第2話 突然の訪問
「コトコ! コトコ起きて! しっかし、だらけまくってるなあ」
「あ、あれ?! マリアちゃんなんでここにいるの?」
マリアちゃんは、あたしが通う学院の同級生。性格は活発。見た目は、ショートカットで、スラッっと長身で、顔も小顔の美少女だ。
「あーもう、コトコ、よだれ垂らしちゃって。こんな顔ファンには見せられないよ」
あたしは、むくりと起き上がると、口元を手の甲で拭った。
「あっ、クリスティちゃんも来てる」
クリスティちゃんは、マリアちゃんの背後の空間から、あたしに向けて手を振った。
クリスティちゃんも、あたしが通う学院の同級生。性格はおっとりさん。見た目は、栗色の髪色で、肩くらいで内側にカールしており、小柄な割にグラマラスな体の持ち主だ。
「ナンシー先輩が、コトコちゃんがだらけまくってるって心配して、私たちを呼んだのお」
「えっ! そうだったの?」
「コトコ様があまりにダラダラしているので、マリアさま、クリスティさまをお呼びしたんです」
「なっ、何でナンシーさんが?」
ナンシーさんは、あたしの家のメイドさん。黒髪のロングヘアーを左右に分けて、みつ編みにしている。メガネが似合っていて、とてもキュートな人である。
「私が発明クラブのOBってことは前に言いましたよね。そして私は17歳。みんなともそんなに年齢は、違いません! ちがわないですよね!」
「はっ、はい! なるほど、知り合いだったってことですね」
「そう、その通りです」
「なんだよこの部屋。凄まじい散らかりようだな」っと、マリアちゃん。
「えっ? そっ、そうかなあ。みんなこんな感じじゃないの?」
「いやこんなのコトコだけだろ」
「ええっ?」
「ええっ? じゃないよ! 僕のいままでの経験では、こんな部屋の子見たことないよ」
「そうなの? クリスティちゃんの部屋はどうなの?」
クリスティちゃんは目を逸らした。
あたしは、薄ら笑いを浮べた。
「クリスティちゃんも部屋散らかってるんだね。あたしの仲間だね」
「でも、ちょっとコトコちゃんのとは違うと思うよ。確かに散らかってるかもしれないけどお。コトコちゃんのとは違うと思う」
「そんなに否定されると、ちょっとショックだよ」
「しかも、この部屋は一体どうなってるんだよ」
マリアちゃんは、部屋の中を見渡して言った。
あたしは、広い部屋の一部分に全ての家具を集中させていた。
「いいでしょ! この何でも手に届く範囲にあるのがいいんだよ」
「使われてないスペースが多すぎだろ」
「あ、あたしには広すぎて」
「な、何照れてるんだよ。意味がわからないよ?!」
「ここ最近クラブもサボり気味じゃない」
「ちょっと休ませてよ。ほんと大変だったんだからね。ダンスレッスンだったり、ボイスレッスンだったり、トレーニングだったり、あれからも体力トレーニングだけは、まだ続けてるじゃないですか! ちょっとぐらい休ませてくださいよう」
三人は呆れ顔だった。あたしは、ナンシーさんの方を見て目で訴えた。
「私も最初はそう思ってたんですけども、ここ数日のコトコ様を見ていたら不安になってきまして」っと、ナンシーさんが言った。
た、確かにそうかもしれない。鋭いよナンシーさん。今までのあたしならそうだったでしょう。
「でも、大丈夫なんですよ。だって、アイドルの仕事が結構入ってきているらしいんですよーーー!」
「ほんと、今だけなんですよダラダラできるのは、なんでアイドルになってるんだよ。わ・た・し・はーーー!」
「凄いよ! かっこいいよ! いやー、うらやましいよコトコが」
「ちょっと、誰のせいでこんな事になったと思ってるんですか?!」
グイっと、マリアちゃんの顔に自分の顔を接近させる。両手を使って私の顔をブロックするマリアちゃん。
そこへナンシーさんが割って入ってきた。
「さあさあ、仲良くしてください。二人が来ても忙しいわけじゃないんですから、三人でゆっくりしてください」
「そう言われてみればそうかも」
あたしは天井を見上げぼんやりと考えた。
ナンシーさんは「お茶とお菓子を用意してきますので」っと言って部屋を出ていった。
「コトコ、それで、お茶会はどうするんだよ。いつやるんだよ」
「え?! お茶会やるの?」
「ちょっと、お茶会やらないつもりなのか!」
「お茶会でも、お泊まり会でも、やるのはいいけどね。もう秘密は話さなくっても大体分かるでしょ」
「いや、はっきりきっぱり教えてもらわないと納得できないなあ」
「そこまで言うなら二人とも覚悟はいいよね! 聞いたからには、秘密はしっかり守ってもらいますからね! しかも二人の秘密もきっちり教えてもらいますからね!」
あたしは二人に向けてビシッと! 人差し指を突き出した。
「僕たちは、そんな秘密なんてないよ。なっ、クリスティ」
クリスティちゃんは、コテっと首をかしげた。
「本当か?! 本当にないのか?! あたしはマリアちゃんに顔をグイグイ近づけた」
決心したあたしは踵を返し、マリアちゃんから距離をとった。そしてまた、マリアちゃんの方へ振り返り言った。
「じゃあ、泊まっていきなよ。はっきり、きっぱり教えてあげるから」
そう言ってあたしは周囲に誰もいないことを確認すると、囁き声で二人に伝えた。
「マリアちゃん、クリスティちゃん。先に言っておくけど、ペンデルトン家の人は何も知らないから、秘密にしておいてね」
「ところで、二人は急に泊っても大丈夫なのかな?」
「大丈夫だとおもうよう」っと、相変わらずおっとりとした喋り方でクリスティちゃんが言った。
そして、マリアちゃんの方を見る。
「ぼくは、寮だからなあ」
「えっ! マリアちゃん寮住まいだったの?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「いまからナンシーさんに、二人が泊まっていいか確認してみる。そのとき寮のことも聞いてみるよ。ナンシーさんは、学院のこと詳しいからね」
キッチンへ行くとナンシーさんがお茶の準備をして
「ナンシーさん。今日なんですけど、マリアちゃんとクリスティちゃんに、うちに泊まって貰おうと思うのです。急なんですけど大丈夫ですか?」
「おっ、いいですねー」ナンシーさんの瞳がキラリンっと光った気がした。
「オッケーってことですか?」
「キクノ様、レナード様は喜ばれるでしょう。あとで一応連絡はしておきます」
ナンシーさんからは、ウキウキが漏れ出している。マリアちゃん、クリスティちゃんの身が危険に晒されるかもしれない……。ちゅ、注意しないと。
「あと、マリアちゃんは寮らしいんですけど、急に泊って大丈夫なのかなあ?」
「学院の寮ですか? 学院の寮なら私に任せてください連絡しておきます」
ナンシーさんは、あたしに向けグイっと親指を立てた。
「お、お願いします」
部屋に戻ると……。
「ちょ、ちょっとマリアちゃん、何やってるの?」
彼女は、ベッドの下に潜り込んでいた。
「あ、いや、ちょっと家宅捜査を……、その、エッチな本とか日記とかないかなーっと思って」
そう言うと、マリアちゃんは、ニッコリほほ笑んだ。
「こら! そんな可愛い顔してもだめです! そもそも、女の子の部屋にエッチな本とかあるのか?」
「わかってないなー、コトコは」
「じゃあ、マリアちゃんの部屋にはあるってことだね」
マリアちゃんは目を逸らした。
「ま、まさか……」あたしは顔がポッポと熱くなるのを感じた。
「冗談だよ、冗談」
あたしは、マリアちゃんに疑いの目を向け続けた。
「コトコちゃん、お爺様からオッケーもらったよー」
っと、携帯端末を手にしたクリスティちゃんから、ほっこりする一言。
あたしは、「わーーーん」っとクリスティちゃんに抱き着いた。