始まり(改)
N市の市民病院
病院の消灯時間も過ぎ、暗闇と静寂が辺りを包む
病院脇の一角にコンクリートも無く土がむき出しの場所がある
日中でも人が寄り来そうにないくらいにどんよりとした重苦しい空気が辺りを包んでいる
特に深夜など人が歩くことなどほぼ無いと言ってよいだろう
男はここに穴を掘り細長い木箱を埋める
「ここなら、願いは叶うであろう、これで呪いから解放される」
男は一仕事を終え満足げにその場を離れた
目的を果たした男は隠れることもなく堂々と駐車場を歩いていく
そこに病院の警備員が駐車場に不審な人影を見つけた
警備員はすぐさま懐中電灯を手に人影に駆け寄る
通常なら警備員の姿を見ると立ち止まるか怪しい人物なら逃げるだろうが
その人影は警備員の姿に怯むことなくまっすぐに歩いてきた
警備員はまっすぐこちらに向かってくる人影に恐怖を感じ
すぐさま懐中電灯の光を当て声を掛ける
「こんなところで何をしている」
懐中電灯の光は人影を捉えたのだが、その人影に光が当たることなくすり抜けていく
そして、その人影は警備員が当てた光と共に消えていった
◇
松本篤(34歳)某大手製薬会社へ営業として入社してから10年、取引先の病院で親しくなった病院関係者と
霊の話をしていた時に、うっかり霊が見えることを話してしまったことが発端だ
その話に尾ひれがつき、やがて気味悪がられるようになり、それが同僚や上司の耳に入り会社内で外部との接触がない部署へと配置転換された、表向きには左遷である。
新たな部署は、表向きは不良品などのゴミが集まってくるのを仕分ける作業である
送られてくる物は人の顔らしき姿が映ったレントゲンやその時に使われたレンズ、個人情報が含む訳ありのカルテや写真など
通常では説明が使いないような不思議な物が届けられる。
こういった物はどうやら会社の一部の上層の人の趣味らしく、また表に出ると会社の信用に関わり密かに集めているらしい、会社の方針と趣味が合致しているのである。
しかし、当然出世コースから絶望的な場所なので会社内の人達は興味がなく、リストラ手前の左遷先だと思われている。
ここの部署には課長の宮野京造(46歳)、主任の宮地雪音(27歳)、休職中3名、バイトの亀ノ井悟(21歳)
課長は朝早くから出勤し新聞を見ながらコーヒーを飲み、たまにどこからか電話がかかってきては外出し気まぐれに帰ってくる、夜は遅く自分たちが帰った後、何時に退社しているのかは誰も知らない。
主任の雪音さんは大の心霊アイテムのコレクター、特にレントゲン写真が届くと大喜びをしている、なぜ霊の写る写真は不愛想なのか、笑顔で楽しそうに写れよと毎回写真に文句を言っている、子供関係の霊には特別な思い入れがあるらしく無垢な魂はどんな宝石より輝いているなど言っている
この部署で一番仕事をしているのがバイトの悟君である、各部署に回って荷物を受け取りにいったり全国の支店から送られてくる荷物を開封してリストを作り地下の倉庫へ運んだりしている
雪音さんは心霊写真が入っていると喚起して数時間はその写真に張り付いているのでほぼ何もしていない、むしろ荷物が届いたら漁っているくらいで、悟君も毎回苦笑いしている。
後の3人は姿を見たことがない、実際1年間バイトをしている悟君もその3人は姿を見たことはないらしい
主任は1人だけ知っているようだけど、「あれは・・・中途半端だった・・・」と言ったきり腕を組んだまま黙ってしまった
自分は普段は悟君のお手伝いをしている、この部署に配属された当初は主任に霊が見えることを教えると
届いた荷物に霊がいるかとか秘蔵のコレクターに霊が取り付いているかとか、会社の中に霊が居ないか
などあっちこっちに連れまわされ、除霊に関する様々な社内実験にも付き合わされた。
この部署へ来てから1か月が経とうしたときに元同じ部門にいた同僚の清水から課長の所に連絡があったらしい霊らしき案件で困っていると
話を聞くと、病室のナースコールブザーが誰もいないのに鳴るから気味が悪いと
機材を一式交換したのだが、交換しても同じ症状が起きるため頭を痛めているらしい
課長曰く、”困っている人がいるのであれば手を差し伸べるのが当たり前!”と白羽の矢が立った。
特に重要な仕事もないので同僚がその病院へ行く時に一緒に乗せてもらうことにした。
配転してから久々の外での仕事?である、雪音さんからは幽霊のお土産を期待された、やれやれだ。
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