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百二十六話「変な依頼」

前回のあらすじ


"バアル・ゼブブ"との戦いにおいて自身の力不足を感じたウミは一人山で修行を行っていた。光焔槍と自身の炎の力について修行を行っていた時、スピニチュアルガイドが語りかけ修行の手伝いをした。








 ──サイモン・ルルカの装備工房──




 なんてことない日常。俺はウミさんが淹れてくれたコーヒーを片手間に飲みながらAWの改修までの繋ぎの装備を制作している最中だ、そこまで手の込んだものに作るつもりはないのでなんてことない普通のスペックに新装備や技術のテスト用として運用するのが妥当と考えていた時だった。


 「ねぇ、ねぇお兄様……」


 「………ん、」


誰かに隠れてコソコソするようにルルカは俺の近くまで寄って話しかけてくる。俺は耳を傾けながら作業を続ける。


 「なんかさ、最近のウミ変じゃない?」


 「………ん、変?」


なんてことない雑談かと思えば口から出てくる言葉はウミさん関連、流石に少し真面目に聞こうとルルカの方を向き直る。


 「その最近、虚空へ向かって話しかけてない?」


 「虚空へ、って………」


まさかそんなはずはないと俺は作業道具を一旦机に置いて距離が離れているウミさんを見る。しかし特に変わった様子はない、いや強いていうなら独り言を今言っているくらいだ。


 「まさか…?」


 「いやいや、今じゃなくて最近…!」


 「ん?」


あまり実感が湧かない俺はルルカの言葉から考える。ウミさんが虚空へ向かって話している、そんなことがあるのだろうか?第一俺が見てきた中でウミさんはかなりまともな人間だ、俺にも敬語は使ってくれるし少し大胆なところはあれど、立ち振る舞いは綺麗だ。メイドとしても一人の人間としても人格としては完璧に近い。そんな人が、虚空へ向かって意味もなく話しかけるのだろうか?いや、無い。


 (でも、ルルカの言葉を信じていないわけじゃ無い。少なくとも冗談は言わない子のはずだ。)


となると、俺がただ見ていないだけ?っと疑い半分くらいの状態で再度ウミさんを見る。


 「〜、〜〜〜。〜〜、」


 「…………」


俺は目を擦り目の前の光景をもう一度見た。

うん、間違いない。ウミさんが虚空へ向かって話しかけている、そんなバカなと言いたいが目を擦っても結果が変わらなかったということは紛れもない事実なんだろう。


 「たしかに、なんか話し始めたな………」


 「でしょーー!!」


ルルカはほれみたか!みたいな顔で俺に言ってくる。


 「それでさ、なんか……変じゃん?」


 「うん、まぁ変だけど……」


変だからなんだ、という結論で終わりそうな会話をルルカは続けてこう言った。


 「だから、お兄様に調べて欲しいの…!」


 「……ウミさんが虚空へ向かって話している理由を?」


俺はもう一度ウミさんの方を見る。話はいたって普通の会話に見えるがウミさんはいたって真剣だ。まるで目に見えない相手が本当にいるように。だが、そう考えると。


 「俺が調べるのか?これ、明らかにルルカの案件じゃ……」


 「私も調べたんだけど、精神異常とかしかなくて……。」


 「魔法で調べてみればいいじゃ……」


 「あっ。」


ルルカは立てかけてあった杖を手に取りバレないように何やら魔法使い的な何かをする。ぶっちゃけた何をやっているのかこっちには見当がつかないが。


 「うーん、状態異常にはかかってない………呪いもないし……?わからない!」


 「わからないか、そうか……。」


ルルカの診断結果は以上らしい。俺は兄としてそれを受け止めて、また考える。

【SAMONN】関連じゃないとすると、ウミさん自体に問題があるのか。それとも俺たちには感知できない何かが確かにウミさんの近くに存在するのか、はたまたウミさんが始めた何かのゲームなのか。


 「調べてもいいけど、多分結果は変わらないぞ。」


 「うんー。でも、それでも調べて欲しい……ウミに何かあったらきっと私のせいかもしれないし。」


 「……わかった。やれるだけはやってみる、でも本当にわからないときは本人に聞く、それでいいか?」


 「うん、ありがとうお兄様!」


っと、いうわけで俺はウミさんの尾行しながら日々の観察をすることになった。特にやることが最近多いと言うわけではないので簡易的なスラスターとステルス用の光学迷彩マントを身につけドームレーダーを携えながら、さながら強行偵察型のような姿でウミさんを徹底的に調べ上げることにした。


ちなみに【SAMONN】でもプライベートがいくつかあると思ったので時と場合を読んで控えたりしている。


そしてウミさんを隠れながら尾行して数日が経った時だった。


 「お兄様、どんな感じ?」


 「ウミさんの件か?それなら、びっくりするぐらい成果がない。」


俺も若干驚いている、まぁわかっていた結果ではあったが、何かヒントの一つくらいは出てくるんじゃないかと期待していたが、ウミさんの素はびっくりするぐらいウミさんだし、毎日山に行ってすることも基本的に修行のようなこと、ひたすら拳を木へと打ちつける所業には驚いたものの、それ以外は特に変わった様子がない。


虚空へ向かって話している相手の名前もでない。まるで調べているこっちが馬鹿馬鹿しいと思ってしまうほどだ。


 「むー、やっぱり一筋縄ではいかないよね。」


 「なぁ、もういっそのこと────」


 「ダメだよ!!ほら、もしかしたら余計に触れてほしくないことかもしれないじゃん!」


 「それなら、余計にこんなコソコソしていた方がいけないんじゃ……俺も結構頑張って尾行というか、後を追ったり観察とかしてるけどさ、たまにバレるんじゃないかってヒヤヒヤしてるんだよ。」


ウミさんの勘が鋭いのか、どうなのかわからないがこっちの姿は確実に消えているはずだというのに、たまに自分が見られているような気配を感じる。さすがはウミさんと言いたいが、コソコソしているこっちからしたら、気が気じゃない。


 「むむ。と、とりあえずあと1日だけお願い。お兄様の言うことも一理あるし、もしわからなかったら私が聞いてみるから、」


 「まぁあぁ、わかったよ。」


あと1日尾行する意味があるんだろうか、っと心の中で思うも妹の願いを無碍にするのは流石にいただけないので渋々あと1日だけ頑張ることにした。


っと言ってもいつもとやることは基本的に変わらない。


 (今日も山に修行で変わらないんだよなー。)


草むらに隠れながらゴーグルでウミさんの姿を確認する。いたっていつものウミさん、この後はおそらくいつも通り木を殴ることから始まる修行が開始される。正直何回も見ているから、見飽きてしまう、尾行は好きでやるものじゃないとつくづく思う。


 (でも、ルルカにお願いされたし…………ってうん?)


ウミさんの後を尾行していると、レーダーと集音器に何やら他の人物の話声が聞こえてくる。方向と精度をもう少し上昇させ、音を拾ってみると。


 「あれがターゲットか。」


 「間違いない。全知の魔女のメイド、特徴と一致する………それでどうする?」


 「どうするも何も、こういうのは遠距離で片付けるのが筋ってもんだ!」


どうやらウミさんは人気者らしい。コソコソと命を狙われる存在だと言うことには少し驚きだが、(やれば絶対ルルカの恐ろしい報復が飛んでくるはずなので。)今回は運良くそいつらの企みを拾えたようだ。高集音マイクを搭載しておいて本当に良かったと感じる。


 (さて、)


奴らはウミさんをPKプレイヤーキルしようとしている。そしてウミさんは俺の大切な、うん、まぁいい言葉が見つからないが、大切な妹のメイドなのでみすみす殺されるわけにはいかない。ということはやることは一つ。


 「なぁ、おいしっかり狙えよ。」


 「当たり前だ、一撃で、頭をぶち抜いてやるぜ。」


男がスナイパーライフルを構え、ウミさんに照準を向ける。そして引き金に指を添えたところで。


 [ビィ───!!]


護身用のビームサーベルを引き抜き、狙撃手の両腕を切断する。


 「─────うあああぁぁっ!!!?!」


 「っ!!!?」


いくらステルスといえどいきなり隣の人間の腕がビームの刃によって切り伏せられればもう片方の人間は意地でも反応する。すぐさまサブマシンガンのような銃器でこちらの大体の位置を狙い射撃を開始する。


 [バババババッ!!!]


しかし姿が見えて撃っているのと、狙って撃っているのとは訳が違う。弾は俺の横を掠め、まるで当たっていないそしてその隙を逃さず俺は相手の心臓に向かってビームサーベルを突き刺す。


 [ザジュ───ッ]


 「───くっ……そ、」


サブマシンガンを構えていたプレイヤーはそう言い残しガラスが割れるような音共に消え去った。


 「………次はお前だ。」


 「───っあ、あぁ……まっ、まて。」


切られた腕、キルされた味方、恐怖から男の顔つきはまるで変わっていた。先ほど獲物を狩る側の得意そうな表情は何処にもなく。今はただ自分の命のことだけを考えている。


 「待ってやる。ただその後で殺す、」


 「……ぇ、ぇ?」


 「なぜ、全知の魔女のメイドを狙う?」


こいつらの会話の内容からはまるで誰かに頼まれたからやり始めたような印象を覚えていた。だからか、こいつらがなぜウミさんを狙うのかそれが実に気になったのだ、裏に誰かがいるのか、それは誰なのか、こいつが死んでリスポーンする前に聞ける情報を聞かなければいけない。


 「………は、へへ。悪いがそれは言えな───。」


 [ジュ────。]


最後の言葉をいい終わるより早くビームサーベルで切り捨てる。なんとか聞き出せないかなとか思っていたがやはり上手くはいかない。リスポーンするとわかっているなら話す必要もないし、俺はどうせ殺す予定だったのなら、相手の行動は情報漏洩を防ぐ手段として妥当も妥当。単に俺が尋問下手くそなだけだなと、片付ける。


 [パリン]


 (結局、ウミさんが狙われてるってことしかわからなかったな……)


まぁ実際それでも少し問題ではあるのだが、本人とルルカに言えばあまり悩む問題でもない気がしてくる。二人とも強いし、ルルカに至っては顔見知りが多いからその分、犯人特定なんかは案外早いかもしれない。


 (帰ったら相談してみよう。)


そう思い、ウミさんの観察を続けようとレーダー確認しようとした時だった。


 「こんにちは紅月様。」


 「うおわ──ッ?!!」


いきなり背後から声をかけられた俺は久しぶりびっくりした声をあげた。すぐさま振り返るとそこには尾行していたウミさんがいた。


 「あ!すみません。そんなに驚かれるとは思わなくて。」


 「………いえ、その───よく分かりましたね。」


俺は自身の纏っていた光学迷彩を解き、ウミさんに姿を晒す。何処からどうみても背景に溶け込んでいるつもりだったが、まさか看破された挙句背後を取られるとは本当にウミさんは末恐ろしいと思う。


 「はい、スピ───いえ……な、なんとなくわかったんです。」


 「……そうですか、」


今何か言おうとしたことをきったような気がする。聞くべきだろうか、でも本人も少し隠しているような気がする。もしかしたら虚空へ話していることに関係あるかもしれないと考えるが、それは深読みが過ぎると言うもの。


 「ところで、ウミさんはここで何を?」


 「あ、修行です!修行!!」


 「そうですか……」


 「紅月様は?」


 「えぇ?!あー、その新兵装の性能試験を……」


 「そうなんですかー……」


すごく気まずい空気が流れる。別に嘘を言っていないから罪悪感を感じる感じない以前に、この空気感をどうするかとかそっちの方で色々と気を回してしまう。ともかく話題というか、場所をなんとかずらして怪しまれないようにしなければ。


 「そうだ、ウミさん。もしその修行がひと段落ついているのなら何処かサイモンの店に食べにいかないですか?」


 「あ、はい!修行ならちょうど今終わったところでしたので、良かったらお願いします(本当はこれからなのですが……)」


 「それは良かった、でしたら今すぐいきましょうか。」


 「はい。」


というなんともすごくぎこちない感じの会話の後に、俺たちはその後食事を共にして俺は工房へウミさんは何処かへ行ってしまった。流石にその後を追うなんてことはリスクなども考えて得策ではないと思い、その日の尾行はかなり早めに切り上げルルカの元へと帰った。


 「ただいまー。」


 「あ、おかえり!……それで、どうだった?」


 「うん、わからなかった。」


俺は首を横に振る。そっかー、っと少し残念がるようなルルカの顔もこれで見納めだ。


 「でも、それ以上に違う問題が見つかった。あまり大事じゃないけどな。」


 「違う問題?」


俺はルルカにウミさんを暗殺しようとしているプレイヤーのことについて語った。


 「…………。いや結構大事じゃん!!」


真剣な顔の後にルルカは俺に向かって叫ぶ。


 「そ、そうか?」


 「だってウミが狙われてるんだよ!?えぇーーッどうしよう!!」


 「……別にたいしたことないプレイヤーだったし、それにウミさんにもこのことを話すつもりだ。特に問題じゃないだろ?」


 「そうだけどさ、そうなんだけどさ!お兄様は暗殺者に殺される恐怖とかなんか、わからない?!」


 「恐怖はさておき、殺されかけたことはあるけどしっかりやり返したぞ。」


 「……………………。それもそうだったね。何言ってんだろ私。」


 「おい、納得するな。……言いたいことはわかる。狙われるってこと自体がいけないって言いたいんだろ。」


 「そう!そういうこと!!」


 「でもこればっかりは相手のことも分からずじまいだ、今は対策がどうとかでなんとかするしかない。」


 「うー、むむむ。そうだけど、心配じゃん。」


 「まぁ………。(別にウミさんの実力考えたら相手の心配したくなる俺はおかしいのかな。)」


さっきのスナイパーだって、俺の背後を取っていたウミさんのことを考えるとすでに場所とか自分が狙われていることくらい分かったんじゃないか?とか考える。これが俺の過大評価からくる結論なのか、それとも真実なのか、もはや本人しかわからない問題だ。


 「でも、自分の身は自分で守るしかないだろ。警察がいる訳じゃないんだし、」


 「……だよね。はぁ、もしかしてちょっと過保護だった私?」


 「かもな。(ウミさんもルルカに過保護でルルカもウミさんに過保護とくると訳わかんなくなりそうだが……一体どっちが親なんだか。)」


 「とりあえず、お兄様お疲れ様……明日、しっかり3人で話し合おう。暗殺の件もウミの変な行動についても、」


 「あぁ。」


そして次の日。俺たち二人はウミさんに伝える内容を考えながら彼女が工房に来るのを待った。


 「ううー、緊張してきた。」


 「別に、直に聞くだけだろ。」


 「そうだけどさ、ほら私って緊張とかに弱いじゃん!」


 「うん、まぁ………確かに。」


蘇るルルカの緊張に弱いエピソード、その1。ルルカが中学の頃クラスで演劇を作った際、緊張しすぎて何も言えずに数分が経過した思い出、当時見ていた俺はルルカのあの真っ赤になりながら緊張によってどうしようもなくなったあの場面を、まるで昨日のように思い出すことができる。もっとも、本人の前で言おうものなら魔力砲マジックカノンを撃たれても絶対に文句は言えないだろうが。


 「でも、気負うなよ。話す相手はウミさんだし、そんなに深刻な話じゃないはずだ……たぶん。」


 「お、お兄様のたぶんって私的に1番怖いんだけど!!」


 「あー、悪っかた!じゃたぶんは無しだ、そうもしかしたらはどうだ?」


 「うぐぐーあんまり変わらない。」


 「仕方ないだろ、断言するのは俺も好きじゃないんだから……」


梅干しを食べたような顔で答えるルルカは苦笑いしながら俺はそう言う。ここだけは曖昧な自分をどうか許してほしい妹よ、っと思っていた時だった2回のノックと失礼します、という声の後にウミさんが工房へと入ってくる。


 「お嬢様、おはこんばんにちはです。」


 「お、おぉぉ、おー、おはこんばんにちは……?」


 (全部混ぜの挨拶だろうけど、ウミさんが初手でそれ言うのは想定してなかったな。)


ルルカがリピートするように答える中、俺は沈黙を貫く。ウミさんのたまに素で言っているようにしか見えないこういう言動はこちらのペースを確実に見出す特性がある。事実、顔に出していないつもりだがかなり面食らってる俺がいる。


 「それで、お嬢様。紅月様。お話があるということでしたので。」


 「あぁうん、そう。」


 「実はウミさんに聞きたいことがあったんだ。」


 「聞きたいこと、ですか?」


 「…………」


 「ルルカ。」


見るからに緊張しているルルカの背に少し手を当てて落ち着かせる。


 「…うん。あの、ウミ最近なんだか独り言というか、虚空へ向かって話していること多くない?」


 「独り言……」


 「その、もしかしてウミに何かあったのかなって思って、そのお兄様を使ってコソコソ調べてたんだけど。」


 (さらっと俺が使われていたことカミングアウトしたな、まぁ良いけどさ。)


 「でも本当に何か重要なことだったらウミの口から聞きたいなって。だから……理由がなかったらそれで良いんだけど、私も、少し…ほんの少し心配で──。」


 「………そうでしたか。」


ウミさんの視線は俯くルルカから俺はと映る。それも目だけを動かして、おそらく頭の中では俺がどうしてあの場所にいたのかについての答え合わせをしている頃だろう。

ウミさんは全てを理解したように一呼吸おいてルルカと俺に話し始めた。


 「はい。お二人が疑問に思っていることについてお話しいたします。」


鬼が出るか蛇が出るか、そんなような緊張が俺にも渡ってくる。心臓はないがコアがドキドキっと動いている(そんな音は鳴らない)のを感じながらウミさんが口を開くのを待った。


 「実は最近、私にスピリチュアルガイドがついたんです。」


 『…………』


 「おそらく、お二人が見た。虚空へ話している私というのはまさしくそのスピリチュアルガイドさんと話している時だと思います、私は誰かに話しかけられたらどんな時でも答えてしまうので性格なので、人前であろうとも、何処であろうともきっと何も考えずに話していたんだと思います。」


 『……………………』


 「特にこれと言って隠していたつもりはないんです。ただ言っても伝わりにくいと感じていましたし、何よりこれは私にしか聞こえない存在しないものでしたので少しお二人に話すのが戸惑っていました。」


 『………………………………』


 「ですが、結果としてそのせいでお二人を混乱させてしまいました。ですので、この際ハッキリと言わせていただきます。」


 『…………………………………………』


 「私には、私だけにしか存在しない、感知しないスピリチュアルガイドさんが存在します。」


 「……………………………………。ごめん、笑うところ?」


 「いや、笑うところじゃない気がするが、ごめんウミさん。今の笑うところ?」


先に沈黙を破ったのはルルカだったが、俺もルルカと全くの同意見だった。


 「いえ…笑うところではなく。その、えと。」


ウミさんが俺たちの反応に戸惑いを見せている、自信満々に言って勇気を出して伝えたのに、帰ってきたのは疑いの言葉であるのならばこうなるのも自然だ。


と、なると。


 「えーと、スピリチュアルガイドでしたっけ?」


 「はい……」


 「それは、えーっと、どういう感じでそのスピリチュアルガイドがついたんですか?」


最初からこうではないはずだという仮説を一旦立てて目の前のウミさんのことをとりあえず信じてみる。冗談を言う人じゃないというのはわかっているがそれでも耳を疑ってしまう今日この頃。だから俺はまずその根底こと、ウミさんにスピリチュアルガイドがいつからついたのかという問いで真意を確かめるもとい、自身の戸惑いにお茶を濁させる。


 「はい。それでは……おそらく私の言っていることについて疑問が多くあると思います、ですがそれらを飲み込んで一旦聞いてください。」


そこからウミさんは自身が理解している範囲の出来事、事情。スピリチュアルガイドさんと呼んでいる正体不明の炎の精霊について時々虚空を見て会話しながら俺たちにわかりやすく説明してくれた。


 「へ、へぇ〜まだなんだか飲み込めないけど。ふ、不思議なこともあるもんだね〜〜〜。」


 「はいぃ〜。」


ルルカは納得したが理解していないような反応を見せ、できる限りの説明を尽くしてくれたウミさんはなんだか疲れているような声を出していた。


 「その、ともかくそのスピリチュアルガイドとやらは安全で、ウミさんの手伝いをしているってことで良いんだよな?確認だけども。」


 「はい、その認識で間違っておりません。彼?彼女?のおかげで私はより高い修練を積むことができたので────あ、彼で良いようです、」


 「なるほど。」


とは言ったものの、ウミさんは今こうしている最中も俺たちの目には見えなく聞こえない相手と会話をしているんだなぁっと思うとなんだか不思議な感じがする。


それにしてもゲームでこんなことが起こるものなのか?っという疑問が先に来る、現実でありえないようなことがここで起こるなんて、いやファンタジー的な世界観ならまた、この目に見えないお友達との会話もまたアリなのか?っと自身の知識から想像する世界観にあまり自信が持てない。


だが実際にウミさんにはスピリチュアルガイドが付いていて現実にはない不可思議なことが起こっている。


 (本当、何がなんなのか……)


非科学が嫌いというわけじゃないが、いざ目の前で現実と瓜二つのゲームとして出されると頭がこんがらがってしまう。夢と現実の区別がたまにつかなくなりそうな時と同じだ。


 「でも、よかったー。ウミがなんか変な病気とかじゃなくて……」


 「──もしかして私、おかしな人だと思われていたんですか?」


 「あっ。」


 「少なくとも俺はそう思ってなかったですけど…………ルルカ?」


 「口が滑っちゃって………」


ルルカのデリカシーがない発言、いやノンデリと言うべきだろう。そう言った心の声があまりにも失礼なことがこの先あってたまるか、なので俺はルルカの教育により一層力を入れるべきだとこの時感じた。


 「そうだ、ウミさん実はこっちからも話が。」


 「んん?あっ、そうだ暗殺者!」


 「暗殺者、もしかして昨日のですか?」


 「そう、それについて実はこっちも知っていることが(あの距離でもやっぱり気付いていたのか、さすがウミさん。)」


俺はウミさんに集音器を通して拾った会話について話した。


 「誰かが私を……」


 「本当、許せないよね。」


 「あぁ、でも結局、送り主の正体は分からずじまい。そもそもなんですウミさんを狙ったのかすら。」


 「私とかお兄様とか狙えば良いのに、」


 「俺はともかく、俺はルルカが狙われるなんて冗談じゃないけどな。」


 「私もです、今回は紅月様の話を聞く限りターゲットが最初から私であったことは明白ですが、そうなったとしても、やはり暗殺者の送り主って一体誰だったんでしょうか……?」


 「むーむむ。分からない、」


ルルカの頭はすでにいろんなことを飲み込みすぎて限界だったのか、湯気が出ているような気がする。


 「考えても仕方がない、対策はしておこう。」


 「そうですね、それにもし暗殺者がまたきたとしたら今度は3人でやっつけましょう、運良く依頼主の情報を吐いてくれるかもしれませんし!」


 「そうですね。(ウミさんの瞳から殺る気を感じる………)」


その後俺たちは一通り暗殺者の対策案を立てながら、魔法やその他の方法で対策を施しその日は解散した。




 ──???──




「うーん、やっぱり無理だったかぁ……」


「殺されちゃった?」


「うん、"鉄血の死神"のチート度を舐めてた。あの人未来人かなんかじゃないの?剣と魔法の世界観で近未来SFみたいな武装使うの、反則すぎるんだけど。」


「もうそういうもの。って考えたら?」


「そうしたいかも。でもさ、攻略法の一つはあるって期待したいじゃん。」


「確かにー、でも殺されちゃったってことはしばらく大人しくしといた方が良いよー。あのメイドさんも普通に実力者だったし、シフトチェンジ、シフトチェンジ。あれはできればよかったーだったんでしょ?」


「まぁ、そうだけど……」


「もー、A型?気にしない、気にしない。それよりも、他の候補の方から埋めてこ。最後のお楽しみって割り切るのも私は好きだし。」


「…………。そうだね、」





 

『topic』


"クラン"とはギルドと違いプレイヤー同士が協力し同盟を組むサークルシステムのこと。

クランに所属しているプレイヤーは独自の依頼や任務などがあり充実した【SAMONN】ライフを味わえる。他にも、様々な特別な要素があったりなどしている。

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