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百二十八話「クラン拡張:その一」

前回のあらすじ


ルルカのために第三回公式大会に出場することとなった紅月は大会のルールや概要を確認。

ルルカ、ウミ、紅月の3人はクラン、ネイムズを結成した。しかし、大会に参加するにはクランランクをAにし、クランメンバーを6人以上にしないとならなかった。3人は参加資格を手に入れるためにクランを拡張するために奔走することに。





 ──ルルカの装備工房──




第三回公式大会の概要が発表され、そして開催まで残り数日のところ。俺たちはクランミッションを順調に達成しながらクランランクを上げていた。


元々ルルカ、俺、ウミさんの3人自体実力はかなりあるほうだったため、難易度が高いか低いかはもはや関係はなかった。それぞれが時間のある時にミッション達成を進めていき、気づけばあっという間にクランランクはBにまで昇格していた。

しかしそれだけではもちろん問題は解決しなかった。


 「め、メンバーが集まらない。」


ルルカは複雑な表情をしながら机へ平たくなっていた。そんなルルカを側に俺は装備の残弾補充を行っていた。


 「正確には集まらないと言うよりも探してないが正しいけどな。」


 「仕方ありません、このところミッションを優先的に進めていましたので……」


 「うぐぐ、まずは簡単な方って思ったけどそれが裏目に出ちゃったよぉ。」


ルルカが言った通り、クランミッションを進めることを俺たちは優先していた。理由としては単純でクランミッションを進めながらメンバーを探せばいいのではないか?というのがあったからだ、だが結果はわかる通り、ミッションの方に熱を入れてしまった故にメンバーはアレから一人も変わっていない。


 「そもそも、俺もウミさんも他のプレイヤーと関わる機会はまるでないわけだし。」


 「はい…私はあくまで、お嬢様のお付きなので。っというスタンスでいたのが、、1番よくない結果をこうして招いたのですが……」


 「俺もその気になったら適当に声をかけるとかできなくないけど、そもそもレッテルというか"鉄血の死神"とかいうのが悪さしすぎだ。それこそ、俺から一定の距離を取ろうとしないほうがおかしい──みたいだし。」


 「二人とも楽しんでよ!」


 「楽しんでる。……多分。」


 「私はお嬢様といつも一緒にいられて楽しいですよ!」


 「そういうことじゃなくてさ。」


俺はともかく、ウミさんの回答にルルカは頭を悩ます。


 「んーー!もうこうなったらレナとかに声をかけていくしかないのかなぁ。」


 「悪けど、俺は断りたい。」


 「ほら、お兄様絶対そう言うから………」


なぜあいつの手を借りなきゃいけないのか。っと常思ってしまう、確かに技術面でも戦闘面でも一定の評価はしているがそもそもあんな腹黒い性格のやつを仲間に入れるなんてのは反対も反対だ。


 「でも、ほらレナだったら多分聞いてくれるよ。今から新しい人を見つけたりするほうが難しいでしょ?」


 「いいや、レナ以外だったら俺は歓迎だ。」


 「もう、そんなこと言って見ず知らずの所属不明の人が出てきたら絶対反対するでしょ!」


 「………」


 「黙秘は了承だよ!!」


 「あー、そうだよ。何処の馬の骨ともわからないやつにルルカと会話させる権利はない。特にゲームなんていう息抜きの場じゃどんな色眼鏡使ってルルカの下に来るのかわからないからな……!」


俺がそう言うと、ルルカはため息を吐いて頭を抱える。


 「あのさ、お兄様!どんな人と会話するのかは私の勝手でしょ!!お兄様がそうやって他の人のこと悪く言うの本当にイヤなんだけどっ!」


 「悪いのに引っかかる奴はいっつもそう言うよ、自分でなんとかできるってな。俺はただルルカが誰かに騙されて辛い思いするのが嫌なだけだ!」


 「それも私の勝手でしょ!お兄様、私はもう高校生だよッ!!」


 「それがどうしたっていうんだか、まだ高校生。しかも未成年だ!」


 「お、お二人とも少し落ち着いてください。喧嘩は良くないです!!」


 『喧嘩してないっ!!』


 「ぅぅぅ………ぅ。」


間に入ってきたウミさんに大きく怒鳴りつけると、一気に縮小してしまった。そんなウミさんの姿を見て少しバカになりすぎたと深呼吸を一回入れる、ルルカもどうやら同じようだ。


 「とにかく、メンバーを探さないといけない。それもお兄様が納得する人で可能な限り悪くない人。もうレナでいいじゃん………」


 「アイツはやめておけ。絶対教育に良くない。」


 「でも、お兄様だって悪くないと思ってるんでしょ。確かにレナはお兄様に対してアレだと思うけど、別に根っから悪人ってわけじゃないし………どちらかといえば良心的なほうだと私は思うよ。」


 「─────。」


図星を使われたわけじゃない。確かにルルカの言う通りなんだがそれでもアイツを入れることを俺は反対する。その結果がまたもや黙秘とくれば俺の好き嫌いでの言い分もそろそろ限界だと感じ始める。全く納得できないが、、


 「えーと、犬猿の中なんですよね。」


 「そう、しかも結構くだらない理由で。」


 「"結構"は余計だ。」


 「じゃあ、くだらない理由だね。───お兄様ま薄々勘付いてるんでしょ、別にレナと仲良くできなくもないって。」


 「……。」


 「もーう、じゃあ……私からのお願いいってことで。これならお兄様の意思は関係ないし、レナを迎え入れるのに文句ないでしょ。」


 「文句はあるし、俺の意思だって尊重しろ!ただ、────あー、わかったよこのっ。」


ルルカのお願いが前じゃ流石に何か言おうにも言えない。適当な俺の言い分でルルカの意思が曲がることはないってすで理解しているからだ。変なところで強気に出れるようになったなとつくづく義妹の成長具合に複雑さが増す。


 「そうだね。そうだね。お兄様はそういう人だったね、ほら行って、行って。」


 「──はい、どこに?」


 「レナのお店にだよ。今なら多分あそこで退屈そうにしているだろうから。」


ルルカは得意な顔で俺に行けと遠回しに行ってくる。本当に疑問しか湧かない。


 「ルルカが行けばいいじゃないか。」


 「私は忙しいから。」


 「今の今までだらっとしている奴が何言ってんだか……まるで説得力も根拠もないぞ。」


 「本当だって、それにこれから忙しくなるの!ね、ウミ!」


 「え、えぇ。もちろんで、す……?」


 「ほらっ!」


ほらっと言うがウミさんはまるでピンときていない様子。メイドでありルルカのスケジュールチェックなども行っているウミさんがそんな反応なら、もうこれからの予定はお昼寝です、と言われても何も驚かない。つまりはノースケジュールというわけだ。


 「いや、バチバチにウミさん疑問系じゃん。」


 「まさか。とりあえず…お兄様にはレナの勧誘を依頼します!これはれっきとした妹命令なので!」


 「妹命令。はぁ、なるほどね。わかった行ってくればいいんだろ……」


 「ダメだよ。しっかり仲間にして帰ってくるまでがワンセット、お兄様頑張ってねぇーー!」


 「っ。」


そうして俺はルルカの工房を追い出された。直接押し出されたわけじゃないが、多分あのまま話が平行線だったらルルカは間違いなく俺を魔法かなんかで押し出して外に放り投げていただろう。


 (それにしても。)


兄として妹に御されるのはなんだがいい気分ししない。だが久しぶりの妹命令だ、それこそ破ったらこっちが悪者だ。

俺は仕方なく、レナの店に向かって歩き始めた。




 ──ルルカの装備工房──




 「お嬢様、妹命令というのは?」


 「うーん?アレは私が"お願い"してもお兄様が拒んだ時の最終手段。妹命令を下すと、お兄様はどんなに嫌でもそれを成し遂げないといけない。私たち兄妹とお父様の間で作られた契約みたいな奴。ほとんど遊びだけどね………でもこれでお兄様が答えなかったことはないし、答えなかったらお父様に怒られる未来がお兄様には待ってるから!」


 「そ、そうなのですね。(まだ私の知らないことがお二人にはあるのでしょう………。)」




 ── キリハラ鉱石専門店──




 (相変わらず、セキリティをまるで感じない立て看板だ。)


考えてみれば苗字を店の名前にするなんてのをゲームでやってんだから、自分のフルネームを出しているのとほとんど同じだ。キリハラが苗字ならレナは本名。ほら、あっという間に桐原玲奈の完成だ。


 (……どうでもいいか。)


扉の前で佇む俺は側から見れば不審者そのもの。だが俺も入りたくてこの店に入るわけではない。心の準備もとい、防御の構えをしておく必要がある、なんせ前は店に入り次第理由もなしに格闘戦を仕掛けてきたのはアイツだ。


 「………」


 [ガチャ─]


俺はドアノブをつかむとそれをゆっくりと奥へと押す。そして店の中に俺専用のトラップがないことを確認すると、殺していた息を鼻から出し、ゆっくりと室内へカウンターへと入っていく。


 「誰もいないか。」


外の立札にはCloseとは書かれていなかった。店は閉まっているわけではないなら誰かいたっておかしくないはず。でも人の気配はまるでしない、レナが奥で何かやっている気配もだ。


 「いらっしゃいませー。」


 「ッ?!」


俺は突然カウンターから聞こえてきた声にびっくりする。そこには誰もいないはずなのに声が聞こえた。その違和感により一層慎重になりながらカウンターへともう少し近づいてみる。


するとそこには背の小さい少女が。カウンターで店番をしていた。しかし本当に背が小さいせいか直に近づかなければ見えはしない、声の正体が彼女であることを理解した俺はほっと胸を撫で下ろす。


 (まさか、人がいたなんて。)


 「…………」


背の小さい少女は黙ったままこちらを見つめている。俺の表情変化が面白いのだろうか?

いや今はそんなことどうでも良くて。


 「……すまない、ここの店主はいるか?」


 「レナお姉ちゃんなら、今はいない。」


 「そうか。(お姉ちゃん?)」


アイツ妹がいたのか。っという思考が頭をよぎるが、忘れよう。レナがいないとなると次はどこにいるかだ、ルルカの言葉を頼るならログインはしていそうだ。もし店番を任されているならこの少女はレナの居場所を知っているはずだ。


 「その、レナがどこにいるのか知っていたりするか?」


 「レナお姉ちゃんは、寝てる。」


 「寝てる?」


 「うん。お昼寝中、昨日忙しかったから、お店でお昼寝中、絶対に起こさないでって言われてる。」


目の前の少女曰くそうらしい。だがこっちは無駄な時間を過ごすためにここにきたわけではない。レナが今どんな状況か知ったことではない、俺はルルカの願いを聞き届けるためにここにいて、そして会話したくもないアイツのためにここにいる。なら寝ているところ申し訳ないが方法は一つだけだ。


 「レナ!!!!!!起きろッ!!!!!!」


今までで1番大きい声を出し、店の裏にいるであろうレナに向けて呼びかける。


 「───きゃあッ?!?!?!」


 [ドコドンドゴゴゴ───!]


可愛らしい悲鳴と何かが崩れ落ちたような音がしたが気のせいでコラテラルダメージだろう。そう考えているとレナの足音がドンドンドンっと音を立てながらこっちに近づいてくる。


助走をつけて殴られてもいいように俺は防御姿勢を取るが。


 「誰ぇッ!!!!」


出てきたのはみるも無様な姿のレナであった。髪もと違い適当でその姿はまるで家でのんびりしている時の人間そのものであった、例えるならばオフモードといったところか。


 「……あ、ああぁ、あ。紅月!!!?」


 「あぁ………」


 「ッ!?……ちょっと待ってなさい!!」


レナは俺の顔を見た途端、慌てた様子で目の前の店番をしていた少女を裏方へと引き込んだ。そして間も無くして二人の会話が聞こえてくる。


 「ルフ、なんで追い払わないのッ!?紅月は追い払えって言ったじゃない!」


 「紅月が、誰だかわからなかった。」


 「じゃあなんで私をこいつに起こさせたのっ!!」


 「起こすのを、止めないでって言われてない。」


ルフと呼ばれた少女は言葉の裏をかくような答えをレナに言う。それを聞いたレナは何故だかそれ以上文句を言わずただただ静かになった。


 「───────はぁ。私のミスか…!」


 「?」


二人の会話はそこまでだった。


 「……紅月ッ!!」


 「なんだ、!?」


 「ちょっと、ちょーっっと待ってなさい………っ!」


レナは再びバタバタした音を立てながら店のもっと裏方の方へと走っていった気がした。そして間も無くしてルフと呼ばれていた少女が何事もなかったかのようにカウンターの店番場所まで歩いてきた。


 「…………。」


 「………。」


俺とルフは互いに見つめ合う。無言の時間と裏方の方で忙しない音が続く。


 「貴方が紅月?」


 「あぁ。」


 「……顔は覚えた。次来た時は、ペシャンコにする、覚悟しておいて。」


 「………あぁわかった。」


このルフという子はどことなくゆっくりなのだろう。今すぐそのペシャンコとやらにすればいいし、レナのいう通り追い出せばいいのだろうが、そうしない。まるでプログラム通りにしか動かない機械そのものだ。まぁ、現に目の前にいる彼女のことを考えれば世界ひろし、そういった人間もいるのだろうという結論になる、だがもしいないとすれば。


 「待たせたわね。」


俺が考えていると衣服を整えたレナが裏方から顔を出す。いつもと比べると態度が柔らかいような。


 「ついさっきまでのことは忘れなさい?いい?もし掘り返そうというのならここにきたアンタをペシャンコだけには済まさないわ。黙って、大人しく、ここにきた理由を話すなら今日は私も何かするつもりはないわ。」


 「お、おう。」


どうやら機嫌がいいのは一周回って脅しのためらしい。もっとも俺も寝起きが悪い民の一人なのでレナのそう言ったプライベートのことまでとやかくいうつまりはなかったのでただ記憶の中から消せばいいことになる。

簡単だが、誤って言わないように気をつけよう。


 「それで。どんな用でここにきたの?」


 「あぁ、実は───。」


俺はルルカのお願いを聞きレナをネイムズへスカウトするという話をした。そして第3回公式大会へ出場し、ルルカの欲しがっている景品を手に入れるということも。


 「つまりアンタはルルカのお願いでここにきているわけね。」


 「まぁそういうことになるな。」


 「…………。」


 「別にお前にとっても悪い話じゃないはずだ。」


 「えぇ。ルルカなら私がお金を要求したって飲んでくれるわ。」


 「おい。」


 「………いいわ。アンタたちのクランに入ってやろうじゃない、」


 「……そうか、それはよかった。」


思っても見なかったレナの発言に少し心の中で少し驚く。いつもなら難癖の一つや二つを言った後に最後に一発くれてやるが如く、面倒臭い条件を提示した後に要求を飲むこの性悪女が、ここまで最も簡単に落ちるとは。

ルルカの信用なってこそって感じだろうな。


 「でも、条件があるわ。」


 「────。」


前言撤回。こいつはやっぱりレナだ。


 「ルルカの顔に免じて今回は文句も言わないし、面倒な依頼もお金を請求しないわ。でも、ここにきたアンタの顔が気に入らない。」


 「そうかよ。人の顔にケチつける方もどうかと思うけどな。」


 「それよ、まさしく私が条件を出した理由は。わかる?」


 「…………。」


これ以上レナに対する不満を漏らせばよりめんどくさいことを言われると直観した俺は黙る。


 「アンタの誠意が欲しいわ。」


 「というと?」


 「私に"お願い"しなさい。」


 「……クランに入って欲しいって?」


 「えぇ。」


俺なんかの誠意が欲しいのか?いやまさか、こいつはただ単純に自分が俺より上に立ちたいと思っているだけの性格ひねくれ女だ。

正直死んでもこいつに"お願い"なんてしたくない。だが、ルルカからはしっかり仲間に入れて戻ってきてと言われている。妹命令で、なら、決まっている。


 「───レナ、お前の力が必要だ。俺たちのクランに入ってくれ。」


 「────アンタ…………はぁ、いいわ。」


 「レナお姉ちゃん、納得してない。」


 「ルフ。ここでは納得したかどうかは問題じゃないわ。」


 「…………それで、クランに入ってくれるで、いいんだよな?」


 「えぇ。ほら、クランコード見せなさい。」


俺はレナの言われた通りクランコードを見せる。彼女は慣れた手つきでそれを入力し、そして俺たちのクランに入ることとなった。新しいクランメンバーが入ったことがシステムの通知を通してわかる。


 「よし。これで晴れて私もアンタたちの仲間、ウミさんとルルカのために私も協力してやるわ。もちろん、癪だけどアンタのためにもね。」


 「それは、どうも。」


 「さぁ、さっさとここから出てきなさい。次はルフの攻撃が飛んでくることを警戒しなさい。」


 「言われなくても………。」


ルフが両腕を上げて威嚇している様子を最後に俺はレナの店から出ていった。店を出て数歩のところで俺は。


 (ルフって結局なんだったんだ?)


っという疑問を残すことになる。知りたいような知りたくないようなことだが、まぁいつか知れるだろうという期待を残したまま俺は帰路についた。


何事も起こらない平和な日々で実に結構な1日だった。




『topic』


クランランクは最高でSSSとなっており。これは冒険者ランクの最高ランクと同じである。


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