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新生、地球アーシリア

 むかしむかし、彼女がまだ身の丈に合わない大きなランドセルを背負って毎日小学校に通っていた頃。

 彼女が住んでいる所は地球の、日本の某地、天井出町あまいでちょうという、そこそこ都会の町まで電車で小一時間という、程よい田舎町だった。

 天変地異がおきたのは彼女が小学校の高学年に差し掛かった頃。


 地球はある日突然、『アーシリア』という中世風RPG風の世界と合併した。



 ある日突然、気がつけば合併していた地球とアーシリア。

 ある朝突然、全てのスペースが倍になり、異世界と地球がうまいこと格子状に交互になっていたのだ。臨機応変に全ての建物を残したままに。

 家の玄関を一歩出れば、隣のこじんまりした家屋に住まうのは冒険者のビリーさん。この天井出町と合併してしまった『ユースィー』の町は、中堅冒険者と隠居して商売や農業を営む人が多い場所だったらしい。


 天井出はまだ、田舎町だからいい。世界は騒然として大混乱に見舞われた。

 しかし、のんびりとした田舎町の特権か。テレビやネットのニュースで激論が飛び交っているうちに、天井出町人とユースィーの町人は既に意気投合、懇意にし始めていた。



 人間は順応する生き物だ。

 あれからはや数年。世界はすっかりと平穏を取り戻している。


 近くの工事現場では土魔法と重機が一緒にビル建築。建築速度は向上し、魔法使いは高給取りの代名詞となっている。元地球人も、早期英才教育として魔法スクールに子どもを通わせるなんて流れが出来上がりつつあった。


 逆に、町人として何の才能もないとされていた人々の中には、現代文明に触れて跳躍的にその能力を開花した者も多い。

 彼らには職業選択の自由がなかっただけなのだ。突き抜けたモチベーションと苦労をそれとも思わぬ者たちは、今や多くの企業のトップにも君臨している。


 地上になかった魔物問題は大きく人類の脅威になったけれど、今は自衛隊や各国軍隊と冒険者、傭兵などが一緒に魔物退治に精をだして各地を守っている。

 現在は格闘技より実用武術が大流行。地球人にもこちらの道が性分に合った者も多かったようで、今は地球人の冒険者も少なくない。


 政治や技術については、文明のレベルに歴然と差があって。古き王政貴族政が現代社会に受け入れられる訳は無く。法整備は地球に合わせて各地で行われた。

 政治上の実権を押さえられたという意味で、地球はアーシリアに圧勝。日本では民主主義が勝利した。丁度日本と合併したティアルモ王国の姫様は、現在某有名大学にて民主主義について学習中だ。



 新生地球アーシリア。

 この世界は、こうやって平和にぐだぐだな毎日が過ぎ去っている。

 剣と魔法と文明を前に、人類の敵は多くはない。



 飯堂いいどう りんは、そんな新生地球アーシリアの、天井出ユースィー町で家族一同で大衆食堂を営む、ただの町娘だった。

 天井出駅から徒歩圏内、周囲にはオフィス街や学生寮。誰の許可も必要とする前に、曾祖父が『天井出食堂』と銘打って立ち上げた食堂は、安くて早くて美味くてボリューミーが売り。いつも学生と会社員でそこそこ賑わったお店だった。

 その客層に、更に冒険者や町人が加わって、今は常時アルバイトを雇うくらいの人気の食堂となっていた。


 りんは、今や偏差値がものを言わなくなった高校を卒業してから、家業に専従していた。臨地経験を経てそのうち調理師免許くらいにはチャレンジしたいという夢をもつ花の17歳。

 幼い頃から見て習い、やって習いの調理は仕込から仕上げまで滞りなく、客席に出れば一分の隙もなくテキパキキビキビと動く飲食店のプロで看板娘だ。

 そんな彼女は至って普通の少女であったが、その背後にはいつも至って異常な姿が付きまとっている。


 ある日店の前に転がっていたそれを拾ってしまったことになど後悔してももう遅い。

「りんちゃん、おなかすいたー」

 繁忙極める食堂で、客の合間を縫ってふらふらとりんの後ろについてくる、空気を読むことも我慢することもできないろくでなし。

「ねーりんちゃん」

 下膳片手のりんの腕を掴もうとする辺り、彼は本当に何も考えていないのだ。

 りんは容赦なくその手を払いのけ、ついでに彼の脛を蹴り上げた。


「邪魔だから裏で大人しく待ってて。大人しくしてないとご飯はないですからね!」

 まるで犬のような扱いである。そして、そう扱われた彼もまた、愛嬌のある顔を犬のようにしゅんとさせて項垂れ、すごすごと厨房の裏へと引きこもっていく。何度か恨めし気にりんを眺めていたが、知った事ではない。今、食堂は戦場なのだ。


 そして、一人寂しくそんな戦場を後にするろくでなし。

 彼は、アーシリアに危機が訪れた時に希望となる救世主メシア様。

『勇者 メサイア』という名の駄犬えいゆうだった。

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