九十六話「特別依頼」
前回のあらすじ
ウミとの戦いに勝利した紅月は彼女との関係が知らないところで変に悪化していく中、昇格戦に使った建造物の請求代をギルマスから押し付けられてしまう。紅月はBランク冒険者として、そして借金持ちとして依頼を受けながら返済を目指す。
昇格戦から数日、俺は晴れてBランク冒険者となり、もう街中で下手な喧嘩を売られることは無くなった。依頼でもらえる報酬金額も前とは比べのにならないほど多くもらえて、正直数字だけ見れば小金持ちになった気持ちになるが。
「お、おい…あれって"鉄血の死神"じゃないか?」
「…本当だ、あの1人でサイモンドーム壊したっていう、」
「確か借金1億の……」
「かの野球選手の通訳の1/61だな…」
なんだか、不謹慎すぎるワードが飛んでいる気がするがさておき。俺は1億の借金がある、この【SAMONN】においての1億は現実と同様、かなり集まりにくい金額になっている。ルルカ曰くそこまで多くはないらしいが、BランクとSSランクの給料を比べてはいけない。ということでスローペースで今借金を返却中だ。
(しっかし、また街で噂になるなんて……)
本当にどうしてくれよう、っという気を抱きながら新たな依頼を求めてギルドへと向かった。
道のりは極めて安全かつ安定しており、変な邪魔もルルカもなく。建物に入り掲示板から程の良い依頼を探していたところ。
「おい、紅月はいるか?」
二階から顔を覗かせるようにギルマスが、建物全体に響く声で俺を呼んだ。振り返らない理由があったので俺は二階にいるであろうギルマスに首を向けた。
「いるよ。」
「おぉ。なら二階に上がってくれ、用がある。」
俺は掲示板から離れて、2階へと上がる階段へ向かう。道中に俺に向けられていた視線が異様に多かったのはギルマスに呼ばれていたからだからと俺は解釈した。こんなところまで借金1億円の男の汚名が広がっていたらため息どころではないと個人的に感じたからだ。
「いやぁ、大変そうの中すまないな。」
応接室に呼び出された俺は長椅子に座りギルマスと対面する。飲み物もなければ素晴らしいおもてなしもない、ガサツな対応だなっと思いつつも早く終わらせたいのでギルマスの言葉に返事をする。
「………俺はおあいにく借金で忙しいんだが。」
「その件は悪かったよ、でもギルドが補填するわけにはいかないだろ。」
「財はあるだろ、」
「あるにはあるが、こっちはお前を街の重要建築物破壊罪として連れて行かせるわけにはいかないと頑張ったんだよ。ギルドが介入して、半分の責任を取らなかったらお前は連れられて自警団特性檻の中だったぞ。」
「うんまぁ、そこは感謝しているわけだが。」
相変わらず立ち回りが上手いというか、こっちが手玉に取られているような気までする。だが事実、俺とウミさんが犯した行為は貸切状態の遊園地を破壊したみたいなこととほぼ同義だった。そりゃ罰金は当たり前、なんなら自警団に捕まるところ、ギルドが介入してどうしたのかは知らないが、今の非犯罪者、借金持ちの立場になんとかおさまった。感謝したいがギルマスの口から自慢げに語られてもありがたみが半減してしまうだけだ、個人的感想にすぎないが。
「……話を戻そう。で用って?」
「そうだな、端的に言えばお前に向けての指名依頼だ。」
「指名依頼って、ルルカとかもっと高位の冒険者に依頼されるやつじゃないのか?」
「まぁそうだが、正直それは頻度的な話だ。有名人がギャラをもらってステージに立ってもらうように、知名度があれば来るには来る、それだけの話だ。現にお前は、魔女様に次いでくらいには知れ渡っているだろ?」
「最悪なのが悪逆非道とかのレッテルも一緒に貼られているってことなんだがなっ。」
俺は吐き捨てるように、ニヤつきながら笑うギルマスに対して悪態をついた。
「怒んなよ、魔女様も最初はそんなもんだったぞ。」
「本当か…?」
「あぁ、聞きたいか?」
正直興味はあったりする、しかしそれを今口に出せば、なんだかあらぬ方向に話と思考が持っていかれてこのギルマスの顔を1秒でも長く見なきゃいけない事態を加味して、俺は聞かねいことにしたというか決断した。こいつは別に悪いやつじゃないが、そんな話はルルカ本人から聴かせてもらった方が天と地との差があるだろう、主に会話で……
「………興味深い話は後にする。それで依頼主は?」
「聞いて驚けよ、なんと最近有名な……!」
「………」
「ゲレームの……!」
「……ん、ゲレーム?」
「女王様からだ…………!!」
「………………………………」
ギルマスの特徴開示ゲームの二言目にはなんだかんだの違和感と最悪な展開に発展する予想は立っていた。問題はその言葉に耳を塞げばよかったことと、根本的に俺がギルマスと今、接敵しなかったことだと思う。それさえなければこんなこと言わなくてもよかったんだが、
「──────はぁ。、、、エズの奴ふざけやがって。」
っとまぁこうして、俺は依頼を受けることになった。話がいきなり飛んで申し訳ない限りだが、指名依頼は前提として断ることがほぼほぼできない、だってそれって大抵お偉いさんからの依頼だし、対してギルドはそれにとやかく言える立場じゃないし、(ストーカーとか犯罪案件程度なら対処は多少できるらしいが。)加えて、報酬金額だ、金額はなんと2億円。俺も一瞬目を疑ったが間違いなく2億円、ギルマスは俺の借金が返済できることを素直に喜んではいたが、俺はエズと会話したくないと今は思っていた、少なくとも借金持ちの今は、
(でもこのあまりにもオーバーな値段、それに加えてアホみたいに簡単な依頼内容ときて俺が大人しく却下できるわけもなく。)
こうして待ち合わせ場所である、門前で待っているというわけだ。ちなみに俺からの補足として決して初めての使命依頼だから受けたいとか、エズとの依頼なら少しは楽しそうだなっと思ったわけではない。俺の目的はあくまで2億円、2億円にしか興味はない。巷で"借金持ちの鉄血の死神"なんて笑っちゃうほど不名誉すぎるあだ名をつけられる前に、どうしても俺は借金を返したかったからだ。断じて、それ以外の理由が関与していることはない、ツンデレでもない。
(…………なんか考えつかれたな。時間までは後少し、だが未だ向こうの丘に人影あらず、)「本当に来るの───か。」
その時不思議なものを見た、確かにさっきまでそこになかったであろう黒色の箱のようなものが向こうの丘から勢いよく飛び出して、こちらに向かって砂煙を出す勢いで接近しているということに。
その勢いと、その形から俺は誰が乗ってきているか、そしてなんの生物(?)なのかを理解した。
(車だ、)
軍事塗装のように迷彩色に塗装されたオフロードカーが乱暴に道なりに沿ってこちらに向かってくる。おかしいここはファンタジーの世界だぞ!っと驚きたくなる心を差し置いて乗っている奴の見当は一瞬にしてついた。
「エズぅぅ────。」
そう口に出す時にはすぐ目の前に車が飛び出していた。車は宙を舞い、俺の優れた動体視力から分かる通り運転席に座っているエズはとてもにこやかな表情を浮かべていた。
そんな表情を車が地面につくまでじっと見た後、大きなホイールが感性のまま着地と同時にブレーキ音を鳴らせ、耳障りに思うほどの急ブレーキを果たした。
「ふぅーーーー!!!」
エズは窓の外にいる俺の気も知らずに車の運転にノリノリだった。まるでレーシング選手が堂々の一位でゴールを果たした時の歓声のようにエズは両手を車の中であげ、余韻に浸る。
「………………」
「おっと、久しぶりじゃな紅月。元気にしとったか?」
「……あぁ、まぁ。」
「今日はサイモンの案内を頼むぞ、よいしょっと。」
エズは扉を開け、軽々しい身のこなしでちょっと高い車の段差から飛び降りた。しっかりと防犯の意識があるのかそのまま扉を閉める。
(いやそうじゃなくて。)
「ナズナ、お主は休憩しておけー。」
「い、言われなくてもっ!…………ぅおぇ」
後ろの席に座っていたナズナさんは窓を開けて、満身創痍な様子だった。おそらくエズの危険運転のせいでこんなことになってしまったのだろうと瞬間的に察した。それを含めて俺はエズに複雑な表情を見せる。
「よし、それじゃあ案内してもらおうか!」
「……………ついてこい。」
ため息を吐こうとしたが、あまりの能天気さにそんな気にはなれず、意義潰すかのように返事をしてエズを連れて街の中に入って行った。
「おぉ、ここがぁ。」
「お前、サイモン初めてなんだな?」
子供のようにはしゃぎながら、目を離したらどこかへ消えていきそうな危険性をはらんでいる、それすなわち子供だ。そしてそんなエズの姿から俺はサイモン自体が初めてなんだなということを理解し、察した。
「うぅむ、妾は基本ゲレームから出てこないからのぉ。プロイシーも含めて国外への外出は久しぶりじゃ。」
言ってしまえば引きこもりということになるが、エズの場合はそうもいっていられないだろう。女王としての激務に追われながら自分の好きな研究に没頭する、確かナズナさんがちょくちょく声掛けをして国政に仕事を向けさせようと奮闘しているとレナから聞いたことがある。もっともこいつのこの能天気的な態度を見れば、向いているか向いていないかで言えば間違いなく後者だろう。
「それで観光って言ってもここの街、そんなに優れた点ないと思うぞ、」
「そんなバカな、ほれ……確かぁなんかでっかいドームみたいなやつがあったじゃろあそこに行ってみたい!」
(それはもうないんだよなぁ)
なんて本人の前では言えない、加えて俺が壊した張本人だなんてことも含めて。そしてそんな借金のせいで今現在苦しんでいて、お前の依頼を受けた理由の一つになっているということも。
「ま、主が壊したから無理じゃろうがな。」
「知ってるのかよ!!」
「当たり前じゃ、なんのためにあんな高額にしたと思っておる。」
「お前が善意でそんなことするような奴じゃないと思ったからだよ!」
「なんじゃあお前ェ!!」
少なくとも俺の中のエズというのは、言葉巧みに人を操って馬鹿そうに見える天才であり、言葉として対面していて一番厄介な相手だと思っている。それこそ下手に怖いレナやルルカより上下関係がはっきりしている点で、こいつはとにかく面倒くさい。
(いつビジネスの話を持ってこられて手伝えと言われるかわからないし。)
「全く、お主の態度には頭を悩ませる。」
「そうかよ悪かったな。」
エズを案内するのは実に簡単ではなかった。何せこいつは本当に子供のようにあちこち行ったり少しこちらが考え事をしているだけでそこにいなかったかのように消えてしまう。戦闘区域ではないのにレーダーをここまで確認しながら移動するのはある意味初めてだった。
そのくせ、俺が行っててみれば「別に迎えにこんでもそのうち戻るぞ、」みたいな態度でいるわけだから、ストレスも感じるはおまけに見た目に反するように中身はどこか大人びることがあって屋台などの店ではなぜだか店主と意気投合することが多かった。職人肌ゆえの交感というのがあるのだろうか、戦闘マシーンにすぎない俺にはいずれも不向きな領域であったことには限りない。
「つ、疲れた。」
「なんじゃあ、お主は疲れるのが早いのぉ。」
そして一つ分かったことがある。こいつはもしかして見た目が子供なんじゃなくて、わざと見た目を子供にしているのではないかということ、そうじゃなかったらこんな無尽蔵にはしゃぎ回れるパワーもナズナさんが日頃から疲れているような目をしていることも、現にオートマタである俺が疲れを酷く感じていることもなかったのだから。俺の両手にある袋の中にはこいつの金で取った戦利品が山ほど入っている、それこそ袋が今悲鳴をあげているレベルで。
「はぁ〜。ここからの眺めは実に素晴らしいのぉ。」
エズは柵に体を前のめらせながら、向こう側に広がる夕陽に照らされた草原をじーっと眺める。サイモンの観光スポットのうちの一つ、「サイモン展望台」に俺たちは今来ている。展望台といってもさほど高さのない小さな塔のようなものなのだが、そして何をとち狂ったかエズは金の暴力で今ここを貸し切っている。
(俺がベンチで休んでいる間に。ほんと止めればよかった。)
エズは周りの人たちの迷惑を考えられないわけではない。なにか理由があるのだろう…それこそ今すぐ話を始めてもおかしくな───────
「のう、紅月…」
「───なんだ?」
「……お主はまだ、あのフレームを大切に扱っているか?」
「もちろんだが、まぁプロイシーの時は油断して片腕持っていかれかけたが…」
今の言葉言うべきじゃなかったなぁと思いつつも事実ヘマをしたのは俺なわけで。大切に扱っているかどうかに関しては結構大切にはしている。もっともその理由がエズに怒られるかもしれないからという。
「なーにやっとんじゃ、っと言いたいところだが。まぁ大事にしているそうだしな、ならよい。」
「そんなに大事なら、俺に渡さなければよかったんじゃないのか?」
「……………………」
あれ、もしかして今の言葉は地雷だったか。だが俺がいったことは何も間違ってはいないはずだ、それこそエズがフレームをつければ済むだけの話、しかしエズの黙った様子、その内にあるどこか今までとは違う雰囲気、それらが指し示す言葉は怒りなのかはたまた別のものなのかエズが次に振り返るまでのたった数秒以内の間で判断するのはほぼ不可能に近い。
「時に紅月よ………お主は、誰じゃ?」
「───────!」
エズが拳銃をこちらに向けそう言いながら振り返る。拳銃はあらかじめ構えられており俺が驚く頃には、銃口はしっかりと俺の頭に照準が向けられていた。驚きと同時に自分ば溜飲を飲む音が確かに聞こえた。
「下手に動くでないぞ。妾の質問に答えてもらおうか、」
今まで見たことのない鋭い目つきでこちらを睨むエズ、まるで怨敵を前にしているかのような目だ。だがそれなのに殺気が感じられないのは一周回って恐怖心が湧いてくるものだ。
(言葉を間違えれば───頭部に一撃放たれることは確実だ。)
瞬時にそのことを察して。言葉を考える、オートマタは頭部が破壊されようともコアが残っていれば事実上"生きている"ことにはなる、しかし仮にコアが相手の手に渡ったとして、タダでは済まないような恐ろしい未来が待っていることは、エズの出す雰囲気からわかる。
まるでそれはマッドサイエンティストに自分の死体がどう使われるのかと、気が気でない心境に近いと個人的に思った。
いずれにしても、撃たれるのは最悪のルートだ。
「………………」
「、主には皆目見当もつかないかもしれないがな。だがそのフレームは妾の古い友人が残した遺産でな、今の今まで適合者はおらんかった…………主を除いてな。」
「…………」
「無論妾もだ、装備が人を選ぶなぞ聞いたこともなかったが、現にそれは存在する。そして妾はその理由を確かめなければならない、妾ではなく、なぜ主なのか、主であった必要があったのかを。それこそ其方の体をバラしてでもな。」
フレームに適正云々があることは知らなかった。エズの言葉から推測すれば俺のこの感想は不自然なものではないことがわかるだろう、だが最悪なのがエズの口から、俺に向けての宣戦布告が行われたことだ。会戦の合図はおそらく俺の言葉次第になる、先ほどまで言葉を考えていた俺ではあるが今ので余計にプレッシャーがかかったぞ、
(………この距離ならエズの銃を回避して近接戦で圧倒できるかもしれないが。)
それが根本的解決策につながるわけはない。なら俺がすることはもはや確実確定だろう。
「さぁ、言ってみよ。主は何者か、」
「…………俺は若葉暁。ただただこの世界じゃ平穏に暮らしたい1人の人間だ。」
「───────、」
俺の言葉にエズは静かに目を少し大きく開け、瞑る。引き金においていた指をゆっくりと外し向けていた銃口をゆっくりと下に下げる。
走っていた緊張の糸が切れたかのように俺は鼻でため息を吐いた。
「なるほどな、主はわかってその言葉を使ったんじゃな。オートマタであるのにも関わらず、自分が1人の人であることを示すために。」
「お前だってそうだろ。」
「……………やれやれ、」
エズは呆れたような態度をとりながら、そう言った。そしてゆっくりと手に持っていた拳銃を腰のケースへと収めた。
「試すような真似をして悪かったの、妾もたまに頭に血が上ることがあるんじゃ。」
(血が昇ったにしてはだいぶ大袈裟に感じられたが………言わないことにしよう。が、)
「要は逆恨みからくる脅迫だったてことか?」
「………まぁそんなところじゃ。残念ながらお主に用意できる答えはこれだけじゃがな。」
「いや、いい。」
気にも留めない一言で地雷を踏むように、下手な詮索ほど自殺行為に等しいものはない。今のエズの心境からも深追いをすればタダでは済まないのはこちらの方だろう。よってこれは俺の知らないところでエズが気にしていたことを地雷のように踏んでしまったことからなる、一種の"冗談抜きの逆恨み"という形だ。
納得はできそうに無いが、俺がエズの何かに触れたことは確かだし、それこそこんなタイミングでこんな状況まで作って話を始めているところを考えるに、能天気そうなエズですら心の整理に時間がかかるものだったんだろうと推測ができる。ならば片足突っ込んでしまったこちらが悪い言えるだろう。
(聞きたいことはおおいし納得できないことでも。理解して察するしか今はできない……か、)
「─────主がそれに選ばれた時、少し納得した感じはあった。この老機には似つかわしくないそのフレームは実に似合わないからな。」
思考に頭を使っていた俺はエズの言葉の中途半端で現実に戻る。そして彼女の長い1人語りの中から、最後の言葉につながる単語をならべ、発する。
「ニューズフレームだったか、これの名前。」
エズからプロイシーに行く前にこのフレームについてざっと性能の説明を受けた時に聞いた名前。全ての分野において無類の発展性をもちながら、全てを踏襲して作られたと言っても過言ではないほどのオーパーツ、オーバースペック。未知数な部分が多い分、俺が装着者となったことで解明できる部分もあると言っていた。
だがエズの言葉からはいつも、このフレームを誰かの形見のように思うような節があったと俺には感じられた、なぜならエズが誰かを失っていたという雰囲気を度々見せるからだ、ある種俺も共感性を持ててしまう、だからすぐにその気持ちに気づいたのかもしれない。
「覚えおいてくれたか。妾は嬉しいな、」
「なんだよ、いきなり。」
「うぅむ。なんでだろうな。」
「……………」
エズの口から出てくる言葉はまるで中身のない殻ばかりだ。肝心の中身はエズの向けられた俺ではないどこか遠い存在に届けられているものだと、おこがましいことに俺はそう感じた。
「ふぅ、昔話をしたような気になってしまったわ。」
「こっちは何が何だかサッパリなんだが。」
「そのままで良い。いつかお主にもわかることかもしれぬ、いやわからんで良いか、、」
(どっちだよ。)
「さて、ではお主には今日の報酬を渡さないとな。」
「おぉっ!」
「はてはて、ついてくるんじゃな。」
エズは何事もなかったかのように、展望台の下へと向かう階段に足を運んで行った。
「?、別にここで渡せばいいじゃないか。億って言ったって、アイテムボックスがあれば………」
「あー、妾としたことがな。実のところその肝心の金額をゲレームにおいてきたのじゃ。」
「、、、はぁぃ?」
「だからお主はこれから妾とゲレームに来てもらう。」
何を言っているのかわからない俺は、エズの言葉にひたすらハテナマークを浮かべたままわからないなりの答えを絞り出す。
「いや、俺は借金があってこの街を離れられないだよ、他国に行ったらギルドが追ってくるっていうし。」
そう、借金持ちは、返済が終わるまでは基本他国への移動は禁止となっている。移動しようというなら即刻、バウンティハントの始まりだ。
「ふっふっふ〜、これを見ればそんなお主の不満も解決じゃ。」
エズは懐から紙切れ一枚を出し、俺に見せつける。俺はエズから紙を受け取りその内容を上から下へ右から左へと読み進める。
「………契約書、紅月の貸し出し。後払い、1億………っ?!」
「ギルドにお主の指名依頼を出すついでに提案しておいた、無論ただの民間軍事会社もどき程度が国の、妾の意向に逆らうなどということは出来まい。あ、ちなみに断ってもいいが、今回の依頼金額はなしじゃからな。」
………………やられた。俺は自分自身がアリ地獄にハマってしまったアリのような気分になる。どうしようもできない無力さとそこから生まれる反骨精神が目の前にあるエズに怒りたくなる気持ちをかたどっていく。
「こんなのいい職権濫用じゃねーか!!」
「失礼なっ!!、特権階級の暴力とでも言ってもらおう。」
「どっちも一緒だわ!!」
このゲレームノ女王いかれてやがる。金の権力でこともあろうにこの若葉紅月を買い取りやがった。しかも相手が国だからギルドも安心して契約できるほか、俺がこの内容に承諾しなかったら、エズによっての強制送還。そしてこいつからの誘いを断れば俺は借金地獄へと巻き戻り。
「…さぁ、選ぶが良い。」
「──────はぁ。わかったよ、行けばいいんだろ、行って少し手伝えばいいんだろ、それで満足だろ。」
「うぅむ!、良くぞ申した、それではいざ帰らん我が故郷!!」
こうして俺は半ば強制的に、エズに連行されゲレームに連れて行かれることとなった。なんだかこいつには今日終始ペースを掴まれたままだったため、精神的にも肉体的にもかなり疲れたし、何より全然納得がいかないほど不愉快であったよ。
『topic』
エズは免許をとっていない(免許の概念が【SAMONN】では無いが。)ため、基本感覚で運転しているため危険運転である。体が車内のどこかにぶつかるのは日常茶飯事のため、懸命な判断ができるのなら遠慮しておこう。
暁は免許を持っている。が車は持っていない、




