百二十七話「クラン」
前回のあらすじ
様子がおかしいウミの調査を受けた紅月は自前のステルス装備によって行動を追いながら調べていくが、中々結果は出ず。途中ウミを狙う暗殺者が現れたことによってそれらを撃退、しかし依頼主ははっきりしないままだった。
後日ウミからスピリチュアルガイドのことを聞き、不思議がりながらも様子がおかしかった件をルルカと共に納得するのだった。
──サイモン・ルルカの装備工房──
「ついに来たーっ!!」
いつも通り工房で作業中だった俺の耳に入ってきたのはそんな言葉だっただろうか、先ほどまで互いが互いに沈黙しあいながら作業に勤しんでいる中、声を真っ先に挙げたのはルルカであった。
(………きっと何か嬉しいことがあったんだろうな。)
俺とは無縁だろうっと早々に見切りをつけて再び止めていた作業の手を動かし始める。AWが改修中の今、代わりの装備を…と数日前から作り上げている物。もうすぐ完成するためか最近はずっと【SAMONN】に入り浸っている気がする。現実を疎かにしているわけでは無いが、そろそろ非現実もいい加減になってくる。
「──お兄様!お兄様!!」
「なんだ?」
っと思っていたらこっちに駆けてきたので返事をする。
「情報が出たんだよ!第三回公式大会の情報が!!」
「……第三回公式大会?」
首を傾げながら作業用の防護ヘルメットを外しルルカが持ってきた画面に顔を近づける。
「うん、今回も豪華な景品が出るんだってー!それに今度はチーム戦だから私も一緒に出られるよ…!」
「そう、か。いや待て俺出るなんていったか?」
自分が出ると言った記憶がないのでルルカへ問いかけるように告げる。
「えぇえっ!?出ないの!?どうして!!」
「いや、第二回公式大会は報酬が目当てで出ただろ。でも結局その報酬こと"永久の結晶"は確かに高級素材だったけど手数料と契約費とか諸々の理由でエズに渡したし………」
「えっ、私知らないんだけど!」
「そりゃあ言ってないからな。」
「えー、ていうかなんで渡しちゃったの。」
「渡しせざる終えなかったが正しい。実際後出しジャンケンでもエズの方に正当性が幾分か傾いていた内容だったし。それに、気づいたんだよ別に"永久の結晶"がなくたって強い武器作れるってことが。」
「うーん、そうだったの………」
「そうだったんだよ。だから今回も俺は出な───。」
「じゃあ!私のために出るって言うのは!?」
「………ルルカのために?」
ルルカのために【SAMONN】の大会に出る。別に悪い話ではないし、本人がそれで喜ぶって言うのなら断る理由もない。っと俺は出ない理由を無意識に探したりする、第二回公式大会が碌な終わり方しなかったせいか、どこか警戒しているのかもしれない。
「私のためだったらお兄様、火の中だって飛び込んでいくでしょ!」
「……そうだけど、くだらない理由で火の中飛び込みに行くほど俺も無謀じゃないからな。」
「じゃあ、私が大会で死んじゃってもいいの?」
「おい、今なんて言った。そんなことお兄様許さないからな!」
「ジョーダンだよ。ダイジョーブ、私意外と強いから!」
「知ってるけど………」
ルルカが大会でデスする。そんなことを冗談混じりでも言われたら余計に心配してしまう。ルルカがたとえ強いと言っても死ぬ確率が0であるなんてのは言えない、まぁルルカの強さならなんとかなってしまうかもしれない。そう考えると、もしかしてこれはルルカが俺を大会に出すための俺を誘導策なのかもしれない。だがたとえ罠であっても"妹が死ぬ"なんて展開には絶対させてたまるか。
そう結論付けた俺は、ため息混じりにこう言った。
「あー、もう。わかった。」
「やったー!作戦成ぉー!!」
「………次から私は死ぬかもしれないなんて謳い文句言うなよ、」
「ごめん、ごめん。それで、早速概要を説明したいからウミに連絡するね。」
本当に当の本人は呑気すぎる、危機感があるのかないのか、兄としては気がかりもいいところだし心労が絶えないことには変わりはない。
そこからため息を少し入れながらの作業を数分行った後、ウミさんが工房へと来た。
「よーし、それじゃあウミも来たことだし。第三回公式大会の概要を説明するよー!!」
「わー、」
「おー。」
楽しそうなウミさんは感覚が早い拍手をして、そこまででもない俺はゆっくりと拍手をする。
「今回の第三回公式大会のルールはクランバトル!クランが互いに何かを競うって感じらしいよ!」
「クランバトル。」
2対2のマヴで戦いそうな名前だなと思う。でも多分違う。
「お兄様はクランについて知ってる?」
「いいや、全く。」
「じゃあ、説明するね。クランはプレイヤーの間で作られたチームシステムの一つ、簡単に言えば同盟みたいな感じだね。クランに所属していると色々な恩恵があるから、ほとんどのプレイヤーはクランなんかに参加しているよ!」
「へー。ギルドとは違うんだな?」
「うん、クランはギルドと違って強制性がないから、入ろうが入らないが構わないって感じ。学校と習い事って感じ!」
「なるほど。」
俺の妹にしてはかなりわかりやすい例えを。っと感心する。
「そして今回のクランバトルはそのクラン同士が直接戦うということですね。」
「そういうこと。」
「……直接戦うってことは、直接戦わないこともあるのか?」
「まぁ、それはランキング戦とかの場合だね。どっちのクランの方がこの方面においてポイントを稼いでいるか、みたいな。テストの点数競いと同じ!」
「なるほど。」
「でも、今回は直接的な戦闘。つまりは、己の拳で戦うって感じ、競争じゃなくてケンカみたいな感じだよ!」
「そうか、ん?でもさっき何かを競うって?」
「それを今から説明するよ!」
ルルカは見ていた概要を大きく見出し、空中へと浮かべる。ホログラムのように目の前に映し出される第三回公式大会の概要を俺は とウミさんはよーく見始める。
「本番まで詳しいことはわからないけど、大まかに分けられる種目は三つ。一つ目はプレイヤー間での戦闘を意識した種目、二つ目はモンスターなどの特定の対象を狩る種目、そして三つ目は争奪戦みたいな種目。分けるとこの三つみたい。」
「つまり3ラウンドがあるということですね。そしてその中でポイントを競い合い、1番多かったクランが。」
「うん、優勝者達って感じ。」
目の前の公式声明文にはルルカが言ったような言葉が並べられていた。どれもプレイヤーが直接ぶつかりそうな内容だなと思う。ルルカが言った競走とケンカの違いがよくわかる。
「で、概要はこんな感じ。じゃあ次に景品について見てみるよー!」
ルルカが画面を切り替え、優勝賞品の欄に写り目の前に景品のアイテムを大きくホログラムで映し出す。
映し出されたのはなぜか光の塊のような物。固形物ではなく光の塊、ただ光っているだけの何かというのが正しいのだろうかどちらにしても手に触れられるものではなさそうだということがわかる。
「これが欲しいものか?」
「うん、その名も"ヴァルプルギス"この【SAMONN】の中にある伝説装備の中で一つだよ。」
「大会の景品ということは、通常の手段では入手できない伝説装備というわけですね。それも、今回が初出という。」
「そういうこと!私は、これが欲しいの!!」
「伝説装備が?」
「うーん、まぁ実のところ伝説装備だったらなんでもいいんだけどね。でもこの"ヴァルプルギス"は多分だけど魔法関連の伝説装備だと思うからどうせなら手に入れたいって……」
確かにルルカは"全知の魔女"とうたわれるほど魔法、魔術に関して優れている。(と聞いたことがある)そんなルルカにとってこの伝説装備を手に入れることはまさに鬼が金棒を持つことと同じだ、本人にも魔法の収集癖なんかがあるようだし、となると欲しいのも必然か。っと納得する、だがその"ヴァルプルギス"とやらは画面に映っているのをみるに気体に近いように見える。これを装備と言い張ることができる運営は一体……
「お嬢様は、伝説装備を未だ保有していませんからね。SSランク止まりでもありますし。」
「ほんと、誰だろうねSSSに伝説装備が必要って言った人。」
「ギルマス様でしょうね。」
「ギルマスなんだ。」
「ギルマスだよ。」
ルルカは何か意味ありげなため息をつく。しかしすぐに切り替え話を始める。
「っていうことで、私たちはこの第三回公式大会に参加しようと思うの!」
「なるほど。ですがお嬢様、今回はクランバトルです、私たちはクランを立ち上げてもいなければどこかに参加もしていません。」
「もちろん!だから、こうしてちょっとのお金で"クラン設営の証"をギルマスから取ってきたんだから、手続きがちょーっとめんどくさかったけど!」
「おおー。ルルカにしては用意周到だな。」
「むむっ、今ディスってたよね?お兄様……!」
「いや、素直に褒めたんだけども。」
「口は災い元って知ってる?」
「まぁまぁ、お二人様……」
言い方が問題だったようでルルカは俺に向かって人差し指でビシッと指摘する。ウミさんは悪くなりそうな雰囲気をどうにか和ませる。
「それで、クランを立てるとします。ですがお嬢様、クランバトルに参加する条件はクランランクをAまで上げているクランのみとなっています。」
「………………ん?クランランク?」
「……ご存じなさそうなので説明いたします。クランにも冒険者ランクと同じようにランクがあるのです。こちらはクランミッションという独自のミッションの達成率に応じてランクが上がります。そして本大会では資格条件としてクランランクがA以上となっているのです。」
「え!?」
「そしてクランメンバーは6人以上。であることが付け加えられています。」
「どえぇぇぇぇえええっ!?なんでそんなめんどくさいことにッ!」
「おそらく、荒らし対策でしょう。パッと作って参加して大会をめちゃくちゃにされる。前大会のセキュリティがガバガバなのを理解しての対策でしょう。そのせいで紅月様もとい大会は悲惨なことになってしまっていましたので。」
「あぁ、忘れたくても忘れられないな。」
「うぐぐーーー!!"バアル・ゼブブ"許すマジィ!」
悶絶するルルカに俺はいつものルルカだなっとなぜか安心する。このフラグ回収の速さ、そして計画の甘さ。うん自分の義妹としてこれほどまでに完璧なことはない。人としてはおっちょこちょいだが………そこも可愛さでどうとでもなる。
「どうしますか、諦めますか?」
「まさかっ!!こうなったら何が何でも参加したくなったよ!このルルカにこんな狼藉を働こうなんて何が何でも優勝してやるってねっ!!」
「そうか。(狼藉って………ルルカは1プレイヤーでそんなに偉くはないはずだろうに。)」
「なるほど、確かに狼藉ですね!お嬢様に対してなんたる無礼こと、【SAMONN】!!」
(ウミさん、悪ノリが過ぎるますって………っ!)
テンションが一気に上がった二人に対してそれぞれ心の中でツッコミを行い終わった頃、ルルカはこっちに堂々と振り返った。
「とゆーことで!まずクランを立てるよ!」
「はい!不詳メイドウミ、覚悟はできてます!!」
「おおぅ。(切り替え早いな。)」
この中で置いてけぼりの俺はどことなく参加しているような雰囲気を出すが、二人の気迫に気圧されていることには違いない。いや、ウミさんも悪ノリがいいとルルカ揃って止められなくなる。
「まずは名前!変えられないから注意してね!!」
「はい!」
「はいウミ!!」
「お嬢様ファンクラブが良いです!」
「なんか、変なの思い出すから却下。」
(そういえば、最初の方にルルカファンクラブとかいうのと遭遇した気がする。どっちにしてもどうでもいい記憶に違いなかったと思うので忘れよう。)
「はい!」
「はいウミ!!」
「お嬢様&紅月様!」
「なんか、ゲームが出そうな名前なので却下!!」
「────────。」
そうして数十分にわたってウミとルルカの攻防戦が続いた。絶対にルルカ(又は俺)の名前をクランの名前に飾ろうとするウミとそんなのは嫌だというルルカの不毛過ぎる争いだ。見ているこっちは次から次へと出されるウミさんのネーミングセンスに途中吹き出しそうにもなったが平然を装いつつ、名前を考えていた。
「はい!」
「はいウミ!!」
「お嬢様─────『ストップ。』」
このやりとりを数百回くらい見ている俺からすればたとえウミさんが新しい案を出して今にもいいたそうな顔をしていても止めたくなるものだ。
「はい!お兄様。」
(今のでいう流れかよ。)
どっちにしろいう予定だったので俺は立ち上がり二人の前で名前を告げた。
「──ネイムズ。」
「ねいむず?」
「……どういう意味ですか?」
「簡単だ。俺とルルカ、そしてウミさんには誰かからつけられたネームドがある。"鉄血の死神""全知の魔女""魔女のメイド"」
「あの、私の二つ名ってあったんですか?」
「俺が聞いてる限りだとあります。知名度と多少のばらつきは感じるけども。」
「そ、そうだったんですか……」
何か恥ずかしがるウミさんを側に俺は続ける。
「ネームドから文字ってネイムズ。ネームド持ちのプレイヤー達ってことだな。」
俺がいい終わると沈黙が流れる、安直だし俺自身これがいいのとは全く思っていない。ただ目の前のウミさんとルルカのやりとりのことを見るにかなりマトモ寄りだと感じたから出しだだけ。それだけだ。
「うん、お兄様のに私は賛成!!正直ウミと私のじゃ絶対いいの上がらないだろうし!!」
「そうですね。………え、私のネーミングセンスってそんなに悪かったですか?」
『悪い。』
「そ、そうでしたか。しょ、精進します。」
「よぉし!ウミが落ち込んじゃったけど、これで決まり。それじゃあ二人とも、これから大会に向けて残りのプレイヤー集めとクランランクを上げるために全員で協力して頑張っていこーー!!!」
「はい!」
「おおー!」
第三回公式大会(参加)に向けて、こうして俺たちは新しい目標を掲げながらクランランク上げとプレイヤースカウトのために動き出していったのだ。
全てはルルカのために。
『topic』
クランバトルでは参加人数が多いクランほど優位になるとされている。




