灰色の記憶4
それから正吉は毎日…と言っても死出の山は延々と日が昇ることがないのだが樹音に様々なことを教えてくれた。
懐かしそうに嬉しそうに…そして悲しそうに話す彼の横顔がいつも樹音の目に映る。
『…どうして悲しそうな顔をするんですか…?』
ずっと聞きたくても聞けない。
そして今日は正吉からあのことを教えてもらったのだ。
「赤い糸って知ってるか?」
「赤い糸ですか…?」
樹音は何回か目をしばたく。それで正吉は樹音がまったくそのことを知らないということを察したようだ。
「運命の人と人とを結ぶといわれている伝説の糸。それが赤い糸」
「本当にあるんですか⁉じゃあこの蜘蛛さんの糸を紅に染めて…」
樹音がおもむろに懐から取り出した蜘蛛に正吉はギョッとした顔になる。
「なんだよ⁉それ⁉」
素っ頓狂な声をあげ、正吉は青ざめてのけぞる。
「極楽の蜘蛛さんです、私と一緒にここに来てしまったみたいですね」
「そんなの捨てろよ!」
あまりにも強い正吉の拒否反応に樹音は首をかしげる。
「…もしかして…先生は蜘蛛が苦手なんですか?」
そう問うと正吉はキョドキョドと目を泳がせた。
どうやら図星らしい。
正吉は基本無表情なのだが時折みせる細かい変化が面白い。
「『蜘蛛の糸』の蜘蛛さんですよ。大切にしてあげてくださいよ」
「いらねーよ、そんなの!」
正吉が泣きそうな声を出したそのときだった。
死出の山の木々が揺れて、さらさらと涼やかな音をたてた。
「せんせ…?」
目を見開いて、木に隠れるようにこちらを見ていたのは黒髪の少女だった。
「…雨藍…」
彼の乾いた唇から小さな呟きがもれた。
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