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百話「チームと個人」

前回のあらすじ


エズの依頼により早速第105特殊機動部隊と合流した紅月は、部隊員全員と模擬戦をすることを提案する。力を見極める意味でも力の差をしっかりと見せることも必要だと考えた上での行動だった、作戦を立てながら紅月は戦闘訓練場で部隊を待ち構える。

 




 ──ゲレームMk ~Ⅱ・戦闘訓練場──




 『わかった、くれぐれも壊すでないぞ。』


 [ピ─]


エズとの連絡を経て、戦闘訓練場を貸してもらえることになった。俺は制御盤の近くにある椅子に座って、パネルにある設定を少しいじる。


 (相手は少なくとも軍隊で行動している。チームプレイという面では向こうに軍配が上がるのは当たり前だ、だが俺もプレイヤーだ………)


どれだけ相手が上手に行動しようがそれに臨機応変に立ち回って攻略する。今までだってそう当たり前のようにしてきたのだから、今度も問題なくできるはずだ、




 ──ゲレームMk ~Ⅱ・軍事施設内軍事宿舎・第105特殊機動部隊──




 「アンジュ、なんで止めるんだよっ!!」


今にも扉から飛び出して行こうとするフォズをアンジュはギリギリのところで引き止める。隊長として隊員の暴走は止めなくてはならないと彼女自身は切実に思う。周りの隊員も止めるのを手伝えばいいが、こういう時は大抵アンジュ1人くらいでも解決できることが多いため、あえて手を貸さない。ちなみに物理的な意味ではの話だ。


 「気持ちはわかるけど、せめて作戦くらい立てないと!」


 「あんなやつ、作戦なんてなくたって俺が確実にぶった斬ってやるッ!!」


冷静ではないフォズは怒りのままにアンジュを振り解こうとするものの、装備がない状態ではさほどスペックに変わりがないからか、掴まれた手を振り解くことすらできていない。同型であるが故である。


 「……フォズ、少しアンジュ隊長の話でも聞きたらどう?」


黙っていたガードのウィストが口を開く、糸目の彼女はいつものなんの変わらない態度で怒り狂っているフォズに話しかける。周りは勇気あるなぁとすら思う。


 「あぁ?!、お前まで俺が力不足って言いてェってのか、ウィスト!」


アンジュへ向いていた怒りの矛先はそのままウィストへと向けられる。それに対してウィストは特に動じず、眉ひとつすら動かない。


 「別にそうは言ってないわ。ただ考えてみて、あの教官がどうして私たちが有利になるような模擬戦を提案してきたか………私の読みだと、これはテストみたいなものよ。」


自分の見解を述べながら、優しい口調でフォズを落ち着かせる。言葉巧みに話を持っていきながら人を落ち着かせるという点ではこの部隊でウィストの右に出るものはいない。


 「テスト……って?」


内気なケリーンが顔を出しつつ話へと参加する。ウィストは顔を変えずにその場の全員に聞こえる声で改めて説明し始めた。


 「相手は私たちのチームとしての実力を図りたいんじゃないかしら………教官としてカタログスペック以外にも計っておきたい部分、つまりは私たちチームとしての動きを見ておく必要があるってこと、ここまで来ればわかるでしょうフォズ。」


 「………作戦を立てて、しっかりと相手の対策をする。」


すっかり落ち着きを取り戻したフォズは頭の中にある言葉をそっくりそのまま口に出す。


 「教本にも載っている通りね……よくできました。」


フォズは少し不服そうな顔をするが納得はしている。その証拠に先ほどまでの勢いは完全に削がれ、今ではウィストに頭が上がらない状態だ。ちなみにアンジュは普通に作戦立てないと勝てないんじゃないかと思っているので、作戦を立てるべきだと考えていたので、ウィストの考えには感心させられていた。


 「では、勝ち負けはこの際関係ないということですか……?」


副隊長のメイビスが手を挙げてそう言った。


 「そうじゃないと……ねぇ、自分があえて負けるようなやり方しないもの。」


 「た、確かにそうですよね。よかったー、」


先ほどまで静かにしていたテトンがそう口にしながら、少し気弱に答える。フォズは「俺がいれば大丈夫だって」とさらに安心させる言葉をかける。部隊の全員の気持ちはウィストの言葉で一気に軽くなり、今までの調子を取り戻していく。


ただ部隊長を除いて。


 (……………紅月教官にみんな勝てると思っているのかな、もしそうなら……なんとかしないと。)


紅月の実力を知っているもの、紅月の実力を知らないもの、その差は意外にも大きいとアンジュは感じていた。そうたった一度、データでは複数回……紅月の戦い方をみてなんだも勉強し試してきた。

しかし彼女は毎回こう思うのだ、"格が違う"と。


 「それでは作戦会議を始めますね。」


副隊長のメイビスが全員に聞こえる声で言い始め、注意を惹きつける。次に敵に関しての情報を開示していきながら作戦会議は続いていく、教本にあった通りの作戦でいくか、いやそれでは相手に応じられるかわからない、それでもこの作戦が……だと会話が続いていく。アンジュの思惑を全く置き去りにして。


 「相手はビームシールドを持っている、つまりは防御面においては無類の強さになるわね。」


ウィストは相手の装備を冷静に分析しながら言葉を綴る。ガードが専門の彼女ならではの着眼点ともいえよう、


 「でも逆に言えぁ、防御にしか使えねぇってことだ。見たところ下手に高機動なわけでもなさそうだしな、」


ストライカーならではの近接戦の感触。戦いには様々な方法や順序が存在するものだが、フォズの直感的な意見は相手を攻略する上でかなり重要になってくる。

近接戦自体が難しいということもあり、フォズは相手の技量を見抜くことに長けており、それは部隊全員が信頼しているほどに。


 「となると、手数で有利な私たちが上、いつも通り攻撃は私が受けてみんなで総攻撃すれば、流石にビームシールドでもカーバーできないはずよ。」


 「…………」


話がこれからどんどん進む、結局はおそらく包囲殲滅体系になるだろうという察しがすでにアンジュにはあった。だがみんなの意見を遮ってまで、自分が言えるほどの情報はない、作戦は根拠がなければ説得力はない。それを一番知っているからこそ自分は言い出せずにいた。


 「……隊長。あなたの意見は?」


 「─────え。」


ウィストが先ほどから黙り込んでいるアンジュを気にかけながら、意見を求める。ウィストの振る舞いが全体をまとめているまさに隊長のような振る舞いだったため、アンジュは一気に現実に戻されるような感覚を覚えながら、考える。


チャンスは今だ。


 「………私は、作戦には異論はないでも………予備プランくらいは建てたほうがいいと思う。」


 「予備プラン?」


 「おいおいアンジュ、怖気付いたのか?」


仲間たちの目に残念ながら賛同の意はない。

だが隊長として、紅月を知っているものとして少なからず部隊をまとめ上げ勝ちへ導くことが今の役割だ。当事者だから語れることというのもある。


それを理解した上でアンジュは声を出した。


 「別に、そんなつもりはない。でもどんな状況にも対応するのが私たちのやり方のはず、教官がテストというなら生半可な戦略だけじゃ絶対評価してもらえないと思う。」


 「確かに、一理あるわね。」


ウィストはアンジュの言葉から何かを察し、賛同の意思を少し表した。


 「……そんなに気負いすぎんのもどうかと思うけどな。だって相手はポンコツだぜ?」


フォズの言葉にアンジュは内心不服な感情を抱いた。確かにフォズの言っている言葉は間違いなく現状のデータを元に出した答えである、正当性もある。だがそれはそれとして相手を何でもかんでも軽く見積もるという行為には隊長として、紅月を知っているものとしてはどうにもこうにも度し難い。


 「そうだけど……もしものことが───」


 「───心配性だなぁ。」


 「まぁ、ともかく……隊長の意見を反映しないわけにはいかないわね。それで、どういう作戦にするの、アンジュ……」


フォズの言葉をとりあえず置いておくついでにウィストはあくまで中立的な意見を出す。アンジュの言葉を自ら聞きたいという意思、それと紅月教官に対しての自身の少しの興味心が入っていた。


 「………私は──────」


 


 ──数分後・戦闘訓練場──




 「………来たか。」


制御パネルの前で画面と不意義な睨めっこを続けていた俺の時間は終わりだ。戦闘訓練場に6人のオートマタが扉を潜りこちらへと向かってくる。


 「お待たせしました。教官」


アンジュ達は俺に向かって敬礼をして現着を確認する。軍隊ということを頭からすっぽり抜け落ちていた俺は、慌てずゆっくりと敬礼を遅くし返す。


 「戦闘準備を始めてくれ。お前達は向こう側だ、装備もすでに準備してある。」


 『ハッ』


整った隊列とは言えなくとも、6人グループは俺が指差した方向の準備室へと向かっていった。俺も6人がしっかり行っていることを確認した後、たった1人で向かい側の準備室へと歩み始める。




 ──戦闘訓練場・準備室1──




 「…………」


装備のチェックをしアンジュは着用し始める。いつもの訓練と変わらないはずっと彼女の心中ではそう思っている。しかしながら相手が相手だからか、それともテストだからか、なぜだか実戦にも出ていないアンジュは………命の危機を感じていた。


 「すっげえなこれ………今まで使っていたやつ

とは段違いの性能だ。」


目をキラキラさせながらフォズは支給された装備を急ぎながら身につけ始める。彼女の特徴は強さっと言ってもいいだろう、ひたすら自身の強さを追求しつつ、それを使いこなし大切なものを必ず守る。それが彼女の深層心理であることは違いないはずだ………もっとも上司であり教官の紅月に対する態度を見れば少し曲がっていることは否めない。それでも、常に考えていることは同じだ、


 「この新しい装備は、教官が支給したのでしょうか。」


メイビスはフォズほどではないにしろ、確かに新しい装備に対する喜びは感じていた。普段からチームメンバーのことを思いながら行動している彼女、それはフォズのような力ではなく優しさだ。誰とでも接しやすい態度と言えば聞こえはいいだろうしわかりやすいだろう。


 「この盾もいいですね。殴りがいがありそうです。」


ウィストは盾で殴るタイプのガードだ。ガードたるもの前線で仲間の攻撃を受けるために、そして敵を牽制するために動くことは当たり前だ。その結果が盾で殴るという異質な考えであっても、つまりは紅月に対して教官であることは認めているものの、全く信用していない。


普段の優しいようで熟年者のような口調は誰にでも見せるものであると同時、彼女の顔を隠す手段の一つであるとも思える。その真意が誰に向けられているか、誰に向けるが相応しいかはウィスト自身で正しく決められているに違いない。


 「迷彩用のマント、正式採用型の強化スナイパーライフル。」


ケリーンは先ほどの弱気な雰囲気とは打って変わって、機械のように淡々と武器の確認をしている。戦闘の時に飲み人格が変わると言ってもいいほど、雰囲気が大きく変わる。

彼女自身はまるで意識はしていないが、それでも周りは特に不思議と思わずそういうものなのだなぁっという気持ちすら思わせる。

どちらにせよ、スナイパーとしての腕は悪くはない、


 「テトン、今回はテストだからか特に気負わなくて大丈夫だよ。無理しないでね、」


 「だ、大丈夫…私だって、この部隊の一員だし。しっかりみんなの役に立たないといけないから!」


テトンはすでに準備を整えているのにも関わらず先ほどから何度も確認作業を行っている。気を利かせたメイビスはこのようにテトンの気を楽にさせるのも一種の役目のように感じることもある。この部隊の中ではメイビスと一番仲がいい。しかしながら、この部隊の中で一番口数が少ない……それは部隊のコミュニケーション的な問題にも発展しかねないのだが、それをカバーしてくれているのが副隊長である。


 (まぁ、私が好きでやっているというのもあるけど。)


メイビスの若干の心配性は大体テトンにやって消化される。テトンはそれで色々助かる。相互関係をいつのまにか構築していたと言ってもいいだろう。


 「それじゃあ、105部隊行くよ。」


 『了解』


アンジュの言葉に全員が答える。全員は鉄扉の前に整列しながら、開くのを待つ。




 ──戦闘訓練場・準備室2──



 (……………)


準備する俺は考える。俺はたったボタン一つで装備を瞬時に切り替えることができる、まぁ一度身につけて回路を接続しなければいけない都合上、装備の換装にはいささか時間はかかるものの、最初から身につけるのに比べたら早い…そう少なくともNPC達よりかは明らかに早い、彼女ら彼らと俺は違う。


 (だからこそ、やれることがあるはずだ。じゃなきゃ俺がエズに選ばれた理由がない。)


多分で語るが、おそらくエズは俺にこいつらを鍛えて欲しいのだろう。儚い命にならないために。


 [ガシャン]


目の前の扉が開く。装備のチェックは全て完了している、ウミさんの時に得た戦闘データの入力も万全。


 「紅月、AWアサルトウェポン起動する。」


 [───擬似地形構築、戦闘システムオンライン、評価試験を開始します。]


サイレンの音が聞こえてくる。開始の合図と同時に殺風景だった地形が一瞬にして構築される。擬似的な地形構築技術だとしてもその性能は最先端をいく、本来ならホログラムでもおかしくない地形構築をエズの能力の一端を模した機械が世界を作る。


 (さて、見せてくれよ。ゲレームの軍の実力とやらを…!)




 

『topic』


【人口NPC】

人口NPCは既存のNPCとは異なる方法で誕生し、今も生命活動をしている者達の総称。

通常のNPCとは生まれが異なるだけで、一見して見分けるのは非常に困難である。

例として霊や、高度な知能を保有した無機物体があることをきっかけに人口NPCになることが多い。ホムンクルスやゴーレムなどが進化していく過程でNPCに至る可能性も十分にありうる。


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