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隠話「ルルカとウミのただの雑談」

あらすじ


紅月がゲレームに行っている間、ルルカは昇格戦によって完膚なきまでに叩きのめされたウミを労うためにとあるカフェで一日中休むことに………





 ──サイモン・カフェ【1to2(ワントゥーツゥー)】──




 「おぉ。」


ウミは目の前のテーブルに広がった豪華な食事に目を輝かせながらその圧巻さに声を漏らす。

もうこの時点で大金を使っただけはあったというもの……喜んでいる顔がいちばんの報酬だ、なんてよく言ったものだよね。


 「さっきも言った通り、これはウミを労う会だからいくらでも食べていいよ、ゲームの中なら理論上いくらでも食べることができるしね。」


 「……………で、では遠慮なく!」


ウミは早速目の前に置かれてあるショートケーキから上品にも少しだけ切り分け、口に運ぶ。


 「っ〜〜〜〜〜〜!!」


歓喜の声がウミの口から漏れ出てくる。ここのケーキがいかに美味しいかは私がよく知っているので、ウミの口にあって良かったっと素直に喜ぶ。


にしても、


 「ウミって上品に食べるよね。私が言えたことじゃないけど……」


 「ふぁ…ん゛はい…もちろん、メイドは所作も完璧でなくてはならないので。」


……ウミの言うメイドというのはどれほどの完成度なのか、格闘もできて家事もできて、礼儀作法も正しい。オールワークスの域を当に出た究極体なのかもしれない…っと私は不思議がる。でもウミの前で言うのはなんか違うよね、多分。


 「側から見てたけど、お兄様強かったねぇ。」


 「……はい。本っ当に強かったです。敵に回したくないというのはまさにこのことだと理解しました。」


 「結構ストレートに言うんだ、ソレ。まぁ悔しいよねぇ、」


 「…………いいえ、全く。悔しくありませんが、」


そう言いながらウミはおもむろに口にショートケーキを入れる。それはまるで負けを認めない子供を見ているようだった、まぁウミが負けず嫌いだということは知っていた。


 「それにしても、相変わらずお兄様の謎の力は強いよねぇ。私も一回真似したことあるけど………」


 「〜〜。なんなんですかアレ?」


口に含んでいたケーキをまたもや飲み込み、ウミが私に問いかける。今日のウミはいつもよりリラックスしているなぁっと思いながら私は答える。


 「魔力包衣まりょくほういってやつでね。本来は魔力を自身の周りに纏うやつなんだけど………うーんそこまで強くないんだよコレ。」


 「ですが、紅月様のは。」


 「そう、お兄様が使っているのは明らかに違う奴。スキルを見せてもらったことあるけど、字も違って………魔力放衣になってた。」


私が空中にテキストを打ち込んでウミに見せる。ウミは魔法の勉強もしているのだから、魔力包衣についても知っているだろう。それなら字が違うだけでもこの違和感に気づくはず。


 「…………【SAMONN】において字が違うだけの似たようなスキルがいくつもあると聞きますが、少なくとも紅月様のアレはどちらかというとシステムが近づけたみたいに見えますね。」


 「本来、読みは同じのはずの魔力包衣と魔力放衣、二つの違いとして……魔法使いの私からの見解なんだけど。まず根本的な出力が違う、魔力包衣は魔力の質や量に大きく関係する以上、私が使えば確実に出力勝ちするはず。でもお兄様は魔力を持たないオートマタ、それなのに使用時の魔力の質も量も明らかに私を上回っていた。」


 「持続時間はどうですか?」


ウミはいいところに目をつける。自身の魔力を使用する形をとっている以上、確実に時間制限が発生する。どれだけ性能が良いものでも、長く使えるほどの持久力がなければ意味をなせない、こと魔法世界においては尚更。質、量、持続性の三つがなってこそ初めて形として採用される、魔法使いにとって持続性も命のようなものだ。


っと、質問の答えを。


 「あっちが上だね。もう完全に上位互換だよアレ。魔力の話で初めてお兄様に負けたって感じがする。」


 「そこまで圧倒的なのですか?」


 「……魔力包衣はさっき話した通り魔力を自身に纏わす技。でもコントロール、消費魔力、質、どれも最高基準を求められるから私レベルじゃないと基本扱えない。前やった時は魔術でカバーもしたんだけど、うん……アレをずっとは正直に考えられない。」


 「………………」


ウミは前にあったピザを四枚に折りたたんでから口の中へと入れる。そう言えば思い出したこのテーブルには普通にジャンクフードも乗っているのだと、ケーキを食べた後にピザをサラッと食べられるウミは本当になんなんだろう。

たまに見せるすごい力も含めて、本当にただのメイドというにはあまりに強すぎる。


 「紅月様はアレを直感的に使っているようでした。特に特筆すべきデメリットもないようですし。大体、紅月様はオートマタです。魔力というものがないのにも関わらず、なぜ使えるのでしょう。」


 「そこが、いちばんの謎だよね。」


私も少し真面目に考え込む。本人に聞いたところで多分まともに答えられる内容ではないだろう、「いつのまにかできるようになっていた」なんて、本人から言われた時はなんで顔したらいいかわからなかった。


 「─────多分だけど、オートマタのコアの中にある魔力から使っているんじゃないかな……?」


 「コアの魔力。確か炉心ですよね、でも基本的に機体駆動の時に全部使うような設計になっているんですよね。」


 「そうそう、いわゆる必要最低限ってやつ。」


オートマタのコアに使用されておる炉心には微量ながら魔力が含まれている。でも、その魔力も機体駆動全般に全て使われ、初級魔法ですら使用できないほぼほぼ"0に近い魔力量"になる。これは、貯蔵型コア、永久型コアどちらにも言えること。


 「………………0じゃないならもしかしたら。」


 「お嬢様……?」


 「──────うぅん。なんでもない、また適当な仮説あげちゃった、お兄様に怒られちゃうなぁ。」


 「……紅月様は、変なところでリアリストですからね。"根拠や理論がない仮説を挙げる"なんて聞いたら本人は間違いなく怒ってしまうでしょうから。」


 「あー、間違いなく怒るねそれ。もう、本当は毎日毎日プラモばっかり作って、SF系の難しい話ばっかりするオタクなのに………だからかもしれないけど。」


 「火がついたら止められないって紅月様にピッタリだと思いません?」


 「ウン、マァネ。」("ウミにも言える"ことだけどね。)


 「そういえば、話は変わるのですが、お嬢様もなんだが新しい力を手に入れてませんでした?」


 「あー、アレね!。お兄様の魔力放衣を参考にして作ったオリジナルのヤツ、その名もスーパールルカモード!!」


私がビシッと決めながらウミに話すも彼女は止まったままなんの反応も示さない。そんな凍りついた雰囲気のまま私もなんだか少し落ち着きながら決めていた手をスッと膝の上へと戻す。


 「なる、ほど…………どこをどういったふうな参考を?」


 「えっと、まず、さっきも言った通り魔力包衣はとっても難しいから。それをコンパクトにできるように魔術式化したんだよ、、基本能力の向上から魔力効率の上昇、それと一種の精神ブースト的な物もつけさせてもらったかな……?」


 「いちばん最後のやって危なくないんですか?」


 「まぁ、用法用量守って使ってるから、全然安全。で、話を戻すけど、この状態の私はなんと魔術使い放題、魔法使い放題、魔力使い放題状態、まさに私の最新最強の状態と言っても過言じゃないね!」


 「つまりは全ステータスアップの他にも、お嬢様が封印していた魔術や魔法にもロックが外されるということですよね。」


 「そうそう、あ……ちなみに状態異常も常時解除だから基本魔力を使ったものは全部無効化だね。」


 「………こういってはなんですが、無法すぎません?博識ではない私から見ても明らかなルールブレイカー感が。」


 「いいのいいの、質と量とコントロールだけがいい"全知の魔女"だなんて散々言われてきたんだもん。ま、お兄様の前では死んでもこのモード解禁したくないんだけどね。」


 「──────目立ちたくないからでしたっけ?、お嬢様が全部の魔法や今まで習得してきている魔術を使わないの。」


 「………………そうだね。最初だってお兄様に気を使わせたくないし。それに、私より世界で一番カッコよくて素敵なお兄様を讃えるためには、一歩後ろで私は黙ってサポートでもしていればいいもん。」


兄より優れた妹なんて、お兄様からしたらあんまり良妹として見られないかもしれないし、少なくとも今の自分の立場には満足している私がこれ以上なにかでしゃばるのもなんかなぁとも思う。


 「それにほら、"ルルカはそんなに強いならもう1人でやっていけるなー、一人前だなー、あとは1人で頑張れー、"なんて育児放棄されるのは嫌だもん!お兄様には大人になっても、おばあちゃんになっても、ずっとずーっと一緒にいてもらうんだもんっ!!」


 「………そう考えると、お嬢様もメイドの適性がありますね?」


 「──────えっどうしてそうなるのっ?!!」


 「いえ、なんとなく。それとごちそうさまでした。」


 「いつのまに?!!」


ウミはハンカチで口を拭きながら全く顔色を変えずに、余裕がある落ち着いた表情でそういった。机の上には先ほどまで莫大と評してもいい無数の料理たちの亡骸でいっぱいであった。


 (話している間も食べていたことはなんとなくわかってはいたけど、まさかここまでなんて。そして、)


ゲームだとしてもよくこんなメチャクチャな献立を嫌わず食べ切れた。っと私は驚いていた、ピザだとかバンバーグだとか、スパゲッティだとかもあって非常に脂っこいものと甘いもので構成されたこれはいくら無限に食べられるものだとしても、流石に口がおかしくなっても不思議ではないはず。


 (大食女たいしょくじょって言った方がいいよね………)


 「はいはーい、今下げまーす。」


元気な声でカウンターの奥から1人の女性の人がこちらに向かって歩いてくる。この店のダブル店長の1人、その名も1号さんだ。


 「1号さん、今日は貸切にしてごめんね。」


 「いいの、いいの!魔女様のおかげで私たちも最近かなり儲かってるんだから、それにしてもこんなに食べる人久しぶりに見なぁ。」


 「もしかして、食べ過ぎでしたか?」


 「いやいや全然。それにこっちこそ少し無礼だったかも、ごめんなさい。接客業はうちの本文でもあるんだけど、度々こういう感覚が抜けなくて…」


明るい雰囲気の本人はたまに出てくる無神経な言葉に毎度のこと悩んでいたりもする。それは私に"この悪癖が治る魔法をっ!"っとお願いするほどに。


 「でも、1号さんの接客は人気あるよね〜」


 「なんでだろうね〜、」


 「あの、先ほどから1号さんとお嬢様が呼んでいるのは………」


 「あぁ、私の名前。番号みたいで毎度のこと"それ本名?"ってよく言われるんだけど、正真正銘ゲーム内ネームだよ!ちなみにお姉ちゃんは2号って名前なんだ!」


 「な、なるほど。」


 「それでは、ごゆっくり〜。」


1号さんはお皿をあっという間に抱え、なんと手だけで全ての品皿を奥へと運んでいった。一体あの華奢な体にどんな力とバランス力があるのか、一回でもいいからそのタネを知りたい。


 「…こう言ってはなんですけど、そういうプレイヤーネームもあるのですね。」


少し声を小さくしてウミは私に喋りかけてくる。1号さんに気を使ったのかな、っと思いながらもウミの言葉に返事をする。


 「ゲームの中は自由だからね。本人たちが気に入っているなら尚更。それに私たちだって本名に近いけど本名じゃないわけだし、」


 「そうですね。」


ウミは私の言葉を聞いてなんだか腑に落ちたような顔をする。その顔をついこの間まで見ていた気がして私はもう一度ウミの切った言葉に問いをかける。


 「ウミ、最近元気なかったけど、何かあったの?」


 「あぁいえ…………。そうですね、少し思い出してしまって。」


 「、もしかしてプライシーのエリアさんのこと?」


直近でウミが悲しかったことなんてこれくらいしかない。正直私からしたらあの事件は確かに悲惨ではあったとは思うけど、お兄様も割り切っていたわけで、私も割り切らざるおえなかった。【SAMONN】にあるNPCとプレイヤーの不条理に関しては私ももちろん知っている。

じゃなきゃこのゲームを続けたいなんてのは。


 (───────でも、なんだかそれじゃあバカみたいだけどね。)


 「彼女の、境遇を考えてしまったら……っと思うと、────もちろん割り切ってはいます。彼女は主人のために役目を尽くしたのですから……でも最後じゃなくてもっと早くメビアさんとわかり合っていたのならっと考えるんです。」


 「………うん。」


 「彼女は、どことなく私と似ているようなところがあった気がしまして。今でもたまに思い出したりするんですよ、誰かのために自分の命を使う、覚悟を決めた瞳を。そして誰かの幸福を切に願いながら自分の身を削りながら、大切な物を守ろうとする意志を。」


 「─────────」


きっとこれはウミとエリアさんしかわからない難しい話だと思う。単純なようで見えて単純じゃない、誰かに遣えるという立場の人間達からしかわからないし見えない視点。


でも、なんとなく言いたいことはわかる。だから、


 「────大丈夫だよ、ウミ。私はウミのことはしっかり理解してるし見捨てるなんてこと絶対にしない。だから安心して、それに………私はウミをお兄様と同じくらい信頼しているよ、なんてたって私の大切なメイドだし!!」


────私ができるのは、こんなアタリハズレがありそうな言葉をかけてあげるくらいだ。


 「───────はい。もちろんです、そうしていただかなくては……………私もここまできた甲斐はありませんから。」


 「………………」


"あー、よかった"っと思った。ウミはなんだかんだでも、いつものウミに戻ってくれたんだもん。でもそっか、ウミにももちろん過去があるんだよね、お兄様にもあるんだから、そしてこの私にも…………


 『続いてのニュースです。数ヶ月前に起こった第二回公式大会に出場した、規格外の大型要塞メカについて、攻略班の解析によって新たな情報が見つかりました。』


 「…!」


 「あっ、2人ともごめん。ラジオ消したほうがいい?」


どこからともなくそんな声が聞こえてみれば、どうやら1号さんがつけたラジオのニュースだったらしい。ラジオの内容に目を向けたはずが、1号さんに少し気を使うような目線になってしまった。


 「─────いいえ、そのままで結構です。」


ウミがそう言うと私も、ラジオに耳を傾けたまま、話の内容を頭の中で整理する。


 「お嬢様、」


 「うん、わかってる。結構前にエズを問い詰めて犯人じゃないことはわかってるから、今度こそとっちめる。」


私たちの中ではお兄様をボロボロにした。例の第二回公式大会に現れた化け物の情報を片っ端から探していた。もちろん理由はお兄様を傷つけた(物理的)奴への報復。

大事な人が大怪我したのに何もしないほうが、おかしいと私は思う。当の本人が全く忘れていたとしても、


 『そうですね、どうやら希少金属を使ったもののようで……正直攻略班の中でも情報は探していましたよ。ですが、最近ある答えを見つけたんです、これはいわゆるロストオーバーテクノロジーに分類される物だと、それこそ………"伝説装備"に匹敵するようなモノ。』


 「なっ、」


 「………どうりで。」


伝説装備は一つ持っているだけで【SAMONN】の中で素人でも上位に君臨できるほどの圧倒的な性能がある。加えて破壊することがほぼほぼ不可能といわれている特殊な鉱石を使用して作られている。


だから今納得した。あらゆる攻撃をものともしなかったあの鉄壁の守りを唯一、一撃で破壊したフライの主神穿槍ロン・ギヌス


一番気がかかりだった点が、わかってすっきりはしたけど。解決はまだまだ遠そう。なぜなら


 『犯人は逃走を続けているわけですから、もしかしたらこのメカ以外にもいずれ出てくるでしょうかね。そうなったら頼る相手を絞らないとですけど、』


 「………攻略班が言うなら間違いはないですよね。」


 「うん、情報においてはこの【SAMONN】で攻略班ほど正しいものはないよ、」


大会だからと予想はしていたけど、やっぱりキル扱いにはなっていない。ラジオの通り犯人は死んでいないということだ。


 『見ての通り、装甲は極めて強力な作りになっていますが、やはりそれなりに昔のものでしょうから現代での攻撃もかなり通ったのでしょう。特にオートマタのビーム兵器の功績が大きいですね第一装甲の完全破壊が勝利の道を作ったと言ってもいいでしょう。いやはや、製法の一つくらい教えて欲しいものですよ』


 「お嬢様、」


 「うん、本当に……お兄様を敵に回さなくてよかったね。」




『topic』


"ロストオーバーテクノロジー"


その名の通り、大昔に紛失したと思われる極大技術を指す言葉。【SAMONN】では大昔の背景がブラックボックスであることから、このような特殊な呼称をされる物品も見つかる。


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