図書室でのひと時
それから数日経ったが俺は普段と変わらない日常を過ごしていた。いや、1つだけ変わったことがある。愛那との距離が前よりも近くなったことだ。遊びに行ったあの日以来話す回数や一緒に行動する時間が増えている。正直なところあまり距離を詰めたいとは思わないが、俺には俺の立ち位置がある。その関係上無下にするわけにもいかず、結局彼女との親交を深める形になっている。そんな俺を秋人は訝しんでいるが、何も言ってこない。秋人は秋人でクラスの人気者だからそんなに強く言うこともできないのだろう。今のCクラスの中心にいるのは秋人を含めた新垣・火乃宮グループだ。その立場を揺るがしてまで動くべきとは思ってないのだろうし、何より俺が嫌だ。周囲の雰囲気も若干変わり始め、俺と愛那を見守るような視線になり始めている。
(このままだとまずい…。あの日の二の舞になっちまう)
そんな焦りを感じ始めていた金曜日の放課後。帰ろうと思い昇降口に向かうと楓さんを見つけた。どうやら新書の搬入で来ていたようだ。業者の人と話し終えた楓さんと目が合う。
「……」
「……ナイスタイミング!」
「は?」
「いいタイミングで来てくれたね!浩太君!ちょうど困ってたんだ」
「いや俺もうかえ…」
「これはきっと神の思召しだよ!この新書の段ボールを一緒に司書室まで運ぼうじゃないか!」
そういうと楓さんは俺の言い分も聞かずに段ボールを俺の前に積んでいく。
(これ全部持ってくのかよ!)
時折手伝ったりするけどこんなに多いのは初めてだった。これは断ることができなそうだと思い、諦めて手伝うことにする。
一階の渡り廊下を通り過ぎ、エレベーターホールに着く。楓さんは段ボールを台車に乗せて押している。おい待て!なんで俺は手持ちなのにあんたは台車あるんだよ!そんな目線を向けたところで楓さんは全く反応しない。そのままエレベーターに乗って五階まで移動する。それを何回か繰り返してようやく終わると、楓さんはなぜか紅茶とお茶菓子の準備をしている。何してんのあんた?
「浩太君お疲れ!手伝ってくれたお礼だ。ティータイムにしよう」
「はぁ…ありがとうございます」
楓さんはティーセットをもって図書室の方に向かう。俺もそれについていく。
「ほんとは図書室での飲食は厳禁なんだけどね~。今日は特別」
いや、マジで何しちゃってんだよあんた?
司書室から図書室に向かうと白いテーブルクロスのあるラウンドテーブルに腰を掛けてる女の子を見つける。
「本宮さん…」
「……」
彼女は初めて会った時と同じようにそこに座っていた。久々に会ったからか、彼女の持つ雰囲気にまた飲まれそうになったからかはわからないがドキッとしてしまう。ちょうどそのタイミングで楓さんが司書室からお茶菓子をもってくる。
「あ!ちょっと栞梨ちゃん。何ちゃっかり移動してるのよ!あなたの分の紅茶準備してないわよ」
「じゃあ楓さんのやつもらう。ミルクとスティックシュガーとって」
「ちゃっかりパクろうとしてんじゃないわよ…」
相変わらずこの二人のトークは独特だ。などと思いながら席に着き、紅茶を口をつける。
ほのかな甘みが疲れを和らげる。茶葉がいいのだろう。ストレートなのにめっちゃうまい。
「どう?おいしい?イギリスの皇族が好んで飲む紅茶らしいわよ」
「はい。めちゃくちゃおいしいです。こんなおいしいストレートティー生まれて初めて飲みましたよ!」
「ま…そのために給料三か月分つぎ込んだんだけどね」
「あんたほんとに何してんの?」
「…馬鹿……」
二人して思わずツッコミが飛び出る。天才はどこか抜けているっていうけれど、この人は金勘定の部分が抜けているのかもしれない。
「いいの。いいの。たまには贅沢しなきゃこんなお堅い仕事やってらんないて。ん~うまい!」
そういいながら、楓さんは紅茶を飲む。お堅い仕事って言ってる割には寝たり、紅茶飲んだりしてくつろいでいるように見えるんだが…。そんな目を向けるがそんなことお構いなしに楓さんはお茶菓子に手を付ける。そんな様子を見た俺と本宮さんは思わずため息が出る。この人自由すぎでしょ…。
とか思ってたら突然に楓さんは席を立ち司書室の方に足を向ける。
「じゃあ私は今日来た本の検品してるから、あとはお二人さんでごゆっくり~」
そう言うとそのまま司書室に籠ってしまった。
「……」
「……」
沈黙が訪れる。そんな状況で初めに口を開いたのは本宮さんの方だった。
「どうやら面倒なことになってるようね」
「え?」
「分かるわ。そんなことぐらい。顔に書いてあるんだもの…。心を視る必要もない」
「そんなに分かりやすかったかな?うまく隠してたつもりだったんだけど」
「バレバレ。だから楓さんも声をかけたんだろうけど」
「あはは…。情けない」
「あなたがはっきり言わないからまた同じようなことになるかもしれないのよ?」
「分かってる。このままじゃ二の舞になる…」
「分かってるなら私からは一言だけ。誰かに嫌われることを受け入れて。そうすればきっと道は見えるはず」
それだけ言うと彼女は紅茶を飲み干して図書室を出ていく。
(誰かに嫌われることを受け入れろ…か)
どういった意味で言ったのだろうか?
俺はただティーカップに入った紅茶の中の自分を見つめることしかできなかった。
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