第13話 代償
お待たせしました!
「さすがに……あいつも死んだだろ……」
消し炭になった自分の部屋を見て陽一は額の汗をぬぐい、安堵する。
「そのつもりでやったから間違いないわ」
ふん、と自信満々に胸を張るメアリ。
彼女の一撃によって元・陽一の寝室は半壊。窓は完全に焼け落ち、一部壁のあった箇所はがれきの山のみが残る。部屋にあったベッドの殆どが消失。お世辞にも「まだ使える」とは言えない。
「!!」
突然何かを思い出したかのようにメアリはこちらを振り返り、陽一に近づく。
「セバス! マリーは!? 彼女は無事なの!?」
メアリは陽一の肩を掴み前後に揺らす。必死な表情だ。
「あ、ああ。マドリッドなら……いや、それよりも揺らすのやめて……吐く……」
陽一は口を手で押さえ、マドリッドを寝かせた所をふらふらと指をさす。そこには眠るマドリッドが床に横たわっていた。メアリの攻撃の余波を受けた様子もない。
「……そう、無事なのね」
マドリッドの生存を確認し彼女はホッと胸を撫で下ろした。
「それにしても、自分の館ごとふっ飛ばすとか……怒ったメアリ、まじ容赦ないな……」
メアリの本気の一撃によって消し飛んだ自室を見て陽一は唖然とする。『開いた口が塞がらない』、まさしくその言葉にふさわしい驚きっぷりだ。
「…………すごいイラッときたから……あんまり加減が利かなかったのよ」
そう言ってメアリは陽一から目をそらし、肩の上まで伸びた髪をいじる。
なぜか彼女の耳が赤い。
しかし……なぜあんなにも怒ったのだろう。
「あれ〜? メアリさんもしかして〜俺がやられそうになったからキレたとか? あれ図星か?」
嬉しくなって陽一の顔がつい、ニヤついてしまう。顎に手を当てる。
こういう場面で素直に「助けてくれてありがとう」って言えず茶化してしまうのは自分の悪い癖だ。
「調子にのるな! それにイラッときたのはあの変態の無礼極まり無い態度のせいよ。……勘違いにも程があるわ」
メアリは腕を組み陽一にプイっと背を向ける。彼女の赤い翼が見えるかたちだ。ジョーに向かっていった時は部屋がサウナのように暑かったが、今は不思議と全く暑くない。
背を向ける前に見えた彼女の顔は……ちょっと赤かった。
さっき彼女が言ったのは……おそらく彼と同じくこれが彼女なりの照れ隠しなのだろう。
「お前も……やっぱそこんとこ素直じゃないよな。……ハハ」
俺も人のこと言えないな、と思いながら陽一は朗らかに笑った。
「ヨーイチ君! マドリッドさん! さっきの爆発は……一体……」
部屋の入り口からクロードが急ぎ足で陽一の元へ駆けつける。
良かった。どうやら屋敷にいたゾンビ達を一掃できたようだ。
「クロードさん! 無事でしたか」
クロードの生存を確認し安堵する。……よかった。死傷者はいない。最小限の被害で済んだ。
「ええ、つい先程ゾンビ達が急にただの死体に戻りましたからな。それよりもメアリ様は……」
「遅い」
「ブホッァ!」
メアリは腕をハンマーのように振り下ろしクロードを打ち付ける。不意の一撃にクロードの体が釘のように床に刺さる。それを見る彼女は不機嫌そうだ。
「ちょ、お嬢様何やってんの!?」
しかしクロードが彼女の一撃で大ケガを負ったという風には見えない。漫画みたいに直立して地面に刺さる形にはなっていたが。
「主人に手間暇かけさせるんじゃないわよ、クロード……服が汚れるところだったじゃない」
「申し訳ございませんメアリ様。……しかしながら相変わらず見事なお手前。我々相手にあれだけ暴れた相手に傷一つついていらっしゃらないとは」
「……ま、まぁね。所詮下級。あの程度の侵入者なら余裕よ余裕」
メアリは褒められて満悦の表情を隠しきれない。髪を手で大げさに払いのけ、フッと笑う。
どうやらクロードは話題をそらし、おだててメアリの機嫌をとる作戦に出たようだ。
扱いを心得ているだけある。さすがだ。というかメアリちょろすぎだ。
「ですが……屋敷を爆破するのはやりすぎですぞ」
雰囲気は一転。お説教モードに移行する。クロードの目がぎゅっと細められる。
どうやら彼は彼女の行動をよく思っていないようだ。
「う……」
気まずげにメアリは後退する。
しかしクロードは彼女を逃さない。一歩彼女が下がる度、その分彼は彼女との距離を詰める。
「そもそも自分の体の状態を理解しているのですかな? 普段制御している吸血鬼本来の力まで使って……」
クロードは頭に手を当て、あーやれやれ、と言った感じに困った顔をする。
「もうッ! 平気よ、これぐらい。それに使ったのもいっ……しゅ……んだ、し」
先程まで平然としていたメアリの足が次第にふらつき始める。最後まで言い終える前に彼女は地面に倒れてしまう。
「メアリ様!」
クロードと陽一は倒れたメアリの元に駆け寄る。
--すごい汗だ。息遣いがいつもより荒い。
「おい! メアリ!! しっかりしろよ!……おい!」
陽一は地面に倒れたメアリの頭を持ち上げ、呼びかけ続けたが……
……メアリが目覚めることはなかった。
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今でも覚えてる。私の城が炎に消えた日のことを。……私のすべてが消えたあの日のことを。
一人、また一人と私の元から離れて消えていく。
「お嬢様! ここはお逃げください!!」
ーーいや、やめて! 行かないで!
お父様に仕えていたメイド達。私を襲撃者から守るために戦った彼らは、襲撃者によって惨殺される。
最後には私一人になってしまった。
「我々もただではやられませんよ。私たちとて貴方の父上の眷属であり……吸血鬼なのですから」
ーーなんで!? 私と逃げようよ! どうしてついてきてくれないの!!
次に私をかばっていなくなるのは、お父様に恩のある吸血鬼達。彼らは命が惜しくてお父様の元に来たのではなかったのか?
なぜ彼らは私と共に逃げなかったのか。理解できなかった。いや、理解したくなかった。
「メアリ……愛しているわ……大好き」
何度も見たお母様の部屋。辺りには火の手がまわり、見る影もない。
ベッドの上で傷だらけになったお母様が私に手を伸ばす。彼女の手が私の頬に触れる。その手は氷のように冷たかった。
ーーごめんなさい、お母さま……! ごめんなさい。もっときちんと話せばよかった。お母様の愛に、お父様の愛に今まで気づけなくてごめんなさい……だから……だから……死なないでぇ……置いていかないでぇ……!!
「生きてくれ……吾輩の……世界にたった一人の愛する娘よ……」
最後に見たお父様の顔が脳裏に焼き付いて離れない。真の吸血鬼の王が、父が私を力一杯抱きしめ最後に私に優しく微笑む。
今でも彼の言葉が呪いとなって私を縛る。生き続けろ、と。
「……我が愛娘に幸あれ」
ーーみんなが死んだのは私のせいだ。全部……
「メアリちゃん。楽しかったよーー」
ーー私のせいだ。
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「……うあああああああぁぁぁッ!!…………はぁ……はぁ……ゆ、め……」
気がつくと私はベッドの上だった。
頭がまだボーッとする。私はまだまどろみの中にいるようだ。
周囲を見渡すと、近くのサイドテーブルの上にはお手製のスタンドライトとセバスの……『すまほ』だったか、が置かれてあった。その机の横には本棚。本が一冊一冊キッチリと収まっている。書斎机に部屋の白い壁。
--私の部屋だ。
「目が覚めましたかな、メアリ様」
「じ……じい……」
目覚めた私の前に最初に現れたのは、クロードだった。すごく心配そうな顔でこちらを見ている。
ーー先ほど見た夢のせいか……昔の呼び方で彼を呼びそうになった。……私としたことが……情けない。
寝ていた時に抱いていた枕を強く握り……そして離す。
「……クロード、水はある?」
「こちらに」
そう指示される事を予測していたようにクロードは水をさし出す。
私が寝ていたベッドの横を見ると、そこには水差しとトマトジュースがあった。
--さすがおせっかい家令。気が利いている。
「トマトジュースもありますよ」
そう言って彼は穏やかに笑みを浮かべる。目覚めてすぐに夢のことを聞かないのは私にとってはありがたかった。またあの夢の内容を思い出したくもない。
……正直、彼に抱き着いて泣きたかった。彼が私の前にいることを再確認がしたい。
もうあの夢を見るのは何度目になるだろう。マドリッドがこの屋敷来た辺りから見る頻度は少なくなったのだが……また、だ。
「……あとでいただくわ」
それでも私はクロード達の主人なのだ。これ以上弱った姿を彼らにさらすわけにはいかない。私は吸血鬼の王であるお父様の娘。……もっと気丈にふるまわなくては。
ベッドから身を起こし、へっちゃらだ、と腕を回す。
「かしこまりました。……あまり無理をなさらぬよう」
私に対して優しく微笑み、クロードは部屋から出ようとする。
--そうだ。まだ彼には伝えていなかったな。
「……クロード」
「はい、メアリ様」
「セバスとマドリッドを私の部屋まで呼びなさい」
「はっ、かしこまりました。……要件は?」
「今回の襲撃に関して私から話すことがあるの」




