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ラヴ・レター  作者: くわとろプロジェクト
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第6話 本気で言ってるのなら怒るぞ

里菜の入院が始まってからも病院へ通い詰めている。後数日はこちらにいて可能な限り里菜のそばにいるつもりだ。病室ではいろんな話をしている。病気のことが気になり始めた時のこと、僕に話すかどうかかなり迷っていたことも話してくれた。

「最初、会社の健康診断のレントゲン写真で少し影が見えるって言われて。そのちょっと前に自分で何か小さいコリコリしたのがあるなあって感じていたの」

なるほど、自分で気づいて気になっていたのか。

「精密検査に行って、いろいろ調べられたのよ。恥ずかしいところも含めていろいろね」

少し顔が赤くなっている里菜を愛おしく感じた。

「結果が出るまで2週間くらいだったかな?それで基樹に見せた紙をもらってきたの。その時の先生からの説明で結構重い病気だってわかったの」

「それならなんでもっと早い段階で言ってくれなかったんだよ?いきなり検査結果を見せられたんじゃ驚くでしょ」

「だって、基樹に心配かけたくなかったし、言わずに病気が治ればいいなって思ってた。基樹もご両親を病気で亡くしてるし」

「里菜、君は俺の彼女なんだよ、大切な人なんだよ、心配するさ」

そっと里菜を抱きしめる。きっと怖くて押しつぶされそうになってるはず。少しでもその不安がやわらぐのであれば・・・。

「それでね、基樹にお願いっていうか、話ししたいことがあるの」

「なんだよ?売店で雑誌でも買ってこいって?」

少しおちゃらけて言葉を返した。

「そんなんじゃないよ。あたし、こんなになっちゃったし、今後もどうなるかわかんないし。あたしと別れてくれないかな?弱っていく姿を見せたくないんだ」

「おいおい、どうしてそうなるんだよ。俺が『うん、じゃあ別れよう』っていう訳ないって知ってるだろ?本気で言ってるのなら怒るぞ。どんなことがあってもそばにいるって約束しただろ」

里菜が震え出した。僕の胸で泣いているようだ。

「ありがとう、基樹。あたし・・・」


「それとな、来月から俺もこっちに住むよ。会社にお願いしてこっちにある支店に異動させてもらうんだ。そうなればいつでも病院にこれるだろ。やっと辞令を出してもらえるようになった。毎回毎回飛行機で来るのも大変なんだぜ(笑)」

以前から出していた異動希望が通った。なかなか個人的な理由での異動はできないが、今回はことがことだけにと特別に出してもらえる。上司も僕を援護してくれた。ほんとに感謝だ。

「そうなの?基樹ありがとう。ここに最高の彼氏がいます。自慢の彼氏です(笑)」

さっきまで泣いていたのにもうこれだw

まぁ、こういう笑顔が見たいんだよな。


翌日から放射線治療と薬の投与が始まった。決まった時間に病室を出てしばらくして帰ってくる。この調子で様子を見ながら治療を進めていく。この時点でかなり負担は増える。放射線を当てたところは熱を持つし、投与される薬もかなり体力を奪ってくる。

日に日に里菜の顔色が悪くなっていく。もっとここにいたいが、いったん戻る時間が来てしまった。

「里菜、いったん戻るけど、こっちにいるときにアパート決めてきたし、また来る時は引っ越しも一緒にするよ。そしたら毎日来れるから。またな」

「うん、また来てね。待ってる」

ここ数日で少し痩せてしまった腕を伸ばしてくる。しっかり手を握り返してうなずく。

病室を出たところで里菜の親父さんが僕を待っていた。

「お父さん、病室に入ればよかったでしょうに。これからいったん戻ります」

「ああ、里菜から聞いたよ、こっちに住むんだって?ありがとう里菜のために。それが君の負担にはなりはしないか?」

「いえ、会社も了承してくれましたし、誰からか頼まれたものじゃなくて僕自身が望んだので負担なんてありませんよ」

二人でロビーの椅子に腰掛ける。

「すまない、基樹くん。自分の娘がまさか病気になるとは夢にも思わなかったから動揺してしまってな、親としてもっと里菜を助けてやらないといけないんだが」

「僕も驚いてますが、里菜もしっかり病気と向き合ってますし、たまに弱音吐きますが。僕も里菜を支えていきます。なのでお父さんも一緒に」

涙を流しながら僕の手を握りしめる親父さんの手は暖かい。

病院を後にしていつもの部屋に帰ってきた。

翌日から会社に出て業務をこなす。

「課長、異動の件はありがとうございます。おかげでいろいろ助かります」

「香坂、そんなことは気にするな。私も昔は同じような経験があってな。当時の彼女のために仕事を辞めて転職まで考えたんだ。そこは異動ってことでまとまって。それが今の嫁さんなんだw」

「そうなんですか、初耳ですよ。でも希望が持てる話ですね」

軽く笑い合う。上司との関係も今まで以上に良くなってきたかもしれないな。これまであまり腹の中を話せる上司っていなかったし、余計そう思うのか。

僕自身も、僕の周りも少しずつではあるが変わり始めている。

僕は僕にできることをやるだけだ。僕にできることといえば限られるが、それを全力で。

「ラヴ・レター」読んでいただいてありがとうございます。

ここ数日大雨の影響で近くの川が氾濫したり、職場が水没したりと慌ただしい毎日でしたので更新ができませんでした。申し訳ありません。洪水も落ち着きましたし、これからも投稿していきますのでよろしくお願いします。

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