第5話 女王陛下って誰ですか?
朝リビングに降りていくとレナードさんが新聞を読んでいた。
「なんだって! 大ニュースだ」
「レナード、どうしたの?」っとキクノさんが聞いた。
「女王陛下が病気で倒れられたそうだ」
「えっ、それは大事件だわ! 症状はどうなのかしら?」
「宮廷医師が治療にあたっているそうだ。今日の新聞にはここまでしか載っていない」
「心配ね」
「ああ……」
「あのー、女王陛下って誰ですか?」
「隣国グランディア王国の女王陛下だよ。コトコは、まだ学校で習ってなかったのかな?」
あたしは、焦ってあちこち目をやった。
「どうだったかなあ、習ったような習ってなかったような……」
キクノさんが、あたしに助け舟を出してくれた。
「グランディア王国は、アメリア連邦共和国の東側に位置する王国よ。古くはこの大陸全土を統治していた王国なの。この国は女性が王位を継承するのよ。今の女王陛下は、七年ほど前に皇位を継承したところだから、まだまだお若いのに。何が原因で倒れられたのかしら?」
「コトコ、勉強でもなんでも、分からないことがあったら私たちにどんどん質問したらいいんだよ」っとレナードさんが言ってくれた。
「コトコは、私たちに出会うまでは、しっかり教育されてなかったと思うから、よくアメリア学院のカリキュラムについて行っていると思うわ」
あたしは、キクノさんにほほ笑んだ。しかし、ライブラリがあるのに、あまり役に立ってないよ。言ってみれば、頭の中にインターネットが入っているような状態だから、自分から探しに行かないと、無いのも一緒なんだよね。言語の翻訳とかは結構役に立つんだけどなあ。
「あ、コトコさま、またパジャマのままじゃないですか! そんなところはレナード様をお手本にしなくていいんですよ」
ナンシーさんに怒られた。
「ごめんなさい」っといって、レナードさんに目をやった。レナードさんは新聞で顔を隠した。
「そういえば、二人はどうしてるんだい?」
「今あたしの部屋で準備中です」
しばらくすると二人が降りてきた。
「おはようございます」
「二人ともよく寝られたかい?」
「はい、よく眠れました。ありがとうございます」
「今日も学校だからね。急がないと。さあさあ朝食にしよう」
朝食を終えたあたしたちは、ナンシーさんに学院まで車で送ってもらった。
その日の学院で……。
「コトコお姉さま!」っと呼ばれ振り向きざまに抱きつかれた。
熱烈なハグに「ぐはっ!」っと、声が出でしまった。
「あ、あれ? ヒナちゃん! な、なんで学院にいるの?」
「今日からここの学生です」
「えっ、編入してきたの?」
「そうなんです」
「わわっ、髪の毛どうしたの? 色も髪形も前と全然違う」
ヒナちゃんは艷やかな黒髪を左右に分けていた。いわゆるツインテールだ。
「コトコお姉様と私が遭遇するとややこしいことになりそうなので。髪の毛を染めて、髪形はお姉さまと違うものにしました。眼鏡はですね、私もともと目が悪いんです」
そう言って眼鏡の棒の部分を指でつまんで上下に揺らした。
「えっ、ごめんねヒナちゃん気を遣わせてしまって。しかし、ヒナちゃん編入してきたの全然知らなかったよ」
「私は1学年下に編入することにしたので、コトコお姉さまの後輩ってことになります」
「なるほど」
あたしとヒナちゃんが通路で話し込んでいると、ヒメ先輩が通りかかった。
「あ、ヒメ先輩ご苦労様です」
「あれ? 誰この子、コトコちゃんによく似ているわね。兄弟?」
「親類です」
必死にヒナちゃんに目配せする。
「コトコお姉さまの親類のヒナ・オニールです。よろしくお願いします」
「そう、私知らなかったわ」
かなりがっかりしているようだった。ヒメ先輩、普通そんなに全部把握できませんから。まったくもって、問題ありませんから。
「なるほど、ヒナちゃんね。しっかり覚えました」
ヒメ先輩の鋭い視線と相まって、怖いシーンになっていた。ヒナちゃんが怯えているように見えた。
はじめて会ったとき、あたしもドキリとしたからなあ。
「じゃあ私はちょっと用事があるから行くわね」っと言って、ヒメ先輩は手を振り去っていった。
「あわわ、チャイムだ。そうだ、ヒナちゃんお昼一緒に食べようよ。マリアちゃん、クリスティちゃんも連れて行くよ」
「いいですね! 了解です!」
そう言うと、あたしたちはそれぞれの教室へ戻っていった。