#01 黒にまみれて
私は全人類が同じに見えて、それは黒い影のような姿をしているんです。
私が見ている全人類は、全く同じ大きさで、全く同じ濃さの黒をしています。
私に聞こえてくる黒から発せられる声も、全人類同じ声で聞こえてきます。
私は視覚と聴覚を使ってする、人の識別が出来ず、嗅覚での識別も出来ず、ずっと暗黒の世界にいます。
私の触覚は人並みか、少し上くらいで、特に優れているという訳ではなく、黒く見えてしまうことで代わりに得た、保証のようなものは何もありませんでした。
私は感触と言動の癖だけで、人を見分けるしかないので、黒い人間との会話やスキンシップは欠かせません。
私は積極的な人間ではなく、どちらかというと、黒い布を被った黒子のような、消極的な人間です。
私のことを黒ではなく、真っ白に近い人間だと勘違いしてくる人が、初対面では圧倒的な数いるんです。
私の身体と、人間以外の生物だけは、あの馴染みある黒いシルエットになることなく、普通に感じることが出来ています。
私は写真や似顔絵も、自分以外の姿であるなら、全て黒い人になってしまいます。
私が人と違うことに、少しは慣れてきましたけど、支障はまだまだ計り知れないほどあり、黒く心に焼き付いてきます。
私の目の前に黒い人しか現れないのは、生まれたその日からずっとです。
私の脳はそれを、ずっと一般的な黒いものだと思いながら生活してきました。
私はその後、周りの環境の違いに気付き、黒々とした周りに馴染むために、考え方や行動を変えるしかなくなりました。
私は本能のまま普通の人間として、生活する機会を真っ黒に塗り潰されました。
私ではなくても、全く同じ黒い人間が山程いたら、気持ち悪いと思うのは必然だと思います。
私以外でも、この状況になったら、黒々とした悪夢に引きずり込まれた、と思うのが普通だと思います。
私は今になってだいぶ慣れてきましたが、それを脳で噛み締めた時、人と違う人生がいつまでも続くのかなと思うと、未来に明るさは見えず、漆黒が見えました。
私の視覚で、黒ではない肌色をした、カッコイイ顔というものを一度だけでも感じたいものです。
私は自分で言うのもなんですが、黒い心を持ってはいなくて、持っている暇もありませんでした。
私の心身は、黒い心から身を守ることで、もう精一杯なのですから。