#05 黒い無邪気な天使
私は彼とのデートの待ち合わせ中、黒い視界がうごめくなか、突然誰かに前から抱きつかれました。
私が把握している彼の感触と、抱きついてきた人の感触が違うので、心に黒いものが芽吹き、驚きを発していました。
私を暗黒に連れていきそうであり、明るい場所へも連れていきそうなこの感じは、彼の性格からして、有り得ませんでした。
私が漆黒に染まり、今年最大のオドオドをしていると、一人しか呼ばない私のあだ名を口にして、それが彼の姪だとすぐに分かりました。
私は、偶然通りかかったという彼の姪を、最善の天使のような最悪の黒い悪魔に感じてしまいました。
私は、視界の黒に埋もれながらも実力を密かに発揮する、感触という武器で違いを見出すことが出来たので、ひとつでも武器があって本当に良かったと思っています。
私の恐怖を全く理解していない姪の、黒電話のように響く声が、脳を刺激し続けました。
私の目には、子供でも大人と同じシルエットに映ってしまい、その場合はいつも感触で分かるのですが、姪は大きいから彼と少し似た黒でした。
私に抱きついてきたのが知らない黒い男性だったら、取り返しのつかないことだって有り得るのです。
私には、普通の人の注意点に加え、黒の選別という作業まで加わり、気を付けることが多すぎて、正直疲れます。
私はどんな黒が来ようと、新鮮な対応をせざるを得ませんが、人によって態度を変えることがないことは、世間では良いことなのでしょうか。
私の前に、勢いよく走ってきた黒い人が、私と少し距離をとって立ち、私と彼しか知らない合言葉を、しっかりと口にして、彼だと確信しました。