八十七話「素材集め1:鉱石」
前回のあらすじ
紅月は冒険者ランクを上げるためにコツコツ、依頼をこなしていた。いつのまにかCランクになっていた彼だったが、Bランクに行くには対人戦の試験があることを知る。
現状の装備ではポテンシャルを最大限発揮できないことを意識してからか、新しい装備を作ることを決心する。
攻略サイトに書かれた鉱石専門店に向けて、俺は歩いていた。道中の道のりはかなり快適だった、というのも"決闘"を仕掛けてくる者がいないからだ。ランクが上がったことによる影響なのだろうかと一瞬思ったが、あそこまで人狩りに動けている連中が果たしてC以下なのだろうかと思うと、変な予想が飛んでくる。
(考えても仕方ないけどな。)
とりあえず、我が物顔で道の中を安心して歩けるのはいいものだ。面倒ごとが起こらないだけで目的地への到着時間が半分になる、そう思っているうちにもう到着だ。
「"キリハラ鉱石専門店"、ここで間違いなさそうだな。」
右画面に浮かべていた案内地図を消し、店の上にある看板を右から左へと読む。攻略サイトではオススメだと書かれていたので少し混んでいるものだと予想していたが、外観の様子を見るにそうでもなさそうだ。運がいいのか、はたまたこれが店自体の実態なのか。
俺の第一印象は何故か悪かった。どうして悪いのかと聞かれれば答えるのは難しい、どうにもこうにも理由のない苦手意識というか、相容れない雰囲気とかがこの店の根底から伝わってくる感じ。めんどくさいクレーマーみたいな思考だが、俺もなりたくてなっているわけではない、本当に理由のない何かが働きかけているというか、いまはそうでしか説明できない。
(店の名前、どっかで聞いたことがある気がする。)
どこにでもありそうな名前であることは理解しているが、その単語を口に出してみるとさらに感じる、俺がこの店に抱いている苦手意識がどこからきているかという話をだ。
キリハラという名前の人物に特別何かされた覚えはない、ただこの名前を持った誰かに面倒くさいことをされたような気だけは確かにあった。
(偶然であるように……)
俺はそう願いながら、店の扉を開けた。
「いらっしゃいませー。どうぞ好きに見ていってくだ…さ、」
店の中をじっくりみる暇なく、俺は店員がいるカウンターの方を見た。そしてそこには俺の先ほどまでの不可解な苦手意識を持った理由となる人物が1人の店主として接客している姿が目に映った。
無論、店の中には誰もいない。まるで運命のイタズラだ、こうなることを誰かが予想して意図的に出会うように仕組んだ、そう言っても納得してしまうほど綺麗に俺たちは出会った。
「………(レナ)……」
「……………」
目を見合わせ、互いに固まる。向こうは驚いた表情、こっちは腑に落ちたような心境。ただ心の中の驚きというのは間違いなく同じだった。
『お前かぁぁーーー!!!!』
同時に叫び、店をうるさくする。人がいなくて本当に良かったと俺は思うと同時に、どうしてこう。いいことの後にはやなことが来るのだろうかと思う。平和な道のりの果てにあるのがこれだと、一体誰が理解できたのだろうか。まぁ向こうの心境なんてものは今の俺からしたら知ったこっちゃない話だ。
「よくも、私の店にノコノコやってきたわね!その核(心臓)抉り取ってやるわ!!」
「そうはいくか!って言いたい気分だが落ち着け落ち着け、何も悪いことしようときたわけじゃない!!」
「そんな白々しい態度で信じるとでも!?」
レナはそう言いながら、カウンターを軽々しく乗り越え、こちらに向かって喧嘩腰で向かってくる。
俺は覚悟しつつ、近接戦をする構えをし。レナがかまわず繰り出した一撃を腕で受け流した。
「そうかよ!!」
そして始まる近接戦、店のことを考えているレナは足技を使わず、腕だけの攻撃に限定して戦っている。次から次へとくる顔を狙った拳に俺は受け流しをしつつ、会話のタイミングを探した。
「な、っおい!落ち着け、」
「家に虫が上がり込んだら潰すでしょう!!」
鋭い一撃が顔の横を掠める。
「拳でか!スリッパとかじゃなく!?」
「アンタほど大きいと拳になるのよ!!」
もはやレナは聞く耳持たずだった。下手に手を出せば余計に後の収拾がつかなくなる、火に油を注げばどうなるか、レナであれば想像に容易い。しかしこのままいつか当たる拳をいなし続けるのも明確な解決策にはならない。
俺は覚悟を決め、レナの一撃目の拳を掴み、次の瞬間にくるニ撃目もしっかりと受け止めつつ手首を掴んだ。そして、そのまま呆気に取られている彼女を力技で地面に押し倒した。
「きゃっ!!?」
「っ、ほら。少しは落ち着け……!」
こういってはなんだが実に女の子らしい声を出しながら、簡単に押し倒したレナに俺は少し息を切らしながらそう言った。これで少しは落ち着いてくれと心の底から願ってはいた。
「ッ────このヘンタイっ!!!!!!」
「はぁ?!────ガッ!!!!!」
束の間、レナの蹴りが俺の腹部大きく蹴り退け俺は瞬間宙を舞う。ドタンッ、大きな衝撃と共に俺は地面へと吹っ飛ばされた、レナの一撃は咄嗟に出たにしては酷く鋭く、背中の痛みと腹の痛みで俺は少しばかり体の自由が聞かなかった。
「ぁあ〜ッ!、何(なぁ〜に)すんだァ。」
「こっちのセリフよ!!」
かろうじて出た言葉にレナは大きな声で反論する。しかしそれ以上行ってくる気配がなかったため一応落ち着いたのか?っと心の中で思いつつ腹部の痛みの背中の痛みを考えるにあんまりいい方法じゃなかったんだなぁっと反省した。
「はぁ、全く。紅月に押し倒されるなんて……!」
俺の状態も知らずにレナは服についた埃を払うように身だしなみを整える。俺はなんとか上半身を起こし、立ちあがろうとする。
「…ほら、」
「ぁ、ありがとう。」
レナはそっぽを向きながら立ちあがろうとした俺に手を差し伸べる。その手をしっかりと掴み、できるだけ体の重心をのっけないように工夫しながらゆっくりと立ち上がった。
「、さっきは悪かったわね。」
「あぁ、できるなら本当に反省してくれ。」
今回に限ってはレナを容認できるはずもない。俺はただただ来店してきた客だというのに、この扱いは流石に、、まぁ看板から察することもできたが、世界に"桐原"なんて苗字は腐るほどいるだろうに、加えてそれが桐原玲奈であることを察するなど、彼女に対して相当な執着などがないと普通は辿り着かない。
つまり、今回ばかりは俺に悪い点など一切ない。
「で、何しにきたのよ。」
「普通に鉱石買いに来たんだよ。俺が見たサイトじゃ評判がいいらしいからな。」
「ふーん、そう。それで、何を買いに来たのよ。」
俺は画面を動かし、完成した設計図の写真をレナに見せる。そして鉱石類にまとめてあるリストを掴み、そのままレナに渡した。
「これ全部。」
「……金は?」
リストを渡されたレナは目を下から上へと動かしてリストをみる。店を開いているだけにリストに書かれた鉱石をみるスピードや帰ってくる反応というのは意外にも早かった。
「ある。」
「ルルカの金?」
「そんな図々しいことできるか、」
こいつはいつも俺のことをなんだと思っているんだ。確かについ最近までルルカに渡された金を使っていたのはそうだが、それだっていつか返そうと思って使っていただけであっていつまでも借りようだなんてことは一度も思ったことがない。第一、なんの嫌悪感なしに貸してくれるルルカに一周回って申し訳なさを感じるほどだ。
「ちょっと在庫確認してくるわ。」
リストを片手にレナはカウンターの奥の方へと向かっていった。俺はレナが帰ってくるまで、店内を見ることにした。棚にはいかにも高価そうな鉱石が並んでおり、値段を見ればそれが伊達ではないことがすぐにわかる。俺にはそれが何に使うか皆目見当もつかないが、レナからしてみればこれら全てが自身の生活の一部であり、この店の成果物なのだろうと、達観した様子で俺は見ていた。
(オートマタ専門店をやっていたとか言っていたが、)
無論、結構前に聞き齧った話であり記憶が正しければ見たいな話なのだが。表を見れば明らかに鉱石店だ、サイトにもそう載っている。だが本人はああ言っているとなると、少し複雑なのかもしれないと勘探りしてしまう。
そう考えていると、扉が開く音と共にレナがカウンターの向こう側から姿を現した、、表現しずらいなんとも微妙な表情をしながら。
「どうした?」
地雷かもしれないが、向こうから何か言ってくれそうな雰囲気ではないと察した俺は、レナにそう問いかけた。
「大したことないわ、自分の貯蔵量を少し過信しすぎただけよ。」
ほう、っと口に出し。今の発言を分析してみる。つまりそれは在庫を探してみたが該当するものがなかったということであるのだろう。ここで、なんだよないのかよ、なんて言葉はかけてはいけない。ここはなんでも手に入る店じゃない、いくら犬猿の仲であろうとここでは客と店員(店長)でありどちらが不利かなんてものはこのレナのいつもの態度を見れば一目瞭然だ。
「つまり、取りに行かないといけないってことか。」
「そうね。アンタのためだけにいくのは癪だけど。こっちはこれでも商売だから、」
そう言うと、レナはコンソールを出し何やら作業を始めた。
「じゃぁ俺はそれまで他の素材でも取ってくるよ。」
「はぁ?何言ってんのよ。」
俺は店の扉のほうへと体を向け歩き出そうとしたが、レナに引き止められる。
そして何やら小難しいことが書いてありそうな紙を渡された。
「これは…?」
俺はその紙を手に取り、まじまじと内容を読み解く。
「契約書みたいなものよ、私の行動に同行するっていう。」
「なっ、」
確かにそこにはレナが言ったような内容が記載され、しかも自分の名前が勝手に記入されていた。
契約書というよりかはどちらかといえば依頼書のようなものだった、報酬なしの。レナが鉱山に行くので俺はその同行、護衛をする。大雑把にまとめるとそんな内容だ、問題はこれを本人の意思がほとんど介入せずにこいつの独断で書かれているということ、
「なんで俺も行くんだよ。」
「あら、別に不思議なことじゃないわよ。自分の素材は自分で取りに行く、でもアンタは鉱山に行くことはできない、代わりに私が取りに行くという話。でもそれじゃあ不公平でしょ?」
「何がだ。」
「……別に断ってもいいわよ。でも私は自分の鉱石を誰に売るかくらいは決められる。この言葉がわからなくないなら断るなんて真似しないでしょ?」
「ッ、相変わらず。」
性格の悪さだけは一級品だ。さっきまで近接勝負で負けて慌てていたくせに、調子に乗り始めるとこれだ。だが口ではなんとでも言えるように、こいつの提案を飲まないという選択肢はほとんどない。俺は同行するだけでいいのだ、何も起こらなければただ同行していって、ただ帰ってくる。
そうするだけで普段ならかなり苦労しなくては手に入れることができない鉱石を、手に入れることができる。
提案自体に悪さは感じない、ただレナの性格の悪さで悪いように見えているだけだ。
「で、返答は?」
「断れないだろ。こんなの……」
「なら、準備して。善は急げよ」
ということで俺はレナの採集に同行することになった。場合によっては戦闘行動があるかもしれないということで、俺はベディヴィアールの装備をいくつか外した軽装備で今回の同行を望むことになった。俺の見立てが正しければ戦闘行動一回もなしに新装備が作れるはずだったのだが、まぁ過ぎてしまったことは仕方のないことなのでもう今更だが。
「アンタ、鉱山とかいったことないでしょ?」
「行く必要がないからな。」
「って言っても、いつかはこうして行くことがあるのよ。」
「そうかい。」
「前に鉱山のシステムというか採掘者のシステムについて話たでしょ?」
かなり前なんだが、っと呆れた声を出しつつ俺は思い出してみた。
「確かライセンスだったか、必要なんだっけ?」
「そう、Cランク冒険者にあった依頼がくるように。ライセンスによって入れる場所が決まってるのよ、私のグレード"マイスター"だからあんまり関係ないけどね。」
マイスター、確か一番上のグレードだった気がする。そういえばエズも同じ資格を保有しているとかしていないとかも聞いた覚えがある。
「同行者の俺は別にいいって話か?。」
「普通は同行者もダメよ。でも契約書を通している以上、アンタは私のお付き人ていう扱いになるから影響は受けないわ。」
そのための契約書だったのか。っと考える以前にこいつの用意周到性というか、性格の悪さの意識が強すぎるせいで全然感謝の心にならない。
「で、そのライセンスの話と今回の採集、何か関係があるんだな?」
「まぁね。でも何も起こらない方がよしって感じよ。」
言い方的にレナでも勝てない相手というよりかは苦戦を強いる相手という感じがする、前に悩んでいたオートマタがりも今ではだいぶ落ち着いてきた、そう考えると問題は別にあると睨んでも良さそうだ。
そんな考えを巡らせながら、レナに連れられ、俺は鉱山に到着した。
「ここが鉱山よ。」
「へぇ。」
「…反応薄いわね。」
っと言われましてもだ。
「なんかイメージした通りって感じでな。」
目の前の光景というのは、採掘者たちが鉱山を様々なアプローチで掘り進めている様子そのものだった。
炭鉱という言葉の方がイメージしやすいのかもしれない、トロッコで奥の鉱石や石を地上にあげ、それの繰り返し。経緯としては洞窟が鉱山へと人工的に改造されたような様子だった。
「これをイメージしているとか相当ね。」
レナからはそのような感想をもらい、進む彼女の後を追った。
鉱山に入る時、レナが契約書とライセンスをある人にみせ、了承をもらったかのようなそぶりを見せると、俺に手で振りながら炭鉱の奥へと入っていった。
「結構明るいな」
炭鉱の中へと進み歩いていく、俺はそう口から漏らした。
「そりゃそうよ、まだここらへんは採掘が終わっているところで色んな人が通る道みたいなものだから普通に舗装されて灯りなんかがあるわ。」
「ってなると、奥に行くとこうはならないってことか。」
「そういうことよ。」
レナが言った通り、灯りが多く線路が引かれていた道は奥に進むにつれ、足場が悪くなり、線路がなくなり、灯りなどがなくなっていった。まるで下に行けば行くほど難易度が上がるダンジョンのような気がした。俺的にはダンジョンは一回しか行っていないのだが。
「…そういえばで聞いてなかったけど、お前なんで鉱石店なんかやってるんだ?」
本当にそういえばで思いついたことを今話す。別に今じゃなくてもいいんだが、まだまだ歩く時間はありそうなのでせっかくだから俺は聴くことにした。
「何、新手のクレーム?。」
「いやそうじゃない。前にオートマタ専門の店とか言ってなかったか?」
そう、レナは確か前にオートマタ専門店をやってるだとかを言ったことがあった。しかしまぁ実態は鉱石店を経営している。色々考察はできるだろうが、予測で納得できるほど俺は諦めが良くないため聞くことにした。
「あぁ、それね。半分はあんた達への聞こえがいいように、もう半分は余計なカモフラージュよ。」
レナは俺の言葉を聞くと独り言かのようにそう俺にも聞こえる声でつぶやいた。少し考えてみなさいっとまるで催促されたような態度、一周回ってめんどくさすぎて説明したくないという感情まで来るのは俺のおかしな感受性のせいだろうか、
ともかく、前者は納得が言ったような気がした。当時【SAMONN】に詳しくない俺に鉱石店とかの説明も入れるとするならまぁめんどくさいだろう、そう言った意味で説明を省いたのならそれはまぁ妥当な理由だ。
問題はもう一方の"余計なカモフラージュ"について。レナはここで話を切ろうとしているが、やはり気になった俺は自分の見解をレナのように大きい独り言で表すことにした。
「オートマタの立場が悪かったからか?」
「よくわかってるじゃない。今じゃアンタのおかげで少し広告が楽になったくらいよ、」
レナは理解を示してくれたこちらに嫌悪とは反対の普通の表情を見せた。どうやら当たりだったようだ、それにしても。
「俺のおかげって、別に俺は普通に大会に出ただけだろ。」
「アンタからしたらそうだけど、他の連中からしたら殺したくて仕方がないほどの活躍をしたんじゃない?」
レナの言い方は酷いが、事実と結びつけられる一つの出来事があった。それは"決闘"だ、レナの考えていることをあいつらも思っていたのなら元凶である俺に八つ当たりをしてきても十分おかしくない。だが、それ以前に
「お前、知ってたのかよ。」
「ニュースになっててたまたま見ただけよ。少しは自覚したら、大会にオートマタが出てそれで優勝。こっちの客足が増えたのもアンタの装備と活躍があってこそってコト。」
「………」
前々から気づいてはいた。俺がしたことはもしかしたらとんでもないことにだということを、ただ単にルルカとやるゲームに面白さを追加したいがために、自分がやりたいがためにやった行為がゲームの立場を大きくひっくり返すことになっていることを。となると俺も他人事に振る舞えない。だがそれは周りの意思であり俺の意思じゃない、俺個人としては何事もなく普通にゆっくりとしていたいだけだというのに。
「まぁ、察しが悪いアンタなんていないか。別にそのまんまでいいわよ、誰かが為なんて言うアンタは正直気持ち悪いわ。」
「……相変わらず、口が悪いな。人が悩んでるっていうのに、」
「それが私だからよ、無論アンタに対する私。だからアンタも変に気負わずにしたいことでもすればいいわ。」
「そうかよ。……最初からそう言えばいいじゃないか。」
「飴と鞭ってあるでしょ?、本当は鞭だけにしたかったけどアンタのおかげでこっちも商売上手く行っている以上、対価として飴が与えられるのは正当でしょ。」
「お前っていつもそうだよな。」
俺はそれだけ言うとこの話を続ける気持ちをやめにした。レナの言う通り俺は自分のやりたいようにやっていけば一番かなと思った、こいつに助言されてこいつの意のままに進むのは少し癪だが。らしくないと言う部分では確かに納得できたし、まぁ気遣ってくれてるなら貰っておこうという俺の勝手だ。
「で、話は変わるけど。紅月、アンタは灯りの意味をよくわかっていないようだけど。」
「ん?」
いきなり振られた話におれは少し遅れつつもそう反応した。まっすぐ前を向いていたところをいきなり横を向けと言われたような勢いだった、
「灯りは時に、モンスターを沸かせないためにあるのよ。」
ガシ、っと何かが足を掴んだような感覚を覚えて必然的に足元も見る。するとそこには自分の足を掴み顔を地面から突き見せるゾンビの姿があった。無論そんなに大きなリアクションも無しに俺はその手を蹴り解き、対人等を頭を割くように突きさした。
「じゃあなんで灯りがないんだ、言葉的にお前も来たことがあるんだろ?」
俺はようやく話の内容というかこの状況に理解が行った。対人刀を吹き抜き、レーダーから読み取れる敵の数に目を向ける。
「バカね。灯りを置く暇がないからよ。それに…」
レナが言葉を適当なところで言葉を切らすと、周りから音がしてくる。無論、それは敵生命体が出す音であり俺たちはいつのまにか包囲状態になっていた。
「灯りを置けるほど余裕でここを切り抜けないとあり得ないのよ……!」
モンスターの一体がこちらに向かって飛びかかりレナは背部にマウントしてあったガトリング砲を斉射、目の前に壁のように連なっていたモンスターを蜂の巣にしながら一掃する。
対して俺は背後から現れた蜘蛛型のモンスターの腹を突き刺し、心底気持ち悪いと思いながら斬り払いつつ牽制用のビームライフルで数を減らし、一体いったい確実に斬り殺していく。
「いいのか、ここ鉱道だぞ…!」
「いいのよ、灯りはともかく壊れないように作ってるんだから!!」
その言葉通りに鉱道での戦闘はミサイルを撃とうがビームライフルが外れようが壊れることはなかった。レナが切り開いていく道の後を追いながら、俺は後ろから押し寄せてくるモンスターたちを牽制していき、予想しているよりも早く目的地に辿り着いた。
「こっちよ!」
「っ……!」
レナの呼びかけを確認しつつ、俺は敵に背を向けながらスラスターを吹かし、一気に呼ぶ声の元へと辿り着いた。そして迎撃しようと背後を警戒したところで、モンスターたちはまるで諦めたかのように追うのをやめ闇の向こうへと去っていった。
「どういうことだ?」
「そのうちわかるわよ、」
レナがわかっているような口調で先に進むものだから俺もその後を追う。先ほどまで暗闇で戦っていた俺たちであったが、今通っている道は灯りがともされており道全体が見やすかった。
その差異とレナの発言に違和感を感じながら、俺たちはその先にある空間に辿り着いた。
空間は目が眩しくなるほどの鉱石で溢れていた。結晶化した水晶が至る所から突き出ており、この空間そのものが一つの大鉱脈と解釈できてしまうほどだった。
「……。」
「。」
普段なら声ひとつあげる俺だが、レナの様子やこの空間内に漂う独特な雰囲気を密かに感じ、流石に黙った。この鉱山で詳しいのはレナだ、そのレナが気を抜いていないということは少なからずここで俺が気を抜くのは違う話だろう。
(この雰囲気、どことなく爆弾を抱えているような気がする。ピリついているというか、一挙手一投足が確実に命取りになっている、そんな気配が……)
レナがゆっくりと歩みを始めるように、俺もそれを真似てゆっくりと歩幅を合わせた。
「、ストップ。ここよ、」
レナはとある水晶の前で体を止まらせ、俺にそう耳打ちした。レナは背部から道具を取り出し、一番近くにあった水晶に取り付ける。
道具は水晶を這うように起動し、行動を開始した。
レナの言葉的に俺はその見張りというわけなのだろう、本人も武器を構え水晶を守るように四方八方を見ている。だがレーダーには反応はない、一見敵がいないように見えるのは当たり前である、しかしそれは敵が生命体であるに限った話だ。
もしそうでないのなら。
「相手は無機物か。」
俺は対人刀を構え、少しの地響きと共にやってくるゴツゴツとしたモンスターを目撃する。それは前に見た巨大なオリハルコンゴーレムと同じような姿をしていた。差し詰め、クリスタルゴーレムといったところか、
「そう、相手よろしくね。」
「、この剣は対岩刀じゃないってのに、無茶言うな。」
そう言いながらも、俺は前線に出てクリスタルゴーレム達を相手取る。レナにも言ったがこの剣は対人刀専用に作られているだけあって、対物刀じゃない、今回の戦闘においては不利に働いている、切りやすいところを切らなければ先に折れるのはこちらの方。
(なら、弱点を作るまで。)
ゴーレムの核はオートマタ同様心臓部分。狙うは一撃だがもちろん心臓部分の周りには相当に固くなっているはず。
となるとまず、ゴーレムの攻撃を回避し、背後に回り込む。そして背後をビームライフルの照射でほどよく焼き、脆くなった部分を一気に刺す。
案の定、ゴーレムの体は最も容易く対人刀が貫き通し、まず最初の一体が倒された。
レーダーに反応しない以上、目の前の敵に向かうより先にレナの援護に回る。ここでの行動はレナを守りながら敵を退けるというもの、目的はゴーレムをいかに多く倒すことじゃないので、そこを脳頭に入れながら対処に専念する。
ビームライフルの照射はエネルギー消費が高いので、基本一秒も当てない。ただ次に突き刺す行動に回す時間だけは一瞬にする、そうすることでゴーレムの背部から熱が消える前に突き刺すことで簡単に核を破壊することができる。
(今はこんなめんどくさい方法しか取れないのが癪だが。やるしかない、)
「あと少しよ、頑張りなさい…!」
「お前も少しは手伝ってくれたらなぁ!!」
毎回小難しい作業を行うのはもちろん精神力を使う。そのため、面倒くさくなったらいっそのこと魔力放衣を使いシールドでゴーレムそのものを真正面から打ち砕く戦法もある。シールドが固くないとやれない戦法ではあるが。
「よし、終わったわよ。」
「撤退か?」
「なわけないでしょ、次よ次!」
レナは道具を折りたたみ、脇に抱える。そしてスラスターを吹かしながら、鉱脈の奥へと向かっていった。無論俺も護衛を任されている身なのでそのレナについていく。
「勘弁してくれ。」
愚痴をもらしがちではあったが。
その後はレナの愉快な護衛任務が続いた。出てくる敵がゴーレムから蜘蛛になったり、はたまた大ボスになったりと、正直ついて行っている時レナは恐れ知らずなのかと思いたくなる瞬間はいくつもあった。正直コレがマイスターの毎回の採集ならば俺は間違いなく同行も自ずといくこともしたくない。
コレを生業としているレナには口が裂けても言えないが、この仕事色んな意味でハードすぎる。
「ということで、お疲れ。」
「いや本当に疲れた。お前本当にいつもこんな思いしてるのか?」
疲れ切った俺からしたら不満の一言くらい言いたくなる。俺は装備から土を落としつつレナにそう問いた。
「…………まぁそうね。」
「────。」
こいつの長い沈黙で俺は全てを察した。こいつは俺がいたから今回大変な目に遭いながらも奥へと進んでいったのだと。俺はそのことを理解すると無性にこいつの脛を蹴り落としたくなった。しかし契約に飲んでしまったのは俺であり、このことが予見できなかった俺にも十分に落ち度があると、そうなると一方的に何か言えないわけで、その事実を改めて痛感するととても複雑な心境になった。
(戻ったらさっさと鉱石をもらって今日は休もう)
まるで金曜日のような疲労感が俺を襲っていた。そうして、疲れた体を引きずりながら俺はレナの店へと戻った。
「じゃあ準備するから、適当にくつろいでいいわよ。」
「言われなくとも。」
はぁっとため息をつきながら、俺は近くの椅子に腰掛ける。そのままヌボーっと精神を休ませながら待っていると。
「はい、今回の報酬よ。」
「あぁ、どうも。」
レナが袋を片手に俺の方へと差し出してきた。働かない頭を動かしながらそれを受け取り、彼女のもう片方の手に携えている紙に目をやる。
「請求書か。」
「えぇ。」
俺は察すると同時にレナから紙を受け取る。レナは随分と得意げの表情であり思わず殴りたくなったが疲れた心にそれほどのやる気を残していない俺はもうその気をすでに無くしていた。
「………?、見間違いじゃなければ安くないか?」
一眼見て目を擦り。もう一目見て疑いを持ち、もう一目見ることによってそれが間違いであると気づいた俺はレナにそう問いかける。
「サービスよ、アンタが頑張ったおかげでこっちは利益が上がるんだから、正当でしょ?。」
「まじか。」
「その顔、アンタ私をなんだと思ったのよ。」
なんだと思ったのか、という質問についてはすぐに答えることができた、今日レナと話した言葉のどれよりも速く俺はこう言い放った。
「悪魔。」
「……………………………これからもご贔屓にしてやるからすぐに出ていって。」
という感じで俺は店を追い出されるように出ていったあと、ログアウトした。
思い返してみれば最初の一回以外はレナに一杯食わされてばっかの1日だったなと思いながらいつか、あいつに二杯食わしてやるような思いをしてやると心に誓いながら、その日は終えた。
『topic』
採取者は鉱石を取りながら敵と戦わないといけないので基本戦闘能力も重要になる。しかしレナに限ってはグレーゾーンスレスレで人のことをこき使うことが多いので評価自体はあまりよくないものの、それを表立って言えるほど悪い人間でもないため、また冒険者ギルドに依頼が貼られる時は「やりたくないが、やらないと困り、尚且つ正当性があるからクソめんどくさい依頼」としてほとんどの人から認知されている。




