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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『マジック&ガールズ』 エロゲの不遇キャラに転生したけどとりあえず最強目指します!だからヒロインたち?俺ににじり寄るのはやめてくれ⁉ (短編版)

作者: ルナ


どぞー



ぷくぷく、ぷくぷく………


気づけば俺は、よく分からない暗闇にいた。


(ってここどこなの?!俺ってば今どんな状態なの?!もしかして俺死んじゃったの?!


俺まだ童貞どころか彼女すらいなかったんだけど!いーやーだー!

せめて美人なお姉さんにきゃっきゃうふふしてもらいながら童貞くらい捨てたかったー!ってあれ?

なんで俺意識あんの?死んだんじゃないの?

まさか俺ってば植物人間に?!

いやだぁ!一生暗いなかで一人なんていやだぁー!いっその事誰か殺してくれえぇぇ!)


そう思ったときだった。


ぐぐ、ぐぐぐ、と何かから引っ張られるという感覚と共に、体の骨を曲げられたような激痛が全身に走る。


「いぎやあぁぁぁ"#$&*'?!?!」


言葉にならないとはまさにこのことだろうか。


声が出たという喜びなどはなく、ただただ激痛に耐え、歯を食いしばり、絶叫を上げる。


グッ、と引っ張られると激痛が走り、またグッと引っ張られると激痛が走る。


数分経った頃だろうか。


表現するならばスポンっ、という感じと共に激痛が収まり、それとは逆に開放感と安らぎを感じる。


そして目を開けるとそこには5人ほどの巨人がいた。

思わずえ?と思っていると一人の美しい女性に持ち上げられる。

抵抗しようと体をジタバタさせようとするが上手く体を動かせずに抱きかかえられる。

そして女性がニコッと微笑んだのをみて理解した。

この人が俺の母親だと。


これ、転生ってやつだわ、と。


すると安心した俺へと急激に眠気が襲い、抵抗を試みるが無理だった。


母が何か喋っていたような気がしたがスッと意識が遠のいていき、俺の意識は闇に染まっていった。



ーーー



転生してから、約1年が経った。


うん。1年間まじで地獄だったぜ?なんせ母のおっぱいから母乳を頂かなければいけなかったからね。正直一番の修行だったと思うわ。

とまぁそれは置いといて、1年も経てば否応なしにでも自分の状況が大体分かってきた。


まず俺の今世の名前はナノシア・アスフィリアということである。というか今世の名前といっても以前の名前は何故か忘れてしまった。


それどころか基本的な個人情報から何まで大体忘れてしまっていた。

唯一覚えていることは、前世に俺がハマっていたとあるゲーム、『マジック&ガールズ〜恋と戦い!ドキドキをのせて!〜』というふざけた名前のゲームをやっていたことだ。


このゲームは一応学園戦闘物なのだが、全世界累計プレイヤー数2000万というぶっ飛んだ数字を誇る超人気ゲームで、課金要素があり18歳以上だとアダルトな作品にイリュージョンするエロゲである。

俺?もちろん課金しましたよえぇ……………衣装とか含めてざっと100万以上は合計で課金してた記憶があるね。


親からのお小遣い、正確にいくらだったかは覚えていないがかなり貰っていたはずだ。


まだ働ける歳じゃなかった気がしたので15歳以下だったことは確定だろう。

とまあこのゲーム……エロゲをプレイしていた記憶が残っていたことだ。


そして、なんと今俺がいる世界。


これが実にエロゲ、マジック&ガールズの世界に似ているのだ。というか同じとみてほぼ間違いないだろう。


そして俺は主人公に転生…………などではなく、モブ……………というよりは主人公の踏み台のようなキャラに転生してしまったのだ。


しかもこれまた中々どころかかなり………超絶ハードモードな設定だ。


ナノシアは公爵家の長男で、天才的な頭脳と類まれな戦闘能力、そして母譲りの柔らかい美貌を持ち、将来を有望視されていた。


しかし幼い頃に父が盗賊に殺され、6歳で公爵家を継いでしまうのだ。

それからは腹黒い貴族たちから揉まれながらも類まれな才能と武力で必死に耐えていくのだが…………10歳になり一応年齢だからと、王立の学園へ通うことになった。


入学初日に登校することになり、そこでメインヒロインの1人である女が前を見ずに走っていたため、結果ナノシアとぶつかり地面に転ばされてしまう。

結果、ナノシアの服がボロボロになってしまうのだ。


その服は父の形見で、流石に許せなかったナノシアだが必至に堪えて弁償を求めた。


しかし相手は何故か逆ギレし、腕に魔力を込めたのだ。


ナノシアはそれを止める為に仕方なく拘束魔法を彼女に放つのだが、それを主人公に見られ一方的に無理やり決闘を申し込まれ、結果的に渋々受けた決闘では鍛錬などほとんどできなかったナノシアが鍛えまくったバリバリのチート主人公に勝てるはずもなくボコボコにされてしまうのだ。


しかもそこからが更に酷かった。


学園では負け馬のレッテルを貼られ毎日のように嫌がらせを受け、11歳になると何故か力を失い、ストレスで日に日にやつれていき、追い打ちをかけるように領地を強力な魔物が襲って来たのだ。


そして遂に公爵家が没落し、ただの平民に成り下がっていった。


更にその後母が闇組織に攫われ、それを助けるためにアジトに向かうが数の暴力で殺されてしまうのだ。


正直いって、あのゲームで1番可哀想なやつだった。

かなりのゲーマーたちがなんとかナノシアをバットエンドから救おうとしたが、ナノシアとの会話には選択肢が出てこないため、結局どうにもならなかった。


むしろ一番酷かったエンドは息子が死んだあと嘆き悲しむ母との結婚エンドだろう。


正直あれは胸糞案件で数十万はするであろうPCのキーボードを思わず叩き壊してしまったくらいだ。

人気投票ではあまりの酷い扱いにほぼ全ユーザーが、俺たちが救ってあげよう!と一致団結し、総投票数1806万5862の内、1784万2846というぶっちぎりの数値を叩き出した。


因みに2位がサブヒロインの聖女で、8万ちょいだった。

そのおかげかゲーム内でナノシアのボイスデータが実装されたのだが…………これまた中性的で素晴らしい、なんならゲーム内で一番素晴らしい声だったのだが、それがだんだんとやつれていき最終的にガラガラになったときはまじで運営に問い合わせてやろうかと思った。


しかし、俺はそんな悲しきというか哀れな運命を背負ったナノシアに転生したわけだが………………ここで俺は思ったのだ。


これ、俺なら救えるんじゃね?


ハッピーエンドいけるんじゃね?と。


幸い俺はまだ一歳だ。


魔力の使い方も大体分かる。というか産まれてからずっと何かの約にたつかと成長させてきたのだが………凄いことに伸びしろが半端ないのだ。


何しろ毎日魔力循環させているからかどんどん容量が増えていくのだが、体感で超越魔法(最高位魔法)である技を3回は連発出来そうな程である。


これは正規ルートの魔王戦時の、魔法特化型の主人公の魔力値と同レベルだろう。


そして何より凄いのが、まだまだ成長限界が見えないのだ。


確かに魔力は幼いうちから鍛えると上がりやすいという裏設定はあったにしろ、これはもうゲームバランス崩壊レベルでやばいだろう。


しかも更にやばいのが魔力の回復速度だ。ゲームだとMP1回復するのに10秒程だったが、今の体はなんと1分でMP全回復である。


正直ぶっ飛んでいるがこれくらいのほうがバットエンド回避には丁度いいだろう。


まぁ俺はやり込み勢なので限界が見えてもなお突き破って進むだろう。


どうやって限界突き破るかは知らないが………


そしてなんと、遂に俺は喋れるようになった。


最初に親の名前を呼んだときは、母が感局極まりお胸様に埋められ窒息させられそうになった。


危うく死ぬところだったぜ…………え?感想?


控えめに言って黄金郷だったぜっ☆


まぁ母乳を頂かなくて済むようになったのは素晴らしいしね。

正直羞恥で死ぬかと思ってたから。


因みに父のときは「うちの子は天才だ!」と叫び頬擦りをしてきた。

なんかムカついたのでとりあえず首に蹴りを入れてやった。


危なかった。

危うくもう母を未亡人にしてしまうところだった。


それから俺は話をするとき「僕」という一人称を使っている。

理由?んなもん急に俺って言ったらおかしいだろ?

まぁそんな訳で今、俺は幸せの日々を過ごしている。

そして心に誓ったことがある。


俺は最強を目指す、と。


そんなことを考えながら、「食事ですよー!」と明るく言う母の元に、「はーい!」と元気よく応え、全力で向かうのだった。



ーーー



最強を目指す。


そう決めてから4年の月日が経ち、俺は5歳になった。

かなりの知識がつき、天才と周りに言われ始めたが、それを差し置いてもえげつないのが魔力量だ。


これはもう主人公の最高値なんてとっくに越しているにも関わらず、今なお限界を見せぬまま成長し続けているのだ。

そして俺は5歳になり、遂に外が解禁された。

それも付き添いなしで!


これはもう魔法と共に肉体を育てろと言われてるようなものだろう。


今まではベットの上と下をジャンプで行き来するなどの体力作りはしていたが、これからは剣や魔法の特訓が出来る。


え?じゃあ魔力はどうやって伸ばしてたのかって?それは体内の魔力をぐるぐる回し続けてるだけだよ?もうぐるぐると永遠に回してたよ。


今も一応回し続けており、最近は意識せずとも魔力が体内をぐるぐる回るようになった。


まぁゲームでいうところのオート周回のようなものだ。自動で魔力が増えていくのはチート臭いけどね………

まぁそんなことを考えながら俺は、母に今日の予定を話すことにした。


「もぐもぐ…もぐもぐ…………ごくんっ。そういえばお母さん。今日は僕、お庭に遊びに行ってくるね」と朝食を飲み込んだ俺は、母に今日の予定を伝える。


すると「うふふ、ええ。行ってらっしゃい。お母さんはちょっと用事があるから行けないのだけれど、気をつけていくのよ?」と微笑んで返事をする母。

心配してくれるとかまじで女神かよ。


「うん!わかった!気をつけて遊ぶね!」と言ってから俺は朝食の残りを一気に口の中へ突っ込みながら、庭に向って走り出した。



ーーー



今日の訓練は魔法格闘技術、マジックファイトと呼ばれるもので、主に体術に魔法を組み込んだ高等戦闘技術の1つだ。


今日行うのはその基礎に当たる身体強化で、ゲーム内ではオールラウンダー型のキャラ御用達の技だった。

高コストだがかなりのステータス強化が出来るといういかにも廃プレイヤー用の魔法で、ゲーム内では1分間につきMP400消費だった記憶がある。


そしてこの身体強化、何しろ操作が難しいのである。

だからゲーム内では最初、身体強化を使用してから必ずと言っていいほど皆上に飛ぶ。


理由としては簡単で、速度調整が出来ないからだ。

最初に前に進んだやつは尽く壁にぶつかり無事死亡。

ゲーム特有のデスペナをくらいかなり痛い目にあっていたはずだ。


もちろんこの世界にはデスペナなどなく、死んだら1発アウトだろう。

一度死んでみればどうなるか分かるかも知れないが、正直言ってそんな賭けのようなことはしたくない。

というわけで、気をつけながら体内で循環させている魔力へ意識を向け、『身体強化』と唱える。


通常、魔法とは詠唱を必要とするものなのだが、体内に魔力を循環させている状態だと発動のキーである呪文を唱えるだけで良いのだ。


ゲーム内での詠唱はキーボードのタッチによる入力で、1字でもミスっていると魔法が発動しないため初期の頃は大変しんどかった記憶がある。


この世界で唯一のいい点は発音による詠唱だろう。

これでかなりの詠唱の時間短縮になるはずだ。

とまぁこんな感じで身体強化を掛けたので、さっそくジャンプしてみることにする。


「えーい!」という掛け声と共に脚に力を込める、するとズドンっ!という風を切る音と共に宙に浮き上がったのだが…………これ、百メートルくらい上がってね?


やばいよね普通に。


だって下見ても地面が見えないんだもの。

と落下しながら考える俺。てか落下しながら考えられるやつって俺以外いるのかな?


まぁ別に俺は高所恐怖症じゃないからなぁ。とまぁそんなことを考えながら落下していくが、俺は焦らず「低速落下」と唱える。


低速落下とは風魔法の中位の魔法で、その名の通りゆっくりと落下するようになる魔法だ。


確かこれを組み込んだ高等戦闘があった気がする。そう思いだした俺は「空歩」と唱える。

空歩は空気中に透明の風で出来た足場を作るという、風魔法の上位に位置する魔法だ。


正直言って身体強化で1分に400、低速落下で1分に300、空歩で1分に800と、合計1500も1分間にMPを消費するが、今の俺の魔力だと回復速度のほうが早いため特に問題にならない。


確かこのコンボは空中戦最強近接コンボだった記憶があるが、こんなのは魔力振りの主人公でPS神がかった人しか出来なかった気がする。


俺?数時間かけてマスターしましたよえぇ………


そんなことを考えながら空で『王剣華流』の剣術の練習を始めることにした。


王剣華流とはナギスタシア王国(今俺がいる国)の特殊剣技で、主に王族やその血縁者に当たる大公爵、公爵家に伝わるゲーム内でもかなりの上位に位置する剣技だ。


他の上位剣技については色々あるが、全部ゲーム内の知識しかないため使えない。


そのため今俺がやり方を知っている唯一の剣術がこの王剣華流なのだ。

とりあえず基本の型から練習することに決め、俺は剣を振り始めた。


ーーー


練習を始めてから数時間が経ち、流石に疲れ始めた俺はふぅ…………と一息つきながら、特に意識せずに遠くを眺める。


すると遠くの村から煙が上がっているのが見えた。

俺は反射的に不味いと思い、自身の力が露見することを配慮にいれながらも村を救いたいと思い急いで村へ向かう。

身体強化を重ねがけして、ハイスピードで村へと向かう。

風が顔に打ちつけて痛いが、風魔法で覆いながら更に加速して村へと風を切っていく。



しかし村の近くの地面に降り立つと目の前には、もう既にボロボロになった村と大量の血のあとがあった。


遅かった!と頭を抑えていると、どこからか「うぅ………おとーさん、おかぁさーん!へんじしてよぉー!」という女の子の泣き声が聞こえてくる。

急いでそこに向かうと、そこには血塗れの男女と、泣いている可愛らしい少女がいた。


ハッ、と息を呑みながらも「大丈夫?」と俺が声をかける、


すると少女が「うぅ………だれぇ?」と返事を返してくる。

口足らずな姿に思わず庇護欲が湧くが、母の母乳攻めで培ってきた理性でねじ伏せ「どうしたの?逃げないの?」という。


すると少女が更に泣き出しながら「お"どお"ざん"どおがあざんがあ"あ"ぁ"ぁ"!!」と言って倒れている男女に泣きつく。


その血塗れの男女の姿を見て、これはもうどうしょうもない…………そう思いながらもどうにかならないかと、脳内を高速で回転させて考える。

すると、少女の姿にふと見覚えがあることに気づいた。


そう。エロゲのメインヒロインの一人である聖女だ。多分だがこの子は、聖女の幼き姿なのだろう。

そしてこの聖女、回復特化のチートキャラで確か神聖結界・完全回復という技が使えたはずである。

そうとなれば簡単だ。彼女に神聖結界・完全回復の詠唱を教え、魔力は自分が彼女に魔力譲渡で渡せばいいだろう。


何故俺が使わないかといえば、回復魔法はあるイベントをクリアしないと使えないため、初期から聖女、というジョブ持ちの彼女に頼るしかないだろう。

まぁそんなことは置いといて、そうと決まればさっそく行動開始だ。


「ねぇ………君、お父さんとお母さん助けたい?」と問いかける。

すると「でぎるの"?」と泣きながらも聞いてくる。

「あぁ………君が僕の言うことを聞いてくれれば助けられるはずだ。だからまずは泣きやんでくれ。」と言いながら彼女の頭に手を乗せ、彼女が落ち着くように微笑む。


すると少し落ち着いたのか涙がやみ、「うん。助けたい!言う通りにする!」と元気よく言う。

可愛い。流石人気投票2位だな、と思ったが頭の片隅に追いやり「じゃあ僕の後に続いて詠唱してね?」と言ってから「最初は大いなる神よ」だからね?と教える。

そこからは彼女との共同作業が始まった。


「大いなる神よ」

「おおいなる神よ」


ここで彼女の手を握り、魔力をゆっくり馴染ませるように送り込む。少女は真剣な表現で詠唱を続けてくれる。


「大地の恵みと癒やしの加護を」

「大地のめぐみといやしのかごを」


そしてここで一気に魔力を注ぐ。彼女の体がビクンッ、と震えるが彼女の肩を抑えながら詠唱を続ける。


「どうか我らにお恵みください」

「どうかわれらにおめぐみください」


ここで彼女の体内の魔力を聖属性に変換する。繋ぐ手が光り輝くが気にせずに変換させていく。


そして遂に

「神聖結界・フルヒールゾーン」

「しんせいけっかい・フルヒールゾーン」と発動のキーを発した瞬間、半径1メートルほどの半透明な結界が包み込み、そして彼女の両親に大地から光が流れ込む。

すると彼女の両親から傷が消えていき、消えかけていた命が瞬く間に回復していく。


それと同時に、何故か俺にまで光がかかり、俺の体から黒いモヤモヤのようなものが出ていく。

すると体が焼けるように熱くなり、俺は思わず「うがあ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」と声を出してしまう。

彼女が俺の心配をして「だいじょうぶ?!」と声を掛けてくる。

そしてその顔には不安が宿っといた。

思わず俺は作り笑いをしながら「うん、大丈夫だよ?」と嘘の返事をする。


それから数分が経つと、体の痛みが収まっていき、代わりに自身の強い力を感じた。


それはまるで、封印されていた力が解き放たれた感覚で、なんとなく体に馴染んだ力だった。


今まで以上の強い力に思わず苦笑いしてしまったが、キョトンとした顔の彼女を見たら不思議と笑みが浮かんできた。



そして数分後、彼女の両親が目を覚ましたのだった。




「う、うぅ………俺達は一体どうなったんだ?」と言いながら、意識を取り戻した彼女の父親が目を開く。

すると「お父さん!」と起きた父親に、彼女は泣きながら抱きつく。するとめちゃくちゃ困惑顔になりながらも、彼女の父親は彼女を抱きしめていた。

しばらくすると「あれ………わたしはどうして………」と言う声と共に彼女の母親も体を起こし、彼女は「お母さん!」とまたもや泣きながら抱きついていた。


それから彼女が両親に説明をする姿を見て、とりあえずは落ち着くまで待とうという決めて、俺は体内の魔力に意識を向けて新しい力を感じ取っていた。


これは……………聖属性の魔力か?確かサブキャラは教国イベントをクリアしないと聖属性の魔法は使えなかったはずだ。それにこの魔力、先ほどみた聖属性の魔力にそっくりだ。

ていうか意味わかんないレベルで強い聖属性の魔力だし。

大体、さっき体から出ていった黒いモヤだって意味が分からないし、そもそも俺が魔法を使ったわけじゃないからなぁ。


俺が使えるのは聖属性以外の魔法とゲームの知識で得た魔力の変質だけだったはず………ん?待てよ?確か俺は、彼女の魔力にあわせて俺の魔力を変質させてから渡した。

つまり彼女の魔力の影響を受けて、俺の体内の魔力の1部が聖女の持つ聖属性の魔力に変質したってことか?

それだとしたらもうゲームバランス崩壊どころじゃないぞ!

つまりそれは彼女が使える聖属性の魔法全て使える………それすなわち聖女の力を手に入れたようなものだからな?

やべぇ。

ただでさえ魔力量がチートっぽいのに更に全属性使えるとかもうめちゃくちゃだろ…………まぁいいか。

強くなるための材料。

これはもうそういうものだと思うことにしよう。うん。それがいい。

そっちのほうが俺の精神衛生上いい気がするし。

それはそうと、聖属性の育成はどうしようか…………確か聖属性は回復、浄化、バフのどれかだったはずだ。なら魔力の一部を常にバフに当てとけば自然に成長するだろうし、多分それがいいだろう。

それでバフをなににするかだがど「ーーーーーーの、あの!」


「っへ?」


「何か考えごとをしてるみたいでしたが大丈夫ですか?」


……………どうやら俺が考えごとをして聞こえなかったようだ。いつの間にか話が終わっていたのだろう。

考えごとをしていた俺に、彼女の母親が話しかけてきた。


「あぁ、大丈夫ですよ。すいません、心配をかけましたね………それで、話し合いはもう終わりましたか?」と丁寧な口調でいう。


「えぇ、おかげさまで………………それで、この度は助けていただきありがとうございました!このお礼はいつか必ず!」と頭を下げてくる。


それと同時に、彼女の父親も「娘と俺らの命を救ってくれてありがとう。礼は、出来ることならなんでもする!」といって頭を下げてきた。


なんかむず痒くなった俺は「いえ、あなたたちの命を救ったのは娘さんですので………お礼は娘さんの方にどうぞ」と頬を指で掻きながらいう。実際彼女の聖属性の魔法がなかったら助けられなかったしね。と思いながら。


すると彼女の両親が「え?ミュルが?」というキョトンとした声を同時にいう。


どうやら彼女が回復魔法を使ったことは知らないらしい………………一応、今後のためにも詳しく伝えておくか。と思い、彼女のことについて両親に話すことを決める。


「はい。お宅の子が聖属性の魔法を使えることは知ってますか?」


「え、えぇ……………確かにミュルは回復魔法が使えますね。前に一度、私が指を切ってしまったことがありまして…………そのときにミュルが詠唱もせずに私の指をぎゅっと握っただけで治ったんです。

それでちょっと調べてみると回復魔法………聖属性の魔力を持つ人が傷に触ると少しだけ治る場合があるらしくて、それでミュルが聖属性の魔力を持っていることが分かったんです。

でも聖属性の魔力を持っていることがバレると聖光教会に引き取られるじゃないですか…………それでずっと、父とミュルには内緒にしてたんです」と彼女の母親は話してくれた。

彼女の父親はえ"?という顔をしており、聖属性の魔力を持つ本人の彼女もキョトンとした顔をしていた。


それで今、話にでた聖光教会なのだがこれはもうかなりの闇が詰まっている。


聖光教会とは表向きには回復、浄化を仕事とする神を崇めるといった宗教団体で、回復や浄化をしてもらう客は聖光教会にお布施金を払うというシステムだ。


そこだけ聞けば普通の宗教団体団体なのだが、裏ではかなりやばいことをやっている恐ろしいところだ。

例えば聖属性の魔法が使えるものはほぼ全員聖光教会に引き取られる。

多額の手切れ金があるためほとんどの平民は息子や娘を喜んで預けるが、時々そうでないものもいる。

そうなった場合は家族全員盗賊の服を着た教会騎士たちが殺していき、聖魔法の使い手だけを見えない場所に奴隷紋をつけて操ったりもする。

または小さな村だった場合村一つを滅ぼしてから孤児として育て、その間で洗脳をすることもある。


そのため聖光教会は反国家組織や麻薬、違法奴隷商、暗殺者ギルドと繋がっていたりもする。


しかし聖光教会の力が届かないのが貴族たちだ。


以前教会が王族に手を出したことがあり、そのせいで一度王都にある教会が燃やされたことがあるのだ。

それからというもの、聖光教会は王族や貴族には手を出せなくなったのだ。


ならば国をあげて聖光教会を滅ぼせるかといえばそうというわけでもない。何故なら教会は『神聖国家・プリュンヒルデ』という教国と呼ばれる国から派生した団体で、俗に言う支社、大使のような扱いなのだ。

そのため王族や貴族は見えないところなら、と許容している部分もある。

とまぁここまで話したのはゲームの知識の部分であり、実際はどうなのか分からない。

ただ一ついえることは今回も聖光教会が絡んでいるのは間違いない。


何故なら……………


「隠れていないでそろそろ出てこいよ。教会の犬」


そう俺がいうと、俺の後ろの木からカサカサ、という音がなり、純白の鎧に身を包んだ騎士が現れる。

「へぇ…………まだ幼いのに僕に気づくなんてやるじゃないか。いつから僕に気づいてたんだい?」と髪をかきわけながらいう男騎士。


「最初からだ。あんな気配丸出しでよくそんなこと言えたな…………それと、これ以上近づくな。これ以上近づくなら容赦なく首を切る」とこちらに歩み寄ってくる男騎士にいう。

そう。

最初から気づいていた。彼女が助けを求め、話をしているところを見ていたことも知っている。


「ふふ、流石だね…………秘匿されているはずの聖属性の最高位魔法を知っているだけのことはある」そういいながらも騎士は歩みを止める。


「そりゃどーも。んで、教会は村を滅ぼして彼女を奪いたかったわけですか…………まぁ残念ながら今回はご縁がなかったということで。どうぞお帰りください」というと騎士は驚いたような顔をし、それから楽しそうにニッと口角をあげた。


「ハハハッ!そこまで知っているのか!実に愉快だな!あぁ、そうさ。大司祭様がね、彼女を……………聖女を何がなんでも連れてこいっていってね!まぁ教会が引き取るといっても聞き入れはしなかっただろうし、いっそのこと村一つを滅ぼして彼女を孤児として迎え入れようと言うことになってね!だから彼女を渡して貰おうか!これは大司祭様の命令だ!」


そういって騎士は俺に剣を向けてくる。


まぁやっぱりこうなるよなぁ………ゲームでも、彼女は孤児として教会で育てられたっていう設定だしね…………まぁ渡す気はないんだけどね。


「ははは…………まぁこの子は渡せないかな。そっちこそ尻尾振りながら帰りなよ。僕は公爵家長男のナノシア・アスフィリアだよ?つまり次期公爵だからね………君を不敬罪で処分してもいいんだよ?」という。


この国では、王族や貴族に剣を向けた場合斬り捨てていいことになっている。


平民の場合も拘束のほうが好ましいが、自らの命最優先といった感じで平民と平民の場合は捕まることはない。

そんなこと考えていると後ろから「貴族様だったんですか?!」という彼女の母親の驚いたような声が聞こえてくる。


あっ、自己紹介忘れてたわ………


まぁそれは置いといて………今は目の前の騎士だろう。

その目には明らかな動揺が浮かんでいる。きっと貴族に、それも公爵家の長男に手を出していいものか悩んでいるのだろう。

このまま諦めて帰ればいいのに。

しかしそんな期待を裏切るように騎士は俺に剣を向け「皆殺しにすればいい話だ」という。

はぁ…………戦闘開始か。


「仕方ないなぁ………………今すぐワンって吠えながら帰れば見逃して上げたのに。ほら、ワンちゃん?かかっておいで!」と挑発する。


すると頭に青筋を浮かべ、「殺すっ!」と言いながら、引き攣った笑みで俺に向かって剣を中段に構えながら駆け出してくる。

その構えはゲーム内で中級に位置する『聖剣流』という700年前の天魔大戦時の剣聖が使っていたとされる剣技で、聖光教会に属する聖騎士のほとんどがこの剣技を使っている。


まぁ当時の剣聖が使ってた剣技は『白狐流』というスピード重視の最上位剣技なんだけどね……………確かこの国の剣聖だかがつかえたはずだ。

俺は今、そんなことを考えられるくらいには落ち着いており地面に『錬金』といって地中から鉱石を抽出し、そのまま錬成、更に2双の剣を作り出す。

その色は紅い光を帯びており、ステータスに補正がないため伝説級とまではいかないまでも逸話級以上であることは間違いないだろう。

そしてこの鉱石は紺色鉱石ヒヒイロカネだと思われる。というかまさか、こんなところでヒヒイロカネが採れるとは思わなかった。


後で全部収納袋に入れよ。と思う。

俺は若干驚きはしたものの、何かしてくると思ったのかバックステップで俺から離れた騎士に向かって1本の剣を向ける。


「いくぞ!」


そう宣言した俺は、常に掛けている身体強化に『身体強化』と唱え重ねがけし、更に先ほど手に入れた聖魔法の『フィジカルアップ』を唱える。


すると騎士が驚いたように「っ?!」という声をあげる。

きっと、俺が聖魔法を使えるとは思わなかったのだろう。

そのまま俺は風魔法の『ブースト』を唱え一気に加速、そのまま相手の後ろにまわり込む。

「速いっ?!」と驚いている騎士の首に向かって容赦なく剣を突き出す。


咄嗟に反応した騎士が首を守るように剣を滑り込ませ、剣を逸らそうとする。

しかしそれは俺にとっては悪手だ。


「エンチャント・ウェポンブレイク」


そう唱えると騎士の首を狙う剣に黒い光が纏わりつき、そして騎士の剣と当たった瞬間…………パリンっと相手の剣が砕ける。

「なっ?!」と相手が驚愕の声を出す。


まさか自分の剣が砕けるとは思わなかったのだろう。

俺は驚愕している騎士の首にそのまま剣を突き出す。

しかし剣は騎士の首には当たらなかった。咄嗟に剣を持っていた左手で俺の剣を叩いたのだ。

そのせいで首を狙っていた剣がズレ、結果右肩に剣が刺さるだけとなった。


相手の肩から剣を抜こうとするが、騎士は肩に刺さっている剣を掴み、俺から剣を奪おうとする。

だが相手の肩に刺さった剣を諦めた俺は、体を思いっきり捻り、持っていたもう一本の剣で騎士の首を狙う。

咄嗟に防御をとろうとしていたがもう遅く、俺は相手の首をあっけなく斬り落とした。


(ううむ……………この世界に来て初めて人を殺したが、特になんとも思わない…………これも、異世界に脳が馴染んできたということなのだろうか?)

戦いが終わり、そんなことを考えていると母親の後ろにいた彼女が「だいじょうぶ?!」といってこちらに駆け寄ってくる。


きっと、俺が返り血を浴びて怪我をしていると思ったのだろう。

安心させるために「大丈夫」そう答えようとしたが、何故かフラッとして、「ねぇ!ねぇ!」という声を側に、俺の意識は闇に呑まれたのだった。



ーーー



ん、んん………


気づくと俺は、何やら柔らかい場所にいた。頭はなんとなく湿っぽい場所におり、手を伸ばすとむに、むに、と何やら柔らかいお餅のような感触があり、適度な温かみもあってずっと触っていられそうだ。


(ってあれ?俺ってさっき気を失って…………俺はいったいどうなったんだ?というかここはどこなんだ?)


目を開くと真っ暗で、手を伸ばすとむにむに………本当によく分からない場所にいた。


(というかこの感触、若干違うけどどこかで………)


そう思いながらむにむにし続けていると、上から「んっ、あっ、んんっ♪」という艶めかしい声が聞こえてくる。

思わず「ん"っ?!」という変な声を出して顔を思いっきり上げてしまう。


すると唇に柔らかく弾力のあるものが当たり、そこから口の中に何かが入ってくる。

粘りけがあり、温かい液体……………もしかして唾液?!

「くじjgwd#"※⇢tp1や:+そa@p'w々^?!?!」

そう考えた俺は驚きすぎて、声にならない悲鳴を上げながらゴロゴロと勢いよく転がっていき、そのままガンッ!と何かから転げ落ちる。

そして目を開けると、そこにはいつもの自分のベットと部屋、そして何故か、ベットの上には半裸の少女がいた。

えっ?え"え"?


驚きすぎて思考停止していると、半裸の少女が目を擦りながらこちらを向く。

そしてその目に俺が映った瞬間、少女が「目がさめたの!だいじょうぶ!?」といって飛びついてくる。


急なことだったのと思考停止してたため対応が遅れた俺は、少女の飛びつきに耐えられず後ろに倒れ込み、先ほどよりも高い音でガンッ!と頭をぶつけ、俺はまたもや意識を失ったのだった…………



ーーー


サワサワ……サワサワ……


そんな音が耳に届き、俺は目を覚ました。


「んん………ここは……………って母さん?!」


目を擦りながら上を向くと、そこには大きな谷と母の顔があった。思わぬ事態に赤面していると、俺の頭を撫でていた母の手が止まる。

「あ、ナノくん!起きたのね!お母さん、すごく心配したんだからね!」といって突然顔をマシュマロに埋められる。


息が吸えずにモガモガしていると、何故か更に押し付けて来る。

お胸様地獄から解放されたのは、俺がぐったりし始めた数分後だった。



「それで母さん…………さっきはなんであんなことしたの?結構苦しかったんだけど………」という。

体は心なしか、少しぐったりしている。


「あれはね、お母さんを心配させた罰よ!急にナノくんを担いだ人たちが来たと思ったら色々あったことを聞いて、それにまるっきり1日寝ててお母さんすっっっごく心配したんだからね!どう?苦しかったでしょ?」といってくる。


まぁ確かに苦しかったかな…………色んな意味で。


それはそうと、丸一日寝てたとはどういうことだ?

「ねぇ母さん、一日ずっと寝てたってどういうこと?俺、違う村にいたはずなんだけど………」と聞いてみる。というより、さっきの少女は一体……?

「ん?ナノくん知らなかったの?マリクスさんとサターシャさん、それとリアちゃんだったかな?その人たちが急に夜訪れてね?お母さんたちナノくんが中々帰って来ないから心配してたんだけどその人たちが連れてきてびっくりしちゃって…………それで、ナノくんがその人たちを助けたことと聖光騎士と戦って勝ったことを聞いてとりあえずうちに招いたの。

ナノくん強いことは知ってるけどすごい心配だったんだよ?

それからずっとナノくん寝てて、その間はリアちゃんって子がナノくんの看病してたんだよ?」という。


というか、マリクス?サターシャ?それにリア?一体誰のことだ?

リア…………リア?確か聖女の名前がソフィーリアだったはず…………………ってことは状況的に考えてマリクスが彼女の父親でサターシャが母親、そしてリアがソフィーリアのことか?

それにしてもなんで俺の家が分かったんだ?俺は確か家の場所なんて教えてないはずだしなぁ………………まぁ多分、名前で大体分かったのだろう。確かあの村も一応うちの領地だったはずだしね。

「なるほどね…………それで、リアちゃんたちはどこにいるの?とりあえずお礼を言いたいんだけど」

そう言った瞬間、タイミングを見計らったようにドアが開き、リアが笑顔で俺に抱きついてくる。可愛いすぎかよ。

そして先ほどは思考停止してたため抵抗出来なかったが、今は身体強化や聖魔法のフィジカルブーストを使っているため、ギリギリ受け止められた。というか身体強化とフィジカルブースト使っててギリギリってなんだよ!なに?この子常時で聖魔法のバフ系ついてるの?無意識に?流石聖女…………


それはそうと、なんでこの子俺に抱きついてるのかな?さっきも抱きつかれたし当然かのように抱きつかれたから気づかなかったけどこれおかしいよね?まさか俺何かしたの?!これは逃さねぇからなコノヤロウ!貴様に引導を渡したる!的な感じの拘束なの?こんなゆるっゆるの拘束だけどね……………でも出られない!逃げられない!こんな小さい子を泣かせる趣味は俺にはないんだよ……………そして我が母よ。その孫はいつ出来るのかしら。みたいな視線で見るのはやめろ。ニヤニヤするな!

俺がモテてるみたいで悲しくなるからやめて!この子、絶対お礼とかその辺りだろうから!

まぁいいや、なんか疲れた。自問自答してただけだけど。

とりあえず話を進めよう。


「それで母さん、この子のことは今おいとくとして、この子と両親の扱いってどうなるの?自分的には、難民扱いでこの領地に住ませてあげたいんだけど………」と自分の考えを言う。

実際、いくら聖光教会といえど流石に公爵領の首都には手を出せないだろう。まぁそれは多分でしかないから、本当はこの家に住ませてあげたいんだけど流石に無理だろうからね。

そう考えていたのだが、母さんの口から出たのは予想の斜め上を行った。

「とりあえず、リアちゃんの両親は家の執事、メイドとして働いてもらうことにしたわ。この家、すごく大きいのにメイドがほとんどいないでしょう?それで、ちょうどいい機会かと思って。」と、俺の考えにはなかったことを言った。しかし、それは俺にとって……………いや、彼らの安全にとって最もいいだろう。まぁ個人的には、リアを育成してダンジョン攻略の手伝いをしてもらいたいんだけどね。

「それで、リアちゃんの扱いなんだけどね…………」ついに来たか…………流石に両親と離れ離れになることはないだろうけど。そんな考えだった俺の、数億倍はぶっ飛んだ言葉が来るのだった。

「ナノくんの妾にすることになったからよろしくね?流石に貴族じゃないから正妻は無理だけど、ナノくんも将来何人か必要だからね!リアちゃんもいいって言ってるし!」と言われる。



……………は?


はあああぁぁぁぁあっっ?!


嘘だろ?!俺はいつフラグを立てたんだ?!いや嬉しいけど!嬉しいけれどねっ!

可愛いし、将来はたわわになるのはエロゲやってたから知ってるけどね!でもさ?なんで…………なんで俺にフラグが立ったんだよおおぉぉぉ!!


もしかしたらドッキリかもしれないな…………うん!多分そうだ!母さん、かなりお茶目なところあるしね!

そう思いながら、今も抱きついているリアを見る。

すると顔を真っ赤にしながらも小さくコクリ、と頷く。

それってつまり…………………


「俺の平穏どこにいったんだああぁぁぁぁ!!!」

「ナノちゃん!俺、なんて可愛くない!」


そういう問題じゃない!…………………はぁぁ、ほんと、俺の平穏な生活はどこいったんだかなぁぁぁ……………


ふと窓から外を見ると、俺の平穏を壊しそうな不吉さを誇る、この世界では普通の真っ赤な月でちょいうざい顔のうさぎが輝いていた。




ーーー



「ナノシア、王都に行こうか!」


とある昼下がり


ソフィーリアと魔法の特訓をしていると、俺の父が突然そんなことを言い出した。


「いや、なんで?人多いじゃん、絶対。」と俺は答える。

この領地の街すら人が多いのに王都となったらそりゃもう…………ねぇ?前世がどうだったかは知らないがそもそもエロゲをやりこんでる時点で「うぇーい!」とかやってる奴らでないことは間違いないだろう。

そもそも、俺は基本的な常識が欠損…………………というよりはこの世界の常識を知らない。まぁ前世の常識もそこまで覚えてはないんだけどね。

「いやいや、公爵の息子が人多いとか言っちゃだめでしょ?だって公爵家引き継いだら領民全員と関っていかないと駄目なんだよ?」と爽やかな笑みで言う父。いや、ほんと………失念してたわ。

そういや俺、長男だから公爵家継がなきゃいけないんだった。

そんなのキツすぎるんだけど…………というかこの父、ほんとに22歳なのか?笑みとかまじで15歳くらいにしか見えんのだが…………

つか、結局なんで王都に行くことになるんだよ。

俺、色々忙しいんだけど。


「いや、結局なんで王都に行くことになってるの?俺、リアと一緒に居たいんだけど」という。

ソフィーリアと魔法の特訓をしなくちゃいけないからね。

いずれはダンジョン攻略に連れていく予定だし。


そう思いながら横目でソフィーリアを見るとボフッ!と音がなるほど顔を赤くしていた。いや、ホントなんで?俺、怒らせるようなことした?


「リア、なんか怒らせるようなこと言った?もしかして俺と一緒にいたくない?それなら俺、王都に行ってくるけど」という。

いや、正直行きたくないんだけど、ソフィーリアだって女の子だろうからなぁ、と思いながらいうと父が驚愕したかのような顔をして「まさかの天然だと?!」と驚いていた。

いや、俺ってそんな天然じゃないからね?勘違いしない派だからね?

そんなことを考えているとソフィーリアが顔を凄く一生懸命横に振っていた。


なにこれめっちゃかわわなんだけど。


そんなことを思っていると、父が驚きのことを言いやがりやがった。


「あ、忘れてたけどソフィーリアちゃんも一緒だからね?仮にも公爵家の長男が妾を決めたんだから国王さまに報告しなきゃいけないしね。

それに、ルルネが妊娠…………まぁ簡単にいうとナノシアの弟か妹が産まれるからね。

それも国王さまに報告しなきゃいけないんだ。

あ、国王さまに会うときはナノシアとソフィーリアちゃんも一緒だからね?それに、ナノシアは国王さまの娘さん…………つまり王女様の婚約者候補でもあるからそれについても色々、ね?

まぁ一応ナノシアとソフィーリアちゃんのことについては魔導通達で伝えてるから特に問題はないと思うけど」


oh………………………いや、まてまて待て待て?!

情報過多で脳が一瞬フリーズしたけどほんとに待って?!

ソフィーリアと俺のことについては1000歩譲ってギリギリいいかもしれないとして母さんが妊娠したってどういうこと?!

確かに最近夜異常に声が聞こえるなと思ったけどまさかそういうことだったの?!それにしても俺家で最近医者とか見てないけどなんで分かったの?っていや、そうじゃない!

そうだけどそうじゃないよ?!なんで俺急に国王と会うことになってんの?!さっき俺自分が常識ないと気づいたばっかなのに…………絶対不敬なことして俺死んじゃうんですけど!


それに、王女さまの婚約者候補ってなに?!聞いてないにも程があるんですけど?!

いや、ホント無理、脳が破裂するううぅぅぅぅぅぅ!!!


そんな感じで俺は頭を振りながら荒ぶっていたが、ソフィーリアのほうをみると落ち着いた。


だって、ソフィーリアってば表現とかじゃなくてガチで顔を真っ青にしながら震えてるんだもん。


手に持ってる魔法伝達用の杖で地面ガンガンやってるから小さなクレーター出来てるし。


あれ、絶対聖属性のバフかかってるよガン積みで。

というかあの揺れ方はもうほんとにやばいね。


耳を澄ませば「国王さまと会う国王さまと会う王女さまがナノくんの婚約者候補国王さまと会うナノくんと国王さまが婚約者国王王女ナノくん国王王女ナノくんナノくんナノくん国王王女ナノくん王女ナノくん王女ナノくんナノくんナノくんナノくんナノくん王女……………………」と呟いていた。って、俺と国王勝手に婚約させないでくれるかな?!


俺、普通にノーマルなんですけど!というか候補、候補だから!俺、王女さまと婚約してないからね!

というなんかもう地獄というかカオスな状況に俺は逆に落ち着いてきた……………ってか、今は逃げる方法を探してる。


そんな大事なこと、当日なんかに言うわけ無いだろうしそもそも準備も終わってないだろうから領地の宿なんかに逃げればいいだろう。


そのときはソフィーリアも連れていけばいいだろうしね!

そんなことを考えていると父が「まぁまぁ、落ち着いて」という。

誰のせいでこうなってると思うんだよと考えるが頭の片隅の奥の方にぶん投げ俺は希望を問うことにする。

「ねぇ。父さん、それで王都にはいつ行くの?」

「ん?今日に決まってるでしょ?当たり前じゃないか!だって、前の日とかにいえばソフィーリアちゃんはともかくナノシアは絶対逃げるでしょ?ほら、そこに馬車を用意してるから行くよ!」と満面の笑みでいう愚父。俺の希望の光は潰えた。

ガクッと膝をつき、俺は叫ぶ。


「ざっけんなバカヤロおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォぉ!!!!」と。


因みに、ソフィーリアは未だにブツブツ呟いていた。

結局、俺たちは馬車に乗り込み(強制)で王都へと向かうのであった。

というか、向かわされるのであった。

その後、母がテヘッとやったのはご愛嬌である。

先に教えろとは思ったけどね!



ーーー



俺、ナノシア・アスフィリアは突然王都に向かうことになり、(無理やり)馬車でゴトゴトと揺られていた。


「ねぇ、父さん。まだ着かないの?俺、この揺れに耐えられなうぇ………」


そう。俺は馬車酔いをしていた。


だって仕方ないじゃん!


俺、馬車なんかに乗るの初めてよ?


そもそも馬車酔いすると分かっていたら対策してるっての!


「ハハハッ、ナノシアにも苦手なことがあるんだな!昔からなんでも出来てたから僕は嬉しいよ!」と笑いながらいう。というか喧嘩を売るなら買おうじゃないか!


「この前闇魔法で考えたんだけどさ…………高年季に頭に起こる自然現象を起こせるような魔法があるんだけどさ…………試しに実験してもいい?」と悪い笑みを浮かべながらいう。


アレですよ、アレ。


「実の父を実験台にしようとするのはやめてくれないかな?

……………因みに、どんなことが起こるんだい?」


「要するにハゲる!」


「ちょ、まっ、落ち着けナノシア!今すぐ手に纏ってる黒い魔力を消して!

ま、まだハゲたくないんですけど?!

ぼ、僕そんなことされたら引きこもるからな!

そうなったらナノシアが公爵家の当主なんだからな!」と脅してくる。


っち。仕方ないが流石に引きこもられるのは困る。

スッと腕に纏っていた闇魔法を引っ込め、座ろうとした俺は強烈な吐き気に見舞われる。


ウッ、と言いながら蹲ると流石にまずいと思ったのか父が「とめて」と御者に言って馬車を止めてくれる。


急いよく馬車を降りた俺は酔いを覚ますために遠くを見ることにする。


酔いを覚ますためには遠くを見るのが効果的なのだ。

ソフィーリアに聖魔法を使ってもらえばいいと思うかもしれないがあいにく今は母と一緒に寝ている。

その姿はまるで女神と天使のようで…………おっと話がずれた。


とにかくソフィーリアに聖魔法は使ってもらえないのだ。

因みに俺が使えばいいだろと思うかもしれないがそういう訳にもいかなかった。


何故か原因は分からないが、俺は回復魔法が使えないのだ。

バフやオートヒーリングなどは使えるのだが何故か自身への瞬時回復と他者への回復が出来なかった。


そんなわけで常日ごろからの身体強化によって鍛えられた視力で遠くまで見渡していき……………盗賊らしきものに囲まれている馬車を見つけた。


………………とりあえず助けにいくか。


「あ〜、父さん。襲われてる馬車があるんだけどさ、助けに行ってくるね?」


そう言って俺は自身にバフをかけてすぐに駆け出す。


途中後ろから「ちょっ、待ちなさい!ってはや?!」という驚いた声が聞こえてきたが無視だよ無視。


なんか前にもこんなことがあったなぁ、と思いながら、俺はかなり先の馬車目指して走り出すのであった。



ーーーーーー



「イーヒッヒッヒ!こいつぁ上玉じゃねーですかい!

こんな上玉ぉを伯爵のやろうが欲しがるのも無理ねぇわなぁ!お頭ぁ!ちょいと味見してもいいんですかぇい?」


「やめとけザボック。首を飛ばされたくなければな。」という強面の男。


こいつらは今、一人の女の子を紐で縛り上げて囲んでいた。


「あ、あなたたち。なにが目的ですか!わ、私は王女なんだから!お、お父様が聞いたらあなたたちは殺されるんですからね!」といいながら少女はキッ!と盗賊たちを睨む。しかしその目には明らかに涙が浮かんでいた。


すると沸点の低い盗賊が頭に青筋を浮かべ、「ああ"ん?」と剣を構え凄む。


「ヒッ?!」と少女が声を上げるが男は剣を振り上げ……………「あああああああぁあああああああぁあああああああぁ?!」という謎の奇声と共に吹き飛ぶ。





「ぶぎゃっ!」という声が響き、土煙がはれるとそこには謎の男が………………というか俺、ナノシアが立っていた。


男を踏み台にして。


「ん、んん……………こほん。えーー、盗賊の皆さん。

今すぐに引くなら見逃して上げましょう!まぁ引かないならそれ相応の罰を受けてもらいますがね!」と咳払いをしながら宣言する。


どうしてこうなったのかといえば、話が長くな…………らない。


割と近くまで来ていた俺は、少女が斬られそうになっているところをみて焦った。


結果、魔力を込めすぎた俺は予想外のスピードで男にドロップキック(ただの衝突事故)をいれてしまった。


因みに、ドロップキックをいれてしまった男の息子は完全に潰れただろう。

ぶつかった瞬間明らかに「ぶちゅ」という生々しい音がなったし……


それはそうとして、警告した俺は女の子を探すために周りを見渡す。


すると後ろから「ナノシア様?!」という驚きの声が。

くるっと後ろを向いた俺は、その姿を見て驚愕した。


「アリス?!」


何を隠そう、知り合いだったからである。



そして俺は、何故かアリスに抱きつかれていた。


「アリス?どうしたんだ一体」といいながらも、俺はアリスの背を撫でる。


一体どうしたのかと聞いたものの、理由は大体分かる。

きっと、怖かったのだろう。


そりゃあ盗賊に襲われて危うく殺されそうになっていたのだ。


安心したアリスが抱きついてくるのもしかたないだ「ナノシア様がカッコよすぎてつい!くんくん………………ナノシア様、いいニオイですぅ!しかも柔らかい!もう一生離れません!」って違うのかよ?!


「え?安心したとかじゃなくて?

不純な理由だったの?!

あっ、ちょ、ニオイ嗅がないで!顔舐めるの?!

ちょと、足絡めないで、あっ、ちょっ、耳触んないでえええええ!」

体を弄られた俺は、悲鳴を上げてしまう。


しかも弱点である耳をふにふにされてしまい、頭がクラクラする。というかアリスってこんな性格だったっけ?もっとお淑やかなイメージがあったんだけど……………一体この1年で何があったんだろう。


少しすると、アリスが収まったのか抱きつくだけになった。

弄られまくってめちゃくちゃぐったりしている。というか、なんで俺とアリスはこんなところでこんなことをやってるん「ーーーい!おい!聞いてんのかゴラァ!」


…………………あ、ああああああぁあああああああぁ!!


忘れてたけど今俺たち盗賊にかこまれてるんだったよ!

いやほんと、まじでアリスに弄られてて忘れてたわ!というか、こいつら今まで何してたん?

気づいたら無理やりとめてたんだけど?!


「ちょっと盗賊たち?居たなら行ってくんないかなぁ!忘れてたんですけど!

ってか俺、ずっと弄られてて凄い疲れたんだけど!どうしてくれんだよ!」


「いや知らねぇよ!

なんて理不尽な理由…………って忘れてたのかよ!

お前ら俺らのことナメすぎだろ!というか、まじでゴリアがかわいそうだから降りろよ………………仲間が股間にドロップキック喰らわされて気絶した挙句土台にして女とイチャイチャされるのを見てる俺たちの身にもなってくれや!って、そうじゃねぇんだよ!


お前が変なこと言うせいで話がずれたじゃねぇか!

そうだよそう!

俺たち盗賊なんだよ!

ロリオン伯爵に頼まれてその女を攫わなきゃなんねぇんだよ!

多少はあの変態に売る罪悪感ならあるがこっちだってやらなきゃ殺されんだわ!

さっさとその女をこっちに渡しやがれ!

そうしたらお前だけは見逃してやるよ!」という男。というか、ロリコン伯爵が犯人なのかよ。

って、ゴリア?誰だそれ。


「ゴリアって誰だ?あと、アリスは渡さないから!」と俺は盗賊にいう。


すると足元が揺れ、俺はアリスを支えながらも思わずたたらを踏む。


それが原因でフニッとした場所に足がずれ、安定するため踏み込んでしまう。


すると下から「ふぎゃほわひひゃうひはっ※#+"*《/¯‘↑、:~―,'#+?⁉?」という奇声が聞こえる。


何事かと思い下を見ると……………先ほどドロップキックを喰らわせて沈めた男の股間を思いっきり踏み潰していた。

思わず俺は「うぇ?!」と悲鳴を上げて飛び退く。

アリスも俺に釣られるように男から退いたが、途中で顔に足が当たり男は吹き飛んでいた。

すると盗賊が「ゴリア?!テメェ!よくもゴリアを!」といって斬りかかってくる。


えっ、ちょっ、この人がゴリアだったん?



………………まぁこいつのことは置いておこう。

俺は斬りかかってくる盗賊たちに向かって、しかたなく、しかたなーく(ここ重要だよ!しかたなーくだからね!)闇魔法で大変凶悪で悪質な呪いをかけることにした。


『呪い・今後、人に剣を向けたら一週間下痢と鼻水が止まらなくなり、ハゲる!』


そう言うと、俺に剣を向けて走っていた盗賊たちが鼻から何かを垂らし、蹲りながら尻から汚いものを撒き散らす。

そして髪がポロポロと抜けていき、最終的に髪が全て抜けた。


因みに、辺りは凄く臭くなっているだろうが俺はニオイを全て風魔法で吹き飛ばしているため問題ない。

そしてニオイが全て来たのか、俺に剣を向けていなかった盗賊たちが鼻をつまんでいる。


まぁ何人か吐いていたが………


盗賊ざまぁ、と思っていると先ほど自らノリツッコミをしていた大道芸人魂溢れる盗賊が話しかけてきた。


「……………とりあえずこれやめてくれぇ………臭くなっているだろうが…………つか気持ち悪うぷぅええぇぇ!!」とうめき声みたいな声で言って、吐いた。


正直ニオイは感じていないが気持ち悪くなった俺は、光魔法の『光鎖縛ライト・チェインという拘束魔法を使い盗賊を封じて、ついでに結界を張りその場から出る。

途中、後ろの方から「ま、まってずえぇぇ」という声が聞こえたが無視しながら、アリスを抱えて父たちがいる馬車の方へと向かった。

因みに、アリスは途中で寝たためお姫様だっこで運んでいるのだった………



後日、ハゲた盗賊たちが汚物まみれで倒れているところを冒険者が見つけて、騎士たちに捕まった事件が起きたとか。



ーーー



「そ・れ・で!あれは何だったのかなぁ〜?ナ〜ノ〜シ〜ア〜?」


俺は今、父と先ほど起きた母、そして何故か頬を膨らませているソフィーリアに囲まれて正座させられていた。


「え、いや何って…………魔法だけど?」


「へぇ?嘘はいけないなぁナノシアぁ?魔法であんなスピード出せるわけないよね?」とピクピク眉をさせながら言う父。ってあれ?まさかこれ、怒られてるの?

なんで?

俺悪いことしてないよね?

人命救助しただけじゃん…………それに魔法だよね?あれ魔法だから!


「いやいやほんとに魔法だから。てかなんで俺怒られてるの?まじで。俺人命救助しただけじゃん」


「いや、別に助けたことを怒ってるわけじゃないんだよ。むしろそれは褒めるべきだしね。でもナノシア。魔法じゃ普通、あんな速度出せないんだよ。」と淡々という父。え?できないってそんなわけ、、


「魔法ってさ、魔力こめると威力上がるよね?」と言って見る俺。もし、もしかしたらだが……………魔力循環の方法すら伝わっていないのかもしれない。


ソフィーリアには教えたがそもそもこの世界で魔力循環が存在しないとしたら確かに魔法を増幅させることは不可能である。というかそれ以外は考えられない。


「いや、無理だよ。そんなことは誰も成功したことがないんだ」と言う父。やっぱりかー、と思いながらも、それをどう説明するか考える。


やっぱりこの状況を説明するには魔力循環のことを教えなければいけないだろうがそれを教えると何故知っているのかということになる。

自分で考えたというのはいいがソフィーリアにはみんな知っていることだと教えたため無駄だろう。

さーてどうするかと考えているとき、アリスがゆっくり手を上げた。


「あ、あの!もしかしてあなたはお父さんの弟ではありませんか?その、すごく似ているので!」といった。

ん?俺の親父に兄なんているのか?と考えていると父が急に青ざめ、アワアワしだした。


「ま、まま、まさか…………アリス様?」と聞くと、アリスが「はい。そうですが……」という。

すると父が膝をつき、頭を垂れる。


えっ?と驚いていると、親父がグルンと首をこちらに向けて肩をガシッと掴んだ。


「えっ、な、なんだよ父さん?ちょっ、さっきから様子がおかしいんだけどどうしたわけ?ちょ、痛い、痛い痛い!痛え!肩、ミシミシいってるから!

つか父さんそんな力強くなかったはずだろ!」といって俺は親父の手を振りほどく。


い、痛え……………あ、ちょっと赤くなってるよ。


周りの母とソフィーリア、それと驚いているアリスは何がなんだか分からない様子だが、明らかに親父が壊れた。


そう思っていると、視線に気づいたのちょっとしょんぼりした親父が「………………まぁいい。ナイスだナノシア……………さっきのことはどうでもいい。

急いで王城に行くぞ。」という。


「え?なんで王城?

俺まだ心の準備が出来てないどころかいつ逃走しようか考えてたんだけど?

いや、ちょっとやめろ!

離せ!ちょ、簀巻かよ?!

母さんも助けてってちょっと、母さんまで?!

あっ、ソフィーリアどさくさにまぎれて俺の足触るのやめて!

ちょっ、アリスまで?!あっ、痛い痛い痛い!父さん力強い!いやまじでなんなの?!俺だけよく分かってないんだよ!事情プリーズはよ!」と叫ぶ。

いや、ホントなんで俺はいじめられてるの?ねぇホントなんで?

「アリス様はこの国の王女だ」といつになく低い声で言う父。

ていうかいまこの親父なんて言いやがった?


「アリス様は俺の兄…………フリューゲン・フォン・エメラルドの娘にして唯一の子供……………つまり次期女王だ。しかも兄はアリス様を溺愛している。それはつまりな、ナノシア…………………アリス様が殺されたりしたら国が滅んでいた。」と後に続ける。


うん。そっか。アリスは王女様だったんだなっ………………………て



「「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ?!!」」」俺と母さんとソフィーリア、3人同時に声を上げる。

というか2人は知らなかったんかいっ!





という訳で今、俺は行きたくもない王城に向かって連行されて行くのだった。



簀巻で



ーーー



と、い、う、わ、け、で!


俺は簀巻で王城に連行されたあと、国王と向き合っていた。

先ほどまであった出来事と、ロリオン伯爵が犯人であることを話すと、国王はすぐに使いを送った。

多分、ロリオン伯爵を呼び出しにいったのだろう。


それはともかく、俺はずっと見られ……………というより、睨まれていた。


「あの………………なんで睨まれてるんですかね。俺、何かしましたか?」と問いかける。というかそれ以外でてこなかった。


だって睨まれてるんだよ?!しかもこの国で一番偉い人に!


むっ、とした表情になった国王がゆっくり口を開き、長い話が始ま…………「娘に抱きつかれててずるい!」




…………………………………まさかの嫉妬かよ?!俺極刑かと思ってビクビクしてたんですけど!

てかアリスよ。いつの間に俺に抱きついてたんだ?

「なぁアリス…………いつの間に抱きついてたんだ?俺全然気づかなかっ「うちの娘を名前呼びだと!」……………」


う、うぜぇ……………なんだこの国王。


確かゲームでは…………ってあれ?


そういえばアリスってエロゲには出てこなかった気がする。

それに国王は愚王だって話だし…………まぁ確かに愚王といえば娘離れできない愚王だとは思うが能無しには見えない。というよりも一種の覇気を纏っており、別に何もできないわけではないだろう。


だとすると考えられるのは………………あぁ、アリスがあそこで殺されたりしたんだろうな。

それで愚王に成り下がったとかそんなところだろう。

まぁ今回はアリスを助けたし大丈夫なはずだが。


そんなことを考えていると、アリスが急に「お父様!私、ナノシア様と結婚したいです!」という爆弾をぶっこんだ。


『なっ!』という俺、親父、母さん、ソフィーリア、国王……………って全員じゃん。

まぁそれは置いとかないで投げて、今アリスが言ったことの考察をしようではないか。



アリスを助けた

好意を抱いた

吊橋効果

婚約したい

結論


吊橋効果による好意の発生による突拍子でトチ狂った狂言。



うん。そういうことだろうね。


「アリス、襲われて怖かったのは分かるけどこんなすぐ将来を決めるのはまずいと思うよ?

まずはじっくり考えてみ「違いますわ!私、昔からずっとナノシア様のことが好きでした!

第二夫妻でも構いません、ぜひ私も婚約者に!

あ、お父様、私、婚約をしないならもう一生口聞きませんからね!」……………………」


もうヤダこの人たち全然俺の話聞いてくれない。というか待って、ずっと好きだったってなに?


俺、前何かしたっけ?

しかも自分の父にまで牽制してるし……………あ、国王顔真っ青じゃん。


どうせ娘と婚約を天秤にかけてるんだろうけどストレスざまぁ………………でもなんでだろ。

それ自分に帰ってきてめちゃくちゃ心と胃が痛い。


あと両親とソフィーリアよ。俺に「これどうすんだよ」みたいな視線向けるのやめて、俺も知らないから!


すると国王が「………………うん。仕方ないからいいよ。娘を助けてもらったのは事実だし、身分も申し分ないからね。流石に第二夫妻というのは面子的に駄目だけどそこのソフィーリアちゃんは第二王妃的な扱いにすればいいから………………はぁもうヤダ。胃に穴空きそう。

娘が襲われたのを聞いただけで胃に穴が空きそうだったのに追い打ちとか……………………はぁ、もういいや。うん。

あ、婚約発表しなきゃいけないから今日やるね。ってあ、どこに逃げる気だい?

ナ〜ノ〜シ〜ア〜ク〜ン〜?」


えっ、ちょっと、まっ、離せ!肩を掴むんじゃない!ちょっと同情しそうになった俺の心を返して!

えっ、今から着替えろ?いや、ちゅ、脱がさないでっ!あっ、あーーー!!


こうして俺はこの後婚約発表をし、アリスと正式に婚約をした。何故か王太子までセットでついてきたが。

因みにソフィーリアは、俺の第二王妃となることが決まった。


あえて言わせてもらうとすれば、



なんで


どうして


こうなったんだああああぁぁぁぁぁぁ!!




もしよければ連載版の方も読んでみてねー

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