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九十七話「ゲレーム再び」

前回のあらすじ


借金に追われる紅月は突如として訪問したエズにサイモンを案内する依頼を受けさせられる。

エズから突然の逆恨み型の脅迫を突きつけられるもののなんとか危機を脱した。しかし意外と賢いエズの策略にハマり、紅月は追加で依頼を受けることになりゲレームへ半強制的に行くことになってしまう。





 ──バスク砂漠──




 エズの身勝手な(がらそこそこ計算された)提案を呑んだ俺は車の運転手となり、前後左右砂漠のゲレームへの道を横断している。車の中はクーラーが付いていたこともあって壊滅的な暑さにはなっていなかった。


もしそうなっていたら最初にダウンするのはこの中で唯一人間のナズナさんだろう。


 「ふぅ〜運転しなくて良いって最高じゃのぉ。」


 「本当ですね。紅月さん、ありがとうございます」


 「別に構わない。だってコイツ(エズ)に運転させわけにはいかない、だろ?」


 「間違い無いですねェ〜」 


幸い車の免許をとっておいて良かったと思う、もちろん現実で。もしとっていなかったら外の地獄よりもさらに地獄な車内になっていたかもしれない、エズの危険運転の前ではオートマタである俺ですらどうなっていたかはわからない。


 「そう言えばこの前プロイシーに来ていたが、国の方は大丈夫なのか?何人か派遣しているそうだが。」


 「うぅむ。実は最近人手がかなり増えていてな、復興も順調に進んでおるが故、そこまで気にすることはない。」


 「レギオンの一件で、なんだか見物人が増えたらしく。ゲレームの技術力を買いに来たって意味を含めるならあんまり楽観的じゃないですけどね、」


 「………そうなのか。」


まぁこのエズが無策で他国に行くこと自体、まずあり得ない話だったな。少し気にしすぎたのかもしれない、


 「でも、流石にゲレームの技術力を盗める輩なんていないだろ。俺がいない間に車なんか作れる余裕があるなら尚更、」


 「まぁそうですけどね。」


 「うぅむ、妾の情報規制はそんじょそこらとは比べ物にならんからのぉ。お主が心配する必要はない。」


っと申してはいるものの、俺たちをゲレームMK~Ⅱに案内するときはやけにフットワークが軽かったようなという思考がよぎる。エズはどことなく抜けていることがあるのは知っているが、それが情報の特に大事なところに向かないことを今は切実に祈りつつ、俺は運転を続けた。


前は地下鉄でゲレームまで一直線だったが、今は車でそれこそ電車とは比べ物にならないほどスピードダウンしている。まぁ徒歩よりマシなことには変わりはないが、それでも時間はかなりかかるものだ、


 (今日は時間がある日だったからよかったものの、切羽詰まっているなら途中で車を止めてでもログアウトすべきだ。)


眠気が襲ってこないわけではない。現にエズとナズナは砂漠の夜に入ってからいつの間にか寝ていた。しかし普段から遅くまで起きることが日常茶飯事の俺にとってはそこまで辛くはない。まぁ運転することは何気に初めてではあるが、これはこれで案外退屈しない。よそ見したって、何かにぶつかることがあるわけでも………

 

 [ゴゴゴゴゴ…………!!]


 (あるわけでも───)


そう言い切ることができたらどれだけ素敵だっただろうか、砂の中から妙な音を立てながら目の前を通過する物体を俺は見た。その瞬間何かまずい状況になったのではと言う予測が飛び、そして、


 [グォォォォォォォォォ!!]


 「ファァァァァァっっ!?!?!?!」


巨大ミミズが大きく口を開け飛翔、こいつに目があるのかどうかはわからなかったが、確実に俺たちを狙っていることがわかったので、急いでハンドルをきり、砂と一緒に奴の口に入ることを全力で回避する。


 「うぎゃっ、──アター!!」


後ろに座っていたエズが、室内のどっからしらの部分に頭を思いっきり打ったであろう声が聞こえてくる。しかしそんな声や反応やエズ(やナズナさん)の状態を気にしている暇はなく、俺は今まで踏み込んだことのないくらいアクセルペダルを踏み、全速力でその場を駆け抜けようと躍起になった。


 「な、何が起こって!?」


 「ミミズの化け物だ、咄嗟に反応できたからよかったものの一手遅れていたら廃車どころでは済んでなかった!」


状況を手っ取り早く説明し、俺は運転に集中する。ぼーっとしていたさっきと違って、生体レーダーを確認しながら、追撃から逃れようと運転に集中する。


 「サンドワームか、しかもかなりデカイぞ!」


 「エズ様、迎撃準備を。」


 「うぅむ。」


どうやら俺は本格的に運転に集中できるようだ、この車も無駄に大きいと感じていたものの、迎撃兵装を搭載していると考えると納得である。


 「それで、俺はこのままゲレームへ?!」


 「………そうですね、この大きさだと適当な場所では撃破するのは難しいです。直進でお願いします!」


 「了解。」


そこからは行動の連続だった、背後でエズがサンドワームとやらに攻撃を行い続けていることは理解していたため、俺は運転、突撃してくるサンドワームの丸呑み攻撃からひたすら逃げる。


 「うりゃりゃりゃりゃりゃ──!!」


 「俺もいいいかげんタレットで迎撃したいんだが……」


 「あと少しですから。」


エズは戦っているとはいえ流石に運転している俺よりは精神を使わないだろう。それこそシューティングゲームをやっているようなものだ、俺なんてこれが初乗りで、しかもその結果が馬鹿でかいミミズに追われるだなんてどんなバチあたりな運命なことか。


しかしそれもついに終わりを迎える。ゲレームを覆う大壁が視界内にやっと写ってきたからだ。あそこまで行けば二人がなんとかしてくれる。今はただそれを祈るばかりだった。


 「ナズナ、迫撃砲準備を伝えろ。目標は言わなくてもわかるな!?」


 「了解。」


ナズナは車の何かをいじりながら、無線を繋ぎエズの命令を伝える。あとは俺がゲレームの迫撃砲の射程距離に入ればいい。


 「あ。紅月なら回避するから巻き込めと伝えるんじゃぞ!」


 「何言ってんだぁ!?」


安心したのも束の間、こいつの一言によって俺は一気に気分が逆転した。


 「なーにタイミングは教えてやるのじゃ。」


 「タイミング教えれば避けれるってなんで思ったんだよお前はッ?!」


 「ほれ!!緊急じゃぞ、ナズナもすでに連絡を入れておる。迫撃砲のタイミング的にもう取り返しはつかぬぞー!!」


ナズナさんにはもしかしてブレーキという理性が存在していないのではっ?!っと思った俺だがたちまち目の前の運転に意識を戻す、適当に運転していればサンドワームに追いつかれる。

後でエズをどうにかしてやるとして、コイツの言っている通り取り返しはもうつかない以上、俺も腹を括るしかない。


 「わかった!やってやれば良いんだろ!!」


 「流石じゃな!!それじゃあ妾の合図をとくと待つんじゃなー!!」


車を走らせながら、心の中で不安が積もる。迫撃砲がいつ飛んでくるかとヒヤヒヤしながら、いろんなことを考えている時間はあっという間に過ぎていく。そしてついに壁の向こう側から飛んでくる複数の流弾が大きく空に弧を描きながらこちらへと迫ってくる。


タイミングは教えると言われてはいるが、操作を教えるとは言われていないことをたった今思い出したが、それもこれも自分の直感と技量に頼ることしかないとかさわかった時にはすでに複雑に考えることをやめていた。


 「────────今じゃ!!!!」


 「えぇい!、振り落とされるなよ………っ!!」


アクセルとブレーキ、そしてハンドルを教習所で習った(存在しない記憶の)ように思いっきり回しながら、流弾の直撃を紙一重で避け続ける。多少の爆発による被害に関しては目を瞑りながら、隣前横でこれでもかと砂を爆発させる迫撃砲を避けながら、アクセルを全開にする。


 「うぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!」


 「アタッアタッアタッアタ────ッ!!!」


エズがガンガンと叩きつけられている音が聞こえる。そらざまあみろっと言ってやりたかったが、気が気ではなかったため言いそびれながら命の危険を感じつつ、なんとか全ての弾の回避に成功する。


 「い、生きてるぅ〜……」


思わずそう口にしながら、自分が生きていることをその身に感じ続ける。こんなに色んな意味で取り乱したのはかなり久しぶりだ。


 「おーようやったぞ紅月ぃ!!それ見てみろ撃退成功じゃ!!」


 「お前は少し黙れ!!!!!!」


今まで誰かを殺してやりたいと思ったことはまぁ多々あるものの、今のエズは少なくともベスト5のいずれかにランクインするほど俺の怒りを買っていることに間違いはない。俺が叫び声を上げるとエズは自分の立場を一瞬で理解したのか、消沈した。


 「あ、ははは。妾酷いことにならないよな、紅月。」


 「無・理。諦めろ」


その言葉を聞いたエズは青ざめた。オートマタにも青ざめるという表情色があるんだなぁっと適当に考えながら、俺は車をゲレームへと向かわせた。道中の車内は静かは静かでとても快適だった。俺がエズをどう料理でやろうかという構想を頭でねれるくらいには良い時間だった気がする。


車はゲレームの大壁の近くにある隠し通路を通してゲレームMK ~Ⅱへ直接いくことができたので、楽な道だった。オフロードでも砂漠を渡るのはそこそこ難しい動きをしなければならなかったが、舗装された道路もとい通路は現実のコンクリート道路を彷彿とさせるほど、とてつもなく快適であった。


 「ここで良いか?」


 「大丈夫ですよ。」


俺はこの砂漠横断に使った車を丁寧に車庫へと入れる。いつの間にこんなの作ったんだという疑問がまたもや浮かんだが、些細な話だ。今はエズを連れて行かなくてはならない。ここじゃないどこかへ、


 「ふ、ふん。紅月、妾の領土を甘く見るなよ!」


 「あぁ?」


 「あと数秒後にはここも多くの研究者たちで溢れかえるだろう、妾の帰還と妾の持ち帰った話を聞くためにな!!いくらお主でも罪なきオートマタに制裁なぞ加えられるものか!!」


っと言っている。悔しいがエズの言っていることは確かだ。俺は別に殺人マシーンではない、流石にエズを殴ることはできてもエズの部下を殴るほどの気力はまず湧かないものだ。だがだからと言ってここでやすやすとコイツを部下たちに連れて行かれるというのも癪だった。


 (こうなったらエズを今すぐに半殺しにして。)


そう考えついた時だった。


 「あ、紅月さん、エズ様を連れて行っても構いませんよ。今回の件の内容は全て先ほどデータで転送いたしましたので。」


 「………………なんじゃすって?」


 「だからおそらくエズ様を連れていく方々は今頃データに夢中なると思うので、どうぞ……ご気分が晴れるまま、」


 「お、お主。妾を裏切ったのか………?!」


 「まさか。私も今回紅月様にGOサインを出した人の1人ですから。責任くらいは取らないと、一回は一回ですから。」


 「と……いうことは俺を邪魔する人は誰もいないわけだ。」


 「お、おい。め、目が怖いぞ───うきゃっ?!」


小爆発を起こすかのような音でドアを叩きつけながら開け、中にいるエズの服の裾を掴み、車のドアを勢いよく閉める。そしてそのまま、ジタバタするエズを無視しながら、施設へと前進する。


 「わ、悪かった、妾が悪かった!だから堪忍しておくれなのじゃ、頼む───!紅月ぃ!!!」


こいつの叫び声はもはや俺の耳には聞こえない。無論、施設に入ろうが入らまいがこいつを助けに来る奴なんてのは今のところ存在しない、多分ナズナさんがそこらへんも報告を入れているだろうからなんの心配もいらない、俺はこいつを教育できるというわけだ。

こんな平然に人の命を弄ぼうとした奴には徹底的に教えてやらなければならない、何をって?人を大事にする心と俺を怒らせてはいけないということを。


 (多分、依頼を受けるのは後数分先になりそうだな。)


1億の借金をできるだけ返すためにも数分でこいつに恐怖を刻み込まなければならない。だが、それは俺のある種本業みたいなところ、意図せず学んだ技術ではあるが…今のエズに叩きつけるのは持ってのこいだろう。


 「あッ、ひっ……ひぃ!!!」


エズを個室へ連れ込み、壁に向かって放り投げる。彼女の体から鈍い金属音が聞こえるも、痛みよりさらに怖いものがあるかのようにエズは怯えながら俺の方を見て、壁に張り付く。


 「さーて、"鉄血の死神"の本領見せてやるか。」


いつもルルカにやっている10倍くらいの気持ちでやってみるか。若葉紅月式粛清法その1、相手の心を破壊する。


 「ぅ、うああああぁぁぁぁぁぁぁ─────!!!!?!?!!」




『topic』


若葉紅月式粛清法とは紅月が困難したルルカやバカなエズに対する粛清法の一つ、受けたものは心が破壊されると同時に全てのカリキュラムを終えた後は必ず改心してしまうという恐ろしい粛清法。

世にも恐ろしいことをされるがその詳細は、簡潔にまとめるならお説教である…………問題はお説教なのにも関わらず効力が以上なことである。


別派生としてご当主式粛清法というものも存在する。


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