第4話 本当はすごく怖いよ
里菜が目覚めた後、里菜の実家に来ている。家に向かう前に連絡して伺うことを告げる。
里菜の両親ともこれからのことを話し合わなければいけないだろう。
親御さんとは以前に会ったとこがあるが、いつも彼女の家に行くのは緊張するもんだ。
「久しぶりだな、基樹くん。とにかく座ってくれ」
親父さんに迎え入れられリビングに案内される。
「お久しぶりです。すみません、手ぶらで来てしまいましたが」
急な訪問になってしまったから何も準備していない。
「いや、そんなことは気にしないでくれ。里菜から聞いた通りなんだが」
「はい、まさかこんなことを聞くことになるとは思ってもいませんでした。いつものように楽しい気分のまま帰りの飛行機に乗ると考えてました」
今回はあまり休みが続けて取れなかったので明日家に戻る予定だ。
「基樹くん、すまない、まだ詳しいことはわからないんだが、ひとまず一週間入院して今後の方針を決めるらしいんだ。心配かけてしまうが。君はどう思う?」
「はい、お袋の病気の時も数回入退院を繰り返しましたし、なんとか冷静に保ててます。でも、里菜さんのことはどんな形であれ支えていきます」
これは本心であり、自分の決心も含めた言葉だ。
「ありがとう、基樹くん。その言葉は本当に嬉しい。君のご両親のことは里菜から聞いている。君も大変な苦労があったと思うが、里菜をよろしく頼みたい」
親父さんから頭を下げられた。確かに僕は病気で両親を亡くしている。でも、それとこれは意味合いが違うと感じる。
「お父さん、頭をあげてください。こちらこそ、少しでも力になれることがあれば全力を尽くします」
このあと、しばらく会話をして家をあとにする。
里菜のアパートに戻ってきた。食事でも行こうかと誘ったが、そんな気分ではないらしい。それもそうか。
気晴らしになればと僕の運転で再度外出することになった。
もうすぐ夕暮れだし、夜景が見えるような高台にと離れた山を目指した。
「基樹ごめんね、あたしもまさか自分がこんなことになるなんて思ってなかった」
「いや、それは誰でも一緒だし、そんなことで謝らないで」
ちらちらと隣の里菜を見るがやはり元気はない。
「とにかくさ、今の時代、病気に対する技術も発達してるし・・・」
そのあと「絶対治るよ」と言いたかったが言えなかった。
こんな時に大切な里菜を励ますこともできないなんて。
「うん、まだどうなるかわかんないけど、あたし負けないよ」
山頂付近に到着して車を降り、展望台まで登ってきた。
ここへも以前来たことはあったが、次来るのがこんな状況だとは。
「久しぶりに来たけど、相変わらずここはいいね」
里菜の手を握りしめすっかり暗くなったなか、見つめ合う。
「うん、あたしもここは基樹と来た時以来だから久しぶり。また来れてよかった〜」
そのまま里菜の肩を抱き、しばし夜景を無言のまま見続けた。
「明日帰るんでしょ?それなら今日は良いもの食べに行こう!もちろん基樹のおごりでw」
「うん、明日帰るけどさ、もちろん俺のおごりってなんだよw」
少しでも笑顔の里菜を見れてほっとした僕がいる。
「あたしの病気が治ったらまたここに来ようね」
「うん、約束だな」
食事も終わりアパートに戻ってきた。
明日の身支度を軽く済ませて二人でベッドに入る。言葉もなく抱き合った。
「基樹、あたし本当はすごく怖いよ。これまで大きな病気もしたことなかったし、入院なんて経験ないもん。すごく怖い。病気のこと自分でも調べてみたんだ。そしたらもっと怖くなって」
僕を抱きしめる里菜の腕に力が入る。
「うん、わかってる。僕も怖いよ。でも、ここで二人しっかりしないとさ」
「ありがとう。あたし・・・」
それ以上言うなと口元に手をあてがう。
次の日、出発の時間までずっと二人で過ごした。
空港での別れ際里菜を抱きしめて口づけをした。
「こんなところでチューなんかするな」
顔を赤らめて僕の胸にパンチを喰らわす。いつもの元気な里菜には程遠いが多少はましになってきたか。
「また時間作ってこっちに来るよ、またな」
遠距離っていうのがこんなに憎らしいと感じたのは初めてだ。
里菜が見えなくなるまで手を振り続ける。
ゲートを抜け座席に着くがこの二日間のことが頭を回っている。
今この瞬間の里菜は何を思う?
今の僕には何ができて、何をするべきなのだろう。
自問自答を繰り返すが、おそらく答えは出ないんだろう。
休み明けいつものように過ごしているつもりがさすがに顔に出てるらしい。
何人もの同僚から声をかけられる。そっとしておいて欲しいがそういう声が嬉しかったりもする。
ここで一つ決めたことがあり上司に相談しているところだ。会社からの返答待ちではあるが。
家に帰ってきてから数日たち、いつものメッセージと合わせて里菜からの手紙も届く。
入院手続きが終わったこと、入院先で中学時代の同級生と再会したこと、その同級生が看護師として働いていたことなどこれまでで一番枚数が多いかもと思えるくらいだ。
ものすごい不安と恐怖に押しつぶされそうになっているだろう里菜に返事を書いている。
彼女が僕の手紙で少しでも笑って過ごせるのならどんなことでも書ける。
里菜の顔が浮かんでくるが、気軽に「頑張って」なんて言えないよね。
そんな言葉は気休めにすらならないことはこれまでの経験でわかっている。




