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百五話「特別対策訓練。付属記録:フォズ」

前回のあらすじ


エズの依頼を受けた紅月はアンジュと共にサンドワームの調査へと出かける。調査中別のサンドワームから奇襲を受けることとなるが、これを撃退。標的を見失った紅月とアンジュはゲレームへと帰っていった。






 「オラァッ!!」


振り下ろされた大斧をタイミングよく盾で受け飛ばす。距離を置こうと少しバックステップするも、彼女の追撃は随分としつこく続いた。

そして戦闘の決定打となったのは、こちらの隙をついたビームライフルであった。


 [バギンッ!]


負荷がかかりきっていた大斧の根本を狙い、刃を外す。バッテリー内蔵型の実体斧であったため小爆発が起こり、相手が怯む、そしてその隙を逃さずビームサーベルを引き抜き喉元へと寸止めする。


 「───────ッ!、………俺の負けだよ教官。」


ゲームセットの文字が空中に浮かび出し、構築されていたあたり一面の戦闘エリアがたちまち崩壊していった。喉元においていたビームサーベルを腰部に戻し、戦闘態勢を解除する。


フォズとの1対1の直接戦闘。今日で数回目に当たるが、彼女が一度も勝ったところを見たことがない。というか、そうさせているのは紛れもなく俺なんだが、、


 「─────勝てねーッ!」


やっぱりかー、みたいなことを言うフォズ。疲れ果てたように、地面に体を大の字にして倒れ込む。


 「でも、なかなかいい線行ってたぞ。」


 「……ソレ、ほんとかよ??」


フォズは疑いの目をこちらにむけてくる。まぁ毎度のこと勝てなきゃそういう目をしてこられても仕方がない。


 「本当に本当だ。よく頑張ってるよお前は、」


フォズの手を引っ張りながら、なんとか上半身を起こさせる。だが俺の言葉を聞いても彼女はどこか腑に落ちない様子であった。


 「教官、手ェ抜いてないよな?」


 「抜いてない、抜いてない…!」


まさか。っと思い俺が笑いながら言えば余計に疑いの目が深くなる。だが紛れもなくこれは本心だ。


 ("近接戦闘"だけ見れば、フォズはかなり強い部類だ。それこそいずれは俺超えられる……でもまぁそれ以外の部分が結構致命的だな、)


考えていると、頭に着信音が流れてくる。見てみればどうやらエズからのメッセージのようで、今すぐきて欲しいとのことだった。正直フォズを置いていくのは少ししのびないが、


 「フォズ、休憩にしよう。俺が戻ってくるまで休んでてくれ。」


 「……了解、、ってもしかして依頼か?」


 「いや、そんなんじゃない。すぐ戻ってくる。」


フォズにそう言い残し、俺は少し急足でエズが待っている場所へと向かった。




 ──ゲレームMk~Ⅱ・自由会議室──




 指定された空き部屋についた俺はすでに待ち構えていたエズの反対側の席に座る。


 「サンドワームの結果が出たんだな。」


 「うぅむ。」


挨拶もろくにせず、本題に入る俺。この間アンジュと共に取ったデータをエズに渡し、分析をさせてもらっていた。だが渡せた成果はほぼ映像のみ、直にスキャンすることができなかったため、正直調査としては大失敗に当たる。


だがエズからの依頼はなく、しばらく経って現にここに呼び出されたということはそういうことなのだろう。


 「それで、何がわかったんだ?」


エズは部分的に切り取った光学写真を俺に手渡をして説明を始める。


 「さて、おさらいすると……近頃サンドワームは人を活発的に襲うようになった。元々温厚、、というわけじゃないが、人を襲うタイプの魔物ではない。そのため、前回、お主……とアンジュに依頼を出したというわけじゃ。」


エズがわざわざあらすじを語ってくれている。気になったのはサンドワームが人を基本的におさわないという情報、そんなの聞いていないんだがっと思いつつ、話を続けるエズのために黙る。


 「そして、お主から受けとった報告書と映像を一通り解析した後に、見つかったのがそれじゃ。」


俺が手に持っている、写真に指を刺して確認を促す。しかし俺は写真に収められたサンドワームの姿をいくら確認しようがなんの変哲もないと思う。なぜなら見本なんてものが存在しないため比較しようがないのだ。


 「……どこか変か、これ?」


 「うむむ、首……いやこやつにそんなのないか。体のところに変なのが埋まっておるじゃろ、」


 「あぁこれか。」


確かに体の背面(こいつに背面があるかどうかは知らんが、)らしき部分に小さなバッテンじるしの何かがくっついている。正直、魔物だからそのくらいの装飾くらいあるだろう的なニュアンスで通り過ぎていた自分だが。そうか、これモンスターのチャームポイントじゃないんだな。


 「妾はそれがあやつらが活発化した原因だと睨んでおる。もっとも、実物が手元にない以上そうであると確認しようがないのだがのー。」


 「また行けってか?」


 「そうは言っておらぬよ、お主が仕留め損ねたとなればいい加減な手法は使わん。」


エズはどうやらまたもや俺を過大評価しているようだ。正直、めんどくさい。こういう時、物差しに使われるのは責任的な問題で後々厄介になりかねないからだ。


 「で、どうするつもりなんだ?」


 「近々大きな作戦を行うつもりじゃ。軍も動員させた本格中の本格作戦。主にも手伝ってもらおうとな。」


 「それはいいけど(お金がもらえるなら)、そこまでする必要ある案件か、これ?たかだか取り逃した程度で………」


過大評価もここまでくれば、逆にエズの頭を心配したくなる。俺はエズに真意を確かめるような口ぶりで聞いてみる。


 「あるんじゃよ。というよりかはちょうど良かったというべきじゃ。」


 「ちょうど良かった?」


俺が疑問に思い聞いてみると、エズは得意そうな顔をしだす。


 「お主も知っているであろう、イレギュラーの侵略によってこの国は致命的な被害を受けた。不甲斐なくもな。というわけで国民からは正規軍はボロボロで壊滅的じゃと思われている。となれば不安にもなろう、お主だって年金保証がないのに働きたくないじゃろ?」


 「うん、まぁ……」


俺の歳からしてもわかりにくい例えだな、っと思いながらエズの話を聞き続ける。


 「そこで、妾たちは国民を安心させなければならない。軍は完全復活をとげ、今や敵なしであるということをな!そしてそのためにはデモンストレーション、つまり見せ場が必要ということなのじゃ!!」


 「つまり、サンドワームをかたやパフォーマンスのように倒して、国民に軍は健全だと知らしめる……ってことか。」


 「そういうことじゃなので、今度こそは確実に堕とせる。いや堕とすつもりじゃ、そして国民たちは妾の勇姿を見届けて大盛り上がり、落ち込んでいた心も復興に向き、みんな万々バンバンザイじゃ!どうじゃ妾の名案は……?」


確かに考えられた作戦だと思う。だが、そのドヤ顔で言われるとどうにも小物感というか不安感が俺の頭の中でよぎる。こういうことを言う時は失敗するのがお約束だとか誰かが………いや思えば思うほどダメになりそう。やめやめ、こんな考えは捨てておこう。


 「ま、まぁ……いいんじゃないか、にしても。さ、さすがエズ、機転が効いてるな──!」


 「ふっふーん!!そうじゃろう、そうじゃろう!妾はできるタイプの人間なんじゃ!!」


正確にはオートマタの気がする。っとかも言えないくらいご満悦に喜ぶエズ、張れる胸がないことは残念に俺も思うが、そんなことよりも不安がさっきよりも強くなる。あぁ、次の瞬間面倒なアクシデントでも起こらなければいいけど……


 「────紅月教官!ってエズ様も!?………失礼いたしています!!」


ほら、ガラス扉を破壊するような勢いで部屋に入室してきたアンジュが大声を上げる。これだから変なフラグなんてものは嫌いなんだ。


 「───それでどうしたんだアンジュ?」


頭を切り替え、こういう時に上が焦ってはいけないと思いつつ落ち着きながら、止まっているエズをそっちのけでアンジュの話を聞く。


 「ぁ。───じ、実はフォズが、軍直属の一部隊と無断で抗戦を開始して!」


 『────なんだ(じゃ)って?』




 ──少し前・戦闘訓練場──




 「………」


フォズは空いたベンチに座り込んで、体内に溜まった熱を排熱をしながら考えていた。どうしたら紅月教官を超えることができるのか、どうしたらもっと上手く立ち回れるのか。


 (俺は突っ込むことしか脳がない。どうしたらアンジュ達の迷惑にならねぇ立ち回りができるんだ?)


自分の行動によってパーティが制限を受けるなんてことは言語道断だ。それは隊列を乱すこととやっていること同義であり、それこそ崩壊の一途を辿る可能性がある。


自分だけで終わるならまだしも。みんなの命を自分の役目に預けている以上、成果を出さなければならない、しかし今のやり方ではダメだ。


 (教官みたいに全体を見ながら、立ち回れねぇ。)


一人で多人数を相手できる教官は紛れもなく強い、そして戦闘中であっても自分たち6人に手加減をして勝てるのだ。機体性能だとかなんだとか言っていい立場でもなければ言える義理すらない。自分にできないことをやれる人は紛れもなく強い。


毎回毎回、教官に勝てない理由は技量も含めた自分の力不足からくるもの。適当なこと言ってないでしっかりやれと自分に言い聞かせるも、こと戦闘に入れば、頭に残るのは相手を倒すか倒さないか、短気と言い表せるのにも限度がある言動だ。


 「………クッソ。」


こんな不甲斐ない自分が情けない。きっといつも誰かに迷惑をかけている。それこそ、アンジュ達の足を引っ張っているのだと。こんなことでは、自分はいつか"いらないもの"とされる。


 フォズは自己嫌悪に陥っていた。無鉄砲で何も考えていないような言動が目立つ彼女は実のところかなり繊細だ。紅月への敬意を持つようになってからは、過去に自分が犯した過ちを振り返るたびに自分のことなのに憤りを感じるほどだった。


取り繕っているわけではない、ただ異常なまでに素直ではない彼女の人格が今を作っているのだ、誰にも相談できず抱え込む自分を。


 「あら、珍しい先客がいらっしゃいますわよ。」


 (──げ、、)


会いたくないグループに出会った。口には出さなかったがフォズの表情は90度反転し嫌悪で染まったような顔になっていた。もはやお前達が嫌いをそれで十分に表現できるほどに。


 「随分と、個性的な顔をするのですね。目障り極まりない、」


先頭のリーダーがそう口にすると後方に続いている9人は嘲笑い始める。フォズはこういった輩をめっぽうに嫌う、こいつら10人組が嫌いという面ももちろん影響しているだろう、だがこんなのはこいつらの前座に過ぎない。


 「さて、私達はあなたのようなお馬鹿さんに付き合っている暇はないの。さっさと視界から消えてくださる?」


 「……無理だな。俺は教官を待ってやってるんだ、それにしっかりとここの使用スケジュールにも俺たちの名前が書かれている。訓練するなら別の場所にするんだな、」


フォズは自信満々にそう答える。以前の彼女なら、こいつらのめんどくささから逃げるようにその場を離れただろう。だが教官からこういう利口な相手に対する手段もしっかり学んでいるフォズはただ黙っているわけではない。


 「スケジュール……?」


 「なんだよ、知らないのかよ。下位部隊の俺たちでも知ってるのに、上位部隊のお前達でも知らないことでもあるんだな!」


 「────っ」


目の前にいる10人組は上位部隊と呼ばれる。軍の中でもエリート部隊に当たる連中、そしてその中でもフォズが個人的に性根が腐っていると思っている奴らだ。たびたび、陰口だとかを言われていたフォズからすれば今のリーダーの顔は相当に気分が良かったに違いない。


 「あら、随分と口が回るようですね。それも、あなたの言う教官という方からの入れ知恵ですか?」


 「教えるか、」


 「…それにしても、その教官という方も大変ですね。このようなお馬鹿さんにわざわざ時間を割いて直接訓練していただいているとは、」


 「っ、また悪口かよ?」


 「いえいえ、同情しているだけでございますよ。ただ、そうですね……あなたの言うその教官という方ももしかしたら私たちのところに来ればさぞや効果的な訓練をさせていただけるのではないかと思いまして。」


いや、教官は教えるのが下手だからそんなことにはならない。っとフォズは思ったが、メンツが丸潰れになる可能性を考えてあえて言わなかった。紅月自体がたまに自虐で言うくらいには本人もそこそこ気にしていることをわざわざ言うフォズでもなく。


 「そうです!、あなた達役立たずに教えるよりかは、私たちの方に───」


 「───おいっ!テメェ!!」


言葉を聞いたフォズは部隊のリーダーが次の言葉を発する前に近づき、大きな声をあげ怒りの眼差しを向ける。怒りへの到達はあまりにも早かった、それは自分ではなく仲間のことまで馬鹿にされたからだ。


 「あらあら、いつものふざけた態度に戻りましたね。そうやって暴力に頼ることしかできないのが役立たずの象徴ですよ、」


 「クソが────。」


一度ついた火を簡単に消すことができないように、フォズはさらに怒りを燃やし続ける。だがほんの少しの理性によって手が出る寸前で止まっている。


 「本当に意味がないことをするのが好きなのですね。こうなると貴方を教えているあの教官というのも、大したことないのかもしれませんね…!こんな野蛮オートマタを御せないほどに!!」


その言葉を聞いた瞬間、フォズの心は決意に固まった。そして構えていた右腕でリーダーの顔を殴りつける。


 「──ッ貴方!」


 取り巻きの一人が、殴られたリーダーを心配しながら反攻の目を瞬時にフォズへと向ける。そして品性がないだのなんだの言ってやろうとしたが、


 「テメェ、取り消せよ。じゃなきゃ俺がそのペラペラの口を配線が見えるくらいボコボコにかち割ってやるよ。」


口から漏れる言葉に殺気が混じる。


フォズの怒りは頂点に達していた。仲間を馬鹿にされるだけにとどまらず、尊敬する教官ですら貶されたならこうもなる。本人の心にはもはや上位部隊だとか、自分より強くてうざいやつだとかの隔たりはなく、ただただ自分の敵を抹殺することだけを思っていた。


 「────取り消す。…いいですよ、貴方が私たちに勝つなら、取り消してあげてもいいでしょう……もっとも貴方に勝算があるのなら、」


 「上等だ、ガタガタにしてやるッ!」


 相手のリーダーが言ったのは模擬戦の誘いだった。一撃殴られていながらその言葉には自信と静かでありながら深い反攻心があった。間髪返答したフォズであったが、正直ここで力ずくで全員を殴り潰せばそれはそれで奴らに自らの力で上だとわからせた、スカッとしたなどの求められる結果を得られただろう。しかしフォズは自らの実力、模擬戦での勝利を望んだ。残った理性がそうさせたのか、はたまた絶対的に自分が勝ち相手を確実に殲滅できるならなんでも良かったのかはわからない。


怒りで心が満たされた彼女は、まんまと誘いに乗って10対1の戦いを了承してしまったのだから。


 そしてそれぞれ勝手に模擬戦を始めるべく、対向側の準備室へと入っていく。フォズは迷いなき動きで武器を取捨選択して、スタートの入り口に入った。


 (あいつらに俺の強さを、そして教官がくれた強さを見せてやる………ッ!)


その当の教官はたとえ、口車に乗るならと言ったとしてもそれは紅月の心であってフォズではない。フォズからすれば仲間を馬鹿にされるほど許せないものはない、そして許してはならない理由はない、いつもは誰かが羽交締めをして止めるところを今回は一人だけ、不利であることは理解している。


だが、それ以前に今まで溜まっていた怒りを再燃化させフォズは力に変えていた。


 [─ゲームスタート─]


文字が現れ扉が開く。間髪入れずにスラスターで前進し、接敵距離を縮める。初動にどれだけ距離を詰められるかがこの先頭での鍵となっていることをフォズは理解していた。それは、


 [シュン!]


狙撃型のライフル弾が自分を狙ってきている。そして続けて避けたところを狙うように同じ方向から射撃の雨が無数に自分を狙ってくる。すぐに近くの岩影に隠れスラスターを冷却する。


 「相手は近接型、射撃で近づけないようにしなさい。」


 (チッ、やっぱりそうくるよな……!)


口では散々で偉そうな態度をとっている奴らのリーダーだが、戦闘では紛れもなく働き者だ。仮に実力差があったとしても戦術で埋められるほどの力を有していることもまた事実、だがそれに臆するフォズではない。


 (こういう時、教官なら……)


フォズは教官の動きをまず頭に浮かべた。真正面から突撃して弾を全て避けて相手の武装を解除して、殲滅する。


 (いやっ!できるわけねーだろ!!)


第一なんで、突撃してんのに正確に回避できんだよ、弾の動きでも見えてんのか。っとフォズは思った。背後の岩が銃弾によって削られ後10秒ももたないことを理解しているフォズは焦る気持ちを抑えてもう一回教官のことを思い出す。次は言葉だ、


確か自分はその後教官に「その動きができない」っと言ったはずだ。そしてそれに対する教官の答えは


 (敵の弾幕が厚すぎるなら、自分で遮蔽物を作れ。)


フォズは妙案が浮かんだ、しかし自分が果たして実行に移せるのかという疑問は残る。だが岩が砕かれれば集中砲火で蜂の巣にされることは明白、となれば迷っている時間なんてものはすでにないのだ。


 覚悟を決めたフォズは、地面を大斧で削り、プレート一枚を剥がしとる。エラーが起きたように擬似戦闘区域の一角が虹色に点滅し続ける。絶対後で怒られることを覚悟にプレートの配線を自分の腕に巻き付け、そして彼女を守っていた岩がついに砕け散った。


 [ドガンッ!]


榴弾によって破壊された岩から出てきたのは鋼鉄のプレートを前に構え突撃するフォズであった。彼女を狙う銃弾は全てプレートに吸われる。そして、


 「なっ?!」


予期せぬ行動に一瞬の隙を見せた上位部隊の一人。チャンスだと感じたフォズはその者に向かって腕に絡ませていた配線をまるでロープのように使い、体を回転させタイミングよく離し投擲させる。


見事命中した。これによって弾幕の中に一つの道が開ける。プレートをぶつけられた者は怯み射撃の手を止めた、そこに大斧を持ったフォズが突貫する。


 「───おおぉらッ!!」


近接戦は一瞬が命取りになる。ことフォズの大斧はビームシールドでもなければ完全な防御は不可、近づかれ攻撃態勢を取らされた時点で回避を取らなければ一撃死である。


縦振りされた、大斧は上位部隊員のあらゆる装甲を破壊し、右肩から左腰にかけてその体を斜めに切断した。

 

 「───………ぁカ、」


言葉を正しく発する前に、フォズによって撃破された。そして彼女は得意な表情を浮かべ


 「まずは一体……ッ!」


 [ババババババッ!!]


さすがは上位部隊と言ったところか、味方がやられた時の対処も早いとくる。1秒早く行動していたフォズはすぐ近くにあった岩いわを使い狙撃手の元へと身を隠しながら移動する。前衛を担っていた数人はフォズを追いかける。


 「クソ、役立たずのくせに!」


 「仇を────」


 味方を倒されたのならば、焦りも怒りも抱く。それはフォズとて同じだ。しかし彼女はわかっているそんなものが戦いの場においてどれだけ自身の判断を鈍らせるか、紅月との戦いで嫌というほど学んでいる。


自分を求めて進軍しすぎた一人を目にして、わざとスラスターを右回転させ、斧を構える。そして急速に止まったことによって反応できなかったその一人を見事な回転切りで切り落とした。


 「───ぅぐっ!、、ぁ?!」


上半身がきりころげてフォズの足元へとくる。そして体を足で踏み、頭部を斧の持ち手で直接粉砕した。慈悲もない行動に、上位部隊員は恐怖を感じる。


 「包囲を、ここで止めます!!」


リーダーの命令に動き出した部隊員達はスモークをフォズへと投げる。レーダーを使えなくするジャミングスモークであった。だがこれでは敵味方ともに視界不良で相手の位置がわからない。狙撃手を除いて、、


 [パァンッ!!]


徹甲弾がフォズの右腕の付け根を撃ち抜き、握っていた大斧ですらも一緒に腕ごと吹っ飛ばす。少しでもずれていたのなら撃ち抜かれていたのは頭部だ。


 「そこですねっ!!」


金属音から逆算して、場所を特定したリーダーはクローフックでフォズの胴体を捉える。腰部にあったコンバットナイフを引き抜き、繋がっていたワイヤーをすぐさま切断したフォズは持っていたナイフをリーダーに投擲。


その隙に自分の獲物である大斧を手に取り、態勢を整えようとした瞬間、


 「今です!!」


背後から二人の刺客。両者の手には実体剣、


 「───うおりやぁぁぁあああ!!」


 完全に背後を取られて誘き出されたフォズは左背後にいる一体に向けてノールックで頭部から大斧をカウンターで喰らわせる。頭から首の根本当たりまで一瞬にして砕け散り、胸に刃が届きそうなところで、もう片方の敵に左腕を切断される。

しかし腕が切られたところでフォズは止まらない、スラスターを使って急速旋回し回し蹴りをして突き放す。たとえ両腕を失ったとしてもまだ足があるフォズは最大限あがこうと背後にいるリーダーに目標をつけてスラスターを強制噴射、


 「くっ、悪あがきを───ッ!」


相手が実体剣を引き抜き、突撃するフォズの速度に合わせて切りつけようとする。しかし反応が速かったフォズは足で剣を素早く蹴り飛ばし、彼女の顔面に向かってスラスタードロップキックを決める。さらにもう1発と吹き飛ばされた彼女に足でもう一撃与えようとするも、狙撃が飛んでくる。


正確すぎる狙撃によって右足は空中でくるくると回りながら吹き飛ばされた。バランスを崩したフォズはスラスターの勢いを残したまま硬い地面にダイブする、地面との摩擦によって装甲が外れ、まずいことにコアが露出してしまっている。


 「このっ────役立たずめ!!」


相手のリーダーは殺意の眼差しを向けてくる。プライドが高い彼女の顔にドロップキック、仲間を3人も撃破すれば、当然の反応である、なんなら今までよくもまぁ我慢していた。


 「ぐ、、はは………気分いいな、バカにしてくる奴らを真っ向からぶん殴るってのはっ!!」


 リーダーの足がフォズの胴体に乗ると、彼女は最後の最後までそう口にしてあがこうとした。それがリーダーの精神を逆撫でし、彼女はフォズに実体剣を向けた。そして狙いはコアに向いていたのだ、


 「ふ、ふふっ。あなたのような不良品は私自ら破壊して差し上げるのが道理────ここでぇシねーーーっ!!」


明らかな殺意がこもった攻撃、この場では禁じ手とされているコアへの、いわば命への直接攻撃。まともに当たればどんな機体ですら一撃死亡、それが今フォスへと向けられている。いずれやるんじゃないかとは思っていたフォズは攻撃される瞬間まで表情を崩さなかった。今の自分の心がこれでもかというほどに心地よかったからだ。


嫌いなやつをぶっ飛ばせて、体に足を乗っけられているのは癪だが、思いのままに戦うことができた。もとより自分は戦うために生まれたのだ、そのために死ぬこともある種本望のようなもの、ただ少しの心残りはあれど、フォズの心は間違いなく晴れやかだった。


 (悪ぃ、教官……俺もっとアンタに、)


ただ少し怖くて、フォズは最後目をゆっくりと閉じた。


 [ギィン!!!]




 ──ほんの少し前・戦闘訓練場に続く移動通路──




 アンジュから話を聞いた俺は戦闘がすでに始まっている戦闘訓練場に向けて、走りながら向かっていた。エズも状況を聞いて俺の背後についてきている。(アンジュも。)


 「すまん!妾の間違いない監督責任じゃ、よもやそのような阿呆がいるとはっ!」


 「そのセリフは聞き飽きた、とりあえず今は戦闘を中止させることが先決だ!」


フォズのことだから、ただではやられないように立ち回っているはずだ。だが、誰しも頭に血が昇った時の行動というのは予測不可能なものだ。


 (無事でいろよ。)


焦りたい気持ちをグッと抑えて、俺は走りついに戦闘訓練場に辿り着いた。近くにある制御パネルに向かう前に俺は戦闘がどうなっているかを真っ先に知るためにガラス状になっているドームに顔を近づけた。


戦闘区域中での戦闘はほぼ終わっており、フォズ五体満足とは言えないが頭と胴体が無事な姿に俺は安堵する。


 「フォズ……!」


 「無事じゃったか!今すぐに、強制終了を──」


エズがその場を離れようと制御パネルに向かおうとした時、一人のオートマタが実体剣を取り出しフォズの胸元にある露出したコアへと刃を向ける。その行為はもやは殺人の瞬間と何ら変わらなかった。


 「フォズ──ッ!!」


アンジュが声を張り上げる。それはフォズが危険であることを知らせているのか、それともフォズに動けという命令をしているのか、どちらにせよ。ここにいる自分たちは無力だ、生半可の攻撃では壊れないように作られているこのドーム型の強化ガラスを突破すなければ今命を散らそうとしているフォズを救いにいくことはできない。エズが制御盤に向かっていっても停止ボタンを押す頃にはすでに手遅れになっている。


 今の俺たちではどうにもできない。そのことを真っ先に理解した俺は意識の世界へと沈む感覚がした。


足元が水場になり、そこから深海へと沈んでいく。自身の無力さを突きつけられるように、そしてあの日心の底から誓った時の約束を結局俺は守れないという現実に打ち砕かれるように、、


 (あの子を助けたい……?)


人の声を聞いた。自分の心がそう言っているのか、それとも誰かが俺に囁いているのかどうかはわからなかった。ただ、わからなくても、何もわからなくても俺の回答は早かった。


 「あぁ、助けたい。大事な、人なんだ。」


部下と上司そのような堅苦しい強い関係ではない、俺からすればあいつらは全員自分の仲間のような存在だ。最初は責任を負うことに嫌気がさしていた自分も、今なら喜んで、いや自分の命を持って救うに値するものだと確信した。なら、この言葉は義務や責任からくるものではない、俺の間違いのない本心からくるものだ。


 (そう、なら力を貸してあげる。必ず救ってあげて………)


 「─────っ!!」


声が返事し終えると俺は現実に戻っていた。自体は何も変わってはいない、ただ俺の思考の速さが周りをゆっくりとさせている。まるでスローで世界が流れているような感覚。でも、今はそれだけで十分だ、おかげで的確な行動ができる。


 「エズっ制御盤に行け!」


 「紅月───お主はッ!」


体全体に魔力放衣を展開する。そして、ドームの強化ガラスに食らいつく、拳を握りしめてありったけの魔力を込めるそしてガラスへとパンチを入れる。だが、あまりの硬さにそのまま弾かれる。やはり、装備なしの素体状態だと攻撃力がない、せめて貫通できる刃でもあれば───!


 「教官ッ」


いや、諦めてたまるか、アンジュの前で仲間を死なせてたまるか、


 「うおおおおぉーーーッ!!」


魔力を凝縮した右手に魔力刃が形成される。青紫色に光るそれはまさにレーザーブレイドと呼称するのには十分なものだった。そして、先ほど同じように俺はその強化ガラスに拳もとい手甲刃を差し込み入れる。


 [ギィィ…バリンッッ─────!!]


手応えをすらなかったドームの強化ガラスは今の一撃によって、完全に破壊。俺は戦闘区域への強制乱入に成功した。だが、まだフォズのところに辿り着くには距離がある。だが、もし同じ容量であれを"模倣"することができるのならっ


 (魔力を脚部に!)


魔力を足にありったけ送り、スラスターをいつも使う感覚で吹かす。すると俺の体は前に押され、魔力での飛行を可能とした、その速度は意外にも早くフォズの胸に実体剣が突き刺さるスンデのところで届くことができたのだ。


 [ギィン!!!]


 「──────!?、あなたは………誰ですかっ!!」


 「教官だよ、フォズの……なっ!!」


トドメを刺そうと向けれていた実体剣を魔力剣で受け止め、フォズへの直撃を回避する。そしてレーザーブレイドで実体剣軽く弾き飛ばした。空中を舞う実体剣、地面に落ちるより早く俺は空いていた左手の拳で相手を突き飛ばす。砲弾を喰らったかのように吹き飛ばされた相手はゴロゴロところがり、向こう側にあった岩へと体を衝突させた。ガラガラと岩が崩れて、大きく損傷した敵が話しかけてくる。


 「ぐっ…………何を────。」


 「何を、だって?お前らはやっちゃいけないことをしたんだよ。怒りで心を埋め尽くして、かたや自分たちの立場を忘れて、そして味方を殺しかけた。タダで済むと思うなよ、」


相手がこちらを睨みつけ、一矢報いようとするもその機体はすでに動ける状態ではなかった。俺が言い終える頃にはあたり一面の構築されていた地形情報が解除され、粒子となって散り散りになっていった。何の変哲もない遮蔽物のない、殺風景な訓練場と化した。


 『戦闘を中止して、武装解除せよ。これはゲレーム女王である妾の勅命である、そして、今回戦闘に参加していた上位部隊には罰則を与えるため、残ったメンバーは素体を回収し指定される場所へとくるのじゃ。』


相手のメンバーが仲間の砕け散った素体から、リーダーの素体に肩を貸し退却していく。最後まで俺への睨みつけをやめなかったやつはきっとエズの手で碌でもない目に遭うことなのだろうと少し複雑な心境になる。


だがそんなものを差し置いて俺は放置されているフォズへと近づく。


 「教、、官。」


フォズの体は左足を残して四肢は全欠損。胴体も複数による傷つけ跡があり、胸にあるコアは当たりどころが悪かったのか露出している。それらを改めて見ると、心が痛くなってくるものだ。


 「よく頑張ったな、フォズ。帰るぞ、」


フォズの体を、持ち上げて抱える。欠損箇所が多いからか、彼女の意識は朦朧としており俺の声を聞いてすぐに気を失った。俺は、フォズを抱えたまま、医療室へと運び込み、専門家にあとを託した。アンジュは終始フォズの状態について俺に質問攻めだったが、俺からの話を聞いて落ち着いてからは、彼女を心配して医療室へと残った。


そして当てもなく、俺はそこら辺を歩いているとエズに出会った。


 「エズ………」


 「すまんかった紅月。こればっかりは妾のせいじゃ、」


開口一番に聞いた言葉は謝罪だった。


 「いや、いいんだよ。こればっかりは仕方ない。」


 「…………例え、同じ種族だっても仲良くはできないんじゃろうな……」


意味ありげにそう口にするエズに俺は"そうだ"と言いたくなったが。


 「逆に、俺はそれが正しいとも思うな。違いがあるから確かに争いはあるが、でもそこから生まれるものもあるはずだ。」


 「それは────?」


 「、、、さあな?、俺のこれも所詮は誰かからの受けおりだ。」


言った口のくせに答えは見えてこなかった。ただエズの言葉をどうしても了承、認めてはならないものだと俺の直感が囁いたのだと、俺はその時解釈した。実際に、エズは"何だそりゃ"と言いながら。


 「言葉の本意はしっかり聞いておくんじゃぞ紅月。知ったかぶりなんてカッコ悪いからの、、」


 「……同感だ。」


たわいのない会話をして、俺たちは別れた。ただ別れ際のエズは会った時と違って、どこかスッキリしている様子だった。




『topic』


紅月のスキルに魔力構築(EX)が追加された。


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