ 死を告げる亡骸 ]


そして改めて敵の姿を目視する、いや正確には目視できているかも怪しい、姿は確実にぼやけているし存在しているのかも怪しい、亡霊と比喩することが何よりもの正解と言わんばかりの見た目だ。感じる心は悍ましさ、そして少々の恐怖。



直感と大鎌の位置から推測した敵に向けてビームマグナムを立て続けに連射する。


 [バデュゥゥゥゥン─!バデュゥゥゥゥン──!!バデュゥゥゥゥン────ッ!!!]


三射は敵の体をすり抜ける。


 (くそっ、どうなってんだか……!)


 「─────ウオォォォォォッ!!」


その間鷹橋はヘイトを引きつつ、振り下ろされる大鎌を聖魔法の盾で受け止めて、受け流しを繰り返しつつ反撃の隙をうがっていた。だがいずれも相手の手数が多いらしい。


 「ッチ!」


こっちの攻撃は基本的に無効、相手の攻撃はさっきのを見ればわかる通り即死級。究死とはまさにこのこと、だがコイツがゲームという枠組みにハマっている以上は何か弱点が存在するはずだ。


 「主神穿槍ロンギヌス───っ、ぶなッ!」


攻撃を入れ込もうとした。鷹橋が一歩後ろに下がり自身の首を切り飛ばす大鎌を避ける。

そして翼で回避運動を織り交ぜながら、俺の方へと後退してきた。


 「紅月、アイツは多分ゴースト系の敵だ。ぶっちゃけるとランクが高すぎてこっちの攻撃はまるっきり通用しないけどな!」


 「ゴースト系のっ!?」


 「それと、全部即死だから気をつけとけよ。くるぞッ!!」


こちらへ向かってくる亡霊のような敵は俺たちに向けて先ほどと同じように大鎌を複数個振り翳してくる。亡霊の手は4本まるで元からそうであったような違和感のない動きでこちらに向けて攻撃を繰り返し行い続ける。

鷹橋との散開をへと、回避行動に徹する俺、反撃の機会を伺う鷹橋、どちらも決定打が与えられていない、ヘイト管理をしくじればルルカやウミさんの方へといく可能性がある。


 (エルド、ゴースト系の弱点は?)


 [───魔法攻撃、聖魔法が弱点として有効です。]


 (聖魔法……そうか、だから鷹橋は────なら、コレを使ってみるか。)


俺は腕部装備の状態を確認して、攻撃を避けつつ鷹橋の方へと向かっていく。そしてアイツに向かってこう言った。


 「鷹橋!俺を撃て!!」


 「─────!!」


鷹橋は天裁光メネウスフォートを俺に向けて放つ、俺は数発の攻撃を回避した後、腕部と光線が衝突するようにうまく当たりにいく。

光線が腕部のとある地点へと当たると、内蔵されてあった特製の魔石がそれを吸収していく。


 [────吸収解析適用化完了]


 「よしっ!うなれビショーネッ!!」


エルドのアナウンスを聞いた俺は、腕部に装着してあった属性適用型長鞭兵装"ビショーネ"を大きく回し、目の前の朧げに見える標的に向けて打ち付ける。


 [バジジィィィィッ!!]


 「当たったッ!」


攻撃が当たったことを理解した敵はヘイトを受け持っていた鷹橋からこちらの方へと動きを変え、無数の連続攻撃を放つ。しかし回避は鷹橋にも負けず劣らずの俺はそれらを高機動で躱わす。


 「鷹橋ッ!!」


 「知ってるわぁッ!!!」


鷹橋の天裁光メネウスフォートが一斉に放たれ、亡霊に向けてられる。しかし亡霊は先ほどの俺の攻撃を交わした時のように自身の存在をあやふやな霧状にし、鷹橋の攻撃を交わした。


 「はぁっ!?」


 (っ、当てられても奇襲ってことかッ!)


その気になれば相手はこちらの攻撃を躱わすことが出来る。もう一度確実に攻撃を当てるには、いやコイツを確実に殺すためには相手の意識外の時に動きを封じて倒すしかない。


 [────フゥォンッ!!!]


大鎌が俺へと振りかぶる。先ほどより狙いが鋭いせいか確実に直撃コースだ。だが悪あがきはできる。


 「っ!!」


近くにあった鷹橋が先ほど蹴飛ばした扉を目にした時、そこに向けてビショーネを投げ打ち出す。狙い通り鞭は扉へと強く巻きつき、俺はそれを自分の元へと引っ張り手繰り寄せ大鎌を横から打ち出す。

なんとか大鎌の攻撃を回避した俺であったが無茶な動きをしたことで高速移動中の反動で体が大きく逸れて、地面を二、三回横転した後再び体勢を立て直し回避に専念する。


 「───光焔槍…紅蓮葬斬ぐれんそうざん!!」


 [─────────!!!]


少々危なげなかった俺に駆け付けたのはウミさんだった。彼女は飛び上がり亡霊のニ腕を炎の槍で切り落とす。


 「ウミさん!!」


 「お嬢様!」


 「────審判鎖ジャッチメントチェイン!」


ウミさんが叫ぶと続けてルルカが数多の魔法陣を亡霊を囲むように展開、魔法陣の中から白光りを帯びた無数の鎖が亡霊の巨大な体躯を一気に締め上げていた。


 「こっちも、妨害だけどゴースト特攻だもんねッ!!」


ルルカがそう言ったのも束の間、亡霊は残りの手で鎖を断ち切ろうと大鎌を振り回す。ルルカもそれに反応してすかさず魔法の再使用をし切っては繋ぎを双方繰り返す。


 「───止まったなッ、ビショーネ!!!」


頭頂から真下にかけて俺はビショーネを振り翳す。雷撃のような音共に放たれたビショーネは亡霊の中心に確かな傷跡を残す。


 「鷹橋───!」


 「あぁ、待ってたぜぇ……この時をよぉぉぉぉぉ!!!!」


鷹橋はすでにこの時を待ち望んでいたかのように聖槍を構えていた。聖槍の周りに目視でも確認できるほどの高エネルギーがまとわり、目標に自分の何倍もある亡霊を据えていた。


 「──────主神穿槍ロンギヌスAアーツッ!!!」


放たれた聖槍は亡霊を貫通する。亡霊の胸元はバラバラと半透明な青色のガラスへと置き換わり、耳障りな雄叫びを上げる先もなくただ驚愕の趣のまま静止、そのままデータの粒子となって消え去った。


 [────戦闘終了と断定。お疲れ様でした。]


 「……ふぅ─────『うわはああああぁぁ!お兄様、ぶじでよがっだよーー!!』───ガハァッ!!?」


エルドからのアナウンス聞いてようやく一息吐こうとした次の瞬間、ルルカという物体が俺の鋼鉄のように硬い腹部装甲をバラバラにするかの勢いで突撃してくる。戦闘が終了したというのに全く安心できない。


 「おいおい、そこイチャイチャすんなよ。トドメを刺したのは俺なんだけど。」


 「────うわああああぁん!!!」


 「って聞いてねぇし。」


 「ほら、お嬢様………。」


鷹橋をよそに俺に泣き続けるルルカをウミさんはポンっとコミカルな音共にひっペ剥がした。


 「う、うぅ。」


 「はぁ、とりあえず、勝ててよかったな。」


 「はい……みなさん、お疲れ様でした。今回はその、最後の方しか私はお役に立てませんでしたけど。」


 「まさか、ウミさんが奇襲して動きを一瞬止めてくれなかったら確実にアイツは止められませんでしたよ。」


 「そうそう、それに下手すりゃ全滅の可能性だってあったんだしな。」


俺の言葉に合わせるように鷹橋が気のいいように告げる。どうやらキルパクできたことが相当嬉しいようだ。だが、全滅とはどういうことだろうか、


 「なぁ、全滅って?」


 「あぁ。そうか、お前は状態異常即死無効だからわかんなかったよな。さっきの戦い、初手のあの四人大鎌で貫かれたやつ、アレ運が悪かったらあそこで全滅してたんだよ。」


 「え、そうだったのか?」


 「はい。先ほどの戦闘でもわかる通り、あの鎌自体に即死の効果があります。加えて相手はゴースト系の中でも最上位個体でもありました。気配を戦闘前に察知できる手段はいくら私たちが強くても限られてます、そんな中での奇襲は1番全滅のリスクが高かった、ですから下手すればあそこで全滅の可能性があったのです。ですが、今回は紅月様がオートマタでしてので、少なくとも一人は生き残りました。」


あっそうか。と思った、オートマタは状態異常、そして即死が無効だった。生物じゃないからそもそも殺せないという意味だろうか?別にコアを破壊すればしにはするけど、そこら辺とは違うということなのだろうか、どちらにしてもこの特性のおかげで俺は先ほどの即死攻撃を生き残ったのは事実だ。


 「まぁ、あれ自体も呪いの大鎌だからな。アイツが戦闘が始まって以降手に持っていた実体の即死大鎌とにて非なるものだったから、紅月は死ななかったんだけどな。」


 「実体があったらとっくの当に即死を回避してもコアがやられてたもんね。」


ウミさん鷹橋、ルルカの3人は互いに楽しそうに会話する。俺には少し難しくてついていけない。だが疑問くらいは残るし出せる、


 「待った。ウミさんはその理屈でわかるとしてどうしてもルルカと鷹橋は無事だったんだ?」


 「バッカだなぁお前。俺これでも大天使族アークエンジェルだぞ、確定即死でも50%で回避できるスキルの一つや二つくらいあるっての。」


 「っ、なんかムカつくな……」


 「ちなみに私はアルティマゲージだよ!」


 「アルティマゲージ?」


ルルカがサラッと言った言葉を思わず聞き返す。


 「でた、魔法使い誰でも取れるチートスキル。」


 「そうそう、一回の攻撃で削れる体力ゲージを追加でゲットできるってスキル、これあると生存率上がるんだよねー。」


 「一回の攻撃ってことは、即死も適応内か。つまりそれで一回のアルティマゲージを犠牲にして生き残ったってことか。」


 「そういうこと!さすがお兄様!」


ルルカは当てられたことが嬉しいようだ。正直俺はそんなことよりなんでルルカが生き残ったのか知りたかったから解決して満足ってところだ。それと、今の話を聞く限り死んで復活したみたいな能力でもないようで安心した。どんな形であれ死なすのは絶対に避けたい。


 「ですが、お嬢様は大抵生き残るよりその前に終わらせることが多いですけどね。」


 「ちょっもー!ウミ!!」


ルルカはウミの言葉がどうや許せないらしく、すこし怒ったような顔をする。


 「にしてもウミさんが無事でよかったです。」


 「私が治したんだもん!回復はちょこっと専門外だけど、即死回避も付与魔法の一つだからね!エッヘン。」


 「はい、お嬢様のおかげです。」


 「……振り返りはこの辺にしてそろそろ戻ったほうがいいぜ。ここにいてもただ暗いだけだしな。」


 「そうだな。」


俺たちは"究死の試練場"から退室した。そして無事Aランククランとしての昇格を確認したことで鷹橋を最後に見送ることにした。ちなみに、ルルカがクランメンバーとして鷹橋を誘おうとしたのだが。


 「いや、俺はいいよ。」


っと簡単に断られてしまった。レナを入れるのに比べたら俺もコイツを入れるのはかなり賛成の意見だったので口には出さないが正直ガッカリしている。


 「俺は紅月と戦ってた方が楽しいから。」


 「──このバトジャンめ……。」


先ほどの俺のガッカリ感を返せ、今の鷹橋の言葉一つで一気に気分が逆転した。つまりは俺と戦っていたいから俺と一緒のチームにはならないということ、感性がおかしいと言わざる終えない。


 「でも、今日はありがとな。正直いなかったらかなりキツかったと思う。」


 「いやいや、いいって俺も中々いい体験ができた。ソロプレイっても話し相手がいないとつまなくてな、いやーー俺もお前たちみたいなクランが羨まし─────ぁ、」


 「ん、なんだ今の"ぁ"は?」


 「………………いや、別に。ただやりたいことを思い出しただけだ、んじゃお疲れっ!!」


鷹橋はそう言い残し空の彼方へと飛び立っていった。最後の言葉がめちゃくちゃ気になるが、


 (気にしたら負けな気がした。やめだ、考えないようにしよう。)


俺もそう考えた。そしてその日は終わった。


『topic』



        紅月アドバンスドアーマー

 

   種族 オートマタ


  [HP]90000

  [E]200000

  [A]100000(簡易障壁)


[STR]50000

[VIT]100000

[AGI]4000(スラスタースピード)

[LUK] 400

[DEX]47000

 


  [スキル]           [称号]

・魔力放衣           ・無限のエネルギー

・魔力構築[EX]        ・第二公式大会優勝

                ・鉄血の死神

                ・受け継ぎ

                ・イレギュラー  

                ・対異生特攻

                ・見届け人

                ・下剋上返し

                ・Aランク冒険者

                ・ゲレームの教官

                ・傭兵

                ・超絶技巧

                ・!E&G#dj─完了


 [身体構造(内)] 

 

 [頭]ティニア  [胴体] ティニア


 [左腕]ティニア [右腕]ティニア 


 [左脚]スワード [右脚]スワード 


 [身体]ガルシ [内部] ガルシ


 [劣化部位] 無 [修復部位] 無

 結果 無


  コア:フロントロスコート




 [身体構造(外)]

 

 [頭]バーイニ  [胴体]バーイニ 


 [左腕]ウィドノ [右腕]ウィドノ 


 [左脚]ヨウン [右脚]ヨウン 


 表面状態通常装甲   



 [装備]



 ・クロードビームマグナム

【詳細】ビームマグナム系統の正統派生系。段数増加を目的とした大型EMパック、連続発射と冷却性の向上用のアクリスフレームを銃身に追加し反動をより軽減しやすくなっている。



 ・ブレイブメタル

【詳細】シールド兼大型実体剣。盾にも使えるほど大きいがその実かなり軽量化を施されているためそこまで重くはない。切れ味はかなり良く対大型との戦闘のために紅月が作った。左腕部に搭載されている。

 


 ・ビショーネ

【詳細】正式名称"属性適用型長鞭兵装ビショーネ"右腕部に搭載された小型シールド内蔵のロッド兵装通常時ではオートマタの電力エネルギーを少量割り、電撃属性の攻撃を可能としているほか、素材をかなり丈夫なもので作っているため叩いてよし、薙ぎ払ってよし、ものを掴むために使ってよし、と様々な場面に対応できる中距離兵装。属性吸収適応魔石と連動しており、吸収した属性を使うことができる。



 ・属性吸収適応魔石

【詳細】"属性適用型長鞭兵装ビショーネ"と連結してある小型シールドに内蔵してある魔石。なんとただの魔石ではなくルルカが丹精込めて作った特注品、属性がついた攻撃を一度防ぐ効果があり、その属性を吸収することによってビショーネに追加で属性を付与することができる。

ちなみに付与魔法はルルカの中では得意分野らしい。



 ・ツインガトリングユニット

【詳細】背部に搭載されているガトリングユニット、HFMに搭載されていたモデルを改造し追加攻撃ユニットとして作り替えた。紅月の意思によってオンオフが切り替えられオン状態ではエルドが操作を担当する。



 ・ALDエルド

【詳細】紅月のサポートAIの名称、今までマニュアルで何から何にまで手作業で行なっていた機体管制およびシステム統括を行ってくれる、ありがたい子。また、さまざまなフォーマットに適応できるよう紅月自らシステムを手掛けているので完成度はそこら辺の企業が売っているお手伝いAIよりも遥かに優れている。

名前は紅月が適当に決めた。


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