百三話「戦時々用休憩(いくさときどきようきゅうけい)」
前回のあらすじ
心を痛めていたアンジュは隊員達によって再び歩み出すと決意する。一方紅月は道を外れてしまったエズを叱責しつつも、自身の請け負った依頼の責任を彼女に伝える。
──紅月が教官になってから数日──
「は、はぁ〜、、」
「もう動けない。」
105部隊員全員は床に大の字になって疲れ果てていた。紅月が組んだハードスケジュールを本日もこなしているため、本人達からしたらもはやこれは日課の一部であった。
「よし、今日はこんなところにするか。」
やっていた訓練は模擬戦。オートマタは基本的に素体やフレームによって性能が決定しているため、肉体的なトレーニングは無意味である。
詰まるところ、大半は座学や模擬戦などになることが必然的だが、当の紅月は教官の座についていながら、教官としての教育は全く受けていない素人なので、戦術戦略についてはもはや期待できない。
紅月ができることといえば、模擬戦くらいしかないのだ。
「あーっ、くっそまた負けた。教官…!!ムカつくからもう一回やらせろ、タイマンで!」
「相変わらずフォズは元気で結構。それじゃあさっさと立ち上がってこい…!」
「上等だ!」
フォズは周りで息を切らしながらくたびれている5人と大差ないほど疲れているのにも関わらず、怒りを還元させて紅月の元へとおぼつかない足取りで立ち向かっていった。
よくもまぁそんな体力をどこに残しているのやらっとここで考えるのは紅月を含む全員だった。
「はぁ…!はぁ…!はぁ〜〜!!」
「アンジュ、またスラスター使いすぎて過呼吸になってる。」
「仕方ありません、………私達の中で一番に動いてますから。」
オートマタに呼吸は必要なくとも、スラスター冷却は必要である。装置だけで間に合わない場合、スラスターの冷却は口からも行われるため、アンジュの息を切らす様子というのは変ではない。
ちなみに紅月は(現実では)人であるため最初の方は全く気づかなかった。
「それにしても、紅月教官は息切れてないよね。」
「……常に最小限の動きをしつつ、むやみやたらに攻撃せず、確実に倒す時に倒していますから。」
「まさに、洗練された動きって感じですよね。」
重い体を起こしながら、ウィスト、メイビス、ケリーン、テトンは紅月とフォズの2回戦を見ている。
フォズの動きは豪快そのものであるが、紅月に限っては余裕を保ったまま好きを伺い続けている。
「くっそ!いい加減攻撃しろ……ッ!」
そう口に出したフォズの一撃は紅月に受け止められ、言葉通りに紅月は重い蹴りをフォズの懐に入れた。フォズは声を上げながら向かい側の壁まで吹っ飛ばされ、その場で動かなくなった。
「ぁ……が、やりや、がったな。」
「そっちこそ、下手に煽るなよ。挑発に乗らないやつにそんなことしてもかえって痛い一撃が飛ぶだけだから、時と場合を選べ。」
「ぅ…ぐ。」
紅月の言葉に対してフォズは体で答えようとするも、すでに限界を迎えていた。立ち上がることすらままならない以上相手に一撃を与えるなんてことは夢のまた夢。
「痛そう………」
「実際に痛いでしょう。フォズは私達の中では二番目に装甲が厚く、打たれ強いはずですが、あぁして起き上がれないとなると。もちろん一番は私ですが───」
「ぉぉぉぉおい、もういっぺん言ってみろウィスト……」
悶絶しながらふり絞った言葉でフォズはウィストを睨みつける。ウィストは内心危ない危ないっと思いつつ、言葉をそこで終わらせる。
紅月はハァっとため息をつきながら、フォズの頑丈さと意志の強さに改めて感服する。
「お前達、今日の訓練はこれで終わりだが。残念ながらやることがあるため1時間後にエレベーター前に集まるように。」
「エレベーター前?」
「何を、やるんです、か?」
息を切らしていたアンジュがようやく起き上がり、紅月に質問する。紅月は得意そうな顔を見せながらこう言った。
「校外学習だ……。」
──1時間後・ゲレームMk ~Ⅱエレベーター前──
紅月の言いつけ通りに6人はエレベーター前に集合する。戦闘をしにいくわけではないので白の制服を着用している。側から見れば同じ学校に所属している礼儀正しい生徒に見られるに違いないだろう。現に到着した紅月は。
(ま、マジかよ。)
っと驚愕した様子であった。紅月ですら服を選ぼうと考える思考があるのに、年ごろ(?)の女子たちがこうも味気ない服を着ているというのは、女心がない紅月でさえ、なんとかしなければいけないと考えるに至るほどであった。
「あ、紅月教官。105部隊総員準備整っております。」
「あ、あぁ。うん、」
自信満々に敬礼をするアンジュ、それに続く後ろの四人に紅月は反応に素直に困る。
「えと、普通に私服でいいって言ったよな。」
ログを確認する紅月。アンジュたちは紅月の言葉に対して互いに目を見合わせて不思議な顔をする。
「はい…私服ですよ。」
「あぁいやそういうわけじゃなくて、それは………どちらかといえば、制服じゃないか?」
「?、私服ですよ?」
紅月はあぁ〜っと唸りながら察した。まず5人の彼との間では決定的に価値観の違いが起こっているのだ。6人は白のワイシャツに、黒の長ズボンこそ私服だと思っている。
なぜならまともな私服といえばそれくらいしか持っていないのだ。生まれてこのかた服を買うという行いをしなかった彼女たちにとっては、戦闘のために作り出された彼女たちにとっては、、自分が身につけているものこそ私服だと思い込んでいるのだ。
「………よし、今日やることが一つ増えた。」
「僭越ながらお聞かせ願えないでしょうか。」
ウィストが紅月の変な反応に気になりながら発言をする。
「後での楽しみにしておいてくれ。それと、今日は無礼講っというかまぁ自由時間活動にあたる。だから堅苦しい呼び方だとか、軍の規律なんかは全て忘れて臨むように。」
「りょ、了解……?」
「…………うん、まぁとりあえず行こうか。」
これは結構難しくなりそうだと感じながら紅月は、6人とともにエレベーターに乗った。
「教官!」
エレベーターの静寂を打ち破ったのはフォズであった。
「紅月でいい。」
「あー、紅月…?。えっと結局どこにいくんだ?」
呼び慣れない言葉にフォズは歯痒さを覚えながら、質問する。
「ゲレームの城下町だ。今日はそこでいろんな活動をするつもりだ。」
「いろんな活動とは?」
メイビスが話に加わり紅月に続けて聞く。
「まずは買い物、その次は食べ歩き、その次は街の散策………てな感じか?」
考えていた紅月も少し自信がないように言葉にする。ルルカのデートに付き合うことは多々あれど、どれも自主的ではないため、何が楽しいか紅月はよくわかっていなかった。それこそエスコートの計画というものも夢のまた夢であった。
「そ、それは必要なことなんですか?」
「必要だな。特にお前たちには、」
ケリーンが利益的な面を知ろうとするが、紅月は断言するようにその意見を返した。使用意義はもちろんなくても、なんとかしなくてはいけないという考えは紅月には存在していた。
「聞いた感じ、必要ないって思うんだけどよ………」
「それは違うぞフォズ。校外学習も立派な訓練だ、世の中が広いことを知ればそれを先頭に転用できることもある。」
「ほ、本当かそれ?」
少し疑いつつ、フォズは紅月の言葉をかろうじて信じる。
「紅月きょ──、紅月さんは城下町を見たことあるんですか?」
「あぁ。」
「どんなところでした?」
ウィストの質問に悩む紅月、現実基準で語ってはいけないので、街の特徴を頭の中で思い浮かべつつ短くまとめる。
「そうだな、まず露店がたくさん並んでいるな。ゲレームは数段構造の建物が多いから街並みは全体的に高いって感じだ。って言ってもあんまりイメージできないと思うけどな。」
「はい………」
ウィストは申し訳なさそうに答える。街知らずしてどういうものかわからず、肩をすくめながら紅月は仕方ないと思う。
そうこうしている合間にエレベーターは到着の音を鳴らす、扉が横に開き外の光が電子的な光で包まれていた個室に入り込む。
ガヤガヤしている街の音が耳へとはいいてくる。紅月は5人を連れてエレベータからおり、適当に近くの場所に集まる。
「こ、これがゲレームの城下町。」
「す、すげぇ。なんか言葉に出来ねぇけどすげー!」
6人はキョロキョロしながら目新しい風景に視線を向ける。紅月は予想していた通りの反応をいせる6人に来て良かったとまず初めに思った。そして6人を連れて、街を散策し始める。
「あれが、お店。」
「あっちにあるものは、」
「ひ、人がいっぱい。」
「あれって人間?」
それぞれ口から新しい言葉を発していく。全員を連れた紅月は周囲に気を配りながら、最初の目的地へと足を運んでいく。
「お前ら、できるだけ離れるなよ。今日は意外に人が多い。」
注意したところで、目新しいものを前にした少女たちは聞く耳を持っていない。広がる光景に圧倒されて、教官の声は全く届かない。しかし脳髄にまで染み込んでいる癖というか特徴は簡単に抜けないようで、どこかへ行きそうな雰囲気と反面、体はしっかりついてきている。
(…………今日は意地でも楽しませてやらないとな。)
考えている間に店に到着した。
「よし、全員ここで買い物するぞ。欲しいものがあったら結構、とりあえず一人一つだけ買ってこい。」
「えっと、買いたいものがないのですが。」
アンジュの言葉に同意の目を向ける後ろの五人。紅月はそれでも買ってこいと言ってアンジュと後ろの五人を半強制的に店の中へと入れ込んだ。
その心はまさに子供を崖から突き落とすライオンが如しだった。
「ど、どうしましょうか。」
「こうするも、教官の目からは明らかに買ってくるまで出てくるなって感じだしな。とりあえず見て回ろうぜ、」
フォズの言葉通り当の紅月教官は腕組みしながら、こちらを見ている状況。もはや残された道は一つであった。
初めての場所、初めての経験で全員頭がついていけない中、店内を見て回る。なんてことない大きい雑貨屋であるが彼女たちにとってはまさに新しいものだ埋め尽くされた遊び場のような感じであった。
「な、なんだろうこれ、植物……?」
「室内に植物って必要だっけ?」
ケリーンとテトンは室内の一角にある観葉植物コーナーを見ていた。多種多様なインテリアが揃えられている店の中である種異彩を放っているその区画は二人にとって興味をそそられる場所であった。
「確か、空気が良くなるとかだった気がする。」
「でも、私たち呼吸しないよね。」
「はい、ですが……植物の役割は実のところそれだけではございません。」
いきなり背後に立っていた店員に静かにびっくりするテトン、ケリーンも全く顔には出ないが驚いている。
「驚かしてすみません。私はこの店の従業員ですので、お気にならさらず。」
っともうしてはいるが、それなら背後にたつ必要はあったのだろうかと疑問視する二人。
そんな不思議な人にケリーンは質問する。
「あ、あの、さっき植物の役割は他にもあるとか………」
「はい、実のところ最近の研究では植物が部屋にあることによって心が落ち着いたり穏やかになったりするなどの効果があることがわかってきているのです。また、世話をすることによって何気ない日々に一つの楽しみを生み出すこともできるでしょう…ほかにも───」
話は続いていく。テトンは情報量についていけなさそうになるも、それはケリーンも一緒、違いがあるとするならば片方は店員の話にかなり熱心であったというところだ。
そしてところ変わってこちらはフォズ。あてもなくぶらぶらと室内を歩いていた、そもそも彼女は自分自身こういうお店が向いていないと思っていた。
(………なんか、どれもピンとこねぇ。)
部隊の中で一番の切込隊長。そして一番好戦的な彼女の思考は常に戦いの色で染まっていた、いわゆるどっかの天使族と同じバトルジャンキーに分類されるものだ。そのため全てにおいてそうとは言えないが、"平和"があまり得意ではない。
(でも何か買って帰らねぇといけねぇし。)
教官の命令は聞かなければならないのは当たり前だ。だから、棚に並んでいる品を見たりするが、気になるものはないわけで。
「あー!ダメだわかんねぇ。」
葛藤するフォズはむしゃくしゃした気持ちになる。短気な性格だからか、何かと筋が通っていないことは気に入らない。そのせいか自分の複雑な気持ちに対してもムカついてしまう。
(………こういう時、教官はどうする?)
ふとフォズは考える。教官は自分よりも強いすなわち、自分よりもこういう時いい考えが出せるはず。別に自分のことじゃなくてもいいのだ、教官が手に取りそうなものでも……
「…教官は、書類ばっかりだよな。」
戦っている姿は多々見られるというかほとんどがそうなのだが、それ以外は紙をいじっている印象が次だ。いつもつまらない顔をして睨めっこをしている。
「そうだ、ペン。ペンなら!」
フォズは立ち上がり、該当するコーナーを探し始める。すぎていく棚達の中で"筆記具コーナー"を見つける。
「つっても、何がいいのかわからねぇ。でもできるんなら使いやすくて耐久力とかがある方がいいよなぁ、となると……万年筆だったか?」
フォズは万年筆が並ぶ棚に目を向ける、そして驚愕する。
「はぁ?!、万年筆って…こんなにするのかよ。」
そこら辺にあるペンと見比べても一目瞭然の値段にフォズは手持ちのお金を確認するが、あと一歩で一番高い万年筆には手が届かない。
見た目だけじゃよくわからないフォズは書類と睨めっこする紅月と同じような場面になる。
「どれがいいんだよ……一番高いやつは買えねぇし。」
贈り物をする手前、下手なものは選べない。フォズがそのまま悩んでいると、
「お困りですか?」
店員が声をかけてきた。
「え、あぁ……実はきょうか、いや実は知り合いに贈り物をしたくてな、でもなんかわからなくて…」
距離感が掴めないと思いつつフォズは自分の言葉で頑張って説明する。
「でしたら、こちらのものとかどうでしょうか?」
「うーん、」
「ふむ、でしたらこちらは?」
「うーん。」
違いがわからないフォズと、店員の話はそのまま加速する。話を聞いたり、それがわからなかったり、意地でもわかるように説明したり、店員にとってはフォズが一番の難関になったに違いない。
そして最後のアンジュとウィスト、メイビス。三人は、、
「これとかどう!これならみんな楽しめそうじゃない?」
『…………』
メイビスとウィストは黙ったままだ。誰が見ても好印象でないことがよくわかる。
「ダメ?、それじゃあ───」
「アンジュ、別に私たちはそれでも構わないとは思っていますよ。ですが、さっきから貴方はみんなことを思っての品ばかり選んでますよね?」
「まぁ、そうだけど。」
リーダーとしてみんなのことを考えて選んでいる身からしたら、ウィストの言葉は疑問に思ってしまう。彼女の口調から推測するならばそれはまるで辺なことのように聞こえるからだ。
「少しは自分のことを考えてみてはどうでしょうか?」
「じ、自分のこと?」
「そうです!アンジュ隊長いっつも自分を後回しなんですから。」
メイビスがウィストの意見に便乗する。アンジュは困った様子で、手に持っていた品を元の場所へと戻す。
「うーん、でも私欲とかないからなぁ。」
「……………それは確かに、というか私たちは基本そうですから。」
「作られた時にそういう欲求とかはつけられてないですからね。教官も少し無茶を言いますよね。」
彼女達は確かに人格を持ってはいるが、兵器としての役割を準ずるためにそう言った個人欲求は設定されていない、もし欲求を持つことがあるのならばそれは後発的なものに限る。
「だから、かな………紅月さんが私たちをわざわざ連れてきたのって。」
「かもしれませんね、紅月教官は私たちのことをどうにも兵器としてみていない節がありますし。」
「エズ様から話を聞いていないなんてありませんから。」
っと言葉にするメイビスだが、実際に紅月は最初は聞いていなかったのである。それもこれも全部エズのせいだが、、
「ともかく気になったものを手に取ってみることにしましょう。あるいは必要なものでもいいかもしれません。」
「あ、私もしかしたら欲しいものがあるかもしれません!」
『本当?!』
言った手前のウィストですらアンジュと息を合わせてメイビスに詰め寄る。誰もこんなに早く思いつくとは予想しなかったからだ、
「えっと、実は前に教本を読んでいて、本ってどんなのがあるのかなって気になってて……」
「本、小説とかですか?」
「うん。」
なるほどなぁっと二人は互いを見合わせる。発想性のなんとも高いメイビスに羨ましい視線を送りつつも自分たちも考える。
(メイビスと同じ本でもいいけど、)
(なにか変わったものもまた乙ですよね。)
そうしてオートマタ6人姉妹はそれぞれのものを時間をかなりかけながらも購入し。
「紅月きょ───さん!全員買い物終わりました、」
「よし、それじゃあ次だ!」
『次ぃ?!』
紅月の何気ない一言に五人は揃いも揃って驚きの表情を露骨に見せる。
「きょ、紅月…!悪けど俺たちはそんなに欲しいものなんかない───、それに一回でこんなに時間がかかっているなら……」
「……確かに、そうか。なら、趣向を変えよう。」
紅月の決断は早くすぐにでも歩き出す。5人はそのあとを追いかけつつ紅月の心を色々と考える。そうして連れられてきた場所は、
「えっと、飲食店ですか?」
「正確には喫茶店だが、まぁいいか。今日はここで昼食を取るぞ、」
そうして紅月一行は店の中へと入って行った。
「いらっしゃいませー。」
店に入った紅月と6人は適当な席に座りメニューを選び始める。しかし全員は初めて来た店であり、初めて見る料理の名前にどこか戸惑っている。紅月の様子を伺うものですらいるのだ、
「紅月さん、これはどういった料理なんですか?」
勇気を出したケリーンがメニューい指を当てて質問する。
「それはパンケーキってやつで、ふっくらとしたパンが特徴的な料理だ、場合によってはバターやらクリームやらが載ってたりすることもある。」
「な、なるほど(ふっくらとしたパンってどんな感じなんだろう。)」
ケリーンは半分納得したような表情を見せる。周りもちゃっかりその会話を盗み疑義しており紅月に質問したくなったが、まだ悩むふりなんかをしている。無論それは紅月にすでにバレていることであり、、
「お前達、とりあえず頼んで見るのもいいぞ。わからなかったら質問してくれ、」
そう言って紅月は店員を呼んだ。自分の注文が決まったからである、6人は少し慌てた様子でメニューを決め、紅月と同じタイミングで注文した。
「………ぎこちなさそうだな。」
紅月はどこかそわそわしていてリラックスしたいない、全員に対して腕を組んでそう口にする。
「まぁ、慣れねぇから。」
フォズが口にする。いつもの威勢のいい覇気はと後に消えたのやら。だがその言葉にその場にいる5人は静かに同意の意を示していた。
「紅月さん、あの聞きたいと思っていたのですが……どうして私たちを外に?」
「ん…」
「私たちは見ての通り戦闘専門に作られてオートマタです。ならこんなことは必要ではありません、それこそ今行おうとしている食事だってそうです。」
続けてアンジュは語る。紅月に理解してもらうため、というよりかは本当に不明なものに対しての疑問や不安や、複雑な心境を、一人のオートマタに納得してもらうために。
「私たちは味覚はありますが、人間と違って成長はしません。口にしたものは栄養を吸収することなく、終わります。腹を満たすという目的であるならば、こういったことは全部無意味だと、、紅月さんならわかりますよね。」
アンジュが口を開きながら少し強めにそう言う。加えて疑心が混じったような言葉に紅月は少し悩ましい声を出しながら、次のように答えた。
「………実のところ、俺はエズからお前達の面倒を見るように言われているんだ。それは、誤っても兵器としてじゃない、1オートマタとして、人としてだ。」
それはアンジュが求めていた答えではなかった。しかしながら、彼女は紅月の言葉の続きをききたくなっていた。
「人としてですか。」
「まぁこればっかりが理由じゃないんだけどな。だが、俺もお前達の進化を見たいなと個人的に思っているだけなんだよ結局。」
「進化…?」
紅月の言葉にそれぞれが質問を投げかけるまま、話は続いていく。そして紅月はこう言った。
「あぁ、心の進化だ。」
「心。」
「意外と馬鹿にならないものだぞ、確かに俺たちはスペックによって能力が左右される、だが全てにおいて最終的な決定を出すのはその人格、いわゆる心だ。」
6人は紅月の言っていることがわかったが、よく理解はしなかった。確かに紅月がいうように決定は自分の人格が出すのかもしれない。しかし、今の自分たちは軍に所属している軍人だ。ならば決定打を出すのは自分ではなく、上ではないのか?っと思うのだ。
「まぁ、いつかわかる。とにかく、今日は一日中城下町でいろんなことを学ぶぞ、」
紅月がちょうどそう言うと、頼んでいた料理が来た。6人と紅月はそのまま着た料理を頬張る、初めて食べる料理に6人はかなり満足していたようで、紅月もそれを見て少し安心した。
店を後にした6人はその後、買い物を続ける。
次に訪れたのは服屋だった。紅月はあまりセンスがよろしくないので店員を呼んで6人を丸投げにするように押し任せる。
6人は戸惑いつつも着せ替え人形のように、さまざまな服を着させられる。ちなみにクソボケ紅月は全てに「まぁいいんじゃないか」とかいうやつだったので後から何かわからないが店員から怒られていた。
そうして時間が経ち、夕暮れに。
「なんか、色々疲れた1日でした。」
ウィストは両手に袋を肩から下げながら、ため息をつく。周りも同じような顔で椅子に座っていた。
「でも楽しかっただろ?」
「それは、そうなんですが。」
図星なウィストは紅月の言葉に、不服な様子であった。
「なんか、世界が違った気がしたぜ。」
「右に同じく。」
「ひ、左に同じく。」
6人の疲れた表情の中には確かに楽しそうな雰囲気があった。それぞれが互いのものを見合ったり、話を続けたりするので、紅月はいつのまにか間にはいる隙を見失っていた。
だが、
(うん、こういうのでいいよな。)
とも思っていた。自分のような教官がいずとも、ここにいる全員はそれぞれ自分の主張を獲得してきている。なら、これに勝る喜びないとも、、
「さて、戻るか。」
紅月がそう言うと切り替えが早い6人は椅子から立ち上がり、袋をしっかりとてもつ。そしてエレベーターの方へ歩き出す。ただ一人を除いて、
「教官。」
「なんだ、フォズ。」
全員が話しながら、エレベーターへ向かう中、フォズは教官に声をかけてから足を止めるそして袋の中から一つの箱を取り出す。
「ん、」
「……?」
「ん!」
箱を差し出すフォズに紅月は困惑しながらも、押しが強い彼女の手から箱を受け取る。
「えっと、」
「……なんだ、いつも世話になってるしこれくらいは、って思っただけだ。」
「フォズ───」
「なんも言うな、それだけだっ!!」
紅月が何か言おうとした時、フォズがそれを大声でかき消す、そしてどことなく気まずそうにその場から逃げるように5人が歩いている中へと入って行った。
──ゲレームMk ~Ⅱ・作業室──
「うーむ、やはり一筋縄ではいかんか。」
俺が提出した報告書に目を通したエズは難しそうな表情をする。無論その報告書は今日のことに関してだ、一人一人のことを書いている暇も見ている暇もなかなかなかったため、全員が思っていることや、本日行ったことからの推測的な部分が多い。
「こんなもんだろ、文句があるなら前の自分に言うんだな。」
「いやはや妾も情が湧いてしまったんじゃよ。にしても欲求がないは本当に後悔しておる。」
欲求の不足=自我の喪失につながる。このアホはそれをのぞいている時点であの子達の難易度を相当に上げているのだ、全く。
俺は肩をすくめて目を瞑る。
「俺はお前を許したつもりはないからな。」
目を開けてエズをじっと見つめる。頭に手を置いていたエズも、俺の視線に真面目になろうと姿勢を正す。
「うむ、それで良い。妾は当然のことをしたのじゃから。」
「理解してんならいい。でも俺も暇じゃないからな、」
っと言っているが、時間はまぁあったりする。しかしここ最近はリアルとの時間管理が個人的に難しくなっている。あいつらに教える時間も結局は俺の都合次第でどうとでも変わったりするのだから、だが……逃げ出すほど落ちぶれた人間でもないのが俺だ。
本当はもっと時間があったらこうして報告しながら、新しいスケジュールを組み立てるなんて真似はしなかったのだから。
「それで、やはりあの子達には時間が必要かの……?」
「うん。そうだな、でも────」
俺は手に持っていた万年筆を見ながら、少し確信した様子でこう言った。
「───案外、うまくいきそうだ。」
『topic』
アンジュ、ウィスト、フォズ、メイビス、テトン、ケリーンの6人の誕造時期は元となった素体の関係で姉妹機という扱いにはなっているものの、本人達は全くそんな自覚はなく、ただ生まれて時期が近かっただけの仲間だと思っている。




