妖精との出会い
「君、空っぽなんだね」
開口一番に言われたその一言にとても驚かされたことを今でも忘れない。
朝だというのに元気いっぱいの太陽が照り付ける中、緑の生い茂る並木道を額に汗をにじませながら歩いている。つい半年前までは桜がひらひら舞う心地良い気温だったのに、どうして秋になっても毎年こんなに暑いんだか…。思はず暑さにため息をつくと同時に背中を何かで叩かれる。
「おっはよ~、浩太!朝から元気ないね~。せっかくの二枚目顔が台無しだよ~。」
「やかましいわ!唯月!むしろこんな暑さなのになんでそんな元気なんだよ。」
そもそも人をドついといて謝りもしないとは人としてどうなのだろうか?など言いたいことは山ほどあるが、それよりも先に彼女の変化が目に入り、一瞬言葉を詰まらせてしまった。
「こんないい天気なんだよ!それに三連休終わってようやくみんなに会えるんだもん。テンションあがるに決まってんじゃん!」
「ああそうですか…。てか…髪切ったんだな。」
こんなフランクなやり取りができるのはきっと彼女 南 唯月のなかですでに何かが吹っ切れているからなのだろう。
「ああ…うん。もともとショートの方が好きだったし、…いつまでも立ち止まってるわけにはいかないからね」
(凄ぇな。ほんとに同じ人間か?)
素直に感心してしまった。ここまですごいとかける言葉も見当たらない。俺が唖然としていると、今度はデコピンを入れられた。
「痛っ!なにすんだ」
実際はさして痛くない。けどなんか瞬間的に言ってしまう。こういうのたまにあるよな~。
「ボーっとしてるのが悪い!早く行こ。遅刻するよ~」
と先に走って行ってしまう。今日はいつもより少し遅い時間にでたし彼女の言う通りかもしれない。
そう思い、俺も急いで彼女の後ろを追う。
「星野君おはよう。」
「ああ、おはよう」
「ゲンおっは~」
「おは~」
といった感じにクラスメイトと軽く挨拶を交わしながら席まで行く。因みになぜ「ゲン」と呼ばれているかというと、有名なアーティストの方と名字(むこうは芸名なのかもしれないけど)が一緒だからである。三連休があったためにみんないろいろと話がたまっているようだ。席に着くとほぼ同時に先生がきてクラスメイトが自席に戻る。
「よ~し。HR始めるぞ~」
マコちゃん先生の掛け声と同時に今日もこの俺 星野 浩太の日常が始まる。
今日も今日とていつも通りの日常を過ごした。授業は真面目に受け、休み時間は男子のクラスメイトと馬鹿したり、女子に勉強教えたり、相談に乗ってあげたりしていた。これが俺のいつも通り。日常なのである。
勉強をスポーツもほとんどが上の下。圧倒的ハイスペック高校生とは言えないが、ある程度のことならできるし人付き合いもそれなりに上手くやっている。そのおかげか望んだわけではないが、いつの間にかクラスの中心にいた。
授業が終わり、クラスメイトと別れ、マコちゃん先生からの頼まれごとを片付けて教室に戻る。当たり前だけどもちろん誰かがいるわけもなく、カバンを持ち、帰ろうと昇降口の方に移動しているとメッセージが届く。学校側からの連絡のようだ。それを開いて確認する。
「あっ!そっか。今日だったけ」
どうやら借りていた本の返却日が今日だったらしい。
降りるはずだった階段を上り、三階にある渡り廊下を渡って別棟に移動、さらに階段を上る。この学校は本棟と別棟を繋ぐ渡り廊下が一階と三階にしかない。そのため別棟の五階という一番遠い位置にある図書室に行くには非常に不便な造りになっている。聞いた話によると台風などで床上浸水が起こっても本をだめにしないためらしい。しかし、その配慮も虚しく、加えて今では紙の本を読む人の方が少ないこともあり、あまり人が寄り付かない辺境の地として扱われている。
「さっさと返して帰るか。失礼します。」
図書室の前まできて、独り言をこぼして中に入る。中に入ると鼻にかかるような金木犀の香りがした。
そして、俺は不覚にも目の前にある光景に見とれてしまったのだ。そこには、開きっぱなしの窓から西日が差し込む図書室には一人の少女が座っていた。差し込む西日に照らされて輝いて見える茶色いセミロングの髪、大きくクリクリした青みがかった目、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるメリハリのある身体。男受けよさそうな外見とは裏腹に、少し諦観混じりのその目が人をあまり寄せ付けないような雰囲気を発している。
「君、空っぽなんだね」
「え……」
入ってきた俺と一瞬だけ目を合わせた彼女は何かを諭すようにそう言ったのだった。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。初投稿です!めちゃくちゃ緊張してます。
この作品は台風の夜に家でゴロゴロしてたら浮かんできたものを文字に起こした作品です。拙いものではありますが、誤字脱字を含めて感想お待ちしてます。
さて次回の更新なのですが来週の木曜日か金曜日になる予定です。基本的に一週間に一回の更新になるかと思います。目安としては木曜か金曜です。更新頻度が命のなろうではありますが、温かい目で見守ってくれると嬉しいです。