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第18話 友達なら


~あらすじ~

陽一を殺人鬼ジョーに殺させようとはめたのはマドリッドだった。その原因は……メアリをとられたことによる嫉妬からの物だった。






 

 マドリッドは陽一たちに全てを話した。今回の屋敷を狙った事件は私情……もとい、彼女の陽一に対する嫉妬から起こったものであること。殺人鬼ジョーにどさくさに紛れて陽一を殺させるように仕向けたことを。


「なるほどね……そういうことか」

「これは私も……呆れざるをえませんな……」


 クロードはため息を漏らし、こめかみを手で抑える。


「……マドリッド。お前はこれからどうするんだ?」


 マドリッドは乾いた笑みを浮かべ、扉の方へ歩いていく。


「お、おい。どこへ行くんだよ?」

「……どこへでも。ただ……この屋敷ではないことは確かです」


 もうここにはいられない。メアリに合わせる顔がない……だから彼女はこの屋敷を出ていこうとしているのだ。


 --そんなのはダメだ。


 陽一は歩き去って行こうとするマドリッドの腕をつかむ。驚いたマドリッドは陽一の腕を振り払おうとするがうまくいかない。


「放しなさい!! 汚らしい!!」


「ひでぇな! ちゃんと毎日手洗ってんだぞ!? なんでお前が出ていかなくちゃいけないんだよ!?」


「この屋敷にもう私の居場所はありません。 いや、あってはいけないんです」


「自棄になってんじゃねぇよ! お前がいなくなったらどれだけメアリが悲しむと……!」


「悲しむわけないじゃないですか!!!」


 らしくもなく大声をあげるマドリッドに陽一は目を見開く。こんなに激情に駆られた彼女を見るのは初めてだ。


「もうお嬢様には貴方がいるんです。私と違ってよく笑って面白い貴方が。だから……つまらないうえにお役にも立てない……私は必要ないんです」


「マドリッド……」


 マドリッドの腕が力なく下ろされる。


「だから……この手を放してください。もうこれ以上……ここにはいたくない」


 痛切だった。哀しみのこもった声がマドリッドの口から漏れる。


「マドリッドさん……それはあなたの本心ですか?」


「クロードさん……?」


 クロードが扉の方に向かって歩き始める。キッとマドリッドは向かってくるクロードをにらみつける。


「クロード様……あなたまで邪魔をするんですか……!?」


「いいえ。私は貴方の意見を尊重します。本当にあなたがメアリお嬢様の元を離れたがっているなら……私も止めはしません」


 クロードは部屋の扉を開けて出ていく前に二人の方を振り返る。


「陽一殿。マドリッドさん。しっかりとこの場で話し合ってください。そうすれば自ずとお互い答えが出てくるはずです。マドリッドさん、後悔だけは……なさらぬように」


 扉は閉められ、部屋にはマドリッドと陽一のみが残される。扉に鍵は……かかっていない。その気になれば、いつでもマドリッドが出られるようになっている。


「……マドリッド」


「……なんですか。私はもうお嬢様のメイドにはふさわしくありません。友達にだって……」


「そうだなぁ……メイドとしては大失態だな。同僚に嫉妬して暗殺しようとか何考えてんだよ」


 陽一はため息を吐き、自分の黒髪をかく。マドリッドも返す言葉がないからか、意気消沈としている。


「けど、誰だって『羨ましい』とか『私の方が』とかって思うと思うぜ? 友達にふさわしくないなんて……そうは思わないよ」


「え……」


 陽一はうなだれるマドリッドから手を放し、微笑みを浮かべる。


「メアリ、倒れたお前のこと、すげぇ心配してたぞ? 『セバス! マリーは? マリーは!?』ってさ。俺もお前が羨ましいよ、まったく……」


「お嬢様が……私を……?」


 マドリッドは顔をあげ、唖然とする。まさか自分の主人にここまで心配されているとは思わなかったのだろう。


「今回だけじゃない。いつもお前のことを大切な友達だって。親友だって言ってたんだぜ? そんなことを喜んで言うあいつが、お前のことをいらないなんて思ってるわけないだろ?」


「だけど……だけどお嬢様は……私に……!!」


 そう。『失望した』とはメアリはマドリッドに冷徹に告げた。けど……『いなくなってほしい』とは言わなかった。いや、嘘でも言えなかったのだろう。


「……メアリの部屋で、彼女が言ってたこと。あれ……たぶん、お前を守るための『嘘』だったんじゃないのか?」


「う、そ……」


「あぁ。やりすぎの演技。だってさ、たぶんマドリッドが今回の事件の原因って気づいてたから……自分が悪役になって終わらせようとしていたんじゃないのか? まぁ……呆れられたってのは嘘じゃないかもだけど」


 ーー友達を守るための優しい嘘。


 陽一は悲痛な表情を顔に浮かべる。彼もこうは言っているが彼女の演技に気づかず、責め立ててしまったのも事実だ。一概にメアリが傷ついたのはお前のせいだ、なんて口が裂けても言えない。


「俺も……あいつに怒鳴っちまった。たぶんこの中で一番メアリを傷つけてんのは……間違いなく俺だ。今回の件だって、俺さえいなきゃ起こりさえしなかった。たぶん、お前と一緒に……彼女も笑ってたはずなんだ」


「ちがう……それは違います」


 陽一の言葉にマドリッドは首を横に振る。


「どうして、そう思うんですか……あなたは私を責める権利があるはずです……それなのにどうしてあなたは……自分を責めているんですか……!」


 陽一はマドリッドに向かって頭を下げる。陽一の今の行動に理解が追い付かず、マドリッドは困惑してしまう。


「すまねぇ。俺が『メアリと一緒にいたい』なんてつまらねぇ意地を張ったせいで、いたずらにお前を傷つけちまった」


「……ッッ!!」


 マドリッドはつい陽一の横顔を手のひらではたく。風船の割れるような子気味のいい音が部屋に響く。


 陽一は悲鳴一つ上げない。ただその場で頭を下げている。


「どうして謝るんですか!? 意味が分かりません!!」


「……なんでだろうな。ただこうしたかったんだよ」


「自己満足はやめてください!! 不愉快です!!」


「だよな。ごめん」


 陽一は横が赤くはれた顔を上げ、ヘラヘラと笑う。


「すまないんだけどさ……マドリッド。悪いって思ってるんだったら……一つ、お願いしたいことがあるんだけど……」


「……なんですか」


 陽一は笑いながら、むっつり顔のマドリッドの目を見る。透き通っていて、綺麗な青色だ。


「よかったらさ……一緒にメアリに謝りにいかないか?」


「は……!?」


「一人じゃちょっと気まずくてさ……。お前も俺も悪いことしたからな。謝りに行くのは当然だろ?」


 マドリッドは狼狽しつつも、特に反論は返さない。やはりそうだ。マドリッドはメアリと本心では離れたいわけではない。絶対にこのままで終わりたくないはずだ。


「その前に……答えてください」


「え?」


 突然の質問に困惑し、陽一はきょとんとする。

 何のことだろうか?


「何故……あなたはそこまでお嬢様のことを気にかけるのです? あれだけこの屋敷から逃げたがっていたではありませんか……それなのに何故……」


 あぁ……そういうことか。

 マドリッドは陽一を完全に信頼しているわけではない。まだ陽一は彼女と会ってたった数日の付き合いだ。


 彼女が今回のことで自分を認めてくれたと思ったが……世の中そう甘くはないものだ。


「逃げたくなくなったってんじゃダメ?」


「……不可解です」


「やっぱ納得してもらえないか……」


 陽一は困った顔をし、頭をポリポリとかく。


「……うれしかったんだよ」


「は……?」


 マドリッドは「何を言っているのだ」と首を傾げる。


「あいつが……メアリが俺におやすみって、楽しかったって笑顔で言ってくれたんだ」


「……」


 陽一の口調がさらに強くなる。彼女のマドリッドの青い瞳をまっすぐに見つめ、彼は本心を伝える。


「それが……すげぇうれしかったんだよ。ここにいてくれって……彼女にそう言われてる気がして」


「ただの……戯れだったとしてもですか? 吸血鬼が……ただの人間に好意を抱いていると?」


 確かに。陽一も最初はそう思っていた。

 彼女が自分を雇ったのも、彼女の単なる気まぐれ。自分が面白い道具を持っているからなのだと。


『気まぐれで助けたにしては良く働いてくれたわ』


 ……全く、うそ発見器が欲しくなるレベルの不器用さだな。あいつ。


「……メアリは吸血鬼だもんな。俺よりも長く生きてるかもしれない……あいつにとっては俺との会話なんて一話三十分のアニメ……もとい劇を見てるようなものなのかなって……俺も最初は思ったよ」


「なら……」


「だけど」


 陽一は自身で先ほどの自分の発言を否定する。それは間違いだったと。


「アイツは……俺の命を救ってくれたんだ。俺を傷つけようとしてきたやつに、ブチ切れてくれた。そんなアイツを……人でなしだとは思えねぇよ……」


 マドリッドの目が驚きで見開く。


 ……はっきり言える。彼女はそんな()ではない。


『待って!』


 最初に彼女の部屋に呼ばれたときに、彼女はそう陽一を呼び止めたのだ。

 あの時の彼女の顔は……間違いなく寂しがり屋のそれだった。一人ぼっちは嫌なのだと、そう言っているように彼には聞こえた。


 --俺も一人ぼっちは嫌だったから。周りが誰もいなくなると……すげぇ寂しいからな。


「……なら何故私をかばったのですか?」


「……」


「あなたを殺しかけた私を、何故貴方は助けたのですか?」


「……できねぇよ」


「は……?」


「仕事仲間を見殺しにはできねぇよ。目の前で殺される、なんて夢見が悪すぎる。それに……お前が死んだら、メアリはすげぇ悲しむだろ? そんな顔より俺はアイツの笑顔がみたい」


「……」


「それにお前も俺を助けてくれただろ? 恩知らずには、なりたくないな」


 そう言って陽一は微笑んだ。


「ありがとな……マドリッド。俺を助けてくれて」




すごい久しぶりです。待たせてすみませんでした。

ハーメルンで同じアカウント名前、ゼロんで二次小説書いていました。

すこし「なろう」での投稿が遅くなる可能性があるので、その合間にこちらで暇つぶしてくださいな。

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