百四話「サンドワーム調査依頼。付属記録:アンジュ」
前回のあらすじ
社会勉強を兼ねてアンジュ達を城下町へと連れていく紅月。しかしあまり結果は振るわなかった。エズは難しそうな顔をしながら、先は長いと口にするが、当の紅月はそうでもないようであった。
俺がアンジュ達を鍛え始めて大体1ヶ月くらい経った。半強制的な義務のように感じられるこの仕事は俺としてはそこそこ新鮮でありながら、難しく……ただ悪くはない時間だったと思う。戦いを積み重ねていくごとにあいつらが俺に段々と近づいていることを日に日に感じるというものだ。
だが個人的にはまぁまぁきついかなと思っているところ。
「紅月。お主に依頼がある。」
エズに呼び出されたと思えば、挨拶後の開口一番に聞いた言葉はそれだった。依頼なら絶賛進行中だが、っと言いたくなったが顔を見ればまた違う分類であることがわかる。
「サンドワームの調査じゃ。」
テーブルのボタンを一つ押して、ホログラムマップを展開するエズ。青の網目状に構成されたそれはゲレームから広大なバスク砂漠一帯を表示しており、続けて赤い点がマップの至る所に表示される。
俺の意見も言葉も聞かず、エズは話を続けた。
「赤い点が近頃確認されたサンドワームの被害場所じゃ。お主にはここは一帯の調査を主軸に進めてもらいたい。以上じゃ。」
随分と消極的というか単極的なエズに俺はため息をつく。そして、
「……随分と向こう勝手に言ってくれたが、俺はまだ受けるとは言っていないぞ?」
「いや、受けるじゃろ。」
「いや受けるけどさ。」
借金が全額払われた身としては少しでもいいから金銭が欲しい。アイツらにあげている小遣い分を少しでも稼ぎたいなと考えているからだ。
それと、エズが出す依頼は決まって高額なためこちらとしては断る理由がない。
それこそ、Bランクの俺が稼げる量の2〜3倍の量で出すのだから。
「で、サンドワームの調査って、これまたなんで……?」
赤い点を引っ張って、サンドワームの概要情報を閲覧しながら、俺はエズに問いかける。依頼を出されるのは勝手だが、その真意を聞くことぐらいの権利はあるだろう。
「言った通り、近頃サンドワームが意味なく暴れておる。ゲレームはバスク砂漠の中にある以上、商人たちはこの過酷な地獄を渡ってくることになる。すれば、この国の利益も落ちるというもの、それが自然災害ではなく魔物であるならば、必ず理由があるはずじゃ。。」
わかるような言葉での説明はありがたいものだ。俺は魔物の生態とか知らないからよくわからないが、エズがそう言っているからそうなのだろう。
とりあえず、動機はわかったので。
「とりあえず行ってくる。エズ、改修に出していたやつ引っ張ってきてもいいよな?」
「うぅむ。無論もう終わっておるよ。気をつけてな、」
部屋を出るついでに装備のことを確認し、俺は工場へと向かった。自分専用の工場に位置されているAW一式装備、その改修型を手早く身につける。
[────AW改機動シーケンス開始、完了。オートチャージモード、システムメンテナンスを解除────全システムオールグリーン。]
久々に聞いたシステム音が俺の心を入れ替える。というのも教官をしている間は基本的にゲレームの製造型の装備を使っていたため、俺自体AW装備を身につけるのはそこそこ久しかったりする。
「起動動作は問題なし、可動動作も問題なし、エネルギーパッケージは少し増えて。新プロトコルの互換性も問題なし。よし、行くか。」
手動メンテナンスを行った後、俺は早速現場に向かうためにエレベーターへと向かった。その道中で、
「紅月教官───!!」
アンジュ達と出会った。今日の訓練は午前で切り上げていたので、彼女達からすれば今は午後休に当たる時間。そこら辺を歩いていてもなんら不思議ではないだろう。俺を見つけた6人は知り合いを見つけたかのようなフットワークの軽さで近づいてくる。
「アンジュ、フォズ、ウィスト、ケリーン、メイビス、テトン。」
名前を覚えるのは得意じゃないが、流石に時が経てば全員自然と口にできるほどには頭に入っていた。
「教官、随分と重武装だな。」
フォズが上から下まで目を動かしながら俺の装備に言及する。
「あぁ、今からサンドワームの調査に行ってくるところだからな、申請にも出したが3日くらいは戻ってこないと思う。」
「サンドワーム、ですか。」
「きょ、教官は随分とお忙しいんですね。」
その実営利目的で忙しくなっているなんてこと口が裂けてもこいつらには言えないので適当に苦笑いして誤魔化す。だが騙されないような瞳でアンジュが何やら真剣な顔をしている。
「教官、もしよければ私もご同行願えないでしょうか?」
アンジュに気を向けてみれば飛んできた言葉がこれだ。なんというか良くも悪くもアンジュの生真面目さがよくもまぁ出たというか。
「アンジュ。心配なのはわかるけどな、お前が行ったって教官の足手纏いになるだけだろ?」
フォズが冷静な態度でそう答える。いつも戦闘でもこのくらい落ち着いていたらと思うとなんだか複雑な心境になる。だが非常にも現実はそうだ、俺もアンジュを死んだらおしまいの任務に就かせるなんてことは普通に反対だ。
「足手纏いにはならない。私がいつもと違って教官の援護に徹していれば済む話だもの。」
フォズの忠告虚しく、アンジュの気合いは相当なものだった。フォズもそれはそうだけどとなんだかんだで認めてしまう。仕方ないからフォズには戦闘会話プログラムでもつけておくか、今のままじゃ敵の言葉でも言いくるめられそうな気がする。
と、それは置いておいて。
「…………アンジュ。」
「───お願いします。」
「いや、何も言ってないだろ。………はぁわかったよ。装備を整えて3分後にはエレベーター前に、エズにはその間に話を通しておく。」
「!、ありがとうございます。」
全くなんだかんだで、お願いされたら弱いのは俺の悪い点だな。と思いつつ適当な言葉でエズを言いくるめて3分後。(ちなみにエズもまぁそこそこ唸ってはいた。)
「教官!、第105特殊機動部隊所属アンジュ部隊長只今、着任いたしました。」
元気よくそれでいて勢いが良い敬礼をするアンジュ、そう堅苦しくならなくてもいい気がするが、本人を尊重してそれを言うのはやめておこうと思った。
「───よし。それじゃ行くか、この車で。」
「く、車っ!?」
俺は近くの格納庫にあった車を指差す。無論徒歩で行くなんてバカな真似はしない、バスク砂漠は広いからだ。もちろん運転手は俺、エズから手渡されたデータを元に現代技術をふんだんに搭載した強化オフロードカーで現場へと向かう。
「ここら辺か。」
「あの、先ほどの説明で大体依頼内容などがわかったのですが。教官から見てサンドワームはどのように思えましたか?」
道中の時間を有効活用するのは当たり前だ、車を走らせている間にアンジュに依頼内容やサンドワームの概要データを渡しておいていた。となればアンジュからの質問タイムが飛んでくるのは必然。俺は口を開き答える、
「そうだな、一言で言えば砂漠に住むミミズなんだが………」
「なんだが…………?」
「正直、いい思い出がない。」
理由はもちろんエズだ。あいつの酷い仕打ちを俺は金輪際忘れることがないだろう。
「なるほど……。話は変わりますが、紅月教官は他にもいっぱい依頼を受けてきたんですよね、どんなものがありましたか?」
「ん、そうだなぁ。」
俺は頭を回してギルドで受けた依頼、エズから受けた依頼などを思い返してみる。しかしその中で一番充実していた時期といえばやはりギルドでランクあげに励んでいた頃だろう。それ以外はろくな目にあったことがない気がする。そんな自分の武勇伝(?)をアンジュに語りながら、俺は目的のサンドワームを待った。
「─────教官は、いろんなことをやってきたのですね。」
少し喋りすぎたかなっと思いつつ。窓の外をじーっと見ていると、砂に何やら変な動きがあることを見つけた。
「アンジュ、警戒を。」
「!、了解。」
向こう側にサンドワームが見え、そして右から左へと砂を潜り移動している。相手に近づかれない距離で俺も車を動かし追跡を開始する。
「このサンドワーム、どこに向かっているんでしょうか?」
アンジュが車に搭載された、高性能観測カメラでサンドワームを観察しながら言葉をこぼした。
魔物の生態なんてわからない俺は、適当返す。
「さぁ。でもエズ曰く普通に進んでいるわけじゃなさそうだ。そしてそれを俺たちが判明させれば依頼は達成する。」
面白みのない、回答をする。そしてしばらくしたサンドワームを追跡していると、
「それにしても気づかれませんね。」
「……確かにな。なんか────っ!!」
続きを口にしようとした時、背後から爆発のような衝撃が走る。たちまち自分たちを覆い隠す影は紛れもなくサンドワームのもの、俺はハンドルをきり奇襲のダイビングアタックを回避する。車内が、ごちゃごちゃになるような衝撃が伝わってくる。シートベルトをしてなかったら、間違いなくこの前のエズみたいになっていたことだろう。
「!!……教官!」
「あぁ!してやられた、追ってる側かと思ったらまさかのおわれる側だったなんてな───ッ!!」
目の前のサンドワームがすぐさま砂の中に入ったのを見て、魔物のくせに知能の高い罠を敷かれた、と思った。こちらを狙っているサンドワームはいまだ健在、どうにかこうにか対処をしないといけないが、この車にはなぜだが武装が搭載されていない、普通強行偵察型なら武装くらいつけるだろ、っと思うがないならないで仕方がない。
「ALD─!、操縦頼む。」
[───了解。]
サポートAIに操縦を任せてAWを片手で担ぎ上げ、上部のハッチをあけ外に出る。
「教官──!?」
「アンジュはそのままつづけていろ、迎撃は俺がやる!」
「りょ、了解!!」
サンドワームは咆哮と共にこちらに攻撃を仕掛けてくる。いずれもAWを直にぶつけて、直接攻撃をはじけとばす。そして大きく口を開いてこちらを飲み込もうとしたきた時にAWを砲撃モードに変形させ、高出力ビーム砲をその口部へと発射する。極太ビームがサンドワームを飲み込み焼き尽くす、声をあげ効いていることをわざわざ教えてくれる、流石に追撃しようとしなかったのか、サンドワームは勢いよく砂に戻り撤退していく。
暑い砂漠の中の抗争はこうして幕を終えた。結局、サンドワームのスピードに追いつくことはできず、俺たちは適当なところに車を止めて、調査を切り上げることにした。
「ふぅ。」
「教官、お疲れ様です。」
ハンドルから手を離した。俺にアンジュは労いの言葉をくれる。
「そっちこそお疲れ。少し休憩したら帰るか、」
「はい。」
帰る頃には夕方を通り越して夜になっていた。ゲレームMk~Ⅱの中で危険があるわけではないが、念のため軍施設の前までアンジュを送っていった。
「教官、本日はありがとうございました。無理なお願いまで聞いてくださって。」
「別に気にしていない。それよりどうだった、外の世界は?」
アンジュがなんで今回の依頼に同行しようとしたのか、予想はいくつか立てたが、結局最後に行き着くのはこれだった。アンジュが純粋に外の世界、つまりゲレームの外に興味を持っていたから俺についてきたというのだった。調査なんてものは基本的に退屈なことが多い、それこそ今回みたいに戦闘が発生するのが珍しいなら、アンジュがついていく理由なんてものはそれくらいしかない。
「!、気づかれてましたか……」
困った顔で答える。どうやら俺の予測は当たっていたらしい。
「……そりゃな、じゃなきゃ同行なんて許さなかったさ。で、どうだった?」
「──はい、とても新鮮で綺麗な世界でした。いつかみんなで行きたいと思いました。」
「そうか、それはよかった。………じゃぁ俺は戻る、お前も今日は早く寝ろ。」
「はい、さようなら。」
俺はアンジュから見えなくなるまで離れ、その後ログアウトした。
アンジュの今回の反応はもちろん想定外のことであったが、俺はどことなく嬉しかった。彼女、彼女たちは間違いなく、戦闘目的に作られた人工NPCだ。しかしそれでも戦闘マシーンではない、彼女たちがそうでないことを証明するのは申し訳ないことい彼女たち自身だ、俺はそれの手伝いをすることしかできない、しかし
(なんだかんだで嬉しいもんだな。誰かの成長って………)
嬉しさに安心してからか俺が寝落ちするのは意外に早かった。最近のハードスケジュールのこともあるだろうが、ここまで早く寝れたのは意外にも久しぶりであった。
『topic』
近日謎のモンスターによる被害が増えている。




