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ラヴ・レター  作者: くわとろプロジェクト
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第16話 俺の心配してるのか?

なかなか改善がみられないまま時間が過ぎている。大きな変化はあまりないようだが。

薬の量や治療時間などの調整をしながら毎日を過ごしている。

「ねぇ、基樹、あたしの身体って本当は悪いんじゃないの?手術してしばらくしたら動けるようになって退院できるかと思ってた。だけど、それもないし」

僕は里菜にかける言葉を見失った。それを悟られ舞まいと頭を回転させる。

「里菜、君は大きな病気をして二回も手術を受けたんだよ。簡単に『じゃあ退院ですね』って言われるはずないでしょ」

僕としては精一杯の言葉だった。

「だけど、あれから何ヶ月も経ってるんだよ。体調も良くないし」

「そりゃそうだよ、もっと体調が良くなるまではしばらく我慢だよ」

「う〜ん、よくわかんない」

と背中を向けてしまった。

結局現在の状況は里菜に話せずにいた。再発して身体を蝕んでいること。今後の状況によっては手術もありえるかもと言うこと。

そんなこと言えないよ。今でさえ心身ともに疲れてしまっているのに。

平日にかなり強めの薬や治療などをして、週末にはそれではなく、軽めの治療をしている。

定期的に現状の説明を聞いているが楽観できる内容ではない。

以前に比べて手足の動きが鈍くなっているらしい。長時間歩くことはできず、箸やフォークなど持つ指に入る力も弱くなっている。

まさかこの数年で里菜のこんな姿を目の当たりにするとは想像もできなかった。

しかし、これは現実。里菜も苦しんでいる。里菜だけではない、僕らも一緒に苦しんで戦っている。


ある日会社での上司に呼ばれた。

「香坂、彼女の具合はどうなんだ?見ているとあまり良い雰囲気ではないようだが」

「はい、実はそうなんです。良い方向へ向いてくれると安心できるんですが、それもまだ・・・」

「そうか、なんかあったらすぐに相談してくれ。可能な限り私もサポートしていくつもりだ」

「はい、ありがとうございます」

深くお辞儀をし、会議室を出ていく。同僚からも励ましの言葉をもらっている。

仕事は仕事と考え、切り離して業務しているが、やはりそう言う言葉は暖かいものだ。

みんなには感謝しかない。ありがとう。


いつものように病院に入っていき、病室手前で穂乃美さんと会った。

「こんにちは、お久しぶりです。穂乃美さん」

「香坂さん、こんにちは」

廊下の端に寄り少し立ち話した。

「いつもお見舞いありがとうございます。お疲れじゃないですか?香坂さんまで倒れないようにしてくださいね。それと・・・」

「はい、体力には自信ありますからwえ?」

「ちょっと、話ししたいことがあって。里菜には口止めされてますが」

何か里菜に言われたのかな?

「じゃあ、休み時間にでも食堂で話しましょうか?何時ですか?休み時間」

「13時からです。長い話でないので食堂で」

「わかりました」

里菜の病室に入ると里菜は眠っているようだ。この前にはなかった酸素マスクが用意してある。

息苦しい時があるのかな?

ごめん、里菜。君の苦しさを分かち合えない。

きっと、きっと良くなるよ。里菜の頭をゆっくり撫でる。

頬も少し痩せてきてるか。身体もこんなに小さくなって・・・。

起こさないように退室して一旦外の空気を吸いに出た。

こんなに天気が良いと言うのに気持ちは全く晴れない。

約束に時間になり食堂へ足を運ぶ。

穂乃美さんがすぐに来てくれ端のテーブルで向かい合った。

「すみません、香坂さん」

「いえ、構いませんよ」

コーヒーを二つ買ってくる。

「それで、話ってなんでしょう?」

「一昨日、少し時間ができたので里菜の病室へ行ったんです。その時に」

少し言いにくそうにしているが。

「はい、どうかしましたか?」

「その時に里菜と話ししたんです。『あたしの病気って治ってないよね?』って。そのあと『あたしこのまま退院できないまま死んじゃうのかな?』なんて言うんです」

ドキッとした。里菜本人からその言葉が出るとは。やはり里菜も最悪な時のことを考えているのか。

うん、とうなずくしかできない。

「それで私は『そんなことないでしょ?病気を治すために入院してるんだから』って言ったんです。そしたら里菜は『あたしがもし死んだら基樹を支えてあげて欲しいんだけど』って」

「え?里菜がそんなことを?」

「はい、香坂さんを支えてあげてって。『基樹って本当に優しいんだよ。それだけじゃなくてあたしが間違った時は叱ってくれるし』なんて言うんです」

「・・・。」

「私は『そんなことできるわけないでしょ。里菜の彼氏なんだよ』って言ってその場は終わりましたが」

「なるほど、思い詰めてますね、仕方ないとは言え、すみません」

穂乃美さんへ頭を下げた。

「いえ、私は慣れてますから、いろんな患者さんのこと見てますし。ただ里菜のことが心配で」

「はい、ありがとうございます。里菜も疲れてますから、僕もしっかりそばにいます」

と話して席を立つ。

里菜も自分のことじゃなくて俺の心配してるのか?そんなこと考えてもしかたないだろう?里菜。

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