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第19話 親愛の確認を

 

「……」

「そうやってじっとしてても扉は開かねぇよ。自動ドアじゃないんだし」


 現在、陽一とマドリッドはメアリの部屋の前で立ち往生。

 他の部屋とは違い、入口の周りの壁には悪魔の翼のレリーフにドアの上には赤十字架と。

 やけに気合の入った壁の装飾が彼らを出迎える。


 しかし……彼女の部屋の扉を見るのはこれで何回目だろう。今回ほどノックしずらい時は今までにはなかったかもしれない。

 陽一はともかく、マドリッドに限ってはドアに触れることすら躊躇して手が震えている。


「……本当に謝って済む問題なのでしょうか」

「はいはい、考えんのは行動した後。それに悪いことしたら、まず謝る。そこからだろ?」

「けど——」

「もしもーし、ノッ~ク! ノ~ック!」


 一歩踏み出せずためらうマドリッドをよそに陽一は扉をノック。二人以外誰もいない静かな廊下に扉を叩く音のみが響く。


「まだ覚悟ができていません! どうしてノックしたんですか!?」

「いや、この調子じゃ数時間ずっと立ち往生してそうだったから」

「そんなに時間はいりません! 三時間あれば十分です!!」

「それでも長ぇよ」


 マドリッドは陽一の方に身体を向け、声を抑えつつ吠えるが、陽一は彼女をどうどうとなだめる。


「……マリー?」


 すると扉がゆっくりと開き、気まずそうにメアリが顔をのぞかせてきた。


「お嬢様……」

「メ、メアリ、その、マドリッドは……」

「セバス」

「お前と話したいことが——え?」

「少し、マリーと二人だけにしてくれる?」


 目の前の少女は、静かに命を告げた。やっぱりメアリ……お前は。


「メアリ、俺は……」

「セバス、あなたはその後。……それまで部屋で休んでて」


「終わったら呼ぶから」と言って彼女二人は扉の奥へ消えた。



 ====




「……どこから話した方がいいかしら」

「……」


 マドリッドの胸の中は後悔と罪悪感で満杯だ。まさか自分がほんの少し、いや大変子供じみた嫉妬で……間接的とはいえ主人に危害を加えたなんて。


「お嬢様……(わたくし)は、お嬢様が言ったことに間違いはないと思っています」


 メアリは扉を閉め、黙ったままマドリッドに背を向けている。


「私は……使えない使用人です。あなたを守る資格なんて、あり」


『ありません』と言い終える前にマドリッドの前に柔らかい何かが当たる。


「お嬢様……?」


 気がつくとメアリはマドリッドの腰に手を回していた。彼女は顔をマドリッドの胸に当てて震えていた。


「いかないでっ……ぇ!」

「……!!」

「どこにも、いっちゃ……ぃやだぁ……」

「お嬢様……あぁ」


 ……これが、本音だったんだ。


「ごめ、ん……本当にごめんなさい……二人が、せばすや、じいが……あなたを責めるわけないって……わかってるのに」

「……はい」

「けど……わかんなかった……本当に、本当に私が信じてる彼が……『本当』なのかって。もし、もし本当のこと話したら、あなたをここから追いだそうとするんじゃないかって……」


 ——不安なんだ。お嬢様は。


 マドリッドは少し身をかがめて、息苦しくならないようにメアリの顔を自分の肩の上に乗せる。彼女は弱い姿を誰にも見せたくないと、よくわかっているから。


「大丈夫……大丈夫です。お嬢様。ヨーイチ……いえ、セバスは。お嬢様が話していたあのお方とは違います」

「怖い……怖いの」

「セバスは……お嬢様のことを、わかっておりました。私のことも……」


 ヨーイチの言った通りだった。


「笑って、一緒に謝ろうと言ってくれました」


 お嬢様は……やさしい嘘をついたのだ。私を守るために。


「……ぅごめ、んなさい。使えないなんて、私、言葉が」

「わかっています。言葉を……選び間違えたんですね」

「どういえば、どういえばごまかせるのか、わかんなくて……それで、それで……!」


 お嬢様は……メアリは悪者になろうとしたのだ。あの場でひどい言葉を私に浴びせれば、事件を仕組んだのはお嬢様だと勘違いする。そう考えたんだ。


「私を……守ろうとしてくれたのですよね」


 メアリは黙ってこくこくと頷く。……それは、マドリッドが一番欲しかった答えだった。


「お嬢様……ありがとう」


 ——だから、私もお嬢様が安心できる言葉をかけよう。


 マドリッドは泣きながら微笑んで頭を下げる。


「そして、ごめんなさい。嫉妬なんて、あまりにも大人気ありませんでした。お嬢様の愛を疑ってしまって……本当に申し訳ありません」


「うぁ……ぅぁぁぁっ……っ!」

「もう二度と……あなたを泣かせるような真似はいたしません」


 最期にぎゅっと優しくメアリの背中を抱きしめて。彼女は言った。


「……この血にかけて。——誓います」


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