双子たちの日常 その2
王家の双子たちの日常話。フィルとルシアの結婚の後くらい。書籍3巻アルベス編発売記念SSです。
国王ロスフィールの子は二人いる。
双子として生まれたアルロード王子とリダリア王女だ。
美しい銀髪と紫色の目、それに王妃そっくりの美しい顔立ちで、その上に極めて元気である。護衛の騎士たちに追われながら、王宮中を走り回るのが日常だ。
しかし、その日はゆっくり歩いていた。
髪が少し短いから、アルロード王子だ。周囲を探してもリダリア王女の姿はない。キョロキョロと周りを見回しながら一人で歩いていて、時折足を止めては手にした紙に何かを書き込んでいる。
あまりにも珍しい姿に、居合わせた騎士が思わず声をかけた。
「アルロード殿下。リダリア殿下とは別行動ですか?」
「うん、そうだよ」
いつものように気さくに応じたものの、そのままちょっと首を傾げながら集まってきた騎士たちを見上げている。
「……俺たちのことで、何か気になることでも?」
「んー、別にないんだけどねー。あ、そうだ。リダはこの辺にいる?」
「俺は今日は見ていないですね。お前らはどうだ?」
「ちょっと前に厩舎で見ました!」
「厩舎ということは、第二軍を探っているのかな。だったら僕は第一軍を押さえておくかなー」
アルロードはそうつぶやいてから、ニコッと笑った。
「ねえ、みんなの名前を教えて!」
「俺たちの、ですか?」
「うん! いつも会っているから顔は知っているし、剣の腕前もよく見ているけど、今日は正式な名前がいるんだ!」
「正式な名前って、もちろん構いませんが……」
騎士たちは首を傾げながら名乗っていく。
アルロードはそれを丁寧に書き記し、身長や得意な武器まで聞いていく。
さらに周辺で足を止めてみている騎士たちのところへ走っていって、同じように名前などを聞き取っていった。
「名簿か何かを作るんで?」
「それに近いかな。ゲームの準備だよー。あ、もしリダが来たら、僕がもう来たって伝えてね! じゃあね!」
手を振ったアルロードは、また周りを見ながら歩いていく。騎士たちは首を傾げたが、きっと新しい遊びなのだろうと特に気にしないことにした。
◇
「では、勝負だよ!」
「僕からだね。……んー、第二軍の騎士かぁ。じゃあ賄賂は馬だね!」
「それすごくいい! やっぱり第二軍なら賄賂は馬だよね! 次は私。……やった! サイレスが出た! これで勝ったも同然だよ!」
「あっ! でも、サイレスが取られてもオルドスさえ出れば逆転できるから、まあ問題ない、かな?」
「そんなこと言って、前はオルドスなしで勝ってたじゃない!」
「当然。第三軍の騎士が三人いれば十分だよ!」
騎士たちがくつろぐ食堂で、双子たちが何やら騒ぎながら楽しそうに笑っている。
手元には小さなカードがたくさんあって、それを一枚一枚表に向けながら手に持った丸い紙切れを出したり、別の山からカードを引いたりしている。
どうやらゲームをしているようだ。
しかし騎士たちが見たことのない様式だ。それに双子たちが口にしている言葉が何やら物騒だった。
ちょっと聞いている間にも、実在の騎士の名前がポンポンと飛び交っている。そして腕っぷしの強い騎士はゲームの中でも「強い」らしい。
ちなみに「サイレス」は名門貴族の生まれで、第一軍団長となることが確実視されている騎士。「オルドス」は言うまでもなく双子のお気に入り騎士で、最精鋭騎士隊を率いる隊長だ。
それにしても……賄賂とは何のことやら。
騎士たちが首を傾げている中、騎士隊長の一人が部下たちに押し出されるように双子のテーブルにやってきた。
「あー、お邪魔をして申し訳ない。その……殿下たちは、いったい何をしておられるんでしょう?」
「ゲームだよ!」
「戦略ゲームだよ!」
「……戦略ゲーム、というと、勉強用の?」
それにしては、カード類の作りが甘い。この双子たちは王子と王女だから、勉強用なら最高品質のもののはずなのに。
騎士たちの表情を見て、リダは表に返していたカードを差し出した。
「これは試作品なんだよ! もともと使っていたものは堅苦しくてつまらなかったんだけど、身近な名前を使ったらわかりやすくなるかもって、先生が提案してくれたの!」
「ああ、それはわかりますね。俺たちの戦術シミュレーションも、実在の国と装備でやる方が熱が入りますから」
「……しかし、殿下たちの先生にそんな柔軟さはあったか? 絶対にすぐに辞めるタイプだと思ったんだが」
「うん、一ヶ月でやめちゃったよ!」
「だから、新しい先生の選考中なんだけど、その先生候補の中の一人がすっごく面白い人なんだよー!」
「へ、へぇ……まあ、それはよかったですね。うちの殿下たちは、型にはハマらないのがいいところですから」
「できれば、第三軍のあの人よりおとなしくしてくれれば望ましいんですがね!」
一瞬反応に迷った騎士たちは、すぐにゲラゲラと笑う。
でも双子たちは、笑わずにため息をついた。
「でもねー、このゲーム、まだ改良の余地があるんだ」
「フィルをどんな要素でまとめるか、先生たちも悩んでいるんだよね」
「戦力的には、フィルを味方にすれば絶対に勝つんだけど、本物のフィルはもっと不安定だし、お父様には逆らわないでしょう?」
「フィルのカードが手に入っても使えないなんて、もったいないよね」
「賄賂じゃなくて、脅迫とか作れないかな?」
「無理無理。ルシアを人質にとっても、寝返ったりしないよ!」
だんだん、話が物騒になってきた。
騎士たちは真顔になって、周囲を気にしながら声をひそめた。
「……ちょっと待ってください。フィルオード閣下はともかく、陛下も出てくるんですか?」
「当然だよ! 内乱のゲームだからね!」
「え、内乱のゲーム?」
「どうやってお父様から王位を奪うかってゲームだよ!」
「安定した政治をしている時に、味方を増やして一気にクーデターを起こすの!」
「それは……」
面白そうだとは思う。
国王ロスフィールは安定した政治をするし、派手さはないが人を引きつけるものがある。軍事力もしっかりと抑えている。
そういう盤石な体制を、知略を駆使してひっくり返すことができれば最高に興奮するだろう。
だが……それを、国王の実の子供たちがゲームとして行っていいのだろうか。
微妙な顔になって黙り込む騎士たちを気にせず、双子たちは腕組みをしてうなった。
「最終的には、お父様と対戦して勝ちたいんだけど、お父様は戦略ゲームはすごく強いんだよ」
「できるだけ慣れてから挑みたいんだけど、慣れる前の問題がいっぱいなんだ」
「まだ武力だけしか数値化できていないしねー。政治力まで含めると、オルドスよりサイレスの方が上になるだろうし、ゲームを作るのは難しいね……」
「リオル伯父さんは、データの監修はしてくれるけど、まずは自分で集めて考えろって言うし……」
双子たちはため息をつく。
そんな双子たちの愚痴を、騎士たちはやや強張った顔で聞いていた。
——話している内容が、子供のものではない。
戦略ゲームの内容もとんでもないが、自分たちでそれを作り上げようとしているところがさらにとんでもない。
双子たちの頭脳は桁違いだが、そうさせている「リオル伯父さん」ことドートラム公爵も並外れている。さすが、あの王姉ハルヴァーリアの夫をしているだけある。
そして——そんな高貴な人々の「とんでもない動き」を、のんびりと受け止めている国王ロスフィールの度量の大きさは計り知れない。
いや、完全に理解を超えていた。
(帝王学の一環であろうと、現実そのままのゲームで内乱のシミュレーションをさせるなんて、あの王様は本気かっ!?)
騎士たちの思いは、それに尽きる。
しかし、それを口にするほど考えなしではないし、気楽な冗談にできるほどの度胸もない。
「さあ、次のカードを引いてよ!」
「よーし、次こそは第三軍を……あー! 退役軍人たちの飲み会に連れて行かれて一回休みになった!」
「いいなー! それ引いてみたかったのに!」
双子たちは笑い転げている。
そんな元気な二人を見ながら、王家の方々が仲良しでよかったと、騎士たちは平和な現実を噛み締めていた。
(番外編 双子たちの日常 その2 終)




