#07 黒は誰にでも
私が、黒い人波が揺れ動く海で待っていると、おまたせ!と口にしながら、少し早めにトイレから彼らしき人物が出てきました。
私の目には、彼だと言われても、彼ではないと言われてもおかしくないくらい、並みのスピードで歩いてくる黒い人が映り、黒目が疼きました。
私が感じた違和感に、黒煙の中に入ったほどの刺激や苦しさはなかったものの、直感で心に若干のザラつきを与えられました。
私が違和感を抱いたのは、逆に彼の口癖など全てが一致しすぎていて、白に見える黒だと感じたからです。
私に接する時に見せる親しみやすさの黒の濃さも、合い言葉も、あなたの特徴も、的確なくらい彼とピッタリ一致していました。
私が彼の身体を触ったとき、違和感は急激に上昇し、違和感の黒船が来航してくるようでした。
私のモヤモヤした心の足掻きに反するように、その黒い人はここからすぐに立ち去りたいのか、私の手を優しさを忘れることなく、そっと引っ張り、何処かに移動しようとしたのです。
私は漂い続ける何とも言えない重たい違和感から、この場を動かず、その黒い人から目を逸らさずに、必死で踏ん張っていました。
私の瞳には、踏ん張り始めてから少しの時間が経過したその時、トイレからもう一人の黒い人が全力で向かって来るのが見えました。
私はすぐに、今走ってきた方が彼で、最初に来た人は、彼のなりすましだったことを確信し、黒い眼差しを全てなりすましの人物の方へと向けました。
私は、その黒が彼のことを入念に調べるくらい、私に興味があったという事実に、今世紀最大級の震えが走ってきたのです。
私を、別の黒から遠ざけ、抱き締めてくれた彼という黒は、とてもあたたかい黒色をしていました。