九十五話「遂に戦えますね」
前回のあらすじ
貴族の邸から無事帰還した紅月達は最終的な仕事をギルドに託し、解散する。ウミからの唐突な要求に少し困惑しながらも答える紅月、彼女の弱さに触れながらもその中にある強さを信じる紅月、それが解決策になったのかウミは吹っ切れた様子で紅月と別れる。
全てが丸く収まった事態から時間は進み紅月はBランク昇格戦に歩みを向ける。
事件から数日、魔法国の貴族に関してのニュースは瞬く間で【SAMONN】で取り扱われることとなった。攻略サイトまでもが事件の経緯を暴こうしようとするまでに俺が思っている以上に、今回の事件はどうやらとんでもなかったことらしい。
(それこそ、【SAMONN】の品質を疑うという面で)
誰でもできる簡単なゲームというものを売りにしている会社からすれば痛手であることは間違いないはずだ。しかし俺はある意味これくらいがちょうどいいと思っている、多分これによって【SAMONN】を引退する人間は少ない、そんな生半可な精神であのゲームをプレイしていたとなると一周回って頭がおかしいんじゃないかと疑いたくなる。現実にもいるであろう権力者の写し絵、社会の闇に常に潜んでいる権力という名の恐怖、大多数の人々から忘れ去られ、真実を追えば消されることも覚悟しなければならない、そんな世界だ。ゲームじゃなければそんな魔窟に首を突っ込むこともないだろう、だがゲームでもそんなところに首を突っ込むのは不本意ではないということ。
(こう思うのは、少し不自然……なわけないか。)
現実と瓜二つのあの世界を、純粋にゲームとして見ることはほぼほぼ不可能に違いない。そう思うからこそ俺はこの結論を弾き出せるに至ると思った。
「……ギルドに呼ばれているんだった、支度をしないとな。」
テレビを消し、俺は【SAMONN】へのログイン準備をし始める。あぁそうだ、この俺含めてあの世界から離れることはそう簡単にはできない……まるで未成熟な潜入捜査員のように。
【SAMONN】へのログインは常に好奇心が溢れた状態でスタートする気がする。今日はどんなことがあるのだろうかと、大学生にもなって少々浮き足立っておる自分だっているのだ、今こうしてギルドに向かっている最中にも、俺は「何を言われるのだろう」より、「何が待つまでいるんだろう」っと受け入れようとする心意気になっていたりする。
ギルドに着いた俺は何も緊張することなく二階へと上がる。ギルドの賑やかさを体感しながらではあるが、数名俺の方へと視線を移す人間がいた。人気者になったつもりはないが、人気者の間は背後から刺されることも手袋を投げられることもないだろうっという確信だけはあった。
つまらない思考を扉の前で放棄し、俺は扉をノックした。
「入っていいぞ。」
「失礼する。」
声が聞こえ次第、掴もうとしていたドアノブに手をかけ部屋へと入った。部屋の中は物静かな雰囲気を漂わせ、目の前のこの間まではなかった長椅子にウミさんがすでに座って俺のことを待っていた。ギルマスは奥の執務台から書類を持ちながらゆっくりと歩き、ウミさんの反対側へと座った、
俺もギルマスとすれ違うようにウミさんの隣へと座り空気が少しピリつく感じを覚えながら互いに向かい合うような形になる。
「今回2人を呼んだのは他でもない。例の貴族の件にかたがついたからだ。」
「結局、どうなったんだ?」
「公式的な声明は後で流すとして。まず結果的に言えば、キルンファイン公爵は人権に該当する法律違反をしたことによって近日中に魔法国で裁判が行われるらしい。」
「…………」
「安心しろ、裁判まで権力の息が吹きかかることはない。魔法国じゃ一旦裁判の席に立った以上、無傷で戻ることは不可能と言われてるほど厳しいからな。」
ギルマスが俺の顔を窺うように軽口を叩いてそう言った。信憑性に欠けそうでかけなさそうな話ではあったが、俺の直感はこれを嘘だと言っていない、つまりは安堵のため息をついてもいいほどには信用できるということだ。
「それが、今回の話か?」
「まっさかぁ、本命はこれからだぞ。……紅月、お前Bランク昇格戦のことすっかり忘れていただろ。」
「──────あ。」
「図星だな。」
「あぁいや、まてなんでギルマスが知ってるんだよ。」
「知ってちゃ悪いかよ。お前をスカウトする時にこっちはすでに調べ上げてるんだよ、まぁ俺個人として見ていたっていうのもあるけどな。」
(いっぱいくわされたような気がする。)
それにしても色々なことがあったせいか、昇格戦のこと本当に忘れていた。元々装備を新調するのも今回の対人戦が目的ではあったわけだから貴族の一件があったせいで装備の存在意義というか製作意義を危うく失くすところではあった。
「そう不服そうな顔をするな。ただの通過儀礼だろう。それに今回は迷惑をかけすぎたってことで、お前には早めに対戦相手を教えてやることにしたんだよ。」
「………さぞ強いだろうな。」
Cランク冒険者が多いことはすでにこの前把握していた事項だ、となるとBランクの昇格がとてつもなく難しいということになる。なら必然的に試験官は相当なやり手ということになる。
「うちのギルドのNo.4だ。ランクはS。」
「名前は………」
「フ─」
ギルマスは名前を言う気はないかのように不敵に笑った。ここまで言ったのだから勝手に自分で調べろっと言われようにも感じたので、少し納得がいかなかった。話すと言ってながら特徴だけ教えるのはいったいぜんたい何がしたいのかと。
そう考えているとギルマスは口を再び開いた、しかしそれは俺が知りたかった試験官の名前ではなく。
「なんのために、ここに俺たち以外を同席させてるんだ?」
その言葉を理解した時俺は隣に座っているウミさんを見た。そして彼女は俺の目を見た後いつもの穏やかな表情とは違った顔色を見せながら椅子から立ち上がり、俺のことを見下ろすような形でこう言った。
「Bランク昇格戦のお相手は、Sランク冒険者の私、ウミが執り行わせていただきます。改めましてお見知り置きを……」
「───────」
これは驚きだ、そして納得がいった。あいつらじゃ確かにウミさんには勝てない、というよりもウミさんを相手どるやつなんてそれこそ見つけるのが難しい。どうりでCランクで止まる人間が多いわけだ。
ウミさんの改まった姿を見た俺は機械の体であるのにも関わらず冷や汗が額から流れたような気がした。ウミさんのこの態度、間違いなく贔屓なしの戦いをする目だ。確実に俺を測る、いや俺を殺すかのような目をしている確かに全力でやらないと俺は殺せない、なんなら俺に攻撃を与えることですら難しいだろう。
その覚悟を彼女はすでに決めている。なら俺も、半端ではある心意気を今すぐにでも正さなければならない。
「Cランク冒険者、紅月。こちらこそよろしくお願いします試験官。」
俺も立ち上がりウミさんと真っ向から向かい合うような形になる。静寂な雰囲気が纏っていた部屋の空間は出る時には緊張と今にも切れそうな空気でいっぱいいっぱいだったと、俺は記憶している。
試験はすぐに執り行われた。ギルマスがあえて試験官を示唆したのもこれが理由なのかと少し考えたが、今はどうだってよかった。ウミさんとの戦いがどうなるのかだけそのことについて俺は頭がいっぱいだった。
装備は無論万全だったが、いつもの俺なら最終調整くらいはする。今回だってもちろんする、強敵だと相手がわかっているならできる準備は全て行うのが俺だ、でも正直それも手に力が入っていないような感覚だった。
(ショックなのか、ウミさんと戦うことが。)
体全体を弱体させる理由を探す。だがそれらしき答えは返ってこない。そんな心意気のまま俺は装備を担ぎ、決戦のバトルフィールドへと足を運んだ。
試験会場はギルドから少し離れた大きな広間で行われることになった。いつもはエンターテイメント会場として使われるのだろうかと考えてしまうほど大きな多目的性がある場所、サッカーも野球もできそうなスタジアム、そこで俺たちは戦うことになっている。会場にはルルカが居た、どこからかぎつけたのやらっと思っていたところ彼女が杖を使い、会場全体を魔法で包み込む。
相変わらず構造もどんな魔法を使っているのかさえわからなかったが。今まで見た中で一番強力な結界魔法であることは想像にかたくない。
ルルカはギルマスの隣に立ちながら俺や向かい側にいるウミさんを見た。
合図があれば始まる。そんな状況だ、ここまで自分の心を制御できないのは久しぶりかもしれない、まるで映画を見た後に訪れる妙な飽和感、それに近い何かどちらにせよ頭の演算を半分以下に落とすほどの効果があり、戦いが始まる前にしては確実に良くないポテンシャルであった。
記憶が少しあやふやだ。1分前の俺は何をしていたのか、口頭で伝えるのは簡単だ。しかしその当時に抱いた心境というのは、まるで思い出せない。
「それでは、これよりBランク昇格戦を開始する!!!!」
広い会場に響き渡るかのようなギルマスの声、振り上げられた手が下ろされた時。戦いは始まる。
(……………覚悟はできていないが、俺は俺の全てをウミさんにはぶつけるっ!!!)
「よーい…………始め!!!!!!!」
右腕部に搭載されすでに発射口を展開していたしていたAWから即座にビーム砲を打ち出す。構えて、チャージ、発射までは1秒すら掛からなかったが標準は確かに彼女の体に向けられていた。体が条件反射するように俺の頭、いや全てはすでに戦闘モードへと切り替わっていた、
亜光速で走るビームがウミさんと衝突する時、目の前で大爆発が起こる。AWの圧搾空気排出が止まることなく爆風の余波によって後ろへと流される。
(これで、終わってくれ。)
柄にもなくそんなことを思う。それはウミさんを傷つけたくないという心からきているのか、それともこんな地獄な時間を早く終わらせたいという希望的観測から来るものなのか。もはや俺にはわからなかった、そうわからなかったのだ、何もかも。いずれも俺の求めている答えには辿り着けないだろうし。何より
(………さすが。)
黄色く映るその爆発の後の色から一つの人影がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。無傷に見せかけているようで傷だらけかもしれない、もしくは負傷しているようで無傷かもしれない。彼女から放たれる不屈の意志を前にして俺のこの思考さえ些細なものだ。
そう、そんな些細なことだから。どちらにしても俺はこの戦いを続けなければならない。
ウミさんを倒すまで。
──同刻同所──
「魔女様はどっちが勝つと思う?」
お兄様とウミが戦いを始め、互いの武器をぶつけ合う。状況を落ち着きながら見ているギルマスからそんな言葉が飛んでくる。
「…………お兄様、かな。」
お兄様のぎこちない動きを見つつ、ウミの格闘戦に対応するところを見ながら私はつぶやくように言う。
「断言はしないんだな。」
「うん、ウミも十分強いから……それに。」
ウミの攻撃から感じられるのは殺意でも慈悲でもない。この戦いに全くもって私情を持ってきていない様子、優しいウミには似つかわしくないほどの動き、それでも彼女は迷っているわけではなく、ただただ鋭い攻撃を続ける。それこそお兄様が対処できていないように見えるほど。
だからかすぐにこう思ってしまった。
「───今日はなんだか調子がいいみたいだし。」
[────同刻同所]
「ハァッ!!」
ウミさんとの戦闘を開始して数分。戦局は拮抗状態、には程遠く明らかに俺が押される形となっている。なんとか捌き切ってはいるが、何の拍子に押し返されて決着をつけられてもおかしくはない。以前として気丈に振る舞っている俺の姿もそろそろ誤魔化しがつかなくなってくるだろう。
(───だからその前にッ)
AWを砲撃モードにし、照準をウミさんへと向ける。らしくはないが、ここからは回避しつつ高火力を与えてウミさんを確実に疲弊させる戦法へと変える。スラスターを噴射させ、ウミさんが突撃してくることを見越した上で移動予定上に出力30%の射撃を行い続ける。
(威力は落ちるが、連射で……!)
ウミさんの脚力的にこっちのスラスターに追いつくことができないのはすでに把握済みだ。このまま長期戦に持っていけば先にパワーダウンするのは俺でも疲弊するのは間違いなくウミさんだ。
「─────っ!」
ウミさんは爆風をできるだけ回避して近づこうと試みているが、我ながら的確な射撃によって下手に前に出れないのはおろそか攻撃を入れ込む隙すら与えられず着実にダメージを蓄積していっていた。ウミさんには確かにこの戦法は俺に不似合いだと思われるだろうけど、今はこれで落とさせてもらう。
(いくらカウンターの射程を延長できたとしても、爆風と高速移動中の俺に攻撃当てることはできないはず!)
ウミさんの技は一通り把握している。それに対してウミさんはこっちのことを知らなすぎる、奥の手を隠している俺の方が今回の戦いは一枚上手だ。あまり気持ちのいい勝ち方ではないがもはやこれで価値も同然だと、俺はそう思って、そう思ってしまった。
[────シュッ!]
一瞬ウミさんをも隠れる爆風が起こった後、爆発の光の中から一筋の炎の槍がこちらに飛んでくる。びっくりしてそれをすかさず避けるも、その槍の本命はまだあると言わんばかりに独自に光出した。
(─────しまったっ)
[ボガァァァァァァン!!]
槍は光を放ちながら爆発を起こす。スラスター駆動によって重力下でのバランスに徹していた俺は、爆発によって引き起こされる爆風で機体全体の複雑なバランスを安定させることができず、大きくその場にとどまることとなった。
「ッ!」
その隙に前を見ればウミさんが炎の槍を携えながら自身の目と鼻の先ほどの位置にいた。今にも俺に切り掛かってくるような勢い、今は攻勢に出ることができない以上、取り戻したバランスを駆使しての応戦に徹することしかできないと感じた俺はAWの発射口開閉システムでウミさんが振り翳してきた炎の槍を挟み込むように高速、続けてもう片方のガラ空きとなっている方から攻撃することを予測してビームサーベルを展開、案の定即座に次の攻撃に転じていたウミさんの二つ目の炎の槍とかち合う。
(次が来る────ッ!)
なんとか直撃を防ぎ切るもここは彼女距離だ。
両槍にかかっていた力が抜けたことを知った時にはウミさんはすでに拳での戦い方に切り替えていた。ビームサーベルで炎の槍を適当にはじきとばし、出力をできる限り上げたビームシールドを展開してウミさんは渾身の一撃を防ぎ切る。しかしなんでも防げる万能盾ではない分、ウミさんの攻撃による反動を完全にはかき消すことができず大きく後ろに後退してしまう。
スラスターで体勢を整えようとするも、ウミさんがもう一足駆け出して拳に炎を纏った状態で攻撃してくる。AWを地面に差しつつ今度は確実にウミさんの攻撃を受け切る。
そしてタダでは逃さないと感じた俺はAWからだ全体で大きく振り回しウミさんの勢いを逆手に取るようにAWを横腹にぶつけようとするも、炎の槍を出し攻撃を受け流し、直撃を免れながら吹っ飛ばされ回避と同時に俺との距離を明らかに開ける。
追撃をできるほどの余裕がなかった俺は、自身の態勢を整える。
「────さすがっ。」(って言っている場合じゃない。)
こちらがウミさんに与えたダメージはそこそこあるはずだ。彼女の装備の損傷具合を見ればそんなことはわかっているはずだ。しかし思わず油断してきしまうほどの隙を確かに見逃さず肉体のダメージからは想像がつかないほど巧みな近接戦を仕掛けてくるそのセンス、作戦力にはもはやこちらが驚かされる。
(反応が遅れていたのなら直撃をもらったのはこちらの方だ。)
やはり本気で望まなければ、先にやられるのは間違いなくこちら。しかしそんなことを今の若葉暁が許すのだろうか、
「紅月様………いい加減手加減はやめていただけないでしょうかっ」
「……まさか、全力ですよ。」
「でしたら、アラハバキを退けたときのようにやってくれますよね。」
ウミさんはそう言うと自身の体から炎を纏わせ、そこから2本の槍を両手に携えた。いわゆる本気モードと解釈してもいいだろう、データ分析をかけなくてもウミさんのステータスが上がっていると火の粉を通して直に伝わる。
「…………行かせていただきますッ!!」
ウミさんはそのセリフを置き去りにする勢いでこちらに近接戦闘を仕掛けてくる。捌き切れるかの自信はないが、俺は本気を出すわけには行かない。だから
(………必ずッ)
──同刻同所書──
戦いの激化を見届けていた私とギルマスは、荒々しくなる戦局をただ見ているだけであった。しかしウミを通して伝わる炎を超える熱気はすでに私の結界がどうとかで防げる領域ではなかった。
「今の話、"鉄血の死神"は手加減してるってことなのか……?」
「多分ね。そうには前そうもないけど、ウミには多分わかったんだと思う。」
「どうして……?」
「…………………」
その理由に関しての答えはなかなか出てこない。半分くらい正解、という形のまま私の中では完結してしまう。でもきっとこの答えを知るのはお兄様か、今お兄様に向けて無類の力を振るっているウミだけだと思った私はギルマスにこう言った。
「お兄様は身内にとっても優しい体と思う。」
「それだけかよ………本当に、」
「うん、お兄様にとっては。それだけで手加減する理由になると思うよ、」
本当のところ私もあまり理解していない。お兄様が私のことを完璧に理解しているような気がする一方で私はお兄様の最高最善の理解者になれている気がしない、なぜなら
(お兄様がいつも苦しそうに見えて仕方がないから。)
誰かも気づいているかもしれないが、私は普段お兄様がなんらかに苦しんでるように見えて仕方がない、本人自身に自覚症状がないと見えなくもない。ゆえに誰も気づかないというもう一つの確信すら持ってしまうほどに、お兄様は誰かに苦しめられて生きているような息苦しさを、私はただ1人理解していると思っている。
「────魔女様…!」
「わかってるよ。」
私はすかさず杖をしっかりと握りながら詠唱を開始する。割り込むつもりはないけど、ウミがあの状態になってから明らかに結界の魔力構造が不安定になっている。まるであの炎を恐れているかのように、しかしこのまま結界を破らせればここが壊れるだけで済むような気がしない、だから私は結界の魔力強度を上げると同時に必要以上に魔力を注ぎ結界をより強固なものへと改造を施す。
(お兄様………ウミ…………)
お兄様がそう思っているのかはわからない、ただ私はこう思う。早くこの戦いが終わってほしいと。
──同刻同所──
ウミさんが本気モード(?)とやらに入ってからの戦局は先ほどに比べて大きく変わっていた。炎が戦場全体を焼き尽くすかのように舞い、それをウミさんが自由自在に操り我が物としながら攻撃へと転用する。
回避より防御している機会が明らかに多くなっているのを感じると同時に、自身の限界を感じてくる。
体力的な意味でも、性能的意味でも本当に一撃一撃を的確に対処することでさえ精一杯だ。決して均衡しているだなんて思えなくなってくる。ウミさんの強さを侮っていたわけではない、だがここまでの強さを見せつけられるように出されると
「──────くっ……!!」
(さすがに、キツイ。)
本気で俺を潰しにかかっていることがあの人の目から窺える。この炎の熱気から確かに感じることができる。だがそれに応えられない自分へのもどかしさ七日はたまたウミさんにそのような一面があったという気づきなのか。
(悔しい。とにかく悔しい…!!!)
ガクッと力が落ちるように、焼けている地面に膝を落とす。いつのまにかアラートは危険領域を示しており今では装甲内の冷却装置そのものですらオーバーヒートを起こしている。実弾ならともかくEM関連の武装を使っている以上、リキャストタイムは武装の冷却具合に影響する。つまりはこの煉獄の中、まともに武装を回せたためしがない。実弾武装を一つでも入れておけという話ではあったが、
(おかげでAWなんて最後に攻撃したのは1分前だ。その間逃げ続けている。)
このままじゃ内部構造が先にやられる。全くなんなんだ、この炎は……ウミさんの内側から発せられているものだとして魔力量がそこまでないウミさんがここまで長い時間展開できているのには絶対的な理由があるはずだ。
(それも単純じゃないほどの。)
「紅月様……お言葉ですが。このままでは死んでしまいますよ、」
「───────言ってくれますね。」
ウミさんの慈悲のない声が俺の心に刺さる感覚。嘘か本当かわからないくても、そんなふうに言われても、それでも俺はウミさんを本気で傷つけるわけにはいかない。
立ち上がり、先ほどと同じように戦闘態勢に移行する。誤魔化せていないのはわかってはいるが、だとしても俺は俺としては戦わなければならない。
(それが例え、ウミさんに嘘をついたとしても。。)
「なら、こちらは全力を持ってお相手させていただきます。──────光焔槍……!!」
ウミさんは手に槍を再臨させる。そしてこの場にあるすべての炎を槍へと収束させる。次の一撃が大技だとこちらに誇張するかのように。
ならばと俺も冷却が終えたAWを構える、
(エーオースカノンならばウミさんの技と相殺できるはずだ。)
もはや俺の目的はウミさんの無力化に等しかった。傷つける気持ちなどないただただウミさんにこの戦いから退いてもらう、そんな身勝手なことが許されると、ウミさんが納得することだとは思っていない。それに、俺の方がチャレンジャーだというのにそのような弱い気持ちで望むのは一周回ってウミさんに対して失礼だと感じてはいる。
それでも俺はウミさんを本気で撃つことはできない。誰かからの頼み事とかではなく、俺個人の意思として。
(それは許さない。許されないことだ、)
敵対する奴は確かに撃つ。それは必然であり戦いにおいてまず真っ先に考えうることである。しかしそれが知っていても身近な人物となると、話は別だ。戦う必要はある、そしてこれは殺し合いではないことを理解している。
(それでも、大切な人には傷ついてほしくはない。)
そう決めるのだ自分自身が。そう─────
その気持ちを胸に俺はチャージが完了したAWの引き金を引いた。放たれた一線はウミさんの投げた炎の槍と衝突する。結果などや過程などはこれっぽっちも考えてはいなかった。ただただこれでどちらかが終わればそれでいいと、そうそれだけでいいのだ。
衝突によって生じる全てを飲み込むような炎と確かな衝撃、体の全てを持っていかれるような感覚に意識が落ちているのかと錯覚する。
(………手加減なんてした時点で俺の負けなんだ。別に、これでもいい)
そう思い目を瞑る。AWで肉体保護をしているとはいえ、攻撃の全てを防ぎ切れるわけではない、AWをも包み込むかのように体全体に火が移るのを感じる。
(ウミさんは傷つかなくて済むなら。これで………)
目を瞑っているというのに、目の前は真っ白へと変わる。そして俺の意識は光に飲み込まれるように消えていった。
──数秒後同所──
爆発によって、戦闘場は焼け野原と化していた。特に燃えるものもそう多くはないというのに、ウミから溢れた炎が続けて大地を燃やし尽くしている。それこそその姿は……
「まるで炎女帝だな。」
「あ、私が先に言おうと思ったのに。」
「…魔女様は随分とセンスがよろしいようで。」
ギルマスの皮肉を尻目に、私はお兄様が先ほどいた場所に目を向けた。しかし結果は私の予想を外れたものとなっていた。
「お兄様の………負け。」
「…………………、」
ギルマスは何も言わない、ただ戦局を黙って見ているだけだ。ただ私と同じで跪いて動かなくなったお兄様を見ているだけ、ここからの展開はウミがトドメを指すことによって終わるだろう。その姿を見たいか見たくないかでいえば後者だ、しかし現実は前者の方に味方している以上、この結末というのは目に見えている。
(でも。)
少しの希望はあった。このまま終わるはずではないと、終幕を目の前にしてまだ続きを求めているかのように、私はお兄様とウミのことを信じている。あっけない最後よりも誰もが納得するような形で終わると、だって私はまだこの結末に何も納得してないし、何も解決していないと思ったから。
──同刻同所──
意識というよりかは、装備自体のシステムが全てダウンしている。その気になれば再起動は容易だ、ウミさんがこちらに近づいてくることはわかる、だから最後の一撃を差し込む瞬間にAWを彼女にぶつけて勝ちを取ることもできる。だがそれはできるだけで純粋な解決策には至れない、まるで奪った勝利のように生きづらさだけがその後に残る。
(だから、俺はトドメを刺されるのをじっと待つ。)
彼女一撃、俺の再起不能を語るのなら。これほどいいやり方は存在しないもう俺からすれば戦意の一つすら存在しない。だから、このままウミさんの勝利で幕引きをすれば、それでいい。
「…………」
彼女の足音が目の前で止まった。いよいよかと少し気持ちが楽になる、そのまま一撃たった一撃でも与えて俺が無気力に倒れればウミさんの勝ちだ、ここまでくると潔さが勝ってしまう、
(でも、これで……)
「紅月様……立ってください。」
「───────」
ウミさんは俺にトドメを刺すのではなく、立ち上がることを催促してきた。確かにウミさんの言い分というのはよくわかる、俺が本気で戦わなかったことに怒っているということも、俺がなぜそんなことをしたということに関しても、でもそれでも大切な人を傷つけるなんてことはできない。それが若葉暁としての絶対的に超えてはならないラインだからだ。
「立ってください……若葉暁!!、あなたはなぜこのような暴挙に出たのですか。」
(──────!)
声の中に確かに悲しさを感じた。呼び捨てにされたからだろうか、俺の心はいつにも増してショックを受けていたのだと思う。ウミさんが敬語を外すことは滅多にない、それこそ尊敬しない相手に敬語をはずすことくらいだ、となれば今の自分の立場を自覚することはたとえ全てを諦めたような俺でも容易なことだっただろう。
(それは………)
止まっていた、諦めていた思考に火がつき始める。彼女を傷つけないための行動が回って彼女を一番傷つけてしまったなど、そのままの状態で終わってしまっていいわけがない。傷つけたのなら、その分俺はウミさんに謝罪しなければいけない、彼女にの問いに答える義務がある。
だから、動かなくなった体をもう一度、まとっていた機兵をもう一度動かし始める。
「大切な人を、傷つけたくなかったから………」
顔を見せるつもりはない。というよりも見せることができない、今の俺は自分勝手で身勝手な思考によってこの事態を起こしたことに変わりはなく、それでいてこんな言葉一つでウミさんを悲しませるに至ったこともまた事実なのだから。だから自分が許されることなんてのは思ってはいない、ただただ自分はもう何もまちがえたくないという気持ちを一心に大切な人を傷つけたくないと感じた。
「残念でしたね。私は今のあなたのせいで結構傷ついてますよ、理由は………わかりますよね。」
「─────────。」
「ですから、私を傷つかせないために………私と本気で戦ってもらうことにします。」
「…………それは、」
ウミさんの言葉に驚きつつも、否定を暗示するかのように聞こえる言葉を小さく呟く、ウミさんがいっていることはもっともであり、正しい。俺がウミさんを傷つけたくないなら、ウミさんは傷つけないために戦う、この理論は俺の言葉を自体を自分で否定することになるので、今の俺に選択肢は一つしかない。
ただそれを子供のわがままのように違うと、間違っているといっている自分が存在する。その一心のせいで踏み出せずにいる。自分にこんな幼稚な心がいまだに存在していたのかっと思わず責め殺したくなってしまう。
「あなたが私を信じるように、私もあなたを信じています。だから、立って私に向き合ってください。お願いします。」
「───ウミさん……」
何を考えていたんだ。ウミさんの気持ちを何一つ理解していないくせに、ウミさんは俺のことを理解した上で頭を下げてわざわざお願いしたのだ。それなのに俺は妙な御託を多く並べて、彼女の本当の気持ちに何一つ寄り添えていなかった。
こんな姿を見たいがために意地を張るくらないなら。俺は若葉暁としての決意を曲げて見せる。
「わかりました。すみません、こんな意地のために……」
俺は立ち上がりながら自分を責める。当然だ、結局最初で最後には自分のことしか考えていなかった男はウミさんの立場になって考えることすらしなかったのだ、ただただそうであることの押し付けを考えるだなんていうのはあまりにも浅はかだ。
「……紅月様にもどうしても譲れないものがあったという、それだけの話です。なんだか少し安心しましたし。」
(本当に強くて、優しい人だ。)
そう決め切ると俺は頭を切り替える。いつもの感覚を体全体に通して迷いを捨ていつものように戦う覚悟を決める、やることは一つウミさんを"殺す"こと。これが俺が戦いの時に向き合う心、戦いの場に出たのなら選ぶのは二つ、生か死か。
たったそれだけを互いの力によって決める、実に簡単単純明快。
(この気持ちになると、相手を殺す気でやるから。ウミさんには向けたくなかった、でもそれはもう昔の話だ。)
俺は立ち上がり、機体の全システムを再ロードさせる。正直さっきの戦いでの影響が大きいが、あの状態ならば即断即決速攻で決めることができる。だから、
「紅月様……それでは行きます。」
「はい、いつでも。フェイズ3───システムA-Osスタンバイ。」
機体全体に魔力放衣による魔力が流れ込む、究極稼働状態を維持し続けるための排熱機構が、装甲の開閉によって露出、機体色が魔力放衣の時と同じ紅色へと染まる。数値が限界値を迎え、出力は先ほどの10倍以上に跳ね上がる。
急遽作ったこのシステムはまさに俺が対象を破壊するためだけを目的に開発した。ウミさんにはもはや手加減している暇も隙もない。彼女は通常状態の俺を当に超えている。ならば俺も自身の全力を持って相手することが、ここでの礼儀とも言えるだろう。
「光焔槍──────」
「AW、出力最大。」
互いに武器を取り、互いの領域に引き込もうとする。AWのチャージを始め、ウミさんは手に出した槍から炎を燃え上がらせフィールドを一瞬にして火の海へと変える。そして俺が引き金を引くと同時槍を片手に突き刺そうと突撃してくる。
槍とAWの一撃が再度衝突し、爆発と共に。その場にあるすべてのものを焼き焦がす。自身に被弾の痕跡がないことがわかると、スラスターによる高速移動でその場を離れて、地面を片足でドリフトしながら、先ほどの爆心地に向かいAWをチャージからすぐに数発打ち込む、通常時と比べものに並ばないほどの連続爆発がウミさんがいるであろう場所を襲い続ける。
しかし爆発の中から一筋の炎の渦が飛び立ち、こちらに向かって突貫してくる。
「ハァッッ─────!!!」
ウミさんの槍をビームシールドで受け切り、自身にウミさんの炎が移る前に、AWのビームエッジでやりごとウミさんを近くの壁に向かって切り飛ばす。手応え的にあの槍は破壊不可ということが今のでわかったため、距離を置きながら再度AWの砲撃で会場の壁丸ごと破壊する勢いで秒間隔の連射をし続ける。
煙によって視界不良の中、ウミさんの姿よりも先に槍がこちらの方へと飛んでくる。槍はピンポイントでAWを弾き飛ばし、俺の腕から引き剥がす。まさか引き剥がされるとは思っていなかった俺は一瞬呆気に取られるAWと接続している俺の腕部の結合部位で一番脆い部分を狙われるとは思っていなかったからだ。
そして彼女の攻撃は終わらない、ウミさんは煙をかき消すほどの炎を両腕にに纏ったまま炎射で俺を押し潰すように放つ。両側から迫ってくる炎射の灼熱線をビームシールドで受け切るも炎により機体負荷がかかり続けることによるビームシールドのパワーダウンを懸念し、弾き回避するように飛び上がりビームサーベルを引き抜く。そしてスラスターを吹かしながらそのままウミさんへと突っ込む。
「光焔槍ッ!!!」
すぐさま槍を顕現させたウミさんは俺のビームサーベルによる両刀撃を受け切る。このままAWを取りに行けば背後から確実に刺されることを理解していた俺はそのままビームサーベルでの近接戦闘に移行する。
機動力が上がり、目にも止まらぬ動きで体がついていけないほどの軌道を見せながらウミさんを間違いなく追い詰めていく、経験則型のウミさんでは俺の複雑化されたパターンを読み込みながら攻撃するのは不可能であり、仮に目の前に槍が振りかざされる状態であっても、持ちまいの機動性から繰り出される蹴りなどの格闘や、空振りにさせてからの背後斬りなどで翻弄させていく。
しかしまともに切り掛かったとしてもウミさんには取り憑いている炎が直撃を必ず防ぐ、連続での斬りかかりにおいても必ずあっちがさきに再生するので、いずれも決定打にはならず、加えてこちらが一回斬りかかるごとに一瞬の接触ではあるもののウミさんの炎が機体を焼く。
(炎がここまで厄介だなんて。敵に回すべきではない!)
心の底からそう思いながら、俺はビームサーベルの他にもビームマグナムを使用しつつウミさんと互角に渡り合う。
──同刻同所──
「め、目で追えねぇ。」
ギルマスは目を凝らしながら、お兄様とウミの戦闘をまじまじと見る。ウミの炎によって会場はLEDライトを至近距離で照らされているが如く明るく、言ってしまえば目の毒にも匹敵してしまう。しかしそんな中での戦闘は二つの影が互いに恐ろしい速さで動きながら繰り広げられるため理解するよりも先に結果があるような気分になって仕方がない。
「ギルマス、うちわとか持ってない?結構暑いんだけど。」
「バカ言え、俺も暑い。それにお前のメイドだろ?」
「ウミは走り出したら止まらないから……」
と言いつつ魔力を練るのに必死になる私。2人が本気の戦いをするようになってからというもの、無尽蔵にある私の魔力をゴリゴリ削られている気がする。スーパーモードの私の時よりも速い魔力消費、やっぱり結界の維持なんて名目でこの依頼受けなきゃ良かったと思いつつもお兄様のために必死こいて頑張る。
「それにしても自立型魔法陣四刀流とか初めて見たぞ、魔力操作どうなってんだ。」
「ほぼほぼ勘で動かしてるけどね。ま、魔力量でゴリ押してるんだけど。」
自立型魔法陣の基本は並列思考に該当するスキルや魔法を駆使して行われることが大半だけど、そんなことしたらコストがすごくかかるので私は今は勘で動かしている最中。正直初めてやったけど2人の戦いに対応できて良かったと思っている。
「よく脳焼き切れねぇな。」
「皮膚はこんがり焼けてる気はするけどね。」
人によっては脳が使い物にならないらしいけど、私はそうは感じない。お兄様の遺伝子のおかげかも。
※まず2人の遺伝子は同じじゃないし、紅月の遺伝子が入ってたらそれはそれで怖い。
とにもかくにも私が今叫んででも言いたいことは
「───────早く終わって〜!!!!!!」
──同刻同所──
「────今、ルルカが叫んでいたような気がする!!!」
「私も聞こえました……………が!!!」
俺たちは一瞬動きが止まるも、2秒後には全く変わらないほどの苛烈を極めた戦闘を再開していた。
(─────後、3分………っ!!)
画面の横にある時限を見ながら俺は焦りを感じながら、ウミさんの攻撃を避け続け攻撃に攻撃を繰り返し続ける。AWを確実に決定だとして使わなければいけない以上、今のような生半可な攻めを繰り返し続けていてはいずれ隙ができた時の対処を一瞬にして取られる。
(だが、次で決める────)
両手に持っていた、ビームサーベルを腕力全開でねげ飛ばしブーメランのようにウミさんへと飛ばす。そしてビームマグナムに搭載されていたナパームを脚で蹴り飛ばしそこに向けて撃つ。槍でビームサーベルを切り飛ばされ、本命のナパームが直撃する。
そして一周して帰ってきたビームサーベルを回収し、一瞬にしてビームマグナムへ移植し、ビームスピアへと改造する。そしてそれを焼き続けられているナパームの炎に向けて投げ槍をする。
「───────ッ紅月様ァ!!」
AWへと向かう俺の背後から怒りのようなウミさんの叫びが聞こえてくる。振り返っている暇はない。言ったはずだ、次で決めると。
AWのを持ち、利き腕ではない左側へ装着、そして機体全体のエネルギー出力を最大レベルまで引き上げる。
もちろん直流式であってもチャージ時間は機体全てを使っているのだから、最低5秒はかかる。それまで相手が何もしてこないはずはないが、時間稼ぎは完璧なはずだ。
「────────やらせませんッ!!!!」
ウミさんもこちらの思惑がわかったのか、先ほどとは比べ物にならないほどの炎をその手に集め始める。だった一瞬にしてまるで太陽を彷彿とさせる炎の塊が彼女の手に集まりきり、そしてそれが俺に向かわれる。
放たれようとする瞬間にこちらもチャージが完了した、機体全体のいやAW全体からも強力なエネルギー反応が謙虚に現れるほどの電磁波が地面や空気中を放電し続ける。
「エーオースバスターカノン、フルブラスト──────────!!!!」
「光焔槍、炎上煉獄燈───────!!!!!」
撃った瞬間すら置き去りにしてしまうほどの衝撃が、次の瞬間起こった。まるで世界が反転するかのような二つの極大技がぶつかり合い、光すら置き去りにするほどの衝撃波とエネルギー余波が自身の体を包み込む。勝ちたいという気持ちはあったが今の俺には
(────────)
ただただ気持ちも掻っ攫ったかのようなまっさらな心境だけが残っていた。
──数時間後──
「いっ。紅月様、も、もう少し優しくできませんか……?」
「す、すみません。ウミさん、」
俺は傷ついたウミさんの手当てをしていた。さっきからウミさんはこうしたように俺の処置に不満があるようにところどころで自分が痛かったと知らせてくる。俺の精密性が悪いことも確かかもしれない、だって今手当している場所背中ですから。
(む、無心。流石に大学生になってまで思春期男子のようなバカな考えには移らない。移ってたまるか!)
「いたっ!紅月様ぁ!」
「す、すみませんって。」
「私を傷つけたんです、しっかり落とし前をつけさせていただきます。」
「は、はい。無論です」
うーん、ウミさん元々こんな人だっけ。戦いが終わった後のことはイマイチ覚えていたりしないせいか、なんだかウミさんがいつもより当たりが強いような気がして、、
「っていうか今更ですけど、ルルカに回復魔法でもかけて貰えば…」
「……………」
「なんでもありません、続けさせていただきます。」
本当にあの戦いどうなったんだ。ルルカから俺が買ったと聞かされてウミさんには連れてこられてすぐにこれ。俺が意を唱えようとすればすぐにあのジトーッとして目が飛んでくる。あれを向けられて、正常な判断を保てるものは多くないはずだ、現に俺がそうであるように。
そして俺はそのまま無心の状態を保ったまま、たまに入れられるクレームに頭を下げてウミさんの手当てを終えた。ウミさんの傷の箇所を見れば見るほど心が痛くなったなり申し訳なさを感じてしまう。そんな心境が途中から追いつきながらも、とりあえず終えたのだ。
「その、俺が勝ったこと怒ってます?」
っと俺は救急箱を片付けながら聞く。一見質問を間違えたように聞こえたりするかもしれないが、今のは話の切り始めのりたまに行っているだけであって、本当にこれにウミさんが怒っているだなんてことは思っていない。
「いいえ、」
ほらね。
「じゃあ、戦いの後に俺が何かしたことが原因?」
記憶が曖昧で、本当に何もわからない。起きたらルルカの工房で、部屋に入ってきてウミさんには連れられこれなんだもん、ほんとわからないことだらけすぎて辛い。だから今は少しでも情報が欲しい。
「………………」
(多分図星だけど、何したんだ俺。)
「入るねー。ウミ、お兄様とってっていい?」
「どうぞ。私は早めに戻りますので。」
「オッケー。」
俺はものが何かかっというツッコミも今では言えないくらいの雰囲気、ウミさんは何事もなかったかのようにログアウトしていった。本当にまずいことをしたのだろうなっと頭を痛くさせながら、ルルカに引っ張られる。
「なぁ、ルルカ。俺ウミさんになんかした?」
「ん、いやお兄様はウミに何もしてないよ?」
なるほど俺は何もしていないらしいが、だとしたら。
「それじゃあなんでウミさん怒ってるんだ?」
「ウミが寝ぼけてお兄様に、目一杯抱きついたからだと思うよ。」
「…………………なんて?」
俺の思考が心肺停止のあの音のように真っ直ぐで普遍的なものへと入れ替わる。その後にようやく言葉の意味だけを理解し、最も最初に出たニュートラルな質問を再度ルルカに語りかける。
「戦いが終わった後にね。ギルマスと私で2人を回収してとりあえず寝かせたんだけど、先に起きたウミが無事だったお兄様に寝ぼけて抱きついてね。そのまま寝ちゃったんだよー、幸いお兄様が起きる前にはいつもの通りに戻ってたけど、いやぁ義妹としては複雑な心境だったんだよねー。」
「ほんと何してたんだウミさん?」
「いやまぁほら、お兄様が心配だったら私も抱きつくでしょ、それと同じだと思うけど。ウミの場合見られなくても羞恥心が優っちゃったとか?」
「な、なーるほどなー。」
ダメだあんまり理解が追いついてない。つまりあれはただの八つ当たりみたいな感じなのか。俺は謝った方がいいのだろうか、だって流石にこれからあの状態が続くのはきついし、ウミさんに色んな意味で複雑だし。
「……多分時間が経てば元に戻るよ。だからそんな悩まなくても大丈夫だよー、」
「そ、そうだといいなぁ。」
「義妹を信じてよ〜。」
俺は色々な思考を頭に巡らせながら、ルルカの工房を出た。そして出たところのすぐ近くにはギルマスが壁に寄りかかりながら俺たちがくるのをじっと待っていた。
「お、きたな。昇格戦お疲っれ!」
「ど、どうも。」
「生きた心地しねぇみたいな顔しやがって、ほらこれがBランクのやつだ。ついでに更新しておいだぞ、」
ギルマスから俺のギルドカードをもらった。これいつ抜かれたんだろう?っという疑問が真っ先に来たが、そんなものは遥か彼方に飛ばして考えるのをやめることにした。
「それと、はい請求書だ。」
「どうも……請求書?」
手渡されたギルドカードを一旦おいておいてもらった真っ白な紙に書かれた詳細がまとめられた礼儀正しい紙をゆっくりと上から下へと見た。
「Bランク冒険者紅月、あなたは今回の昇格戦により、街の文化的建造物を破壊した責任を持って。1億円の再建費用を支払うことにす、、、、、る……………。」
頭が凍りついたように、思考が停止する。
「お前は気絶してたからしらねぇだろうが、マジで崩壊状態だったぞ、魔女様が全体の結界から俺たち個々の結果に転用しなかったら今ごろ、死んでた案件の火力してからな。」
「ギルマスが結界はれないのが悪いもん。お兄様、全額私が負担するから任せて!」
「そりゃダメだろ!!、今回課せられてるのはこいつなんだからな!」
「私のお金はお兄様のお金だもん!!」
「やめろ、誰もそんなセリフ聞きたかねぇこのブラコンが!!!」
っとまぁ2人が騒がしくしている間に、俺はBランク冒険者になりそして多額の借金を背負うことになりました。ちなみにウミさんにも行ったそうですが、蓄えがあったらしくギリギリですが一瞬にして返したそう。
(あー、お金を貯めておくべきってこういうことなんだなぁ。)
そう思いました。
『topic』
SSランク冒険者の一回の依頼でもらえる金額は2000万ほどであり、その気になれば軽く家が買えるほどである。
ちなみにBランク冒険者は90万ほど。




