百十七話「始まりの終わりPHASE-6」
前回のあらすじ
第二防衛ラインにて、失意を彷徨っていたウミは祈りを捧げる。すると不可思議な現象と対面する、突如現れた謎の人物に諭され自身が操る炎について深く理解することになる。
そして現実へと戻ったウミはプレイヤー達を説得し、"バアル・ゼブブ"に立ち向かうことを再度決意する。
──???・時間不明──
「さて、聞き出せることはあらかた聞き出せたか。」
「はい。実に興味深く研究のしがいがあるものかと、こうして運良くサンプルを手に入れられたことは私たちにとって不幸中の幸い。でも、」
「案ずることはない。この世界にもただバグが存在したということ、お前と同じな。」
「………なるほど。」
「残念ながらコレは2度と元の世界に戻れない。だがその機会を奪った正体、それだけは容易に想像がつく。」
「それは?」
「前から言っている。"神"だ、」
「神……見たことは、、ありますか?」
「………思い出したくもない。でもな、殺してやりたいとは死ぬほど思ってる。」
「─────さようで。」
── 対"バアル・ゼブブ"用第二防衛ライン・サイモンプレイヤー軍団駐屯地──
プレイヤーたちは駐屯地の前に隊列を組んでおり、"バアル・ゼブブ"との会戦に向けて待っていた。"バアル・ゼブブ"が戦闘領域内に入った瞬間、プレイヤー軍は動き出し、一目散に目標に向かって攻撃を開始する手筈だ。
そしてしばらく経たないうちに"バアル・ゼブブ"とその虫の軍勢は姿を現した、それも第一防衛ラインとは比べ物にならないほどの大軍を引き連れて
「やっぱり増えてんな。」
「道中で魔物たちを使役したのでしょう。」
メルドと司令官プレイヤーは軍を前にして感想を述べる。だが二人とも負ける気はさらさらない、そしてそれはここにいるプレイヤーたちも同じだ。
「プレイヤー軍、突撃準備!全スキルスタンバイ!!」
司令官プレイヤーが背後に広がる自軍に向けて開戦の準備を促す。詠唱が必要なプレイヤーは詠唱を開始して、武器を持ったプレイヤーは手に持ち身構え始める。
「全軍………。突撃ィッ!!!」
『ウオオオオオーーー!!』
雄叫びのような返事が上がると同時に司令官プレイヤーを先頭にして軍は大進軍を始める。そして"バアル・ゼブブ"もそれを認識したのか引き連れていた虫の軍を前面へと押し出し接敵させようとする。
「クロススキル発動!"王道軍勢"!!」
先頭の司令官プレイヤーがそう口にすると大結界がプレイヤー達を囲むように展開される。そして接敵間近だった、虫の軍勢は結界に阻まれるような形でプレイヤー達を攻撃することはできず、逆に押し除けられてしまう。
「第二スキル、第三スキル、発動!!」
『了解!!』
プレイヤー達は事前に決められていた防御力上昇スキルを使い軍全体の防御を上げる。加えて速度上昇スキル持ちも連動するように発動させる。速度と防御力を兼ね備えたその軍勢は"バアル・ゼブブ"に向かっておそれなしと突撃してくる。そしてそれを理解していない敵本体ではない、
「司令官!高魔力反応!!」
極黒閃光の予感を感じ取ったプレイヤーが、司令官プレイヤーにことを伝える。大結界がいくら丈夫とはいえ流石にあの一撃を耐えきるのはいくらなんでも無理に近い、そのことを事前に予測していたため、すでに対抗策は出していた。
「魔力連結開始!メルド頼む!!」
「了解ッ!ウェポンスキル解放!!」
メルドは背後のプレイヤー達から魔力供給を開始する。彼女が持っている剣は伝説装備の一つバルムンク、本来は竜殺しの際にその本領を発揮するが今回の相手は竜でもなんでもない、なんならその一撃は敵の放つ極黒閃光を相殺する際に使うのだからまず出力が足りないのだ。
だがその出力を上げる方法はせいぜいどうとでもなる。
「─────来ます!!」
「今だ"特権使用"!属性付与、邪竜。判定確定!!」
司令官プレイヤーが特殊スキルによって"バアル・ゼブブ"に邪竜判定を下す。この特殊スキルは最低でも1秒間だけ相手にどんな属性でも付与できるスキルなのだが、"バアル・ゼブブ"自体デバフを1秒で解除する特性があるので、チャンスは1秒一度きりであって、失敗は許されない試みであった。、
「おっしゃああぁっ!!"邪竜殺剣"ァァーーーッッ!!!」
メルドが大剣を振りかざすと蓄積された魔力が嵐のような形へと変貌し、"バアル・ゼブブ"のはなった極黒閃光と衝突した。威力はほぼ同等クラスであったが、この時司令官プレイヤーは一つ失念していたことがあった。
それは極黒閃光そのものが魔力を吸収し、目標にあたるまでにその威力を数十倍にも跳ね上がらせる特性であった、その関係上、純粋な魔力の威力勝負では分が悪いということ。
「──────ッこんじょおおおおおっ!!!」
メルドが叫ぶ。極黒閃光が邪竜殺剣を押し除けようとしたその時、腕にかかる何十倍の重量をメルドはなんとか右にずらし、プレイヤー軍に向けての直撃を間一髪にして防いだ。
[ドォォォン!!!]
プレイヤー軍の横で大爆発が起こる。極黒閃光の一撃が大地を破り、地形を大きく変えるものだとこの時のプレイヤー達は目で見て実感した。だがそのためかメルドが起こした奇跡に対して歓声が上がったのもまた事実であった。
「メルドさん!!」
無理をしたメルドは打ちずらした衝撃で吹き飛ばされなんとかウミにキャッチされる。
「────っハァ!!死ぬかとおもったぁ!!」
息を吹き返すように叫ぶメルドは以外にはもそんなことが言えるほどに元気ではあった。しけし体というか剣を見ればその熾烈さがよく伝わってくる。外見は無事に見えても内側かなりガタが来ていたのだ。
「メルドさん、お疲れ様です!ここからは私たちがなんとかします!」
「おうっ、そうさせてもらう。」
メルドは軍勢の中へと潜っていき、後方へと回る。そして極黒閃光によって足が止まっていたプレイヤー軍勢は再び進軍を開始し"バアル・ゼブブ"に接近する。
「脚部を重点的に攻撃!!ダメージを与える方法を見つけて足止めしろ!」
司令官プレイヤーは軍勢全体に永続バフをかけ"バアル・ゼブブ"本体との直接先頭へと持ち込む、"バアル・ゼブブ"の対人防御を掻い潜りプレイヤー達はあの手この手で攻撃を開始する。
「光焔槍───はぁっ!!」
ウミも両腕から炎を湧き上がらせ、軽快な身のこなしで攻撃を避け、"バアル・ゼブブ"に攻撃を開始する。
しかしプレイヤー達の四方八方の攻撃を受けたとしても"バアル・ゼブブ"の進撃は止まらない。虫の軍勢も本体に群がるプレイヤー達を削ぎ落とし潰そうと攻撃を仕掛け始める。
元々突撃行為だったプレイヤー達はまたしても第一防衛ラインと同じく押され始めていた。
「司令官!!分かりました、このデカブツ特殊なバリアがあります!」
「何?!」
司令官は驚き、報告してきた魔法使いプレイヤーの一人に聞き返す。魔法使いプレイヤーは戦闘中の激しい攻防でも聞こえるような大きな声でこう言った。
「魔力じゃない特殊なエネルギーを使ったシールドです!!それが邪魔してッ!」
「どうりで、探知魔法でも見つからないわけだ!」
「それが、おそらくバリア発生機能が……アソコにッ!」
プレイヤーの一人が指をさす。そこにはいかにもな装置が置いてあるがその周りには無数の防衛機構が搭載されておりまず近づくことすらままならない。
「"特権使用"全員集合!!」
司令官プレイヤーは特殊スキルを発動させ、現存するプレイヤー達を強制的に自身の元へと集めた。それはウミもメルドも同様である。
「あのバリア発生機能を落とせ、何が何でも!!」
「司令官、同型のが他にもありますよ!」
「ならそれも全部だ!次に総員次に繋げる行為をしろッ!!」
『了解!』
プレイヤー達マークされた地点に向けて攻撃を開始した。防衛機構の攻撃に悪戦苦闘しながらも犠牲になった仲間のために攻撃の手を止めることはなかった。
「A班、防衛機構の除去がほぼほぼ終わってる。壊すなら今しかない!」
「よし、"特権使用"無敵、防御貫通、超攻撃破、確定会心、倍率総上昇。全員攻撃開始!!!」
バフを確認したプレイヤー達は一斉にバリア発生機能に攻撃を開始する。司令官プレイヤーが施したバフの影響力は凄まじく、防御力が素で高い"バアル・ゼブブ"を相手にしていても着実にダメージを蓄積できる具合にまでなっていた。
「本体は回復機能が付いていて刃が立ちませんでしたが、これならっ!」
「あぁ、でも同時にこれで俺たちは本当に攻撃しかできなくなったな。」
「そうですね。」
ウミとメルドが互いに目を見合わせながら、同時攻撃でバリア発生機能を一気に半壊まで持っていく。司令官プレイヤーはSSランク級のプレイヤーではあるが、その能力の大部分が"特権使用"である、これは超無法的バフを一日最大3回まで使用できるという能力ではあるが、その効果時間と自身に付与した際のメリットが少ないことから、Aランク冒険者の実力に収まっている。だが、その"特権使用"も使い切ってしまったのでウミとメルド、その他"バアル・ゼブブ"軍と戦闘している部隊は全滅が約束されたような状況になっている。
「死ぬのは嫌だけどよ!!ルルカに託せるってんなら、悪くはねぇ!"竜殺"!!」
「はい!!"熱炎攻襲"ッ!」
ウミとメルドのコンボ攻撃によって、バリア発生機能の一つが完全に破壊された。
「よしっ!他の奴らの援護に行くか!」
「はいッ!!」
そして二人が移動しようとした時、"バアル・ゼブブ"が軽く振動した。そして次の瞬間、プレイヤー間で取っていた通信が急に聞こえなくなる事態が起こった、そして
「っ!なんだこれ!?」
近接セキュリティがなかった"バアル・ゼブブ"本体の表面には何十機もの防衛機構が現れ、先ほどとは比べのにならないほどの弾幕を形成した。加えてその弾一つ一つが即死級の威力を持っていたため、プレイヤー達の数はみるみるうちに減っていく。
[────目標排除]
機械のような見た目をした大型の防衛機構はメルドに向かって一斉掃射を開始する。
「──っち、くそォ!!!」
メルドは大剣でガードしていたが、たまらず防御を捨てその機械に向けて大剣を大きく振りかざす。大剣は機械の頭部を潰す、がそれでも掃射は止まらずメルドは被弾して大きくダメージをもらう。
「っ!!やりやがったなッッ、竜殺十字刈」
大剣を引き抜き、回転斬りで銃口を削ぎ落とし、最後に心臓部へ向けの突き刺しによってようやくその防衛機構は動きを止めた。
「───ばか、やっちまった………くそ、」
メルドのダメージは思った以上に深刻だったのか、その場で片膝をつく。
「メルドさん!!」
ウミはそれにいち早く気がついてメルドの元へと駆けつける。メルドは腹部から血を流しており、止血しようとウミが自身のメイド服の一部を引きちぎり傷の場所は押し当てるも止まらない。
「悪い、これ結構キツイ………」
「いえ、まだ!」
誰が見てもわかる致命傷をおったメルドに対してウミは懸命にサブスキルなどを駆使して治療をする。しかしそんな二人を殲滅するようにメルドが倒した同型の防衛機構が銃声を鳴らしながらウミ達はと近づく。
「っ熱炎壁!!」
ウミは灼熱の壁を立ち上げて、諦め悪くメルドの治療にあたった。だがメルドはウミのその手を力無い手でパシッと止めた。
「もういい、ウミ、お前は撤退しろ。」
「──────。」
ウミも素人ではない。メルドが遅かれ早かれ死ぬことは目に見えていた、これはそんな彼女からの逃げろというメッセージ自分に生きてほしいという言葉だった。だが、ウミにとってメルドはそう易々と切り捨てられる人物ではなかったのだ。
「ま、まだ残っている方や攻撃している方が………
震えた声で彼女は言った。だがその事実も次のメルドの一言で台無しにされる。
「────ウミ、もう通信には誰も残ってない。」
それは今ここにいる自分たち以外が全滅したことを知らせていた。決死の覚悟で戦った戦士も、最後まで爪痕を残そうとした司令官も。みんな、みんないなくなってしまったことを意味するのだ。
「ですが、ですがっ!!」
「っはは……」
泣きそうなウミに対してメルドは乾いた笑いを見せる。ウミはそれが不思議で仕方なかった、まるで人生を諦めていながらそれでいてまだ希望があるとメルド言っているように見えたからだ。
「ほんっと、ルルカそっくりな頑固だな。」
メルドは、そう言った後にポケットゴソゴソして一つの結晶体をなけなしの魔力で起動させ、ウミはと押し付けた。
「これは……っ!」
ウミは理解した。それは転移の結晶体、事前に決められた位置に向けて安全に移動できる高級アイテム。それをなぜ今メルドが自分に渡したのか、なぜ足が速いが彼女が招集があってギリギリで第一防衛ラインの前哨基地に辿り着いたのかを。
「ルルカによろしくなウミ。」
「────メルドさッ!」
ウミは光に包まれながら流星のように第三防衛ラインへと飛ばされた。メルドはその空を流れる光景を見たあとどこか腑に落ちたような顔をして静かに笑った。
そしてウミが展開していた熱炎壁が解除される、炎の壁に群がっていた多数の防衛機構、虫達を目前にメルドは大剣を地面に刺しよろめきながら立ち上がる。
ご丁寧にも相手は待ってくれていた。
「………ウミにはああ言ったけどよ。俺はかなり諦めが悪いんだ。」
[ウィィィン!!]
防衛機構の回転銃が回り始め、メルドの体に照準をつける。
「だから───お前達には。最後に、死んでもらうっ!!!」
メルドは大剣バルムンクのスキルを解放する。そして自身の体がバラバラになるより先にその大剣を敵へと振り下ろす。誰もいなくなった"バアル・ゼブブ"の上で閃光が走る。やがてそれは消え、後には何も残らない。停止していた"バアル・ゼブブ"はリペアを開始しながら動き始める。
第二防衛ラインに集まっていたプレイヤーはウミを除いてほぼ全滅、一部のプレイヤーは自力で戦闘域を離脱後、第三防衛ラインに向けて移動を開始した。
第一防衛ラインの二の舞のような結果に見えるが、第二防衛ラインの戦闘によってバリア発生機能の半分以上を破壊、少量でありながら固定ダメージを与えられるようになり、デバフの付与時間も増加させることに成功し、"バアル・ゼブブ"を一時的に弱体化させることができた。
そしてこの戦果はウミが持ち帰ることになる。たった一人で。
『topic』
極黒閃光は今のところ相殺は不可能。メルドの技量によって撃ち流すことはできたが、魔力勝負に出ればほぼ勝ち目はない。




