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8 チートはない

 今日は私が頼み込んで、冒険者登録のために冒険者ギルドに来ています。

 リリーは戦わなくていいと言いますが、やっぱり強くなりたいし、剣と魔法の世界に来たのなら冒険がしてみたいです。

 冒険者の登録はいくつかの書類の記入と機械のパネルに手を置くと完了です。

 機械はその人のステータスや個人毎に違う魔力の波動を調べて、ギルドのデータベースに登録するんだそうです。指紋認証みたいなものでしょうか?

 登録が終わると、ギルドカードを渡されます。

 ギルドカードには名前とランクが書いてあるだけで、その他の情報はプライバシーの関係で本人の承諾がないと見ることができないそうです。

 わたしのギルドカードはすぐできましたが、リリーはなんだか待たされています。

 すると、ギルドの職員さんが奥からあわてたようにやって来ました。


「リリー様、申し訳ございません。実は機械にエラーがありまして、直しているところなんですが、時間がかかっておりまして……」

「エラーはなんですか?」

「こちらの、ステータスの種族欄なんですが……」


 職員さんは持っていたタブレットを手渡すと、ある項目を指差します。


『種族:大ダコ怪獣』


「これは……」

「なぜこうなってるのか、わからなくて……」


 リリー、怪獣だったんですね……。

 女神様も首をひねっていたので、ギルドの職員さんがわからないのも無理ありません。

 わたしが心配そうにうかがうと、リリーはウインクをしました。そしてタブレットの画面に触れてから、職員さんに返します。


「今見たら直ってましたよ?」

「え、あれ本当だ」


 タブレットをのぞくと『種族:人間』になっていました。リリーが何かしたみたいです。

 職員さんはもう一度謝ると奥に戻っていき、ほどなくしてリリーのギルドカードができました。


「それで、クロ様はさっそく依頼を受けるんですか? できれば薬草採取なんかがいいと思うんですが……」

「わたしはこれを受けようと思います」


 持っていたチラシを一枚、リリーに見せます。

 そこには『冒険者ギルド ~初心者講習~ 戦闘講習、スキル講習、生産系スキル講習等々 各種コースのご相談受け付けております。』と書かれていました。


「初心者講習?」

「はい、新米冒険者が対象です。戦闘講習は人形を使った模擬戦闘なので、危なくないですよ」


 これならリリーが心配せずに強くなれます。

 リリーに受けてもいいか聞くと承諾をもらえたので、申し込みに向かいました。




 一カ月後。


 あれから特訓のおかげでレベルもだいぶ上がりました。

 ……ですが、なんというか、あまり強くなった気がしません。

 鉄の剣を振ることはできるのですが、フラフラだし、すぐに疲れてしまいます。

 この一カ月、わたしを鍛えてくれた先生を見ます。

 先生は引退した冒険者で、ほおに走る傷やたくわえたヒゲが歴戦の勇士って感じのするおじさんです。


「あの、先生……わたし強くなってますか?」おそるおそる聞きます。

「おまえは冒険者だったな。…………生産職もいいぞ」目をそらしました。

「ふええ」

「先生、わたしのクロ様を泣かせましたか」


 後ろでわたしの特訓を見学していたリリーが椅子から立ち上がります。


「ちょっ、ちょっと待て! そうだ、賢者様を頼ってみたらどうだ!?」

「賢者様?」リリーを止めながら聞きます。

「なんでもこの街には賢者と呼ばれるじいさんがいて、その人の隠れた才能を見つけて引き出すことができるらしい」

「本当ですか?」リリーが疑わしそうに見ます。

「うわさではな。だいたいは教会にいるらしいから、会いに行ってみたらどうだ」



 というわけで、わたしとリリーは教会に来ました。

 ここラバーズの街の中心にある教会は大きくて、とてもきれいな建物です。


「すてきな教会ですね。今から結婚式にしましょうか」

「子供なので結婚できません」


 何度目かわからない、いつまで使えるかわからない言い訳をします。

 不満そうな顔のリリーのそばをシスターらしき格好をした人が通ると、リリーが呼び止めました。


「すみません」

「なんでしょう」

「この国は何才から結婚できますか」

「二十才からです」

「もっとはやく結婚できる国はありますか? …………できれば十三才から」


 け、結婚の猶予を縮めようとしています!?


「すみません、他の国の法に明るくなくて……」

「そうですか、ありがとうございます」


 た、たすかった……。額の汗をぬぐいます。


「……いっそ建国でもしましょうか? わたしとクロ様二人だけの王国……いいですね」


 たすかってなかった!


「リ、リリー! はやく賢者様に会いに行こう!」


 ごまかそうとリリーを急かして教会の中を進みます。

 教会の奥のほうでは、礼拝に来ているらしいおじいさんが何人かいました。


「礼拝が終わったら、一人ずつ話しかけてみます?」

「クロ様、あの者が賢者かもしれません」


 リリーが教会のベンチに座っているおじいさんを指差します。


「わかるの?」

「たぶんですが、この場で一番魔力が強いです」


 礼拝が終わると、教会のベンチに座るおじいさんの後ろから近付きます。


「あの」

「ヒョッ!? わしはシスターのお尻を眺めてなどおらんぞ!?」

「…………」

「…………」


 リリーが視線で「帰りませんか?」と聞いてきますが、我慢してもらいます。


「あの、もしかして賢者様ですか?」

「賢者じゃと? ……ウヒョッ!?」


 振り返ったおじいさんは立ち上がると、ベンチに立てかけてあったつえをつかみます。


「邪神がなぜここに……?」

「…………ほう」


 ス、と細まったリリーの紅い瞳が淡い光を放ちます。


「ちょっリリー、あおらないでください!」

「そっちのおまえさんは転生者か、どういう組み合わせじゃ」

「わかるんですか?」

「うむ、わしの『千里眼』……女神様にもらったスキルのおかげでな。わしも転生者じゃよ、ご同輩」



 教会のベンチに並んで座り、これまであったことを賢者様にお話しします。


「魔王が十二人もいるとは、ずいぶんと難儀なことじゃな。それで、おまえさんは後学にわしの武勇伝を聞きに来たのか?」

「その、賢者様は隠れた才能を見つけて引き出すことができると聞いて……」

「…………そうか。ではわしの『千里眼』で、もっとくわしく見てやろう」


 賢者様は腕まくりをするとわたしの肩に手を置き、目を閉じて集中します。


「……ムッ、これは!」


 賢者様の目がカッと見開きます。えっ、まさかチートきちゃいます!?


「――まったく全然才能がない!! おまえさん冒険者はやめとけ!!」

「ふ、ふええっ!」

「クソジジイ……クロ様をなに泣かせてるんですか」

「ウヒョオッ!?」


 リリーの手がむんずと賢者様の髪の毛をつかみます。

 わたしはリリーが賢者様の毛根を殺す前に止めに入ります。

 髪の毛が解放されると、賢者様は頭をなでながら話を続けました。


「クロよ、自分でもわかっておるだろう。女神はお主に力を授けておらん、おまえさんはただのふつうの女の子じゃよ」

「でも……」

「だいたい、チートなど必要なかろう。この邪神にかかれば魔王などお茶の子さいさいじゃ」

「お茶の子さいさいですね」

「リリーにだけ戦わせるなんて……」

「そもそも、この邪神は共闘なぞできん」と、リリーを見ます。「邪神よ、仮にわしと共闘することになったら?」

「邪魔ですね」

「じゃろ? 戦闘に関してはだれも力になれん、あきらめろ」

「じゃあ私はどうすれば……」

「魔王は邪神に任せ、他のことで何かできることを探すんじゃ」


 賢者様はつえを手にすると立ち上がります。


「できることって?」

「なんでもかんでも聞くんでない、自分で見つけるんじゃ」


 賢者様はわたしを見ると、やれやれと息をつきます。


「……だいたい、恋愛相談は門外漢じゃ。次からはここのシスターにでも相談するんじゃな」

「へっ!?」

「だってそうじゃろ、『あの人の力になりたい』なんて、好意がないと思えん」

「クロ様……」


 ほおを染めたリリーがわたしをギッチリと抱きしめます。

 あのリリーさん、首が絞まってます。


「ち、違います。わたしはただ邪魔になりたくなくて……っ」

「そんな邪魔だなんて! ポケットに入れて持ち運びたいぐらいです……!」


 三途の川が見える前に賢者様に助けを求めようとしますが、賢者様は「結婚式には呼んでくれ」とさらに首が絞まりそうなセリフを残して去っていきました。

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