表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラヴ・レター  作者: くわとろプロジェクト
13/17

第13話 俺を幸せにしてよ

「手術なんてもういや。これ以上あたしの身体を奪わないで。毎日傷跡を見てどんな気持ちかわかる?」

僕らの話を聞いた後の里菜は我を忘れたように高ぶってしまった。

「おい、里菜、落ち着いて」

僕が里菜の手を握ろうとしたが振り払われてしまった。

「みんな部屋から出てって。一人にして」

布団の中に頭から隠れてしまった。おそらく涙を流しているんだろう。それを見せないためにこんな態度をとっているのかと思う。

仕方なしに全員病室から出て、近くにあるソファに腰掛ける。しばらくの沈黙が。

里菜の気持ちも痛いほどわかる。僕だっていやだ。自分の身体が切り刻まれるのを容認できるはずもない。

しかし、このままでは・・・。


「ここはもう一度話してみます」

重い腰を上げ病室へ入るが気も重くなってくる。

「里菜、俺だ、顔は出さないでいいからそのまま聞いてくれ」

とベッド横の椅子にゆっくり座って口を開く。

「里菜、里菜の気持ちはわかるよ。でも、このままじゃ治るものも治らないよ。これから先も里菜のそばにいさせてよ。里菜と一緒にいると幸せなんだ。俺を幸せにしてよ」

「本当に?なんか無理やり言ってない?」

目まで布団から出てきた里菜の頭を撫でてみる。

「無理やりなもんか、ほんとにそう思ってるよ。じゃなきゃこんなこと言えないよ、こんな時に」

なんか僕も涙が溢れてきた。

「基樹泣かないでよ、基樹が泣いたらあたし、泣けない」

「里菜は泣かないでいい。俺に笑顔を見せてくれたらそれでいい」

里菜がゆっくり僕を抱きしめた。すっかり細くなってしまった腕に力が入っている。

「手術したら病気治るかな?手術はこれで最後にしたいよ。怖いし、痛いし」

僕も里菜を抱きしめる腕に力を込めた。

「うん、これで最後だ。これで病気も治る。だから」

「手術は怖いけど、基樹を幸せにしなきゃね」

僕の涙を拭いながら笑って見せる里菜。笑顔が余計泣けるじゃないか。


ここからは再度手術に向けた準備に数日追われていた里菜。さすがに疲れも見えてくる。

「もう嫌だ、毎日検査ばっかり。さっさと切ってくれればすっきりするのに」

「なにイライラしてんだよ、これも前に経験したことだろ。でもまぁ、愚痴は聞いてやるよ」

悪戯っぽく舌を出して里菜を笑わせようとした。

「基樹、ひどい、それを言う?数日後に手術する彼女にさ」

「悪い悪い、調子に乗り過ぎたなw」

お互いに笑いながらジャレ合っている。この時も共に不安は取り除くこともできず、心からの笑顔は出てこない。今はこんなことでも救いになるのかもしれない。

「基樹、あたし、手術頑張るね。基樹が嫌いな言葉をここで使ってみたけど、今は頑張るよとしか言えないよ」

「うん、手術が終わるまで待ってるから。だからちゃんと帰ってくるんだぞ。それから、頑張るってもう言うな。里菜が頑張ってるのはわかってる。だからもう言うな」

そう、頑張ってる人に「頑張れ!」って言うのは違うんじゃないかと思う。

里菜も経験したことない不安や恐怖と必死に戦っている。そんな里菜に頑張れなんて言えないよ。


そしていよいよ手術の日。

前回は手術前に声をかけられなかったが、今日は目の前にいる里菜に話せる。これは嬉しいな、素直に。

「里菜、次に目が覚めた時は手術は終わってるよ。待ってるから」

「うん、待ってて。他の女の人とイチャイチャしてたら許さないわよ」

里菜の精一杯の空元気なんだろう。

「そんなことするか!いいから早く病気治しちゃえ!」

すぐに手術室へ消えていく。僕は里菜の身体を切ることを説得した。

間違ったことではないと思えるが、他の方法が思いつかない。いや、選択肢はない、はずだ。

自分では何も動かせない、何も変わらない。だけど僕の選択が間違っていないと思いたい。

ごめんな、里菜。俺何もできない、里菜のためにできることって?

地獄のような数時間が経過して二度目の手術は終わった。

病室へ戻ってきた里菜は再び身体を固定され、痛々しすぎる姿だ。何度見ても涙が溢れる。

「里菜、目を、目を覚まして」

声かけするが自分の声が出ているのかさえよくわからない。


うん?誰かが僕の頭を撫でている感覚で目が覚めた。

いけね、いつの間にか寝ていたのか。ベッドに頭と両腕だけ乗せた姿勢のまま寝ていたようだ。

「基樹起きてよ、あたしよりも寝てるって何よ、麻酔でもした?」

唯一動く右腕で僕の頭を触っていたようだ。

「ごめん、いつの間にか寝ちゃってた。さすが病院のベッドだ。寝るのに適してるw」

「基樹、あたし約束した通り帰ってきたよ」

「そうだね、安心したよ。おかえり、里菜」

手を握り合い温もりを感じていた。


数日後、手術後の説明を聞きにきている。

前回とは違う部位での手術であったこと、開いてみて初めてわかったことなど細かなことまで。

しかし、その後に聞いた言葉に僕らは絶句した。

「今回摘出した腫瘍とは別の悪性腫瘍が見つかりました。まだレントゲンにも映らないほどの大きさですが。そこは摘出が非常に難しく、完全には取り除けませんでした。今回以上に切ってしまうと内臓機能が低下する可能性が非常に高いのです」

里菜になんて話せば良いんだよ。これで最後だからと手術受けさせたんだぞ。そんな馬鹿なことがあってたまるか。僕は震えていた。目眩もしてくる。

これ以上僕らを苦しめないでくれ、お願いだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ