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心霊コレクター  作者: 呼霊丸
夕凪の日常
27/46

少女の思い

薄暗い林の奥って不気味ですよね

夕方4時いつもの帰り道


夕凪の自宅は団地と言われるような人家が密集した場所ではなく、

郊外の田舎にポツリと建つ大きな一軒屋だ

田舎の家らしく敷地は200坪くらいあり、敷地の中には蔵もある

両親はすでに居ない、祖父は半年前に他界し、祖母と2人暮らしだ


家に帰るには林の間を通り抜けた先にある

ここの林はあまり好きではない

林は特に手入れをされている訳でもなくどちらかと言えば荒れている方だ

稀に林の奥の方で嫌な気配を感じるが絶対に見ることはない


こういう荒れた場所にいるのはどちらかと言えば良くない霊である可能性が高い

見たくもないし、近寄るなどはもっての外である

出来ることなら避けて通りたいが、そうもいかない

毎日の事だがこの道を歩くのは気が重い


林を抜けると我が家が見えてくる

とにかく足早に通り過ぎる

家に着き門を開け、玄関のカギを開けようとしたときに

気配を感じる


これは絶対に居る


一度嫌な体験をしてからは慎重になっていた

それにしてもここ最近、家に帰ってくるとこういう感じになることが多い気がする

自分が原因なのかなと考えてしまう


田舎の家によくあることだが玄関のカギはかかっていない

玄関の扉を開け、家に入る、祖母の気配は無い、畑にでも行っているのだろう

夕凪は家に入るなり真っ先にトイレの扉を開け確認、脱衣場から浴室の扉を開け確認をしていく

個室に居られると入ることができなくなる

特にトイレなんかに居られると最悪だ


2階は...特になにも感じない

1階の和室も問題がなかった

となると残りはリビングだ


リビングの扉を開け覗いてみる

見える範囲には何も居ないように感じるが明らかに気配が違う

特にソファーの辺りに嫌な気配が漂ってくる


少し遠くからソファーの下を恐る恐る覗いてみる

やはり居た

黒くてもやもやしたものが床にへばりあがいている

手らしきものが5本くらい見えるので3人分くらいが塊っているのだろう


こういう感じの霊は家の玄関の下の隙間から家に入ってくる

入ってきて家の中をウロウロして窓などの隙間からスルっと出ていく


以前リビングのソファーでうたた寝をしている時に夢の中でうめき声を聞き

うなされ、目だけが覚めているのに体がまだ寝ているような感じで体は動かせない、

足元に視線をやると複数の手を使いソファーから這い上がり、足を掴まれ、

複数の手に体を這い上がられてしまった、何人くらいの塊だったのかはわからないが

怒りの感情であったり、悲しみの感情であったりいろいろな断片的な映像が一気に流れ込んできた

恐怖もあったが何より精神的な疲労感がすごかった、これは魂の干渉による疲労なのだろうか...


今回は触れないように遠巻きに観察をしていた

ソファーの下からテレビの裏へ行き、窓の外へと出ていった

向かったのは林の奥の方だ、林からは相変わらず嫌な感じがしている


その日の夜、夕飯を食べ、お風呂に入り、机に座って2時間くらい勉強をしたら睡魔に襲われ

あまりにも眠いのでベッドに横になると、すぐに意識が無くなっていった


「...助けて...」


「苦しい...助けて...」


耳元で声が聞こえた感じがした


「...助けて...」


「苦しい...助けて...」


その声に脳が反応を示したのか目が開いた

するとあれだけ避けていたハズの林の中に立っていた

周囲を見渡す、真っ暗なのだろうがなぜか見える

左の林の奥から嫌な気配を感じ思わず振り向いた

嫌な気配の方を見ると、木々の間になにかが歩いてくるのが見える

大きな黒い塊だ


大きな黒い塊はこちらに向かってゆっくり歩いてくる

徐々に黒い塊が近づき姿がはっきりとしてきた


視線の下には小さな少女が見えるのだが、昼間見た霊たちが背中から後にかけ無数に群がっている

首から下げる夕凪の石が白く光っていた

少女はその光に縋るようにし夕凪に助けを求めているかに見えた


「助けて...」


「苦しい...助けて...」


無数の霊を引きずりながらこちらに向かってくる

少女の目の部分は黒くて見え無いが恐怖が溢れている感じの表情で泣いているようにも見える


夕凪は助けての言葉に反応して手を差し出そうとした


その時、


「お止めになられた方がよろしいですよ」


横から声がする


セツさんだ


セツ「背後の霊があまりにも多すぎます、この量では夕凪さんの精神が持ちません、それに石にも影響を及ぼしてしまいます」


セツ「黒い霊力の力は人には決して扱えない代物なのです」


セツ「それにあなたの今の状態もあまり良いとはいえません、半ば強引にここへ来られた感じもします」


夕凪は自分の手を見てみるとなんだか透けている感じに見えた、そういえば足が地面についている感じもしない


セツは160cmくらいの短い薙刀のような物を取り出し、少女の霊の横に立ち下段から少女の背後にめがけて薙刀を一気に振り上げる


少女の背後にいた黒い霊たちは瞬間切り離された、しかし、すぐに手が伸び少女に戻ろうとするがセツは持っていた石を黒い塊に突っ込み吸収していく


少女の霊に纏わり付いた残りの黒い霊たちも薙刀で綺麗に削ぎ切り石で吸収していった

黒い霊たちを切り剥がされた少女の霊から苦痛が消えているように見えた

少女は手を上げながらこちらへ向かってきた


夕凪は少女の霊を抱き締めるような素振りをすると少女の霊は霧の様に消えていく

それと同時に夕凪には断片的な映像が飛び込んでくる


少女はずっと母親を見ている、母親に全幅の信頼を寄せた目で見つめている

少女は母親に可愛がられていた、祖父母に可愛がられていた


病気かなにかで苦しんでいる、周りが心配そうに見ている

苦しかったのが楽になっている、心配そうだった周りが安心したのか笑っているように見える

それに釣られ自分も笑っている


或る時に全く知らない男の映像が飛び込んでくる

少女の母と親しげにしている、少女は少し寂しそうになる


ある日母が居ないとき知らない男と2人きりになる


なぜか家の中で追われている、そして、水中から男を見ている


顔は分らないが服の色や柄らしき物が識別できた


「苦しい...助けて...」


夕凪は膝を付いた


セツ「大丈夫ですか?あまり無理をされると精神が持たなくなりますよ」


夕凪「だ、大丈夫です、あの女の子の記憶が...」


夕凪「女の子は水に沈められて、殺された...?」


セツ「そうでしたか、そうするとこの林の中になにかあるのかもしれませんね」


夕凪は疲れで声を絞り出すのも難しくなってきていた


セツ「この状態でここに留まるのは危険です、一度元の体にお戻りになられた方がよろしいですよ」


セツ「それから考えましょうね」


夕凪は地面に寝転がっていた


夕凪「で...でも...ど...どうすれば...戻れるのか...わ...わからない...」


セツ「体の方の呼吸が小さくなっております、落ち着いて、深呼吸するように、ゆっくり、大きく息を吸ってください」


この状態の夕凪は息をしていないことに気が付き呼吸の仕方がわからない


セツ「お気づきになりましたか、今の状態は呼吸を必要としておりません、なので息を吸うイメージでゆっくり、ゆっくり、呼吸する事だけに集中してください」


・・・夕凪はベッドからガバッと起き上がった、起き上がると同時に今まで素潜りしていて出てきたかのように肺が苦しい、夕凪ゆっくり大きく空気を吸い込み深呼吸していた


まだ外は暗かった、ベッドで寝ていただけなのに100メートルを全力疾走したかのような疲れだ

セツさんが居なかったら私はどうなっていたのだろう

ゆっきり息を吸いながら思う


少し呼吸が落ち着いてきたのでさっきの出来事を振り返る

元に戻れたと言うことはさっき見た少女の必死の思いをなんとかしなければならない


夕凪は朝になってから雪音さんに連絡を取る

雪音さんはさっそく後藤さん(警察)に連絡をしてくれた

どうやら行方不明の少女と関連がありそうだと聞かされた


学校帰りに夕凪は雪音の事務所に来ていた

雪音達はニュースを見ていた

夕方のニュースでは少女(5歳)を殺した罪で義父が逮捕されたと話題になっていた


警察が林を捜索したところ少女が身に着けていた服や靴、お守りや小さな人形などが見つかっていた

遺体は別の場所に遺棄されているようだが、義父が自供したとのこと

夕凪が見た情報を元に後藤さんが義父に鎌をかけたらしい

遺留品を祖父母に返した時に、お守りや小さな人形は少女が生まれた時に祖父母から送られたもので肌身離さず大事にしていたとのことだ


夕凪はこの結果になにか満たされないものを感じていた

たしかに事件としては解決したが結果として悲しみだけが残ってしまう

少女の思いが今でも頭の中を掛けめぐり、思い出すだけで涙が溢れてくる


雪音は困った状況に陥っていた

かける言葉も見つからない

クロとシロは夕凪に寄り添っていた

こういう時は動物的な存在が頼もしく感じる


そこにセツが現れた

セツ「人の身、ましてやまだ14歳しか生きていない人にはやはり荷が重いと言ったところでしょうか」


夕凪「セツさん....昨日は助けていただきありがとうございました。」


夕凪「セツさんがいなければ、わたし...わたしは...」泣き崩れる


セツ「まずは少し落ち着きましょう、昨日お話したように呼吸を整えるよう、ゆっくり深呼吸をしてくださいね」


夕凪はいわれた通りゆっくり深呼吸をしていた


セツ「そうです、そのままゆっくり深呼吸をしてください、呼吸法は基本ですからね」


セツ「神様、夕凪さんをうちの里で少し訓練をさせてみてはいかがでしょうか?」


神様「これはまた珍しいことを、好きにするがよい」


セツ「ありがとうございます」


セツ「夕凪さん、学校が終わってから少し精神的な特訓をしてみましょう、少しは変わると思いますよ」


雪音「人の理から離れた方から訓練を受けるなんて、なんだか興味深い話ですね」


セツ「雪音さんもそうですが、夕凪さんのお友達ももしよろしければお越しください、1人より人が多いほうが多少は成長が早くなりますからね」


神様「ほう、雪音もいくのなら面白いな、ビシバシ特訓をしてやろう」


雪音「げげ!、神のくせに姑イビリみたいなことを考えるんですね」


神様「ぬぬぬ、神に対してなんたる不敬、神罰をくだしてやる」


セツは神様のこんな姿を初めて見たというような少し微笑ましく思っている


夕凪は神様や雪音のやり取りを見ていて少し気分が落ち着いてきていた


夕凪「あのー。お取込み中すいません」


神様と雪音がこちらに振り向いた


夕凪「私が触れた少女の霊はどうなったのでしょうか?」


セツ「石の中へと言ったほうがよろしいでしょうか」


セツ「黒き霊力に侵されることなく、清らかなまま石の力の源となりましょう」


夕凪「成仏できたというところなのでしょうか?」


セツ「もともと無垢な魂でしょうから問題はないと思います、最後に誰かに伝えたかった思いだけが魂の片割れとなり所持していた物に宿ったのでしょう」


セツ「その思いも夕凪さんがすべて受け止めたのですから魂の片割れも思い残す事もなくなったわけです」


夕凪「そうですか、少し安心しました。」


雪音「ご家族のもとに少女が大切にしていた物が戻ったわけだし、今はこれ以上我々にできることはないだろうね」


雪音「ご家族も何年かして落ち着いたら夕凪の話も受け入れられる時は来るかもしれないけどね」


雪音「今はそっとしておいてあげよう」


夕凪「はい」


夕凪「ではセツさん明日から訓練の方をお願いいたします。」


セツ「わかりました、訓練は厳しいかもしれませんが、決して諦めないでください、人の一生は短いですから」


夕凪「はい、お願い致します」


少女の思いに触れたことで夕凪の人生にとって転換期となる

御覧いただきありがとうございました。

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