足喰いの巣
ミクは建物の全貌が見える少し離れた場所に立つ
「さて、派手に行きますか」
「すいませんーん、中の方いらっしゃいますかー」
ミクは大きな声で建物の中に居るであろう人物に呼びかける
「これお返ししまーす」
ミクはそういうと建物の窓に向かって男の死体を投げつける
投げつけられた男の死体は大きな音を立て窓ガラスを突き破り部屋の中を勢いよく転がっていった
「ちょっと派手すぎたかな」
「殺人鬼の末路、問題ないと思う」
「それにしても何の反応もないね」
「熱反応モニターニ切リ替エマス」
内部の人間は窓側に隠れてこちらの様子を伺っている様子が映し出される
「そんな事をしても丸見えですよー」
「拳銃ヲ確認、5秒後ニ発射サレマス、3..2..1」
内部の人間がこちらに向かって銃を撃ってきた
「解析、頭部周辺ニ3発命中予測、予測ヲ回避シマス」
しかしA2により着弾点を予測された弾はすべてECP-01の防衛機能により軌道を逸らされ弾かれる
更に弾が発射される
「胸部付近ニ3発命中予測、予測ヲ回避シマス」
同じく弾はすべて弾かれた
しかし、それ以降は銃が発射されることはなかった、シノが狙撃した霊針は建物の壁を貫通し銃を破壊したからだ
それに対して怒りを現したのか内部の何者かが腕力で家の壁の上下を手刀で切り抜き、持ち上げるとミクへを投げてきた
「流石にあれは避けないとまずそうね」
「防御可能デス、如何シマスカ?」
「できるのならそれでお願い!」
ミクの脳裏に直接流れ込んでくる
「了解、こうすればいいのね」
その指示通りに動く、投げられた壁の塊にミクが触れるとその力、質量がすべて失われ壁がその場に落ちた
「あれれ、どうなってるのこれ?」
「コチラノ世界ノエネルギーニ霊体エネルギーヲ衝突サセ、物体ノエネルギーヲ無効化シマシタ」
「うーん、なんだかよくわからないけど、それにしてもあれってどう考えても人間じゃないよね」
「それは向こうも同じ、恐らく戸惑っている」
男は更に破壊された建物から取り出しミクに対して投げようとするもシノに破壊される
しかし直接攻撃が来ないことを理解したのか手にしたのもを地面に投げ捨てる
「A2情報を頂戴」
「解析、人トシテノ適合率60%、人体ヲ構成スル筋力的ナ構造ハ力ノ強イ霊長類ニ分類サレマス」
モニターには男の全身と筋力の分析について表示される
「なるほど、遺伝子操作された筋組織を人体に移植し適合させたといったところからしら、しかしこんな状態で骨が持つのかしら」
リーゼの言うことも一理ある
「じゃあ試してみようかね、目前の相手は人とは思わずゴリラだと思って戦えばいいのね、面白い」
「思考的ゴリラと肉体的ゴリラ、面白そう」
「なんだって!」
シノの一言に怒るミク、しかしその言葉の裏には手出しをしないと言う意味も含まれていた
この男、相当の訓練を積まれているのかミクに急接近しパンチや蹴りのラッシュを繰り広げる
しかし、ミク、いやECP-01の防御を突破することはできない
「1568kg、1213kg、980kg、768kg」
まるでボクサーのスパーリングを見ているかのようにECP-01は男の殴打をすべて受け止め、数値化している、男の攻撃はミクの脳裏にイメージで伝達され、次にどこへ攻撃が来るのかすべて予測されている
打撃が無理だと考えた男はタックルをするがミクは倒れる気配すらない
男はこの体を移植されてから始めて敗北を思い知らされた
ジークはその格闘センスの高さから自分は選ばれた人間だと思っていた
なので実験に誘われた時には迷うことなく進んで志願した
筋力が移植された後は人間ではスパーリングの相手にもならず、あらゆる物を破壊してきた
対価として実験を手伝う事を約束されていたジークは失敗した実験体を処分する仕事に就く
失敗した実験体は常人の域を達していることもあったがジークにとっては難しくはなかった
なぜこの場所でこの男なのか理解はできない
男は気がくるっているのか悪魔を召喚しようと遺体を切り刻み実験しているようにも思えたのだが、この地下で行われる惨劇についてまったく興味が無かった
上からの命令は遺体の処理と外部に漏れないよう男を監視する、ただそれだけだった
そんな退屈な日常を破壊してくれた目の前の存在には感謝すらした
自分の強化された肉体をもってしても息を切らすことなく涼しげな顔をしている
この少女には完敗だ
攻撃する気力の亡くなったジークを目の前の少女は何もする様子はない
《これだけの装備を揃えられる存在など、考えられるとすれば国家単位の代物なのだろう
だとすればこの国の警察、いやこの国にそんな特殊機関は存在しない、だとすれば本国の特殊機関だろうか、会社の研究が外部の人間に漏れた・・・》
諦めの中、男はいろいろと思考を巡らせていた
ミク達は指示を待っていた
「つまりだ、肉体が失われた人間の魂には霊体エネルギーが宿っており、その霊体エネルギーをこちらの世界で開放した場合こちらの世界で生きていた人間のエネルギーを放出することで爆発的な力を発揮することができる」
「ただし無限に使えるというわけでは無いからエネルギーの残量に注意するように」
「了解」
ミクとジークの戦闘が始まったと同時に回収ボットが建物へ入り地下への階段を下っていく
その後をキトが歩いている、キトはこの場所に心当たりがあり移動してきていた
地下への階段は石段となっており、何かの目的があって作られたのだろうが周囲の状態からして最近作られた感じはなくかなり歴史を感じさせる、石造りの階段の天井には何かが擦れたような跡が付いていた、この傷も古さを感じる。
階段を降り切るとやはり創造通りの光景が映し出される
バラバラにされた無数の人体の残骸だ、腐敗が進んだモノもあり、夕凪やリーザの見守る映像に臭いまで伝わっては来ないは幸いだ
残骸の中には人体と思えないような物もあり、それを見たリーゼは人体実験の失敗作の処分と推測する
ただ、気がかりないのは地面に刻まれた模様だ、まるで悪魔の召喚でも行っていたかのような祭壇まで作られている、祭壇の後ろには更に奥へ続く穴があり、その真っ暗な穴の先には侵入した経路はない
ただその穴の入口には遠い昔に掲げられたであろうしめ縄とその脇にはお札のような物が張られた跡がある
キトはいつの間にかこの場所に移動してきていた
「足喰いの巣か・・・」
「足喰い?」
「読んで字のごとく、さっき回収した幽霊に足が無いのはこの足喰いのせいや、恐らくこやつに足を食べられたのだろう」
「ここにある魂はまだ手付かずのようやな」
回収ボットが魂を回収している
「どういう状況やったか知らんけど、かなりの負のエネルギーやな、そして相当近くまで来てるな」
キトはすでに足喰いの気配を感じていた
回収ボットが魂の回収し戻て行くのを確認すると、キトは周囲の負のエネルギーをまるで舞でも踊るかのようにして集約させ真っ暗な穴に向けて息と共に吹きかけた
「さて、戻るとするか」
集約させられた濃厚な負のエネルギーを穴の奥に潜む足喰いが反応する
地下から何かが昇ってくる、ミク達はその存在をすでに捉えていた