塩味のシチューの縁(後)
その二日後。
食堂に現れたダークブロンドの新入り騎士は、ひどく疲れた顔をしていた。
何が起こったのか、だいたい予想はできる。
第二王子の家族が——おそらく麗しき王女が、弟とその友人を振り回したのだ。
「それで、どうだった?」
「…………大変に歓迎していただきました」
「誰に歓迎していただいたんだ? 国王陛下か? 王妃様か? それとも……」
「王妃様と王女殿下です」
「ああ、お二人掛かりだったか。……大変だったな」
騎士たちは皆、極めて同情的な顔をした。
彼らにも幾度か経験がある。そして、誰に歓迎されたかでどんな状況だったかが違う。
国王なら、ガチガチに緊張しつつも誇らしい思いをしただろう。
王太子なら、緊張しているのになぜかリラックスできて、楽しい時間になっただろう。
しかし王妃と姉王女となると、ある意味ではもっとも大変な状況になったはずだ。特に若い騎士ならば。
「やっぱり、たっぷり食わされたか?」
「……今日もまだ、あまり食べたくありません」
王妃は息子と同年代の騎士を見ると、たくさん食べさせようとする。姉王女は騎士とはたくさん食べるものだと思い込んでいる。
無限に料理が運ばれてくるという歓待は、一部の騎士たちには至福の時間だが、アルベスにとっては苦行だったらしい。
先輩騎士たちはいつになく優しい表情になり、それからニヤッと笑って新入りの肩を叩いた。
「そうか。だが、よく頑張ったな!」
「お前のおかげで、我らの平和が守られたぞ!」
騎士たちが次々に新入りの周りに集まって、熱いねぎらいの言葉をかける。それを少し恨めしげに見たものの、新入り騎士はグッと言葉を飲み込んだ。
王家の方々の歓待の内容は大変ではあったが、温かくもてなしてもらったのは間違いないから。ひたすら食べさせられ続けたせいで、しばらく水だけでいいと思ってしまっただけだ。
それに——銀髪の友人の、家族の前でだけで見せる顔を見ることができたのは悪くなかった。
困惑した顔はどこか照れくさそうで、どこにでもいる若者そのものだったから。
◇
その後も、銀髪の騎士とダークブロンド髪の騎士が連れ立って騒ぐ姿は頻繁に見られるようになった。
それは二人が第二軍に所属を移し、軍団長と精鋭騎士へと肩書きが変わっても続いている。
「アルベス! 明日は暇か? 暇だよな?!」
「……なんだ、また王妃様に呼び出されたのか? だからあまり派手にやるなと言ったのに」
「仕方がないじゃないか! 派手じゃない遊びなんて存在しないんだから!」
「そこまでいやいやするくらいなら、派手な遊びなんてするなよ」
「僕が真面目にしていたら、ただ目立つだけじゃないか。馬鹿な王子くらいがちょうどいいんだよ」
「それはそうだが……お前、本当にあっていないぞ?」
アルベスはため息をついたが、すぐに笑った。
「まあ、俺は王族係らしいからな。付き合ってやるよ」
「助かる。お前は母上に気に入られているから、お前がいるだけで機嫌がよくなるんだ」
ほっとした顔のフィルオードは、ふと首を傾げて真顔になった。
「そうだ。母上の用事が終わったら、そのままラグーレンに行っていいか?」
「また来るのか?」
「君のところの羊飼いたちと、羊の毛の刈り方を教えてもらう約束をしているからね」
第二王子という尊い生まれであるが、フィルオードはラグーレンの領民たちとも親しくなっている。
それを知っているから、アルベスは呆れ顔をしつつうなずいた。
「仕方がないな。だが、知らせていないから、部屋が用意できていないかもしれない。床で寝る覚悟はしていろよ」
「了解。塩味の美味いシチューがあれば、それで十分だ」
フィルオードは真面目な顔で頷き、それからニヤリと顔を崩してアルベスの肩に手を回して、ぐいぐいと押した。
「明日のことはいいとして、とりあえず、今から姉上のところに一緒に来てくれ!」
「は? 今から!? それは聞いていないぞ!」
「言ったら、君も逃げるだろう? ……今日の姉上の機嫌はよくないそうだから、もう何人か連れて行くか。おい、そこの二人。君たちも来たまえ」
「はっ! しかし、どこへでしょうか?」
「この国で一番の美女のところだぞ。光栄に思え!」
「……えっ? ハルヴァーリア殿下のところですかっ?!」
一気に顔色を失う若い騎士たちと、苦笑を浮かべたアルベスを引き連れ、銀髪の第二王子は颯爽と歩く。
美しい容姿と気さくな人柄と、見る者を惹きつける笑顔。そんな王子と、ごく自然に友人として言葉を交わすアルベス。
観念したように顔を強張らせた若い騎士たちも一緒とはいえ、恐ろしく目立つ二人だ。
そんな二人をそれとなく見送りながら、王国軍の騎士たちはため息をついた。
「……あいつら、本当に目立つよな」
「見ろよ。女性たちの目が釘付けじゃないか」
「だが、あの王子様は嫌いじゃないし、アルベスの野郎のおかげで俺たちにまで被害が及びにくい」
「おかげで我が軍の人気は絶大だ。……ちょっと腹が立つけどな!」
不満じみたことを言いながら、騎士たちは最後には楽しそうに笑う。
それが、シチューの味付けの好みがあったことから親しくなった、恐ろしく派手な二人に対する評価だった。
(番外編 塩味のシチューの縁 終)




