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百十九話「始まりの終わりPHASE-8」

前回のあらすじ


難攻不落の"バアル・ゼブブ"を討伐するための準備を進めるプレイヤー軍。しかし良策は中々浮かばず、時間が迫る中、紅月はとある作戦を思いつく。リスクはあり勝率はほとんどない作戦、それでもギルマスの説得によってプレイヤー軍は準備を進める。そして覚悟を決めた紅月は戦地に行く前にとあるメッセージを彼女らに残した。






 ──練鉱国ゲレーム・射出垂直カタパルト──




 "バアル・ゼブブ"討伐作戦に向けて、俺は準備を進めていた。大型化した外部パーツと直接装備する装備をカタパルトにセットしている最中だった。


 「紅月!大変なことになったぞ!!」


 「なんだ?」


エズが慌てた様子でこっちに向かってくる。正直気が気じゃない状況ではあるが、俺が落ち着かずして誰が落ち着くみたいな状況なので、冷静を装う。


 「実はな……!」




 ── 対"バアル・ゼブブ"用第三防衛ライン・サイモンプレイヤー軍団駐屯地──




 「予想よりも早い?どういうことだ!」


ギルマス様は声を荒げて報告しにきた偵察隊のリーダーに怒鳴った。彼もこの作戦が最後の希望のように思っているため、思いがけない状況に精神がかなり追い詰められている。


 「"バアル・ゼブブ"の進軍スピードが通常より速くなっています。事実です、このままじゃ接敵1時間もかかりません!!」


 「………今すぐ全員にこれを知らせろ。部隊をできるだけ速く編成させて、なんとしても紅月が来るまで持ち堪えるんだ!インストラクトランにも声をかけて、地形魔法による足止めを頼むと伝えてくれ!」


 「はい!」


 「バリアンくんはいるか?!」


ギルマス様は声を荒げて部屋にいるであろう。Sランク冒険者バリアンくんの名前を読んだ。しかしあの特徴的な筋肉の塊の方はどこにも見当たらない。


 「バリアンくんになにか?」


 「彼に伝えてくれ。磁力誘束マグネットバインドの効果範囲はどのくらいかと。そして、それを後で指定する地点にスキルスタンバイにして欲しいと、」


 「了解!」


 「魔束マジックバインドを使える奴らを呼んでくれ、カートンの隠蔽インビシブルスキルで"バアル・ゼブブ"達の進行方向に向かわせてくれ、バレないことを前提に魔法を使い、できる限り足止めしてくれ。」


 「わかりました!!」


ギルマス様は焦りつつも的確な指示をプレイヤー達に送り、なんとか作戦時間までに紅月様との合流を図ろうとしている。私も何かできることがあるかもしれないと思ったが、隙のない彼の指示にもはや提案を入れる暇はなかった。


 (………お嬢様の様子を見に行こう。)


私は司令室を出てお嬢様のもとに向かった。外に出ても慌ただしさは変わらなかった。プレイヤー達が建物を行き来して誰もが誰も急ぎ足になっている。こんなところで足を止めようものなら、人にぶつかりながらあるラぬ方向へ行くことは明白、私は人を避けつつお嬢様が魔力をためている場所へとなんとか辿り着いた。


 「魔女様、魔力は?」


 「うーん、目標まであと1時間20分ってところかなぁ?」


 「なんとか速くなりません?」


 「せかさないでよ。一応これでも最高速度なんだからね、」


お嬢様の元をお訪れていたのは先ほど司令室にいて、指示を受けたプレイヤーの一人、確か内容は記憶が正しければお嬢様との交渉。最悪の事態を想定してギルマス様はできるならルルカお嬢様を前線に出そうと考えていたのだ。


 「あっ!ウミ………もしかして悪いニュース?」


私の顔がわかりやすかったからか、お嬢様はすぐに理解して態度を改める。


 「はい、敵軍の動きが思った以上に早くこのままでは紅月様が来るより先に大変なことになってしまいます。」


 「……なるほどね。でも私としてもここは離れられないんだよね……たとえ魔力が貯め終わっても。」


 「なぜですか?」


お嬢様の申し訳ない顔に対して連絡しにきた一人のプレイヤーは疑問をそのまま伝える。


 「いや、この量の魔力。貯めるのはいいんだけど使ったり管理しなきゃいけないもん。装置はあくまで貯めるまで、だから残りは制御要因だけど、ここに溜まっているの全部私で、それこそ量も膨大だから、多分私がここを離れたら大爆発起こると思うよ。適任が私くらいしかいないんだもん。」


自分の魔力は自分が1番よく扱える。お嬢様の言っていることはもっともだ。加えて1日徹夜覚悟でお嬢様は魔力を貯めるのに集中している。普段なら夜更かしがどうとかの問題もご当主様に直談判してなんとかなっている。

そんな努力が一瞬でなくなることは、当人がよく存じ上げている。


 「でも、どちらにしたって早く貯めないと……だって今、1時間20分って言ってましたよね!その頃にはもう戦闘始まっててますし、なんならこっち壊滅してますよ!」


 「うーーん、確かに!!でも流石にどうしようもないもん、」


 「お嬢様の魔力効率は常人の何倍にも当たりますから、これ以上効率を上げると言うのは難しいかと。」


 「スーパーな私になってもいいけど、あれ時限強化で使用時の魔力をかなり食うから、割に合わないし。」


3人でうーんっと唸りながら、なんとかいい案を考えようとする。ですが魔力効率を上げるアイテムと言ってもそう簡単に手に入れられるものはない、それこそお嬢様の魔力効率はステータスでいうMAX状態。上限の壁を一時的に取り外すなんてことは特殊スキル持ちでなければほぼあり得ない。そしてこの状況から考えれば速攻性がなければ意味がない。


 「話は聞かせてもらったわ!!」


 「そ、その声はっ!?」


颯爽と現れた声の主に私たちは視線を向ける。そこに立っていたのは


 「レ、レナさん?!」


 「久しぶりに二人とも、そしてそっちの人初めまして。」


 「は、初めまして。」


レナさんはゆっくりとこちらに歩いてくる。そういえば、ここに来てというよりかは今までレナさんの姿を見ていなかったなと個人的に思い出す。決して存在を忘れていたわけではありませんが。


 「レナ、もしかして何か良い案があるの?」


 「あるわよ。それがこれよ!!」


レナさんはアイテムボックスからとある異様なビンを取り出す。中に入っているのは毒物だと認識してしまうほどの恐ろしい色をした液体。いやヘドロとでも形容するのが正しいくらいの液状の何か。


 「げっ!!」


お嬢様があからさまな反応をする。まるでそれを見たくもないかのように。


 「そう、ルルカ。あなたならわかるでしょ、このアイテムがなんなのか!」


 「…………ま、魔力増長ポーション。飲んだら理論上魔力効率を無限に上げられる即効薬。でも、その見た目から分かる通り味は最悪!!」


 「聞いたことありますよ、でもあまりの酷さに販売中止運動が起きて全て燃やされて流通が完全に途絶えたはず!!」


 「えぇ、そうよ。でもね私は昔詐欺に遭ってこれを大量に仕入れたことがあるのよ!」


 「かわいそう!!」


確かに可哀想な話であることには変わりない。でも私は察しがついているこのあとレナさんが一体なにをお嬢様にするのかを。


 「でも、今になって良かったと思うわ。だって良い在庫処分が先が見つかったもの!」


 「ちょっと待って!私そんなのになるつもりない!それに嫌だ、死にたくない!!」


 「覚悟しなさいルルカ!!これもみんなのためよ!」


レナさんは身動きが取れないお嬢様の口を魔力増長ポーションで塞ぐ、そして中に入っていた禍々しい液体がドロドロとお嬢様の口の中に入っていく。


 「〜〜〜!!〜〜〜ッッッッ!!!?!」


その瞬間お嬢様は涙を流しながら窒息死寸前の人のような形相で暴れ始める。言葉にならない悲鳴が口を塞いでいるというのに聞こえ、魔力増長ポーションがいかに拷問器具に適しているかがよく分かる。今すぐにでも助けてあげたいと思う私ではあるが、このポーションがなければ、戦いに勝利がないとわかっているので不用意には動けなかった。


 「な、なんてむごい。」


 「ンッーーー!!ン、ンッン!ン〜〜ン〜〜ッ!!!」


 「くっ、この、ほんと力強いわねアンタ!!」


 「ンーッン、ンッン〜ンー!ンッー!ンーンッ(可憐なお嬢様だよ!!!みたいなニュアンス)」


お嬢様はそう叫びながら手で何かを描いている。そしてポォっと音を立てて魔法陣がお嬢様の手に出現する。


 「このぉ、無詠唱魔法使いめ!!ウミさん、そこの人ちょっと手伝って、ルルカを抑えて!!」


 「は、はい!!」


 「ンン〜ンンンンンッ、ンーッ!!!!(ウミの裏切り者ぉ!!!みたいなニュアンス)


 「お嬢様!申し訳ありません、この罰は後でしっかり受けます、ですが紅月様が提案したこの作戦を必ず成功させるため、今は我慢してください!!!」


 「〜〜ッン!!ンンンン、ン、ン〜〜ン!ンッッ〜!!」


私と連絡係のプレイヤーさんの二人でお嬢様の両腕を拘束、無茶して魔法を使われることは無くなったとしても、その華奢な体からは想像がつかないような命の抵抗が必死に伝わってくる。


 「魔女様、なんでこんな力が強いんですかっ?!火事場の馬鹿力とかじゃないですよね!!」


 「すみません、私がたまにお嬢様に格闘術を教えているのでそれが原因かと!!」


 「通りで!!」


こんなことになるなら、お嬢様をトレーニングしなければ良かったと思うものの本人が望んでやっていることなので私はすごく内心複雑な心境だった。だがそれももうすぐ終わるはずだ。なぜなら、お嬢様は無事この地獄こと、魔力増長ポーションを飲み干す子に成功したのだから、


 [キュポン]


 「はぁぁ、うぐっ……ぉぉぉええぇ、っ!」


船酔いをした時より酷い嗚咽がお嬢様の口から聞こえる。お嬢様はすでに満身創痍だ。とてもじゃないが15歳の少女に与える苦痛ではない。


 「お嬢様、よくがんばりましたね。これで────」


 「残念だけど、あと50本くらいあるわ。」


 「なんでそんなにあるんですかっ!!もうお嬢様は限界なんですよ!」


 「ぉぉぉぅっぷ。ま、まって、あったら飲むことぜんていなの……っ?」


 「残念だけど、このポーションが禁止になったのはあまりの効果のなさにもあるのよ。たった一つ飲んだ程度じゃ効力は微々たるもの、カタツムリの一歩と同じだわ………だからっ!!!」


 「ま、まっべぇ……ウプ!!」


 「魔力増長(戦い)は数よ!!!幸い、水分ゲージにポーションはカウントされない!耐えなさいルルカァァッッ!!!!」


 「ぅ〜〜〜〜ーーー〜ッッッ?!?!!!!(解読不可能な悲鳴)」


その後、私と連絡係プレイヤー(名前はリール)さんは二人で暴れるお嬢様を押さえつけながら、なんとかレナさんが用意したポーションを飲ませていった。本来なら水分ゲージが過多になり胃液が出てもおかしくないのですが、ポーションは飲み物ではなく薬判定なため、水分ゲームは消費されないためお嬢様の口には次から次へと吐き気を催すような劇薬を突っ込まされることになりました。私はとても心が痛かっですが、我が子を崖から突き落として地獄に叩き落とすかのような強い心を持ってその作業に勤しみました。


 (お許しください。お嬢様!!)




 ──練鉱国ゲレーム・射出垂直カタパルト──




 "バアル・ゼブブ"の進行速度の加速によって、俺たちは予定していた発車時間を大幅にカットすることになった。おかげで混乱と慌しさの間のような環境で発射準備に入っていた。


 「紅月。急いで乗れ!」


 「わかってる、でもシステムの最中調整がまだ……!」


 「俺がやっとく。この戦いはお前にかかってるんだ、良いからさっさと行ってこい!」


ファールに肩を掴まれ、調整装置から引き剥がされ装備がスタンバイしている方へと押し出され指までさされる。ここまで来て振り返って何かいうのも無粋だ。


 「あぁ、悪いファール!」


そう言い残し俺は発射装置へと向かった。開発したHFMハイフライトモビリティ、そして長距離航行用の大型パック。その二つの連結作業がまさに行われていた。


 「紅月!お主がつけんと始まらんぞ!!」


マイクを通して聞こえるエズの声、ファールの言っていた通りどうやら俺だけが出遅れていたらしい。スタッフたちに誘導されつつも、俺は装備の装着シークエンスに入った。


 「足から順に頼む、じゃないとズレて分解する!」


 「わかりました!!」


今回の装備は細かく点検し、改良する時間がなかったため特式の装着方法でしか着用することができない装備となっていた。アームで体を空中に固定後、パーツを体の五体ごとに装備していく方式、これをやると脱ぐ時もひたすらに面倒なのでいつもはどこからでも簡単に着れるように作る、それができないから今こうしている。


 「足行きます!」


 「フェイズを2から始めて3、4。1はこっちで調整する!」


 「了解、フェイズ2から装着段階開始。」


足を装備の形に合わせて着用。装着が完了するといつもと違い明確な一体感を感じる、これも時間がなくて改良できなかった故の欠陥だ。


 「次、腕、胴体、最後に頭だ!!」


 「了解!腕いきます!!」


そして同じような容量で腕、胴体、頭、そして最後に換装用の装備を連結するための装置を各部位につけ、俺はアームを使って長距離航行用のパックに体全体を格納する。


 「エズ、電源を入れてくれ。」


 「了解じゃ!!」


通信を通じてエズの返事が聞こえると、真っ暗闇の長距離航行パックの中はさまざまなシステム稼働オンがなり始めグリーンライトとやさまざまなセンサー類を示す蛍光色で照らされる。


 「紅月、発射予定時刻は30秒後じゃ。総員、システムチェックに移りカタパルトデッキから離れよ!!」


 「了解。さて、こっちが自由落下中に使う姿勢制御バーニア、そしてこれが、緊急装置。あとはメンテナンスボタンを押せば。」


 [────HFMハイフライトモビリティシステムチェック………チェック完了、長距離航行用大型付属装備との接続および連結に成功。魔力伝導率100%、各種武装ヒート率0%、推進剤異常なし。全システム異常なし。]


 「よし。」


全てのシステムがオールグリーンであることを確認する。いよいよこの大きな鉄の塊が空を飛ぶ日が来たというわけだ。こう言ってはなんだがすごくワクワクする。


 「紅月いけるぞ!!」


 「こっちも問題なし。発信準備完了!」


通信機からエズの声が聞こえる。そして頭の中にあった手順を思い出しながら、向こうの指示を待った。


 「サブスラスター、およびエンジン推力80で固定、ブースト点火!」


 「ブースト展開確認。」


 「電磁カタパルトボルト、セーフティ解除!!


 「─────紅月、HFMハイフライトモビリティ出るぞ!!」


 「ボルトを外せぇい!!」


エズがそう言うとボォンという小さな爆発が両隣から振動として聞こえ、次の瞬間体は上方向へ向かってすごい重力がかかりながら持ち上げられる。そして空へと打ち上がる、引っ張られるような感覚は依然として続くが先ほどよりはマシだ。ただこれで最後じゃない。


 「スラスター4、5。強制カット、姿勢制御バーニア、プロトコル同時接続。」


空へと打ち上がった機体はスラスターの恩恵を受けなくなり、ゆっくりと自由落下が始まるこれは、それより早く目的地の方向へと機体の前面を展観させ、さらに機体の縦横軸方向への安定化もさせなければいけないかなり高難易度な操縦だ。


 「っ、エルド!3番スラスター点火。全面の二基を強制噴射!」


 [───了解]


体が大きく揺さぶられる。だがだがしっかりとセンサーとカメラを確認して、方角目的地へと座標を明確にする。自由落下の縦横軸は平常あとは斜めの調整を手動で行うのみ。


 「少しっ、まがれぇっ!!」


 [───許容範囲に到達、プログラムに従い目的地までの強制航行を開始します。]


 「魔力放衣!!」


AIエルドのアナウンスが聞こえると同時に俺は魔力放衣を展開する。ルルカほどではないが頭でイメージする、以前ファールと戦った際に見たあのバリアの形状を音速と同等の速度で動いていたあの機体にかかる気流がどのように避けていっていたのかを、そしてホログラムで擬似再現したあの特徴的な半透明なシールドの形状をアレらは全て電力で作られていた、しかしその部分構造は魔力で再現できないわけではない。属性、そもそも根本的に違い物質での再現は行なっていない。


まさに一か八かの勝負所と言ってもいい。だがそれでも、俺はこれを再現できなければこの戦い、そしてルルカに勝利という名の贈り物ができなくなる。


 「──────!!」


脳でイメージしたものを体を通して、機体に映す。そして機体の前面に張るように少しだけ手を加える。いつもより考えること、同時並行処理の多さに頭痛がするものの、それでも俺はイメージし続けそれを機体に移し続ける。


 [───データ再現率0.02の誤差、許容範囲として修正。全推進器、90%の状態で点火開始。]


声が聞こえる。エルドの声だ、そしてその瞬間体が叩きつけられるかのようなGが機体を襲う。


 成功だ。空気の壁を突破して音速状態になった機体、だが問題はまだあるそれは俺がこの魔力放衣の状態を維持し続けなければならないこと、いくら緩和素材をふんだんに使ったとしてもこの体にかかる重圧からは逃げられないということ、そして脳が処理すべき情報を正確に処理しつつ、理性でこれを御しながら適切なタイミングで長距離航行パックをパージ、そして"バアル・ゼブブ"に一撃を与える。


これらをこの過負荷の中にやり遂げないと考えると。


 「っぐぉぉ───っ」


根を上げたくなる。だが、それで逃げられたことなんて一度もない。苦しみの言葉を言って乗り越えられた試しなんて一度もない、ただ誰もが欲しがって見せがってくるのは結果だけ。そのためにも俺はこの逆境を乗り越えなきゃいけない。


 (ルルカの、、ために。)


操縦桿を強く握りしめる。金属製だが歯を食いしばる。1秒が100秒にも感じられる中俺はこの鉄の空飛ぶ箱の中でじっと目的地に向かって耐え忍ぶ。




 ──ゲレームMk ~Ⅱ・軍事宿舎元105特殊機動部隊──


 


 「みんな、片付け終わった?」


 「お、終わったよ。」


テトンの掛け声に真っ先に答えたのはケリーンだった。部屋から顔を出し他のメンバー達の様子を伺っているようだ。


 「こちらも終わりました。」


 「こっちもだぜ、はぁ〜新しい宿舎に行くっていうけどやっぱりめんどくさいなぁ片付けって。」


 「そういえばアンジュは?」


ウィスト、フォズ、メイビスは部屋から出てくる。しかしリーダーであるアンジュが出てこないことに疑問を抱き、直接彼女の部屋へと全員集合していた。


 「おーい、アンジュ。そろそろって、、?」


 「…………」


アンジュはフォズの声にゆっくりと振り返る。その目には涙があった。全員は泣いているアンジュに対して驚きつつも何があったのかと、動揺して彼女の元へと駆けつける。


 「アンジュ、何があったの?」


 「きょ、教官が………っ」


全員に届いていたメールを教えた。着信がならないように設定されてあるメールだった。そしてすぐさま全員メールの中身を確認した。


 『アンジュ、フォズ、ウィスト、ケリーン、メイビス、テトン。このメッセージを見ているということはすでに俺はゲレームを去ったあとだと思う。実はいつ切り出そうかと考えていたんだが、結局タイミングを失ってこんな形になってしまったことは悪いと思っている。

 俺は105特殊機動部隊が正規軍になったことによって教官の座から降りることになっている。元々そういう契約であったとかもそうだが、何より他にもいろんな事情がある。それこそ全員に言えない秘密だってある。でも俺は死ぬわけじゃない、だからいつかどこかでまた会える機会がある。もしかしたら近いうちにゲレームによることがあるかもしれないしな、だから、まぁその悲しまないでくれ。俺は正直お前達と過ごした時間はかなり有意義だと思っている。だから全員、この経験を忘れず前に向かって進んでいってほしい。


     紅月教官より   』




 ── 対"バアル・ゼブブ"用第三防衛ライン・サイモンプレイヤー軍団駐屯地──



 

 ギルマス様のさまざまな策によって"バアル・ゼブブ"は何回かの足止めをくらい、なんとか誤差修正ができてきていた。しかし向こうもそれに対応するように若干スピードを上げてこちらに向かってきている。紅月様はまだ到着していない、こちらは本来同タイミングで攻撃を仕掛ける作戦であり、それまでは最小限の守りで固めるつもりであった。だがそれができないとわかるとギルマス様は、最後の手段。


 「みんなで足止めするぞ!」


というなんとも策とは思えない作戦を展開した。ちなみに止めるというのは物理的な話であり、地形を動かしてなんとかするとかそういうわけではないそうです。正直、自殺に近いですこの作戦。


 「ウミさん。」


そんなギルマス様が声をかけてきた。が、私が開口一番にいう言葉は文句だ。


 「私この作戦反対ですからね。」


 「いやその、装備について感想を言いたかったんだが。」


 「あぁ、感謝してますよレナ様にわざわざ新しいのを大金はたいて作ってくださったことは。」


お嬢様に魔力増長ポーションを全て飲み終わらしたあと、レナ様から新しい装備をもらった。オートマタ由来の技術が使われているらしく、私のボロボロなメイド服を見てレナ様がギルマス様に愚痴を言っていたことが今でも思い出せる。そして驚きなのが、この装備がギルマス様から命令を受けて作っていたという事実だ(ちなみにお嬢様の分も作ってきてくれた。)私がボロボロになるのを見越していたのか、それとも単に社員に対してのボーナスなのか、正直どっちもと捉えても割に合わないと個人的に思っている。


 「それはよかった。よく似合っている。」


 「……お嬢様を魔力電池にしたこと、私怒ってますからね?」


 「え?!あ、あぁすみません。」


もう少しアットホームに魔力を貯めているのかと思いきや、お嬢様の姿まるで鎖に繋がれた奴隷そのもののようなおいたわしさ、となればギルマス様に不満が溜まるのは必然。お嬢様に相応しい舞台を用意できないところまで、私は怒っていたりする。


 (お嬢様は本来、好き勝手戦いたいタチですから。あんなところに幽閉みたいな感じでは流石に一言言いたくなりますよ。)


 「それで、あそこで"バアル・ゼブブ"に向けて走っているのは?」


前方の平原で一人の筋肉がすごい方が全力疾走しながら"バアル・ゼブブ"に向かって行っている。一人だけ取り残されている感がすごい。


 「彼はバリアンくん、あ…"くん"までが名前だ。彼は磁力を自在に操る能力を持っている。つまりその気になれば"バアル・ゼブブ"の足止め要因として役に立つというわけだ。」


 「それで先行設置というわけですか、あの両肩に背負っている大きな石の塊で。」


 「その通り。」


筋肉量はすごいがそれはあくまで人間の範疇。自分の何倍もある大きな磁力の柱×2を担いでいっている姿はどことなくメルヘンさを感じられずにはいられない。


 「ギルマス、よくないニュースその2だ。」


 「聞きたくないぞ俺は。で?」


隠蔽インビシブルスキルを持っているカートンさんがいつのまにか隣に現れてギルマスへ申し上げる。どうやら悪いニュースはまだあるそうだ。


 「上空から先行部隊が。」


 「早く言えよバカ!!魔法部隊に伝達、いけ!」


 「りょーかい。」


カートンさんはまた姿を一瞬にして消して行った。


 「"バアル・ゼブブ"の先行部隊ですか?」


 「あぁ、しかもこっちは飛べる奴がほとんどいないってのに空から来やがった。」


 「………私も行きます!」


 「いや、ウミさん、飛べ────」


私は両腕部そして足裏に力を回して、炎を出すそしてゆっくりと姿勢を調整しながら浮遊し始める。


 「お嬢様ほどではありませんが、私も飛べるんですよ。」


 「……は、初耳なんだが。」


 「えぇ、言っていないので。では!」


私は上空へと飛び上がる。そして"バアル・ゼブブ"がこちらに来ている方向に目を向ける。確かにカートンさんが言っていた通りに空を飛んでいる魔物、そして


 「アレは……!」


メルドさんを瀕死に追い込んだ防衛機構。それとそっくりな見た目をした機械が羽を生やしながら空を飛んでいる。奴ら、本体から離れることもできれば空を飛ぶこともできるのか。


 「ウミさん??空飛べたの!?」


隣を見てみるとレナさんが居た。そういえば彼女も紅月様と同様に空を飛べるタイプの人であった、特に紅月様とは違い対空時間も長く空戦用な装備なため、彼との大きな違いはそこにある。


 「えぇ、特訓の成果です。」


 「と、特訓でそこまで行くんだ……ハハハ、空飛ぶメイドとか初めて見た。」


 「私は空飛ぶ鉄屑を初めて見ましたよ。」


私は指を刺してレナさんに防衛機構の姿を知らせる。


 「あー、報告にはあったけどまさか私みたいに空飛ぶとは思わなかったわ。でもみるからに無駄が多い、ってことは地の利ならぬ空の利はこっちにあるってね!お先!!」


レナさんは巡航形態へと可変して敵軍に向かって突っ込んでいく、それに私も続くように戦闘に参加する。


 (仇というわけではありませんが、あの防衛機構はできるだけ落としたいですね…。!)


そう思いながらも、目の前に入った敵から着実に倒していく。翼を切って仕舞えばただのカカシであるため、狙うは羽の付け根、モンスター達が何体来ようと、光焔槍の前には防御力はほぼ関係ない。


 [バババッバババッ!!!]


防衛機構がこちらに向かって射撃を開始する。射撃自体の精度は高くないものの、マガジンというものが多いのか、なかなか振り切るのは難しい。メルドさんのように武器の技量が卓越したわけではないのです斬り返しができるわけではない。そのため背後を取られた時点で大きく不利になる。


 「こっちを見な──ッさい!!!」


レナさんが変形して、ビームサーベルを防衛機構の中心部に突きつける。深く刺したあと切り抜きながら防衛機構を蹴飛ばすと、それは無気力にも地上へと落ちて行った。


 「大丈夫?!ウミさん!」


 「はい、おかげさまです!!」


 「そりゃよかった、って下!!」


 「?!」


レナさんの指摘通り下を見てみるとそれはかず多くの"バアル・ゼブブ"の軍隊が草原を覆い尽くしていた。すぐ見れば戦況はわかる、ギルマス様達は防衛駐屯地に立て篭もりながら魔法攻撃で応戦して数を減らしている。しかし進軍のスピードから接敵はもはや目と鼻の先であった。


 「すぐに向かわなくてはっ!!」


 [ギィィ────バババッバババババ!!!!!]


防衛機構の攻撃が背後から飛んでくる。それを光焔槍を大きく横に薙ぎ払い、溢れ出た炎でガード。その先にレナさんに攻撃をバトンタッチする。


 「そこっ!」


 [バァンっ!!!]


レナさんのビームスナイパーライフルが防衛機構の中心部を撃ち抜く、そして一瞬にして無力化する。


 「ビーム兵器がまともに効くことが幸いね、アイツの発明使うのは正直癪だけど。」


 「ですが、敵はいっぱいいます!ここで捨てられたら私は嫌ですよ!!」


 「───わかってるわよ!!」


私とレナさんは再び空戦を始める。確実に敵を倒して行っているというよのに、相手は私たちを相当下に行かせたくないからか常に行手を阻んでくる。そうして戦い続けても、地上の戦局は悪化の一途を辿っており、限界は近くなっていた。


 「ウミさん!!ここは私が引き受けるから、今すぐに!」


 「いいえ、いいえ!そんなことできません!!絶対です!」


メルドさんに後を託したこと瞬間を直近の出来事のように覚えている。そんな私がこれ以上誰かに託されるのは正直ごめんだ、それが頑固なレナさんであっても。


 「でも────。っ何この反応??早い!!?」


 「レナさん、何がっ!!」


私は下で黒い光が迸る光景を目撃する。極黒閃光だ、アレはよっぽどじゃなければターゲットを見定めないはず、それなのに起動しているということは。


 「─────来た!アイツが、紅月が来てんのよ!しかもすごいスピード……!!」


 「──ッしまった!!!」


私は理解した極黒閃光が向いているのは私たちや下にいる強力なプレイヤーではない、あの銃口の先にいるのはおそらく、こちらに向かってきている紅月様であることを。


 そして、極黒閃光は放たれた。全てを破壊する一撃必殺の光線が。道中の全てを焼き切り、紅月様の元へと。




 ──魔法国領内・空中──




 「…………ッ!?」


嫌な予感が脳をよぎった。それはまるで死のビジョンと読んでも差し支えないほどの何か、そして記憶の中にあったそれが頭の中に呼び起こされる。第二公式大会の際に全てを焼き尽くしたあの黒い閃光を。俺はまるで未来予知かのようにそれを感じ取ったのだ。


 「────エルド!右舷に回避運動!機体をパ…………」


 [───────ッッッッッ!!!!!]


形容できないような被弾音が聞こえてくる。そして同時に展開していた魔力放衣の壁が一瞬にして突破され、何重にも重ねていた耐衝撃用の特殊装甲が一瞬にして破壊される。そして同時に内臓がひっくり返るような衝撃。


 「──ぃっ!!!」


 [──────損傷率60%オーバー、本気損傷率2%、緊急脱出を推奨。]


 「……プロトコル実行!!大破保護を実行!!」


 [──大破保護実行。衝撃に備えてください。]



次の瞬間、長距離航行用パックが大爆発を起こし、空中分解した。搭載していたあるとあらゆる推進剤は炎となり、これでもかというほどの耳うるさい連鎖爆発がHFMハイフライトモビリティと俺を包み込んだ。


 「うぉぉぉぉぉっ!!!」


だが大破保護を実行していたため間一髪のところでHFMハイフライトモビリティ全体を包む安全装甲が展開できた。おかげでこうして無傷どころか、長距離航行用の速度をほぼ維持した状態での"バアル・ゼブブ"への奇襲が可能となった。


 [システムオールグリーン、フォーマクシオンカノンエネルギー充填100%]


 「大破保護パージ!!」


機体を包んでいたでつの棺桶は点火ボルトによって一瞬にしてパージ、そして背部からスタビライザーを兼ね備えたフライトウイングが展開する。さながら見た目はジェットパック装備と言ってもいい具合だろう。そして目の前には目視だけでわかるほどのえげつない量の弾幕量。実弾、ビーム、ミサイル、どれも頭が痛くなりそうな数だ。


 「魔力放衣ッ!!」


 [────確認、エネルギー臨界点に換装。目標:極黒閃光を確認。ロックオンシステムスタンバイ]


魔力放衣によってあらゆる対空攻撃を掻い潜り、わずか1秒の間に敵の真横まで詰めることができた。そして狙ってから打つまでのわずか0.5秒、事前に済ませた武装換装によってこの機体最大攻撃力を放てる武器、フォーマクシオンカノンを極黒閃光に向かって銃口を突きつける。


 「そこだ─────ッ!!!!」


 [──────ヴィィィフォォーーーッン!!!]


この兵装は何度も使えない代わりに、そのエネルギーに膨大な魔力と電力、及び特殊な弾倉を使用している。弾は実弾でありながら高熱と魔力、電磁波を帯びており、形状は徹甲弾をさらに鋭くしたようなもの、そしてこれは理論上あらゆる防御を一撃で粉砕できるほどの火力がある。そのため、シールドで守られており、極黒閃光の一撃をなん度も放てられるような銃身ですらこの一撃を防げることはあり得ない。


 [シュゥッ────────ホゴアァァァァァンッッッッ!!!!]


一線が極黒閃光の発射口を粉々に粉砕し、大爆発を起こした。赤黒い稲妻のようなものが煙から少々溢れながら、対戦を待ち望んでいた相手の最強の矛は砕け散った。





『topic』




        紅月・HFMハイ・フライト・モビリティ

 

   種族 オートマタ


  [HP]99000

  [E]200000

  [A]100000(障壁耐久値)


[STR]100000(アームパワー)

[VIT]600000(防御力)

[AGI]5000(スラスタースピード) 

[LUK]380 (運)      

[DEX]40000(器用さ)

 


  [スキル]           [称号]

・魔力放衣           ・無限のエネルギー

・魔力構築[EX]        ・第二公式大会優勝

                ・鉄血の死神

                ・受け継ぎ

                ・イレギュラー  

                ・対異生特攻

                ・見届け人

                ・下剋上返し

                ・Bランク冒険者

                ・教官

                

                

               

 [身体構造(内)] 

 

 [頭]超パルドミック合金  [胴体]メイルプレート221式 


 [左腕]多層化ミードル合金 [右腕]多層化ミードル合金 


 [左脚]フラクションⅡ [右脚]フラクションⅡ 


 [身体]ペルフォートム [内部]ペルフォートム 


 [劣化部位] 無 [修復部位] 無

 結果 無


  コア:フラグッレッジパード45




 [身体構造(外)]

 

 [頭]トークンⅠ  [胴体]トークンⅠ 


 [左腕]トークンⅠ-Ⅱ [右腕]トークンⅠ-Ⅱ 


 [左脚]トラインF [右脚]トラインF 


 表面状態通常装甲   



 [装備]


 ・ツインマグナムライフル

【詳細】右腕部に搭載されたビームマグナムMk -Ⅱをベースにエネルギー直結型へと改良したダブルライフル。通常の射撃はもちろん、照射として放つこともでき対軍相手において引けを取らない火力をしている。



 ・フォトンバズーカⅢ×2

【詳細】背部ウェポンホルダーに搭載しているしているフライトユニット直結のエネルギータンク型バズーカ。エネルギー弾を発射でき、爆発性に秀でた武装であり、電気属性も付属しているため純粋な火力が高い。またノーモーションで放てるので切り替えが早い。しかしエネルギータンクの役割も担っているので、使い方には気をつけなければならない。

 


 ・フライトユニット

【詳細】背部、脚部、胴体部前面に機体と直結状態となっている空戦用機動装備、ハイパージェットエンジンのおかげで数時間に及ぶ空戦能力を獲得している。重力圏での活動をメインに考えられているため機動性も申し分ない。



 ・腕部多重連装型アームガトリング

【詳細】着弾式爆発小型弾倉を使用して使える腕部のガトリングマシンガン。腕時計のように手首についているためかさばらず、形なため小型の敵を落とすのに重宝する。飛べなくなった時の対空防御用として紅月は設計した。



 ・両腕部格納型ヒートエネルギーソード

【詳細】両腕部に搭載しているエネルギーソード、従来のヒート技術を用いて最適化、改良化を施しビームサーベルにも匹敵する切れ味を出せるようになった新兵装。ただし本兵装を使っている最中は危険防止のため腕部多重連装型アームガトリングを使えないというデメリットがある。



 ・フォーマクシオンカノン

【詳細】一度きりの使い切り兵装。元々は機体に搭載する予定はない兵装であったが、"バアル・ゼブブ"の極黒閃光砲塔を破壊するために試作したもの。エズが逃げ出しそうなくらいの大金でなければ制作が不可能なレベルの最高コスト兵装。2度と作らない、とはエズの談。(名前がダサいが、それはエズが命名したから。)



 ・ウイングミサイル

【詳細】ウイングユニットに付属しているミサイル。数は少ないが一撃一撃の追尾性破壊性は高く、その威力はレナが設計したミサイルの3倍ほど。空爆にも対空戦にも使え、自動照準付きなのでエイムに自信がなくても適当に撃てる。



 ・兵装換装時専用サブアーム

【詳細】フライトユニットに付いているサブアーム。主に武装の換装を担ってくれたりする予定であったが、その出番はすでにフォーマクシオンカノンが使い捨てになった時点で終わっている。紅月は腕がなくなった時に武装を持ってもらう係として考えて作った。



 ・ALDエルド

【詳細】紅月のサポートAIの名称、今までマニュアルで何から何にまで手作業で行なっていた機体管制およびシステム統括を行ってくれる、ありがたい子。また、さまざまなフォーマットに適応できるよう紅月自らシステムを手掛けているので完成度はそこら辺の企業が売っているお手伝いAIよりも遥かに優れている。

名前は紅月が適当に決めた。


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