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第15話 『話があります』

 

 ーーわからない。

 もう自分にはメアリのことがわからなくなってしまった。


 陽一は部屋に戻り、ベッドの上でうなだれる。


 奇跡的に下級吸血鬼ジョーを死傷者ゼロで倒せた。その後はてっきり元の日常に戻るものかと思っていた。四人でテーブルを囲み食事をする毎日に。メアリとからかい合いながら話をするお約束に。


 だがその結果、自分が見たものは--豹変したメアリと彼女に見捨てられ絶望に沈むマドリッドだった。


 この屋敷にあの惨事のなか残ったのは、不器用で優しいあのメアリの笑顔を見たかったからだ。他人を道具のようにしか見ないあの眼ではない。


 ーーそれとも……今までの彼女は偽物で、あれがメアリの本来の姿だというのか……?


 自分は何のためにここに残ったのか……陽一にはわからなくなってしまった。


 その時、外からドアを叩く音がした。


「失礼しますよ?」

「……何か用ですか? クロードさん」


 ベッドから立ち上がり陽一はクロードの方を振り返る。


「いえ、ヨーイチ君……いやヨーイチ殿にお礼を、と思いましてな」

「お礼?」


 意外だった。主人への無礼への罰やお叱りがあるかな、と思っていたのに。

 陽一は驚きで目を丸くする。


「メアリ様を守ってくれたことです。あの狂人の不意の一撃から身を挺して守ったと聞いています。ヨーイチ殿、屋敷の主人に代わり感謝します。……ありがとう」


 心からの感謝だろう、クロードはにっこりとほほ笑んだ。


「……君から、殿ですか……」

「主人の恩人に君はつけられませんなぁ」


 ほんの冗談の一言にクロードは笑って答える。


 次の瞬間には真剣な表情に戻る。何か話すことがあってきたのだろう。


 ……メアリに関することだったら、今はあまり聞きたくないな。


「ヨーイチ殿はこれからどうされるのですか?」


 自分のこれからについてか……屋敷を出るのも一つの手だが……考えなしにここを出るわけにはいかない。


 元の時代に帰る手段もまだ見つかっていないのだ。

 今のところ一番帰れる可能性が高いのは、魔法の知識に通じているメアリを頼ることだ。こればかりは仕方がない。


 ……彼女がこちらを利用するつもりならこちらも彼女を利用するだけだ。

 だが問題は関係が険悪となった彼女とどう付き合っていくかだ……


「……もちろん働くつもりでいます。寄生虫にはなりたくないんで」

「左様ですか……」


 何が嬉しいのか、先程まで緊張していたクロードの表情が少し緩くなった。


「ヨーイチ殿、少しお時間をいただけますか?」

「あ、あぁ……かまいませんけど、何かあったんですか?」


「お話したいことが……とりあえず彼女の部屋に行くとしましょう」



 ===================================



「……ここって」

「マドリッドさんの部屋です。マドリッドさん、入りますよ」


「……どうぞ」


 扉ごしに聞いているせいか……いつもよりも声が小さい。

 いや、メアリにあそこまで拒絶されたのだ……彼女も相当ショックを受けているのだろう。

 メアリが親友と呼んでいた彼女に暴力を振るい、非難の言葉を浴びせるなど思いもしなかった。


「ヨーイチ殿も一緒ですが大丈夫ですね。おいしょっと」

「……!! クロード様、待ってください!!」


 マドリッドの静止は遅すぎた。

 部屋のドアを開けた先には……ファンシーなぬいぐるみ天国が広がっていた。


「あ……!! あぁ……!!」


 この世の終わりを見るような顔で陽一たちを見つめるマドリッド。


「うわ。こりゃすごいわ」

「可愛らしいですよね」


 桃色の壁紙にたくさんのぬいぐるみ。カメやウサギに……シロクマもいる。種類が豊富のようだ。

 ベッドの机の横にもクマのぬいぐるみがある。

 ん……だが、よくみるとこのぬいぐるみメアリの服とそっくりなの


「死ね……!」


 ……がある。

 ドアの方から音がした。振り返るとそこには一本のナイフが深々と刺さっている。

 マドリッドの方に視線を戻すとそこには鬼のような形相をした彼女がいた。


 手に持てるだけのナイフを持って立っている。目元に少し涙が浮かばせながら。


「忘れろ……! 死んで忘れろ……!」

「何めちゃくちゃなこと言ってんの!? ちょっアブな!! 落ち着いてマリーさん!」


 陽一の言葉を無視しマドリッドは次々とナイフを投擲(とうてき)してくる。


「うぉッッ!! クロードさん、()めて! マドリッドを()めて!」

「相変わらず可愛いですねこのテディベア」

「無視!? マドリッドももうやめろよ! 気は済んだろ!!」

「死ね……!」


 --ダメだ。会話にならない。


 クロードは彼女の机の上にあったメアリ似のテディベアをまじまじと眺めていた。

 その間にも陽一への攻撃は増々激化していく。彼女は勢いよくテーブルに手を伸ばす。

 ……!? まさかそれを投げつけるつもりか!?


「あなたを殺して私も死ぬ……!!」


 --本当に誰か助けてくれ。



 =========================



 テーブルを陽一に投げつける数秒前に、クロードが怒る彼女をなだめ、事なきを得た。その代わりにドアがハチの巣になったが。


「……うぅ……ひどいですクロード様……よりによってコイツに……こんなやつに私の部屋を見せるなんて……!」

「……? 何か恥ずかしいことでも? かわいいではないですか。あなたのお手製テディベアは」

「え……これ全部マドリッドが作ったのか?」

「あぁまた、余計なことを言う! もう! わざとですか!?」


 次々と秘密のベールがはがされ地団太を踏むマドリッド。


 彼女を見ながらクロードは微笑みを返す。


「いえ……君たちが互いを知るにはいい機会だと思いましてね」

「余計なお世話です!!」


 顔を恥で真っ赤にしてマドリッドはクロードに抗議する。

 それでもクロードの笑みは絶えない。すげぇ、完全に彼女が押し負けている。


「……何の用ですか」


 顔をしかめ。不機嫌気味に彼女は要件を尋ねる。


「……少し話したいことがありましてね……場所を移しましょう」


 =========================


 マドリッドの乙女な部屋を立ち去り、陽一は先に出て行ったクロードの後をついていく。


 あれ……? 少し気になったことがあるな。


「クロードさん、マドリッドの部屋を開ける必要はなかったですよね?」


 ただドアをノックして出るのを待てばよかったのではないか?、とふと思ったのだ。

 あぁ、とクロードは反応し陽一の質問に答える。


「いえ、少し彼女の気持ちをほぐそうと思いまして」

「その気遣いがおせっかいなんですよ……!!」


 マドリッドは歯ぎしりをしながらプルプルと拳を震わせる。


 ーークロードさん、肝が太い。



 =========================



「ここならお嬢様のお耳には入らないでしょう……」



 メアリの部屋とは遠く離れた広間に出る。

 ……なぜかマドリッドの表情が曇っている。何かあるのだろうか。


「単刀直入に言いますね。マドリッドさん」


 クロードはマドリッドの方向に体を向け、目を細める。



「あなたがこの騒動の黒幕ですな?」

「……ッッ!!」


 --クロードさん……!? 


 マドリッドの顔が苦痛に歪む。彼女はナイフを取り出す準備に入る。……戦闘態勢。


 この部屋に入ってからマドリッドの様子がおかしい。ナイフを抜こうとするなんて……疑われたにしては反応が過剰すぎる。


「まだ危害を加えることはしませんよ……あなたが手を出さない限りは、ですがな」


 クロードも体中から闘気を漲らせ、マドリッドを牽制する。


 陽一の全身の毛が一気に逆立つ。「変な動きをすれば容赦はしない」ということだろう。


 しかし……まだクロードの言ったことを受け入れられない。マドリッドがこの事件の首謀者……!?


 あの殺人鬼に館の場所を教えたのはメアリではなかったか? どうしてマドリッドをクロードさんが疑うのかがわからない。確たる証拠がないではないか。


 でも、もし……もし本当にマドリッドがこの事件を起こしたって言うなら……メアリは俺たちに嘘をついた……ってことか……!?



「動機は不明ですが……あなたの予想以上に屋敷への被害はでかくなってしまったようですな……」



 --納得できない。マドリッドはあんなにも懸命にメアリを守ろうとしていたではないか。

 けど……メアリの豹変も……憎まれ役を演じていたとしたら……説明できてしまう。

 全てはマドリッドを守るために。自分が悪役となることで憎しみを一身に受けたとしたら……


「クロードさん、冗談はやめてくれよ……なぁ……マドリッド、そうだよな」


「やっていない」、そういう答えが欲しい。言ってくれれば彼女を信じられる。

 友達を守ろうとしたマドリッドの行動に偽りなど見えなかったから。彼女の行動が彼女の全てを物語っていたから。


 すべては本当に偶然で……たまたま殺人鬼が来た。そうなんだよな? 

 今ならそれで片づけられる。



 --嘘だと言ってくれ……だって……おまえは……



「……そうです」



 陽一の希望も虚しく、彼女の口から出たのは……



「あの殺人鬼を……ジョーをこの屋敷まで誘導したのは私です」



 最も彼が聞きたくなかった現実(こたえ)だった。



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