百十六話「始まりの終わりPHASE-5」
前回のあらすじ
第二防衛ラインへと逃げ延びたウミであったが、プレイヤー達の雰囲気はお通夜状態であった。絶対的な戦力差を前に匙を投げ出すプレイヤーにウミは怒りをあらわにする。その連絡をギルマスのペルシドから聞いていたエズも激怒、紅月に逆境の打開策を求めて相談してみるも、本人の口から出てきた言葉エズがもとめているものとははるかに違っていた。自身の身の振り方をどうするかエズは苦悩し、紅月は再び装備製作の作業へと戻っていった。
──???・時間不明──
(ようやく意識がはっきりし始めてきた。)
(でも、相変わらずここがどこだかわからない。そして私の存在も)
(ただ名前はなんとなく覚えてる。でも"知ってる"けど"言葉"には表せない……口がないってこと?)
(!。いま光が、)
(───そっか、こうすれば。一時的だけど、私もあやふやな形から抜け出せる。)
(よし、なら……少し間借りるよ。)
──対"バアル・ゼブブ"用第二防衛ライン・サイモンプレイヤー軍団駐屯地──
第一防衛ラインでの戦いが終わってから【SAMONN】内で6時間が経過していた。駐屯地の雰囲気はもはや絶望に近い、誰も戦おうと言う者は一人もいなかった。いたとしてもそれは戦う気力を落とし、それでいて回避策を模索しようとするものだけ、真正面からの衝突は誰も望むところではなかった。
ただ一人、ウミとメルドを除いて。
「こりゃあ、ひでぇな。」
治療を終えたメルドが見た風景は悲惨なものだった。自分たちと肩を並べて戦う戦友は誰一人戦いを望んでいなくただそこにいるだけの木偶の坊と化していた。この光景にはさすがのメルドも叩きつけて、戦わせるっといった粗治療をしようとも思わない。
「………」
ウミは険しい表情のまま黙っている。メルドからしてみれば目の前のわかりやすい奴らよりもよっぽどわかりにくいウミのことの方が心配で仕方なかった。ただ自分にはどうすることもできないことくらいはわかっていたので、本人もウミの態度には特に言及はできなかった。
「ここの司令官のやつに俺も会ってくるよ。なんとかできないかってな。」
良い言い訳を見出せなかったメルドはそう言いながら作戦会議室の方へ向かっていく。ウミは変わらず俯いたままその場で立ち尽くしていた。
(………誰も戦わない。誰も、誰もが……この世界をどうでも良いと思っている、)
ウミにとってはかなりのショックであった。たとえ心の底からそう思っている者がいないとしても、"戦わない"という選択をしている者は目の前に大勢いる。結果が変わらないなら、今ここにいる人たちにいくら呼びかけても無意味であることをウミは理解していた。
(それでも……っ。)
っと諦めきれない自分がいる。ただこの状況を打開するには根底から思いっきり覆すような展開が起こらない限り、どうにもならない。
そう、何か行動を起こそうとしても、それが何にもならないという結果がウミにとってはひどく恐ろしいのだ。なぜならそれは自身の限界を嫌でも痛感するから、限界がないと口で、心で貫き通したところで現実の不変をその目で目の当たりにした時、自分はここにいる人たちのように気を落とさずに済むのだろうか、っと。
今の自分を壊して次に向かうのは、それほどのリスクと覚悟が必要であり。今ウミに足りないのは背中を押してくれる人だったのだ。
しかしここにはそんな人はいない、頼りにしている戦友はいれど、決定的に自分を変えられるような影響力をもてる人物は指で数えるほどしかいない。
(お嬢様、紅月様……)
そして。
(……)
故人に何を求めているのだろうか、っとウミは思考を止めた。その人物は変えようのない事実によってこの世を去った、もう戻ることはない。ただそれでもまだこのウミの中での大切な人であることは何一つ変わっていなかった。
(─────ですが、もし望んでいいのなら。私に、力を……)
奇しくもウミは"誰かに頼って、縋って、助けられたいと思う人"になったのだ。少し間違えば自分さえ嫌ってしまうような、そんな人間に。それでもウミは求めた、望んだ。このどうしようもない逆境を打開できる一筋の光が、世界を救ってくれる光がここに現れることを。
──???──
私は目を瞑った。そしてしばらく経って気がついた自分がどこか別の場所にいるということを、すぐに理解はできない。なぜそうなったのか、自分は幻覚を見ているのかっと言った様々な思考が飛び交う中、宙に浮かぶような不可思議な感覚だけが自分の体を包み込んでいる。
(心地いい……)
明らかな異常事態を前にして、そのような感想が漏れるほど私の精神は安定しており、加えてひどく冷静だった。論理的にものづけようとする頭とは違い心はこの状態こそが当たり前で、この状態こそ、自分の本来あるべき形なのだと認識していた。
(………)
それでも、例えそう思っていてもやはり違和感。というよりかは疑問は生じる、なぜここに自分はいるのか、いつの間にこんな場所に来てしまったのか。ただいっときの感情に流されず、思考を止めずにそのようなことを考えていると何かが自分の真横を横切ったような気がした。
(………!)
明かり、明かりだ。灯された火のような暖かな燈色のようなものが自分を通り過ぎてどんどん深淵へと消えていく。その光景に理解をしようとしていると振り返っていると背後からまたもや"明かり"が私を通り過ぎていく、しかも今度は二つ、いや三つだ。
(もしや、)
そう思い流れていった"明かり"を無視して再度振り返る。そこには驚くべき光景があった、先ほど通り過ぎていった"明かり"達と同じような明かりが目の前には無数に広がっており、私の方へといや、私を避けるようにこちらに向かってきていた。
(これは……一体?)
幻想的な風景に呆気を取られていると、とあることに気がつく。その"明かり"の中には見覚えがある風景があった。不規則的でバラバラであるが、しばらくして私はそれが自分の記憶、それも特に鮮明に残っておる1シーン達であることに気がついた。もし表現するならこの"明かり"達はすなわち記憶の断片、そして私を通り過ぎていっていくこの光景はまるで私に"過去を振り返れ"と諭しているような気がした。
(………っ熱い?)
"明かり"達が私の横を過ぎ去っていくごとに私の体は不可逆的な熱を感じ取っていた。ただ心地のいい時間とはおさらばし、ただただ灼熱に近い熱が私の体を焼いている。まるで自分が一つの太陽に近づいていっているようだ。
(熱い……体がっ)
耐えられないわけではないが、耐え難い熱。どんどんと体感気温を増すこの現象はいつまで続くのだろうと、もはや終わりを望むような思考へと切り替わっており、好奇心はすでに逃走心へと変わっていた。
「貴様は……。」
(────声っ?!)
突然脳内。というよりも空間に響き渡る声に驚く、体を焼いている熱が一瞬弱まるような感覚がした。
「貴様は、なんのためにその身を焼く。」
(焼く………っ?)
「……わかっているはずだ、貴様は最初から炎を使いこなしているわけではない、その身を焦がしながら戦っていることに。その炎は確かに全てを焼き尽くせるだろう、ただそれは貴様も例外ではない。」
(……………。)
唐突な言葉に私の頭は理解を急ぐ。しかし全てが不可解であるのにも関わらずこの声言っていることは一つ一つは確かに伝わっていた。
「しかし貴様は力を使い続ける。その炎を使い続けている、己を焼く覚悟を持って貴様は一体何を成す──?」
(私は…………)
心のどこかで思っていた。この炎は何か特別であると。異生を最も簡単に焼き尽くし、無制限に、そして私の意のままに操ることができる便利な力、それがなんのデメリットを持たないはずないということを。そしてその対価が、自分自身(魂)を焼くこと。
非科学的で、本来理解し難い事実。ただ今の私はそれが"現実"でありこの声が言っているは本当であるとなんの疑問にも思わず理解した。ひどく。冷静に。
「信条なき心にその炎は決して宿らぬ。貴様が迷走の道を行くのならその炎は自ずと消えていくだろう。だが、貴様にはあるはずだ……あの炎の槍を手に取った時から、全てを焼き尽くし、己がこれから成すべきことを成すための望みを!」
(そうです………私はあの時、炎の槍を引き抜いた時こう思った。決して負けてなるものかと、決して誰にも負けたくはないと。)
「ならば、貴様のその内にある火は一体何を表すッ!」
(それは────)
何もかもが不可解だ。それでも私はどこからともなく聞こえる声、その言葉に真っ直ぐ耳を貸し、答えを口にする。
「────私は、"乗り越える"。過去のしがらみも、辛い現実も、全部、全部全部全部!」
そして一番言いたかった言葉口にした。
「そして、今度こそ大切な者を守れる存在に────ッ」
そう虚空へ向かって叫んだ時、遥か遠くの暗黒から一筋の焔が私の胸に触れた。熱線のように真っ直ぐなソレは先ほどまで灼熱と感じていた私の体温をどんどんと下げる、まるで私に自身が炎に成り切ったかのような感触が体全体を通して伝わり不思議と気持ちの高揚と全身に力が入っていった。
「炎は決して裏切らない。その覚悟と意思と熱を決して忘れるな、そうすれば貴様には無限の力が宿る。万物を焼き尽くし己が目的を果たすまで戦い、進み続ける強き躍動。誰にも燃え尽きさせることができない、真の焔を。」
「───!待ってくださいっ」
声の覇気が薄れていることを感じた私は、私を諭したその存在がどこかえ消えてしまうと直感的に理解し、そして引き留めようと虚空へ手を伸ばす。
「貴様なら、成し遂げられるかもしれない。我らが尽きた勇士達の意思を……その炎をもって……打ち果たすことが。」
「───あなたは、一体。」
「もはや名乗るほどの者ではない。力が受け継がれた今、存在する道理なし。……貴様はなすがままに生きるのだ、誰にも縛られることなく、そして誰かに強制されるまでもなく、根幹にある自由意志と決して揺るがぬ炎火の誓いを心に─────ッ!!」
その言葉が聞こえると同時に暗黒に包まれていた空間は閃光のような眩い光に照らされ、真っ白な世界へと生まれ変わった。それと同時に私の中の何かが変わったと、感じた。
── 対"バアル・ゼブブ"用第二防衛ライン・サイモンプレイヤー軍団駐屯地──
「う………」
ウミは慣れない体の重圧を感じながら瞼を開く。そしてすぐに状況を把握する、彼女は近くの建物の壁に座り背中を預けるように眠っていた。周りに先ほどまでいた人達はいなく自分だけ取り残されたような感覚だけが今の彼女には残されていた。
「……なにか、大切なことを。」
そう口走った。何かやるべきことがあったはずだと、それを成し遂げなければならないと彼女は無意識に思っていた。
『おいっ!周りの奴らなら戦いたくないとかでもう帰ろうとしているぞ!』
「──えっ!」
『いくなら早く行くんだな。』
「──ッ!」
どこからともなく聞こえる声を気にする間も無く、ウミは飛び出し入口の方へと走っていった。まさに衝動の塊のような行動力しかし彼女の頭の中は空っぽだ、何かプレイヤー達を引き止める決定的な案があるわけでもなく、ただそうしたいからそうする、その結果がいかなるものであろうともする、それがたとえ無意味でもする。
先ほどまで落ち込んでいたウミの心はまるで火がついたような活力を秘めらせていた。
[ザワザワ、ザワザワ]
駐屯地の出入り口には人集りができていた。第二防衛ラインのほとんどのプレイヤーがそこに集まっており、閉まっている門の開閉をひたすらに訴えかけ続けていた。
「開けろ!!」
「ギルマスにはしっかり申請を出してんだぞ!」
「私たちを解放して!」
言葉だけ見れば、まさに奴隷達の反乱にも聞こえなくはないが。その実やっていることは敵前逃亡である。
門を閉めているのはメルド率いるこの第二防衛ラインの司令官、そして副官に当たるリーダー的ポジションのメンバーであった。押してくるプレイヤーの民衆を止めながら、彼ら達を門の外へ逃すのを必死に防いでいた。
「メルドさん、このままではジリ貧です。それにいつ怒りが爆発するのかも……」
「わかってる、でもここで俺たちが手を離したらそれこそ一巻の終わりだ。」
両者の対立はもはや避けられぬ状況。プレイヤー側も1秒2秒と時間が経つにつれて自分たちの身が危険に近づいていると知っていれば強行手段にいつ出てもおかしくはない。だがそれでもここを通すべきではないっとメルドも全く引き下がらない。
「こっちは許可が出てるんだぞ!」
「ギルマスからの正式な申請は出てないだろうが!」
「そんなん知ったことかよ、どうせ俺たちに無理な戦いしろって!上から目線なんだろ!」
「なんだとっ!!」
絵面はすでに混沌を極めていた。何かの拍子で爆発してもおかしくはない。やられる前にはやる精神であるメルドも流石に達観していられず背中に背負った大剣へと自然と手が回る。
(限界か、こうなったら力ずくで……!)
っと大剣を引き抜こうとした時。
「待ってください────ッ!」
人混みを掻き分けウミが物理的に衝突寸前だった二軍の間に割って入った。そして誰もがその行動に身を奪われ、同時に高まっていたヘイトはウミへと向けられた。
「ウミ────!」
なぜここにウミがいるかわからないながらもメルドはウミに注意を呼びかけようと大きく一声入れる。それに気付いていたウミは目でメルドに大丈夫と伝え、そして大きく息を吸う。
「皆さん、どうか落ち着いて私の話を聞いてください!」
「な、なんだお前ッ」
「あれってウミさんじゃない?」
「魔女様のお付きの?」
「どうでもいいよそんなの!」
あたりから聞こえてくる声は困惑、怒りなど様々であった。しかしウミはそれら一つ一つの言葉を耳に入れることなく、自分の話を続けた。
「皆さん、今一度……自分がどうしてここに来たのかを考えてください!」
その一言によってざわざわと自分ごとのように話始めていたプレイヤー達は一斉に静かになった。そしてウミは続ける
「皆さんは、なぜここに来たのですか。あの悪魔、"バアル・ゼブブ"の力は実際に戦わなくても見たことはある方が多かったでしょう。それこそ今の自分にはどうしようもできない存在であると気づくこともでき、──そしてこの招集に集まらないという手もあったはずです。それなのに、皆さんはここに集まった。」
『………』
誰もが考え始めた。なぜ自分がここにいるのかという"来た"ことに対する答えを、そしてウミはさらにその場のプレイヤー達に問いかける。
「私は、この【SAMONN】という世界が好きです、ただのゲームだとしてもここで生きて笑っている人達が大好きなのです。たとえ作り物の、NPCであっても私からすれば本物同然の人にしか見えません。ここで生きてここで死んでここで暮らし、明日のために働いている。偽りだとしてもそれが現実の私たちと一体なんの違いがありますか!」
『──────』
もやは他人事のように反論する声は完全に失せていた、それどころかプレイヤー達はウミの言葉の一つ一つに耳を貸し、今自分たちの忘れていた思いを取り戻そうとしていた。
「──私はそんな人たちのために戦いたい。そんな人達が明日を平和に過ごせるために戦いたい。この世界を平和のままにするために戦いたい!!自分たちと同じように生きている人達を見捨てることなんてできるはずありませんからッ!!」
最後に大きな声でそう言った。全体は完全に静まり返り、誰もが動きを止めてフリーズしたようだ、静寂がウミの放った言葉に対するアンサーなのかと納得し終えようとした時。
「僕は……いつも良くしている近所のおばさんを助けたい。」
一人の少年の見た目をしたプレイヤーが声を上げた、止まっていた周りの人達がその一人に注目して誰もが驚き目を丸くしていた。
「いつも、朝ログインして真っ先に挨拶してくれる。ただそれだけなんだけど!僕にとってはそのおばさんを助けたい!!」
足りない言葉ながらも少年プレイヤーの気持ちは周りのプレイヤー達にも十分に伝わっていた。そう何かの目的のため、旗をあげてここに来た、それこそが自分たちの本来のやりたかったことであると。
「俺は、まだ冒険者ランクを上げたい。もっと強いやつと、もっと仲間と一緒にこのゲームを楽しみたい!」
「私も、せっかく貯めたお金で新しい装備を買いたい!」
「俺も、知ってる店が潰れるのは嫌だ!」
「─まだ魔法国の図書館に行ってない!!」
「請け負った依頼をまだ解決できてない!」
「あそこのパン屋の新作、まだ俺は食べてない!食べてないで終われるかっ!」
「そうだそうだ!!」
「なら戦わないとだ!」
「アイツをぶっ壊さねぇと!!」
声が上がり始め、プレイヤー達はそれぞれ互いに自分たちの目的を思い出した。目の前の絶望に打ち砕かれている場合ではないと、声を段々と大きくしていった。対立していた雰囲気は一変し全員の士気は最高潮、戦わなければいけない理由を持った者達は互いに互いを高めていった。
「ウミ……やったな。」
「───。」
メルドの言葉にウミは目の前の光景が信じられないような顔をして、なんとも言えない顔をしていた。まるで言った張本人に実感がないようだ。
「ウミ?」
「─────本当に…?」
「─あぁ、やったんだ。全員お前の言葉に感化されたんだよ、この俺も含めてな!」
「そう、ですか………ハ、よかったっ」
ウミは気が抜けたようなため息を吐き、嬉しそうな顔をした。
そしてその後、プレイヤー達は残り少ない時間であろうとも対"バアル・ゼブブ"に向けての準備を開始した。司令官であるプレイヤーは即座に作戦を立案し、駐在しているプレイヤー全員に説明した。
「なるほど、一点突破か。」
メルドは即興的に作られた作戦ファイルに目を通す。
「はい。第一防衛ラインの時は総力戦のような形で本体を叩く部隊と雑兵を叩く部隊の二つに分かれてましたが、今回は一点突破右翼左翼を捨てて第二防衛ラインの守りを最小限に、集まったプレイヤーによって強行突破ののちに本体へと攻撃を仕掛ける作戦です。」
司令官は説明を続ける。作戦自体をみれば本来ならリスクがありは文句の一つがでてもおかしくないものではあったものの、全員大人しく聞いていた。
「致命的な点といえば、失敗したら第二防衛ラインの陥落は免れないってところか。それに完全撤退は難しくリス地次第では第三防衛ラインの時には間に合わない連中だっている。」
「いわばデスルーラー戦法。特攻です。」
ウミは一言告げる、しかし司令官の顔は変わらない。
「覚悟はすでに決めています。みんな、もう死ぬことを厭わってはいません……それに第二防衛ラインで倒し切れるとも、私もおもいませんから。」
「確かにな。」
「なので今回の最終的な目標は、対象の破壊ではなくダメージの蓄積、及び弱点の明確な解析となります。これで倒しきれなくても第三防衛ラインで倒し切れれば私たちの勝ちなので。」
「…………。」
ウミはその言葉に引っかかった。ウミがあの言葉を述べなければ全員このような死ぬことを考えた非道な作戦に出なかったかもしれないと少し自分を責めたからだ。そしてそれに気づかない司令官ではない。
「ウミさん、あなたのおかげで私たちは覚悟を決めることができた。自己犠牲が無意味ではなく、今自分たちができる最大の武器だと教えてくれた。守りたいものを守るにはそれなりの代償がいるということ、それを教えてくれたんです。───ですから、気負わず………最後の一人が倒したのなら、それは私たち全員の勝利なんですから。」
「わかりました。──なら、私も彼らの決意に反しない活躍を!」
「俺もいるからなっ!」
こうして第二防衛ラインの団結力は増し、この戦いに参加するもの達の心構えが自然と確立していった。そしてこの話はエズの耳にも伝わっていた。
──練鉱国ゲレーム・エズの執務室──
「っという感じだな。全く……」
「そうか、ご苦労じゃな。」
「ほんとだ。おかげでこっちは心をかき乱されたって感じだしな。……ていうことで心配はなくなった。」
ギルマスのペルシドはエズとの定期連絡にため息を何度も吐いていた。自分たちが心配していた時間は一体なんだったのかと、言っているようにも聞こえる。てっきりエズもその側かと見てみればその実、エズ本人はなんだがなんともいえはない心境になっていた。
「…………この間はすまなかったな。引き続き定期連絡を頼む。」
「─ん、おう任せておけ…」
突然放たれた一言に動揺したペルシドであったが次の瞬間、通信は切られた。エズにも恥というかなんというか気まずさを理解する心はあるんだなとペルシドは思っていた。対してエズは
「────本当に、傑作じゃな。ウミには感謝せねばならないが、なんとも手放しでは……今の妾は喜びたくない。」
ナズナが不在なエズの執務室で彼女は独り言を呟く。彼女の心境はもはや喜べるほど余裕はなかったのだ、色んな意味で。
『topic』
エズの「主」という言葉は「お主」という言葉の短縮系である。ちなみに「うぅむ。」は心に余裕がある時にしか発さない。




